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2017.10.26 NEW 境界線の越えかた

ネーミング800本、パッケージ500本「もぎたて」を大ヒットさせた、アサヒビール宮广朋美の執念

ネーミング800本、パッケージ500本「もぎたて」を大ヒットさせた、アサヒビール宮广朋美の執念のイメージ

2013年、アサヒビールの缶チューハイ事業は過去最低の売り上げに落ち込んだ。起死回生を懸けたプロジェクトのリーダーに抜擢されたのは、当時31歳の宮广(みやま)朋美さん。どん底状態から「アサヒもぎたて」シリーズを大ヒットさせるまでの、苦難の乗り越えかたを聞いた。

大学卒業後、新卒でアサヒビールに入社されました。どのような志望動機を持って入社されたのですか?

単純にスーパードライが好きだったんです(笑)。マーケティング部でビールの新商品を開発したいというのが動機でした。

入社後は営業部門に配属されました。

スーパーマーケットなどの量販チェーンを担当する部署に2年在籍しました。上司には「まずは店頭を見なさい。そして、お客様がどう買っているかを見た上で、きちんと商談をしなさい」と言われていましたね。
また、「お得意先ときちんと向き合い、しっかりプレゼンをして、我々が何をやっていきたいかを伝えなさい」ということも常日頃言われていました。今でも大切にしている考え方です。

3年目には希望していたマーケティング本部に配属されました。入社3年目での異動というのは、社内でも早いほうだったのでは?

同期の中でも3年目に異動した人間はそんなにいなかったですし、自分自身もまさか3年目に希望部署に行けるとは思っていませんでした。
ただ、担当は希望していたビールではなく缶チューハイなどを扱うRTD(Ready To Drink:ウイスキーやリキュールなどの原酒と対比して、割らずにそのまま飲める缶チューハイや瓶入りカクテルなどを指す)。
学生時代からビール党でほとんどチューハイを飲まなかったので、お客様の気持ちや商品のことがわからない状態。とても不安でした。

当時、アサヒビールのRTD事業は低迷期にあったと聞いています。部署の雰囲気はどのようなものでしたか?

どちらかというと「売り上げをいかに伸ばすか」よりも「いかに下げ止めるか」に意識が向いていると感じました。もちろん、売り上げを伸ばしたいという思いは全員が持っていたし、新ブランドも常に開発されていたんですが、それがなかなか市場に定着しない。部署全体が苦しんでいる時期でしたね。

そして2013年、御社のRTD関連の売り上げが史上最低となった年に、「アサヒもぎたて」シリーズ開発のリーダーとなりました。
アサヒビール宮广朋美のイメージ

みんなが「これが本当に最後のチャンスだ」と思って取り組んだのが「もぎたて」の商品開発でした。

私はそれまで既存ブランドの開発担当をしていたんですが、上司に「新ブランドをやりたい」と言い続けていたので、「担当してもらえる?」と言われたときは「来たぞ!ようやくやれる!」という気持ちでした(笑)。

「もぎたて」はそれまでとは異なるプロセスを踏んで開発されたとうかがっています。

以前は、マーケティング部で商品を考えて、ある程度方向性が見えてから関連部署に展開し、戦略を立案するというのが通例でした。
でも「もぎたて」は、中身(液体)以外何も完成していない状態から、営業や宣伝、量販統括、デジタルマーケティングなどとチームを組んで開発を進めていったんです。通称「チームAZ」。RTD事業としても初めての試みでした。

そこにはどんな狙いがあったのでしょう。

「みんなで新ブランドを作り、売る」という意識を全社的に作りたかったんです。これまでマーケティングがやっていた仕事を他の部署にもお願いするわけですから、最初は嫌な顔もされました。
でも「こういう理由でチームを組みたいんだ」とみんなに話して、説得して、少しずつ味方を作っていきました。

何人くらいのチームだったんですか?

約20人です。主要メンバーの中では私が一番年下でした。

年長者の上に立つことはプレッシャーではありませんでしたか?

プレッシャーは感じていました。最初のミーティングで「今度こそ、おいしいもの、売れるものができました!」と話したときも、「ああ、またマーケが大きいことを言ってるよ…」みたいな雰囲気がありましたし。
ただ私自身リーダーではありましたが、みんなを引っ張っていたという感覚はありませんでした。
週に2回のミーティングで、いろんな人と意見を交わしながら戦略を立てていく感じで、みんなと一緒にプロジェクトを進めていました。

社運をかけた開発ということもあって、社長や副社長も大変力が入っていたとか。

社長からは「圧倒的にうまいものを作らないとまた失敗するぞ」と言われていました。「お客様は味がわかる」というのがアサヒビールの社風。お客様が求めている味の追求が最大のミッションで、スーパードライも5,000人規模の調査を経て辛口になったんです。

「もぎたて」の開発時も、最初はRTD市場のナンバー1ブランドと比較して「これと同じくらいおいしいものができました」と社長に持っていったんですが、「同じくらいのものなら、今までのものでいいじゃないか。圧倒的にうまいものを作らない限りは発売させない」と(苦笑)。何度もNGを食らって、突き返されて、そのたびにブラッシュアップと調査を繰り返しました。

それがスーパードライに匹敵する5,000人規模の市場調査と、300人超という御社RTD商品最大規模のインタビュー調査につながったのですね。

調査が増えるたびに、予算の追加もお願いしたり、RTDの既存ブランドの予算を借りたりしてやりくりしました。「ここで今やらないと今までやってきたことが水の泡になりますよ」と説得して、引き出した感じです(笑)。

ほかにもいろいろご苦労があったと思いますが、開発にあたって一番つらかったのはどんなことですか?

