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2019.01.24 NEW

核融合炉製造に成功した14歳――。「ギフテッド」と呼ばれる天才児を育てた教育方針

核融合炉製造に成功した14歳――。「ギフテッド」と呼ばれる天才児を育てた教育方針のイメージ

放射性物質を集めてきては自宅ガレージで核物質の実験を行い、14歳で核融合炉を作り上げてしまった「天才少年」――。

まるで小説や映画の登場人物のようにも思えてしまうが、れっきとした実在の人物である。少年の名はテイラー・ウィルソン。「ギフテッド(才能を授かった)」と呼ばれる天才児のひとりだ。

『太陽を創った少年 僕はガレージの物理学者』(早川書房)は、テイラーがその才能を存分に発揮し、若くして史上32人目となる核融合の成功者となるまでの軌跡を綴ったサイエンス・ノンフィクションである。

「自分は、この世界を変えて、より良いものにできる」

本書の主人公であるテイラー・ウィルソンは、米国南部のアーカンソー州の生まれ。地元企業の経営者の父、ヨガのインストラクターの母を両親とする典型的な中流家庭に育った。親が人並みはずれた天才であったわけでも、化学の専門家であったわけでもないが、テイラーは小さい頃から周囲を驚かすほどの天才性を発揮し始める。

彼の興味の矛先がまず向かったのは、宇宙だった。本やネットから独学で高度専門的な知識を習得すると、9歳のときには、機体や燃料を自作し、打ち上げることに成功。その知識レベルたるや、世界有数の宇宙飛行関連の博物館で、ツアー客相手に大学博士課程レベルの講釈を始めてしまうほどだった。

そんな彼が原子核物理学に興味を持ったのは10歳のとき。誕生日に祖母に買ってもらった一冊の本がきっかけだった。その本のタイトルは『放射線ボーイスカウト』(ケン・シルバースタイン著 未訳)。1990年の中頃に自宅で原子炉を作ろうとして放射能汚染を引き起こし、連邦政府機関や警察が出動する騒ぎを起こしたデイヴィッド・ハーンのドキュメンタリー作品だ。

以来、テイラーは――専門家顔負けの知識をもって安全対策を万全に実施する、「責任あるボーイスカウトになる」という宣言のもと――ガレージに放射線物質を集め、ラジウムの精製や核変換の実験装置の自作にいそしむようになる。

あくまで自分本位の興味から実験に没頭してきたテイラーだったが、あるとき、彼の思考に決定的な変化が訪れる。肺がんで苦しむ祖母を見て、癌の放射線治療に使う医療用同位体をもっと安く、患者たちの近くで作れないかと考え始めたのだ。そして、そのために11歳のテイラーが出した答えが「小型の核融合炉を作ること」だった。

「自分は、この世界を変えて、より良いものにできる」(p.182)という確信が、テイラーを困難な目標に向けて突き動かしていくことになる。

「横並びの学校」を脱出し、「生徒の興味を尊重する学校」へ

そんなテイラーが、田舎町の“横並びの学校教育”に満足できないことは誰の目にも明らかだった。加えて、自宅のガレージで原子炉を作るのは安全面であまりにも問題があり過ぎる。そんな懸念から、両親はテイラーをネバダ州にあるギフテッドのための学校、デイヴィッドソン・アカデミーに通わせることを決意する。

「少人数制クラスを採用し、生徒ごとの興味に合わせた指導を行う」という教育方針もさることながら、テイラーにとって大きな意味があったのは、同校がネバダ大学リノ校の一角にあるということだった。大学の教授陣と積極的に接触したテイラーは、原子核物理学とプラズマの権威でもあるロン・ファヌフらの協力者を獲得。念願の小型核融合炉の実験に着手していくことになった。

