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2019.06.19 NEW境界線の越えかた

【高橋祥子】「想定外」の選択が、私の人生を豊かにする

【高橋祥子】「想定外」の選択が、私の人生を豊かにするのイメージ

今、現場の中心となって働く80年代生まれのビジネスリーダーは、人生において、ビジネスにおいてどんなことを大切にしているのだろうか。
ゲノム解析サービスを行うジーンクエスト代表の高橋祥子氏にインタビュー。高橋氏が「大切にしていること」から、生き方のヒントを見つけよう。

まだ誰も知らないピースを世界に足す仕事

私は、人間の最大の幸福は新しい発展に参加することだと信じています。だからこそ起業して、一緒に働くメンバーやサービスを利用した方々が、ゲノム解析という「新しい発展」に参加できる仕組みを作りました。新しい発展に周囲を巻き込んでいくのは、リーダーや経営者の大切な役割だと思っています。

研究がとても好きだったので、大学に残る道も選択肢としてはありましたが、研究成果を社会に還元していくのであれば、大学の中にいては限界がある。一方、起業すれば、皆様のデータを活用して研究を進め、成果を論文やサービスとして発表することができる。その論文やサービスによって、まだ誰も知らないピースを世界に足すことができるし、研究成果はダイレクトに社会課題の解決につなげられます。社会人経験なく起業したので大変なこともありましたが、起業して本当に良かったです。

高橋 祥子のイメージ

実は、コミュニケーションがあまり得意ではありませんでした。特に起業したての頃は、心に余裕もなかったので、本題以外の「今日は暑いですね」などの会話が無駄に思えて、早く本題に入りたいとさえ感じていました。でも、「生命科学は大切なことだから学んだほうがいい」と言っても伝わりませんが、「生命科学ってこんなふうに面白いよ」と言えば、「ちょっと興味を持ってみようかな」と思ってもらえる。私に「暑いですね」と言った人も、気温という「情報」を伝えたかったわけではなく、同じ環境にいることによる「感情」を共有したかったんですよね。情報だけでなく感情を共有することで、熱意が伝わって、人を動かすことができると気がつきました。

最先端テクノロジーを使うほどに考える「人間らしさとは何か」

そんな私の理想のリーダーは、クレイグ・ベンターのようなサイエンスとビジネスのバランス感覚がある人です。彼は分子生物学者で、バイオ業界のスティーブ・ジョブズのような存在。未来の新しい可能性を次から次へと世界に提示して、いろんな人たちを巻き込んで、どんどん新しいことに挑戦しています。

私は、知識の蓄積と、それによって課題解決力が上がることこそが人類の進歩だと定義しています。サイエンスによって知識が蓄積されたとしても、それがテクノロジーに昇華して、人々の生活を変えないと、多くの人には実感がありません。さらに、最先端テクノロジーの世界では、「技術的に何ができるか」の次に、「その技術を使っていいのか」という倫理の問題が出てきます。私もゲノム解析サービスをローンチしたとき、「怖い」「危ない」という意見を方方から聞きました。その多くが、「よく知らない」という理由から生じたものです。怖がらずにテクノロジーを使ってもらうには、クレイグ・ベンターのように未来の可能性をきちんと設計し、世界を巻き込んで納得させなければならない。ジーンクエストでも倫理審査委員会を作っていますが、最先端のテクノロジーを使えば使うほど、「人間らしさとは」「幸福とは」ということを考えます。

高橋 祥子のイメージ

そういった意味では、新しいテクノロジーについての適切な発信も私たちの仕事です。たとえば学会などで論文を発表するときは、その場にいるのは全員専門家なので、「わからないほうが悪い」という捉え方をします。アカデミックな世界では、誰もが理解できるように易しく書く、ということはないんです。でも、世界中の人が安心して新しいテクノロジーを利用できるようにするには、わかりやすく伝える必要がある。理解できないコミュニケーションでは、届かないですよね。「わからないから怖い」と言われないよう、私が研究に向かう情熱や感情のようなものも乗せながら、テクノロジーの素晴らしさを発信していかなくてはと思っています。

