2018.03.12 NEW
「人生100年時代」はすぐそこに! 長い人生を有意義に過ごす生き方を学ぶ一冊
100歳まで生きることは、まったく珍しいことではなくなる―。来たるべき「人生100年時代」を、“厄災”ではなく“恩恵”とするための必読書。
近年のめざましい技術発達を巡って、「10年後にAIにより多くの仕事が淘汰される」「2045年にはシンギュラリティ(技術的特異点:AIなどの進化のスピードが無限大に到達したように見える点)に到達する」など、さまざまな意見が飛び交う昨今。勤務先の事業領域や歩んできたキャリアといった観点から、そうした“未来予測”に並々ならぬ関心を寄せている人も少なくないだろう。
しかし、私たちを待っている未来には、技術発達よりもはるかにシンプルでありながら、人生を、引いては社会のあり方を根本的に改革しうる“変化”があることも忘れてはいけない。
それは、「多くの人が100年の人生を生きることが当たり前になる」時代が来るということ。しかも、その「100年人生時代」の到来は、はるか先の話ではなく、今を生きる私たち自身に関わる話だというから、そのことがもたらすインパクトについてはしっかりと理解しておく必要があるだろう。
80年代生まれの半数が95歳~100歳まで生き、“3ステージの人生”が破綻?
本書の出発点となるのは、所得の上昇や栄養状況の改善、医療技術の発達など、さまざまな要因により「19世紀半ば以降、各国の平均寿命は一貫して延び続けており、この傾向は今後も続いていく」いう統計・データにもとづいた確度の高い予測だ。
そのペースは「10年ごとに平均2~3歳延びる計算」であり、EL BORDEの読者層である80年代生まれなら約半数が95歳~100歳まで生きる計算になる。
長く生きることは、人間の根源的欲求でもあるのだから、長寿化は「喜ばしいこと」のようにも思える。だが、日本ではこの変化を“厄災”とする論調が目立つと本書は説く。
その一方で、長寿化という変化がもたらす“恩恵”に目を向け、恩恵を最も大きくするための鍵である、生き方、働き方をシフトすること、すなわち「ライフ・シフト」について具体例を挙げながら解説している。
例えば、働き方。20世紀に培われ、現在の常識となっているのは、「教育→仕事→引退」という3つのステージを順々に歩んでいく“3ステージの人生”だ。しかし、100歳まで生きることを前提とした場合、この働き方モデルは現実的な選択肢ではなくなる、というのが本書の主張である。
本書では、架空の人物である18歳の人間が100歳まで生きると仮定し、“現在”の働き方モデルに従って「65歳での引退」を希望した場合、「勤労期間中に毎年収入の25%を貯蓄し続ける必要がある」と試算している(もし、公的年金がまったく受け取れなくなれば、その数値は31%に跳ね上がる)。
これは米国での事例をもとに試算しているため、日本で暮らす我々に直ちに当てはまるわけではない。しかし、日本でも年金制度改革の議論が進められていることを踏まえれば、公的年金の受け取りが何十年も先になる、EL BORDEの読者層でもある80年代生まれにとっては、決して「他山の石」などと悠長に構えているわけにはいかないだろう。
「だったら、引退を延ばせばいい」という声も聞こえてきそうだが…。今、身につけている知識やスキルが、近い将来陳腐化してしまったら? 寿命以外にも変化の激しい時代、長期に渡って自分が望むような働き方ができる保証はないだろう。
必要なのは、“マルチステージの人生”へとシフトすること
そうした状況を乗り切るために必要なのは、「長い人生を通して変身し続けていくこと」と「複数のステージを生きながら、自身の経験やキャリアを複線化・多層化させていくこと」。つまり、決まった流れの“3ステージの人生”から、変化に柔軟に対応していく “マルチステージ人生”への移行だ。その一例として以下の具体的なステージが紹介されている。
- エクスプローラー(探検者):日常を離れ、新しい人との出会いや旅を通し、世界と自分について新しい発見をするステージ
