2024.10.18 NEW
【投資テーマの探し方】エネルギー関連株、脱炭素とAI需要による電力不足が追い風に
2024年度内には、国の中長期的なエネルギー政策の指針となる「第7次エネルギー基本計画」が策定される見通しです。脱炭素社会の実現に向けて、世界的に再生可能エネルギーの導入が加速しており、また、エネルギーの安定供給の観点から、原子力発電(以下、原発)への関心も高まっています。再生可能エネルギーの一つである風力発電と、原発に関係する銘柄の投資アイデアについて、投資情報部ストラテジストの澤田麻希が解説します。
2040年度は再生可能エネルギー40%、原子力22%の見通し
- 国内における電源構成は今後、どう変わっていくのでしょうか。
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澤田麻希(以下、同)
政府は温室効果ガスの排出量を2030年度に2013年度比46%の削減を目指しています。その実現のために、2021年に発表した第6次エネルギー基本計画で、2030年度の電源構成を、再生可能エネルギー36~38%、原子力20~22%、LNG20%、石炭19%、石油等2%、水素・アンモニア1%と示し、再生可能エネルギーと原子力の比率が高くなっています。野村證券では2030年度の電源構成について、再生可能エネルギー31.8%、石炭26%、LNG25%、原子力14.2%、石油等2%、水素・アンモニア1%と予想しています。原子力規制委員会の審査状況から勘案し、原子力発電比率は計画よりも低くなるとみられます。また、野村證券は2040年度について、政府が第6次エネルギー基本計画で示した2030年度の電源構成における原子力の比率が最大で22%だったことを前提とし、再生可能エネルギー40%、原子力22%を見通しています。
(注1)2023年度は推定、2030、2040年度は、野村證券エクイティ・リサーチ部が予想。なお、2040年度は、第6次エネルギー基本計画で示した2030年度の電源構成における原子力の比率が最大で22%だったことを前提として、第7次エネルギー基本計画の脱炭素推進ケースで予想している。
(注2)石油等の2023年度は2.9%、2030年度は2.0%、2040年度は1.0%、水素・アンモニアの2023年度は0%、2030年度は1.0%となっている。
(出所)各種資料、野村證券エクイティ・リサーチ部より野村證券投資情報部作成
洋上風力発電はサプライチェーンのすそ野が広い
- 再生可能エネルギーに関して、日本ではどのような開発が進められているのでしょうか。
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領土を海に囲まれている日本では、洋上風力発電の潜在能力が高いと言えますが、設置場所の制約や発電コストの高さなどが障壁となり、これまで導入が進んでいませんでした。そうした中、政府は2020年に、2040年までの洋上風力発電の導入を30~45GW、2040年までに国内での部品調達比率を60%とする方針を示し、その後、洋上風力発電の促進区域を整備してきました。
(注)日本の洋上風力導入目標は、促進区域におけるもの。
(出所)経済産業省「洋上風力発電に関する国内外の動向等について」より野村證券投資情報部作成
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2023年12月には秋田、新潟、長崎の3海域で開発する洋上風力発電の事業者が決定し、2024年中には青森、山形の2海域でも事業者が決定される予定です。今後、送電線の計画策定や資金調達の環境整備が行われるとみられ、政府の支援を受けて洋上風力発電の開発加速が期待されています。
- 洋上風力発電の開発には、どのような企業が関わっているのでしょうか。
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洋上風力発電は、海底に直接基礎を設置する「着床式」と、浮体を基礎として風車を設置し、係留などで固定する「浮体式」に分類され、日本のように沖合の海底が急に深くなる地形では、浮体式が適しています。開発においては、調査開始から風車製造、設置、運用とサプライチェーンのすそ野が広くなっています。また、建設には、出力制御や基軸など数万点に及ぶ部品が必要になる他、専門の建設船や海底ケーブルなど関連する業種は多岐にわたり、幅広い産業へ経済効果が波及することが見込まれます。
(注1)図はイメージ図。全てを網羅しているわけではない。
(注2)浮体式洋上風力は、洋上に浮かんだ浮体式構造物を利用する風力発電で水深が深い場合に適している。