私の人生を豊かにする「学び」「未来の可能性」「想定外」

では、何が私たちの人生を豊かにするのか。私にとっては3つあります。1つは「学び」。2つ目はポジティブな「未来の可能性」。3つ目は「想定外が起こること」。この「想定外」には、良いことも悪いことも含まれます。つまり、個々の事象としては大変だとしても、自分の頭で考えられる「想定の範囲内」で世界が閉じてしまうほうが、私にとってはストレスなんです。誤解を恐れずに言うと、想定内の世界では、世界の存在自体が危うくなる。自分には理解できないことがあったり、「どういう意味ですか」と聞かれたりする他者とのコミュニケーションによって、逆に自分という存在や、世界の存在が確かになるのではないでしょうか。

高橋 祥子のイメージ

たとえば、起業してから辛いこともありましたが、今の生活には大学の研究室に残っていたら経験できなかった「発見(学び)」があるし、失敗も含めた「想定外」によって自分の世界が拡がったので、トータルではとても幸せです。

そして、失敗しても挫けなかったのは、そこに「未来の可能性」が感じられたからです。私にはゲノム解析で社会課題を解決するという「実現したい未来」があって、その可能性を信じているから頑張れます。ポジティブな未来に向かってさえいれば、どんな挫折もひとつの過程になるんです。

もうひとつ、挫けそうになったときにすることがあります。ジーンクエストでは遺伝子を検出するのにマイクロアレイという手法を使います。そのときにできる、蛍光色素で光る遺伝子は星空みたいでとても綺麗です。はじめてそれを見たとき、星のような遺伝子ひとつひとつが機能を持っていること、そして全人類、全生命の根本の情報が美しいことに感動しました。何かうまくいかないことがあると、携帯に入れているその画像を見て、そこに魅せられた純粋な気持ちを思い出すことにしています。そうすると、「こんなところで立ち止まっていてはいけない。乗り越えなければ」と思えるんです。

「楽しむ」という「第3の時間」が変えたもの

私は以前、時間の使い方には「投資」と「浪費」の2種類しかないと思っていました。学びや研究などの有益な「投資」以外は、マンガを読む時間も、気の置けない友達との食事の時間もすべて「浪費」だという、今思えば少し極端な考え方です(苦笑)。ですが、最近では「楽しむ」という「第3の時間」もあるのだと感じるようになりました。

そう思ったのは、根を詰めすぎて体調を崩したとき、先輩の経営者から「事業は短距離走じゃない。持続可能でないと、やっていることに何の意味もない」と言われたのがきっかけです。それから時間の使い方を考えるようになり、十分な睡眠時間も「今の時間を純粋に楽しむ」ということも、ある程度「達成」できるようになりました。私、「ストレングス・ファインダー(自分の思考、感情、行動の特徴を診断するツール)」の特徴の第1位が「達成欲」なんです。だから、持続可能な事業活動のために、楽しみのための時間をとることを自分の目標に据えて、必ず「達成」するようにしています。プライベートでは、人と会うことが楽しいし、海外に行くことも楽しい。講演などで喉を潰さないように、ボイストレーニングを習ったこともあります。こうして挙げてみると、やっぱり何か学ぼうとしていますけど(笑)。選択肢があるなら、何が起こるかわからないほう、経験がないほうに飛び込んでいきたい。それが私の世界に「手触り」を与え、人生を豊かにしてくれるのです。

高橋 祥子(たかはし しょうこ)
ジーンクエスト代表取締役 兼 ユーグレナ執行役員
1988年、大阪府出身。2010年京都大学農学部卒業。2013年6月、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程在籍中にジーンクエストを設立。生活習慣病などの疾患リスクや体質の特徴など300項目以上の遺伝情報を得られるゲノム解析サービスを開始する。著書に『ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか?─生命科学のテクノロジーによって生まれうる未来─』。
(制作:NewsPicks Brand Design 執筆:安西ちまり 編集:大高志帆 撮影:露木聡子)

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