かくして、14歳のテイラーはさまざまな困難や失敗を乗り越えながらみごと核融合を成功させ、権威のある科学コンテスト「ISEF」の物理学・天文学部門で最優秀賞を獲得するに至る。詳細は本書に譲るが、テイラーが実験を成功させる道のりにはワクワクやハラハラがぎゅっと詰まっており、「不可能だと思えたものが、実現されていく過程」の興奮を存分に味わうことができる。

「自分らしさ」を伸ばす教育

本書には「少年の天才性」が余すことなく描かれているが、それとともに印象に残る点がもうひとつある。両親のおおらかで適切な教育方針だ。「裏庭で自作のロケットを打ち上げる」「ガレージに核融合炉を作る」。子どもがそんなことを言い出したとして、それを支援し、見守れる親がはたしてどれだけいるだろうか?

テイラーの父親ケネス、母親ティファニーの教育方針は「子どもたちが自分らしさに気づけるようにすること、そして彼らがその自分らしさを伸ばせるよう、できる限りのことをすること」。だからこそ、自分たちが理解できないから、危険そうだからという理由で、テイラーの原子核物理学の実験をやめさせることはしなかった。

それどころか、子どもの才能に気づいた2人は、それを理解し、味方になり、応援し続け、知的な冒険をさせることをいとわなかった。子どもが自分の関心を追求していけるように、助言を与えてくれるメンターと引き合わせたりもした。

テイラーが原子核物理学への情熱を追求できた背景として、彼がギフテッドだったことや比較的豊かな家庭に育ったこと、アメリカに生まれ育ったこと(日本の住宅事情でテイラーのような実験を行うのは、まず無理だ)などがあげられることは事実である。

だが、著者が「テイラーの成功は、彼の優れた頭脳の産物というだけではなく、とりわけ素晴らしい両親に恵まれたおかげなのだということを理解するようになる」(p.24)と述べている通り、いちばん大きなウェイトを占めているのはやはり両親の教育方針であるといえるだろう。

その点において本書は、天才少年の成長を追いながらも、科学や教育、子育てといった普遍的なテーマについて、「私たちの常識」とは違った新しい視点を教えてくれる一冊ともいえる。

横並びの画一的な教育を押し付けるのではなく、一人一人の個性や適正にあわせて、その才能を最大限に伸ばすための教育を行うこと。それは決して簡単なことではないが、重要な課題である。著者は、アメリカの教育システムについて、次の様に警鐘を鳴らしている。

「現在は、国の繁栄が国民の知的能力にこれまでになく大きく依存する時代だといえるが、その時代にありながら、アメリカの教育システムは、自国の特に有望な生徒たちの才能を伸ばしてこなかった」(p.254)

この「アメリカ」を「日本」に置き換えてみたときに、私たちは穏やかな気持ちでいることなどできるだろうか。また、「国」を「企業」に、「国民」を「社員」に置き換えてみたときに、何か感じることはないだろうか。そこで感じた思いを日々の行動にどのようにフィードバックしていくことができるか――。それを徹底的に考えることが、私たちの未来を明るく照らすことにつながっていくのかもしれない。

太陽を創った少年 僕はガレージの物理学者のイメージ

■書籍情報

書籍名:太陽を創った少年 僕はガレージの物理学者

著者 :トム・クラインズ(Tom Clynes)
《ナショナル・ジオグラフィック》をはじめ、《ガーディアン》《ネイチャー》《ニューヨーク・タイムズ》《ワシントン・ポスト》等に寄稿し、《ポピュラー・サイエンス》の寄稿編集者をつとめるライター/ジャーナリスト。

訳者 :熊谷 玲美(くまがい れみ)
翻訳家。1975年生。東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修士課程修了。訳書にコトラー『超人の秘密』、ディアマンディス&コトラー『楽観主義者の未来予測』、ストーン&カズニック『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史2』(共訳、以上早川書房刊)、スペクター『ダイエットの科学』、フィンレー&アリエッタ『「きたない子育て」はいいことだらけ!』、マーレー『世界一うつくしい昆虫図鑑』ほか多数。

※本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです。

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