(注3)ブレードは風車の羽の部分のこと。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成
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野村證券では、投資決定から運用開始までは時間を要するものの、風車製造や設置、また、生産地から消費地への送電網の整備に関連する分野は、比較的早期に収益化するとみています。参考までに、以下は風力発電関連銘柄の一例です。
コード | 銘柄名 | 概要 |
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1812 | 鹿島建設 | 2013年に国内初となる沖合の着床式洋上風力発電設備を完成させたほか、国内初の商用洋上風力発電の施工も行った。また、秋田県能代市沖や千葉県銚子市沖などの洋上風力発電の優先交渉権者となっている。 |
1893 | 五洋建設 | 洋上風力発電の施工に使用するSEP船(自己昇降式作業台船)を複数保有し、現在は2025年度の運転開始を目指す北九州の洋上風力発電の建設で稼働している。 |
3402 | 東レ | 風力発電のブレード(回転翼)に使用される炭素繊維(ラージトウ)で世界シェア約5割を有している。 |
5333 | 日本碍子 | 変動のある風力発電の出力を一定に保つことができる大容量の蓄電池システムNAS電池を供給している。 |
5801 | 古河電気工業 | 風力発電設備を電力系統に接続する送電ケーブルの生産・工事を手掛けている。国内最大級の石狩湾新港洋上風力発電事業へ海底電力ケーブルシステムを納入した。 |
5802 | 住友電気工業 | 欧州を中心に拡大する洋上風力の長距離送電需要に対応するため、2023年4月、英国、スコットランドに電力ケーブル製造・販売会社を設立すると発表した。 |
6471 | 日本精工 | 風車用の大型軸受を製造している。増速機用に強みを持つ。 |
6472 | NTN | 風力発電の主軸用大型軸受を生産している。風力発電装置用のCMS(状態監視システム)サービスも展開しており、国内を中心に導入が進んでいる。 |
6504 | 富士電機 | 風力発電で主に使われるIGBTパワー半導体に強みを持つ。発電機で発電した電気を送電線に流すための電力変換を担っている。 |
9506 | 東北電力 | 洋上風力をはじめとした再生可能エネルギーの開発に注力している。「能代港洋上風力」や「秋田港洋上風力」に参画している。 |
(注)全てを網羅しているわけではない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成
原発の依存度低減から最大限活用へ方針転換
- 原発に関して、2011年3月11日の東京電力福島原子力発電所事故以降、原発を取り巻く環境はどう変わったのでしょうか。
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東京電力福島第一原子力発電所の重大事故の教訓を踏まえ、原子力の安全管理を立て直し、真の安全文化を確立すべく、2012年に原子力安全規制に関する業務を担う行政機関として原子力規制委員会が設立されました。日本国内の原発は、原子力規制委員会が定めている世界でも厳しい水準の規制に基づいて運用されています。
福島での事故以降、政府は原発の運転期間の抑制や新規建設は困難という見方を示していました。第6次エネルギー基本計画においても、「原子力については安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する」と明記しています。
そうした中、政府は2023年2月、脱炭素社会を目指したGX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針を閣議決定し、安全を最優先に原発を最大限活用する方針を打ち出しました。原発は他電源と比べ発電コストが安く、安定して電力を供給できるということもメリットと言えます。また、AIの普及などを受けて、半導体工場やデータセンターの新増設により電力不足の懸念も、原発を最大限活用する方針の後押しとなっています。
2030年代から次世代原発運転開始へ
- 原発の活用について、既存施設の再稼働以外にはどのような方針が示されているのでしょうか。
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既存の原子炉より安全性や効率性を高めた次世代原発の開発が進められています。様々な企業が開発を進めており、構造によって、(1)革新軽水炉、(2)高温ガス炉、(3)SMR(小型炉)、(4)高速炉、(5)核融合炉、と大きく5種類に分けられます。