最後までネーミングとパッケージが決まらなかったことですね。当社は秋に全国の事業場長を集めて、各部長が翌年のマーケティング戦略を説明するんですが、私の担当する「もぎたて」は中身しかできていない状況。前代未聞の事態でした。

中身は研究所とマーケティングで作り上げていくものですが、ネーミングとパッケージは完全に私の仕事なのに、そこが決まらない。本当にしんどかったですね。

その状況から、どうやってプロジェクトを前進させたのですか?

一人で考えても出てこないので、他のチームの人にブレストに参加してもらったり、お客様に調査をして意見を聞いたり…。ひたすら考えて調査しての繰り返しでした。提案したネーミングは800案、パッケージも500案になりました。デザイン案は、今でも紙ベースで大量に残っています。

最終的に「もぎたて」に落ち着いた経緯を教えてください。

実は「もぎたて」というネーミングは、かなり早い段階で候補に挙がっていました。「新鮮な果実感」というコンセプトが伝わるし、お客様の感触も悪くなかったんですが、上層部からは「新しい言葉じゃない」「既視感がある」とNGを出されて…。「もぎたて」を案として残しつつ、新しいアイディアを考えることになったんです。

でも、調査をしてみるとやっぱり「もぎたて」の感触がいいんですよ! だったら推すしかないと思って、突き返されながらもあきらめずにプレゼンを続けていたんですが、ある時、そのネーミングを目にした上層部の方々が「わかりやすくていいんじゃないか」と言ってくださった。苦労はしましたが、最終的にやりたかったものに落ち着いてよかったなと思います。

つらい時のリフレッシュ方法は、やっぱり…。

飲みに行くことですね(笑)。それこそリーダー同士でも行きましたし、AZのメンバーともよく行きましたね。しゃべることでストレス発散できるだけではなく、考えがまとまることってよくあるじゃないですか。

あとは本を読みました。マーケティングの参考書や、それ以外にもとにかくたくさん。休みの日でもどうしても仕事のことを考えてしまうので、本を読むことで仕事から意識をそらす(笑)。それまでは特に読書家というわけでもなかったんですけど、おかげで本を読むクセがつきました。

そうやって2016年に発売された「もぎたて」は発売一週間で70万ケースの売上。初年度の目標である500万ケースを半年でクリアして大ヒット商品になりました。

発売前の出荷の時点で、すでに新ブランドの最低ノルマを大幅にクリアしていました。
発売日には店舗を回って、どんな売り場になっているのか、どう買われているかを見てきたんですが、お客様が目の前で「もぎたて」を手に取ってくださった時は本当に涙が出そうでした。

営業からマーケティング、そして新商品開発へ。やりたい仕事にたどり着くために、特に意識していたことはありますか?

入社当時から、目の前の与えられた仕事を、一歩一歩着実にこなすことは意識して過ごしていたと思います。それは今でも変わりませんね。

学生時代からコツコツ頑張るタイプでしたか?

まわりから大雑把な性格だと言われていたんですが、社会人になって初めて「実はコツコツやるほうが向いているのかな」と思うようになりました。新入社員の頃って、与えられている責任が大きいのか小さいのか、全然わからないじゃないですか。だからこそ目の前のことをしっかりクリアするようにしていました。
例えば予算達成にしても、規模が大きいとか小さいとかに関係なくマストでやっていこうと。何をクリアしたら目標を達成できるかという計画は最初に考えるタイプです。

最後に読者に向けて、新しい一歩を踏み出すためのアドバイスをお願いいたします。
アサヒビール宮广朋美のイメージ

自分の思いを伝えていくことが大切だと思います。私も「もぎたて」の担当になる前から「新ブランドに携わりたい」「RTDをどうにかしたい」という思いを色んな人に話していました。そのときに話を聞いてくれた人が、実際担当になった時に味方になったり、応援したりしてくれたんです。

自分の思いを話すことを躊躇する人もいるかと思いますが、いろんな人に話すことが、いい方向に自分を運んでくれると感じています。

宮广 朋美(みやま ともみ)
1982年、埼玉県出身。日本大学生物資源科学部卒業後、2009年にアサヒビールに入社。埼玉広域営業部を経て、2011年にマーケティング第二部に異動。現在は同部副課長。趣味はお酒を飲むこと。最近のお気に入りはもっぱら緑茶ハイとのこと。

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