- インディペンデント・プロデューサー(独立生産者):組織に雇われず独立した立場で生産的な活動に携わる、またその活動を通して学習するステージ
- ポートフォリオワーカー:複数の仕事やNPO・地域コミュニティでの活動など、異なる種類の活動を同時に行うステージ
“マルチステージの人生”では、“3ステージの人生”のように同世代全員が似通ったステージを横並びに歩んでいくのではなく、一人ひとりがタイミングも順序もバラバラに歩んでいくことになる。また、それぞれのステージは一回経験して終わりというものではなく、行ったり来たりしながら歩んでいくこともある。
そして“マルチステージの人生”を生きるために何よりも重要なのは、アイデンティティを明確にさせるということ。自分がどういう人間なのか、何を目的として生きるのかを明確にさせなくては、ただ状況に翻弄されるだけの場当たり的な人生となり、“マルチステージの人生”を主体的に生きることは難しいのだ。
また、長期間にわたる“マルチステージの人生”を生きるためには、お金のような有形資産だけでなく、生産性資産(スキルと知識)、活力資産(健康や人間関係)、変身資産(多様なネットワークや変化に開かれた意思)」といった「無形資産」を積極的に育んでいくことも大切になる。
そのためには、長寿がもたらす「時間」という贈り物を柔軟に使うことが必要で、余暇時間の過ごし方ひとつとっても、「レクリエーション(娯楽)」ではなく「リ・クリエーション(自己の再創造)」に充てるべきだと本書は説く。
自分ゴトとしてとらえ、準備することで、長い航海に備えよう
さて、ここまで駆け足で概要をたどってきたが、私たちにとって一番大事なのは、本書を“自分ゴト化”して読み、必要なエッセンスを吸収し、明日からの行き方に反映させていくこと。これに尽きるだろう。
日常を離れて新しい人や考え方に触れるという点では、社外のセミナーやイベント、交流会に参加するのも有効だろうし、趣味の領域にマーケティングなどのビジネス的観点を持ち込み、事業化・収益化をシミュレーションしてみるだけでも、大きな気付きが得られるかもしれない。また、休日の時間をNPOや地域コミュニティへの参加に割り当てたり、健康を意識して運動や食事について見直したりすることも、大いなる一歩だ。
あなたもこの一冊から、「100年時代」を“恩恵”にするためのヒントを学び、不確実性に満ちた長い航海に向けた準備を始めてみてはいかがだろうか。
■書籍情報
書籍名:LIFE SHIFT─100年時代の人生戦略
著者 :リンダ・グラットン(Lynda Gratton)
ロンドン・ビジネススクール教授。人材論、組織論の世界的権威。2年に1度発表される世界で最も権威ある経営思想家ランキング「Thinkers50」では2003年以降、毎回ランキング入りを果たしている。フィナンシャルタイムズ紙「次の10年で最も大きな変化を生み出しうるビジネス思想家」などに選出。邦訳されベストセラーとなった『ワーク・シフト』(2013年ビジネス書大賞受賞)などの著作があり、20を超える言語に翻訳されている。
アンドリュー・スコット(Andrew Scott)
ロンドン・ビジネススクール経済学教授、前副学長。オックスフォード大学を構成するオール・ソウルズカレッジのフェローであり、かつ欧州の主要な研究機関であるCEPRのフェローも務める。2005年より、モーリシャス大統領の経済アドバイザー。
訳者 :池村 千秋(いけむら ちあき)
翻訳者。リンダ・グラットンの前作『ワーク・シフト』のほか、ミンツバーグ『私たちはどこまで資本主義に従うのか』『MBAが会社を滅ぼす』、モレッティ『年収は「住むところ」で決まる』、キーガンほか『なぜ人と組織は変われないのか』、ピンク『フリーエージェント社会の到来』、コーエン『大停滞』など、ビジネス・経済書の翻訳を数多く手がける。
※著者及び訳者のプロフィールについては、この書籍が刊行された当時に掲載されていたものです。