(注1)革新軽水炉には、メーカーによってさまざまな形式がある。
(注2)燃料デブリは、原子力発電所で事故が発生した際に、原子炉内の冷却機能が失われ、核燃料や構造物が溶けた後に冷え固まったもの。
(出所)各種資料、経済産業省「今後の原子力政策について」より野村證券投資情報部作成
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日本で建替えや新増設の有力候補とされるのが革新軽水炉です。仮に事故が起き、電源を喪失した場合でも、核燃料や構造物が溶けた後に冷えて固まった「燃料デブリ」が発生すると、自動的に水を投入して冷却するなど、自然災害やテロなどに対する安全性が高められています。革新軽水炉は既存技術の延長線上にあり、2030年代に運転開始を目指しています。
三菱重工業(7011)は、革新軽水炉「SRZー1200」の新設プロジェクトについて、4つのPWR電力会社(北海道電力(9509)、関西電力(9503)、四国電力(9507)、九州電力(9508))と共同設計委託を契約し、基本設計を推進中です。また、日立製作所(6501)と米ゼネラル・エレクトリックが経営資源を融合して設立した日立GEニュークリア・エナジーは、大型軽水炉である革新軽水炉HI₋ABWRと小型軽水炉の2種類の新型炉をラインアップしています。
高温ガス炉には、燃料を入れる炉心の主な構成材に耐熱性に優れたセラミック材が使われており、燃料が破損するリスクが軽減されるとともに、発電効率が高いという特徴があります。また、放出される熱を水素製造などに利用することも可能になります。経済産業省は、2023年度から始まった委託事業「高温ガス炉実証炉開発事業」において、製造・建設を担う中核企業に三菱重工業を選定しています。
原発関連銘柄については、次世代原発を開発・建設する企業のほか、次世代原発に使用される材料を製造する企業が候補になるのではないでしょうか。以下は原発関連銘柄の一例です。
コード | 銘柄名 | 概要 |
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5401 | 日本製鉄 | 粗鋼生産で国内首位で世界4位。加圧水型原子力発電所で使用されるSG管(蒸気発生器用伝熱管)を製造している。SG管製造能力のある世界3社の内の1社となっている。 |
5471 | 大同特殊鋼 | 特殊鋼専業企業。火力発電所や原子力発電所用の素形材製品を提供している。 |
5631 | 日本製鋼所 | 火力・原子力向け鋳鍛鋼で世界大手企業。原子炉に使用される鍛鋼部材を製造している。従来の溶接を用いる製造法から高品質な鋼塊から一体型での製造を可能にした。 |
6361 | 荏原製作所 | ポンプの総合メーカー。原子力発電用ボイラー給水ポンプを供給する。 |
6501 | 日立製作所 | 1970年に日本初の商業用軽水炉の営業運転を開始以降、数多くの原子力プラントを供給している。次世代革新軽水炉などの開発を手掛けている。 |
6503 | 三菱電機 | 総合電機大手企業。原子炉を冷却するために冷却水を循環させるポンプを回すモーターを製造している。また、原子力発電所の運転を監視する中央制御盤なども手掛けている。 |
7011 | 三菱重工業 | タービンや航空、防衛・造船を手掛ける総合重機大手企業。ターボ、フォークリフトで高いシェアを持つ。核融合研究や革新軽水炉など幅広く原子力発電関連事業に関わっている。 |
7013 | IHI | 総合重機大手企業。原子力発電関連では、圧力容器や格納容器、配管システム等の主要機器を供給するほか、原子燃料サイクルに関連したシステム面で開発や建設に関わる。 |
9503 | 関西電力 | 既に原子力発電所を7基稼働させているほか、次世代革新炉の開発を進めている。 |
9506 | 東北電力 | 2025.3期中に、宮城県にある女川原子力発電所2号機が安全工事完了に伴い、再稼働予定となっている。 |
(注)全てを網羅しているわけではない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成
- 野村證券投資情報部 ストラテジスト
澤田麻希(さわだ・まき) - 2010年より投資情報部に在籍。東京証券取引所記者クラブにて記者向け場況レクチャーやマスメディアにおける市況解説など、メディアを通じて情報を発信している。また、月刊誌「Nomura21 Global」等、個人投資家向け株式資料の作成も担当している。
※この記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。
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