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2021.04.01 NEW

組織のトップに信頼される「参謀」になるための「2つの条件」

組織のトップに信頼される「参謀」になるための「2つの条件」のイメージ

世界トップクラスのシェアを誇る日本のタイヤメーカー・ブリヂストン。2021年現在、150以上の国で事業を展開し、不動の地位を築き上げている。創業者が掲げた「最高の品質で社会に貢献」という社是は代々の社長に継承され、名実共に世界トップの企業へ成長した。

世界トップ企業の看板を背負い、世界にいる14万人以上もの従業員のトップに立つことは、決して生半可な仕事ではない。社長ひとりの能力で企業を成り立たせることは不可能であり、陰に陽に活躍する“参謀”の支えが不可欠だ。

一流の社長たちはどんな人物を参謀に任命し、その声に耳を傾けるのか。『参謀の思考法 トップに信頼されるプロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社)では、ブリヂストン史上、最も過酷といえる時代を乗り切った元CEO荒川詔四(あらかわ しょうし)氏が、組織のトップから信頼される参謀に必要な要素について、自らの体験をもとにわかりやすく語っている。その内容は、どのキャリアステージにいる人にとっても、自分の殻を破るのに役立つだろう。

単なる「部下」にとどまるな。「参謀」を目指せ

荒川氏は、ブリヂストンのタイ法人、ヨーロッパ法人、そして本社の社長を歴任した経歴の持ち主である。社長を担っていた間、「常に参謀を求めていた」と語っている。もちろん、社長参謀の専任職などは存在しない。参謀とは、社長など重職に就く者が心のなかでそう位置付けている人物であり、迷ったときや困ったときなどに頼れる存在である。

一体なぜ、荒川氏はそうした人物を求めていたのか。その理由について、「私が不完全な人間だから」だと明確に述べている。社長になったからといって、突然、完全な人間になれるわけではない。だからこそ、自分の能力の限界を補ってくれる参謀の助けが必要なのだ。

大企業に勤めると、トップ以外は誰もが部下の立場になるが、「部下」と「参謀」は、一体なにが違うのか

荒川氏は、部下と参謀の違いには「越えがたいほどの隔たりがある」と答えている。部下とは本来、組織などで誰かの下に属し、その指示や命令で行動する人のこと。これに対して参謀とは、ただ単に上司に従うだけではなく、常に自分の頭で考え、指示や命令の背景に何があるのか、その意図を汲み取ろうと努力する人のことだ。

参謀の定義について語る荒川氏の言葉に説得力があるのは、なにより荒川氏自身、課長職だった40代前半に秘書課長として抜擢され、社長の参謀を務めた経験があるからだ。

当時、ブリヂストンは世界シェアアップを狙い、タイヤメーカー・米ファイアストン社の全面買収に乗り出していた。ファイアストン社は深刻な経営難に陥っており、1日1億円の赤字を出しているほど火の車だった上に、その他にも苦しい課題があった。そのファイアストン社を買収することに一体どんな価値があるのか。社内では反対の意見も強く、ブリヂストン社内は大きく揺れた。

だが、当時の家入社長は、荒川氏のサポートとともに、明確な決意を持ってこの難関に乗り込んでいき、見事、世界トップシェアへの礎を作ったのだ。家入社長の秘書課長に任命された当時を振り返り、荒川氏は自らを「社長の参謀」と自覚する。そして参謀役から本社の社長まで、30年以上にわたって前線で揉まれてきた過程で、参謀として求められる姿勢や条件、人間性などを徐々に獲得していったのだ。

社長が求める参謀の条件1:「自律性」

社長はどんな参謀を求めるのか。それについて、荒川氏が語る要素を2つ紹介しよう。

1つめは「自律性」である。あくまでも、参謀は脇役だ。主役は意思決定権を持つ上司であり、参謀は上司という機能を最大化させるため、徹底的に見えない脇役であり続けなければならない。

仕事のスタイルは当然上司に合わせなければならず、大企業のトップともなると仕事に向き合う思考は年中無休であることも少なくないだろう。

だが、誤解してはならないのは、参謀は決して上司のイエスマンではないということだ。質問にすぐに答えられるよう、上司の脳と自分の脳を常に同期させながらも、思考は将棋棋士のごとく常に上司の数歩先をゆくくらいのペース感を維持しなければならない。

何が正しいか自分の頭で考え、自律性を堅持する重要性について、荒川氏は次のように語っている。

「自律性」を失った参謀は、その一点だけで「参謀失格」と言われなければなりません。なぜなら、完全な上司などこの世には存在しないからです。上司の不完全性を補うのが参謀の最重要任務だとすれば、参謀は、上司とは独立した思考力・判断力をもつ「自律した存在」でなければならないのは自明のことでしょう(p.75)

この信条は、荒川氏が秘書課長の任務を受けた当時、家入社長から「おとなしそうに見えるが、上席の者に対して、事実を曲げずにストレートにものを言う。俺が期待しているのはそこだ」と評価された体験に則している。

社長が求める参謀の条件2:「現場主義」

参謀に求められる2つめの条件は、「現場主義」である。

企業が大きくなればなるほど、トップと現場の溝が深まる。さらに、トップは経営戦略を立てる際、現在の延長線上で考えるのではなく、「あるべき未来」から逆算(バックキャスティング)してつくらなければならない。つまり戦略とは、現状と非連続なものであり、時には現状を否定する要素が含まれることもある。

しかし、社員の大多数が働く現場はどうかといえば、当然、現状を少しずつ改善(フォアキャスティング)していき、事業の効率性や優位性を図っていくことが必要だ。そのため、トップが考える逆算型の戦略と折り合わず、トップが現場からの激しい抵抗に遭う場面ができてしまうこともあるだろう。

そんな状況を解決へ導くのが参謀の存在だ。参謀時代、荒川氏は頻繁に現場へ足を運び、彼らの困りごとや課題、時には愚痴にまでも、静かに耳を傾けた。もちろん参謀には、社長や上司の意向を現場に伝え、それを実行してもらう使命がある。だが、それを押し付けようとしては、面従腹背を生み出すだけだ。それでは組織としての一体感があっという間に崩壊する。

そのため荒川氏は、時には「各部署が多忙を極めている中で、社長からの“無理難題”を受け入れてもらうため」に、経営と現場の間で「理」と「情」を尽くして説明し、確実に物事を前に進めていくという、泥臭い行動を続けたのだ。

参謀の最大の武器は、現場に近いことである。上司が望んでも手に入らないその距離感こそ、参謀に求められる要件なのだ。

上司に信頼されるために今すぐ始めるべき3つのこと

それでは、上司から信頼される参謀を目指すためには、具体的に何をするべきか。ここでは書籍から、「自分を客観視する思考力」「トップとのビジョン共有」「仲間と新しい価値を生み出す楽しさ」の3つのポイントについて紹介する。

まず1つめは、「自分を客観視する思考力」を持つこと。大半の社員は、参謀の背後に権力者の姿を見て、参謀に異を唱えるのに慎重になる。それは下手なことをして権力者から反撃にあうのを恐れるからだが、中途半端に仕事ができる参謀は、自尊心の高さから自分の周囲に対する「力」を誤解しやすい。その結果、当人は徐々に現場の人々から浮き上がり、参謀として機能しなくなっていくのだ。

2つめは、「トップとビジョンを共有」することだ。荒川氏が社長を務めていた時代、よく相談をもちかけていた参謀たちには共通点があったという。それは、「自分の利益」と「自部署の利益」を離れて思考する力を持っていることだ。これについて、荒川氏は次のように述べている。

「全体最適」を考えるのが経営であって、部門ごと、担当者ごとの「部分最適」にこだわる人は参謀としては不適格。たとえ、自分の個別的利益には反するテーマであっても、「全体最適」と照らし合わせて合理的な思考ができる人物でなければならないのです(p.188)

全体最適を図ることは、決して社内に散らばるさまざまな利益を調整することではない。「会社はどうあるべきか?」という理想像や未来像を実現するために、部分最適を超えて、創造的に社内のリソースの配分を考えることである。

会社のあるべき姿を描くためには、トップとビジョンを共有する必要がある。そのための具体策の例として、荒川氏は「若いころから、直属の上司のみならず、社内の上層部との接点を増やし、会食などの場も含めて、彼らが語る『ビジョン』に触れる機会をつくることは、非常に重要なこと」だと述べている。

そして3つめは、「仲間と新しい価値を生み出す楽しさ」を知ることだ。「こんなふうになったら」と思うことを、どんどん実行してみる。目の前の仕事に対して自らが思い描いた「理想」や「ビジョン」が魅力的なものであれば、周囲の人たちが共感し、力を合わせてより大きな課題に取り組むことができるかもしれない。

いわば、会社の既存のマニュアルには存在しない、イレギュラーなことに取り組んでいくのだから、難題・課題が波のように押し寄せるだろう。だが、あえてイレギュラーな状況に身を置くことも、参謀として活躍する際の大きな礎となる。現場で課題となっている壁を壊すためのプロセスを経験した人にしか得られない知見が身につき、会社のビジョンや戦略を血肉化できるからだ。

すなわち、自らイレギュラーなことを生み出してきた人は、参謀として貴重な存在になる可能性を秘めているのである。また、荒川氏は、上昇志向に身を削られることなく、周囲の仲間たちと楽しみながら「新しい価値を生み出すために働く」という率直な姿勢こそが、自分自身の可能性を最大限に引き出すと確信しているという。

この書籍では、一貫して参謀に求められる条件について荒川氏の言葉で語られ、22の思考法が紹介されている。誤解してはならないのは、決して本書は「リーダーシップタイプか、それとも、参謀タイプか」と二分するものではないということだ。

参謀はリーダーと同じビジョンを持ち、自らの実践と思考を通じて企業の未来へ向けて邁進する。すなわち、参謀の本質にはリーダーシップがあり、優れた参謀こそが、優れたリーダーへと成長できるのである。世界屈指のリーダーである著者が、参謀として過ごした時期をどのような意識で過ごしてきたのか。そして、どのように現場との関係を築き、人々に信頼される存在となっていったのか。その軌跡と実践的な手法が一冊のなかに凝縮されている。

参謀の思考法 トップに信頼されるプロフェッショナルの条件のイメージ

■書籍情報

書籍名:参謀の思考法 トップに信頼されるプロフェッショナルの条件

著者 :荒川 詔四(あらかわ しょうし)
世界最大のタイヤメーカー株式会社ブリヂストン元代表取締役社長。1944年山形県生まれ。東京外国語大学外国語学部インドシナ語学科卒業後、ブリヂストンタイヤ(のちにブリヂストン)入社。タイ、中近東、中国、ヨーロッパなどでキャリアを積む。その後、タイ現地法人社長として国内トップシェアを達成し、東南アジアにおける一大拠点に。ヨーロッパ現地法人社長として厳しい経営状況にあった欧州事業の立て直しを成功。2006年本社社長に就任。2012年3月に会長就任。2013年3月に相談役に退いた。キリンホールディングス株式会社社外取締役、日本経済新聞社社外監査役などを歴任。著書に『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)がある。

※本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです。

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