2020.08.20 NEW
一番の苦痛は挑戦しないこと―キャディ加藤勇志郎の、「桁外れな目標」の立て方
旧態依然とした業界の仕組みや今回のコロナショックにより、苦境に立たされている国内製造業。キャディ株式会社CEOの加藤勇志郎は、テクノロジーによって、そうした製造業界の課題解決に取り組んでいる起業家だ。
キャディを急成長させただけでなく、「偏差値38からの東大合格」「超一流コンサルタント会社の最年少マネージャー就任」など、過去にも華やかな実績を上げ続けてきた加藤氏。その背景にある哲学、行動原理を聞いた。
※写真は2019年9月12日に行われたイベント「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 Meet-up 2019」にて撮影した写真を使用
桁外れな目標を立てない限り、絶対にたどりつけないミッション
- キャディはバリューのひとつとして「もっと大胆に―桁外れな目標を立てよう」と掲げられています。まずは、加藤さんが「桁外れな目標設定」にこだわる理由からお聞かせください。
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自分が掲げた目標以上の場所に到達することはほとんどないから、というのがその回答です。
たとえば、「100点満点のテストで50点をとる」という目標の人が、100点をとることってほぼないですよね。100点どころか70点にも到達できないケースがほとんど。
もちろん、50点という目標のもとで45点や50点をとれば、達成率は9割から10割になるので、大きな達成感は得られます。でも、100点を目指して70点をとったほうが絶対値は大きいですよね。簡単にいうと、そういう価値観を大切にしているんです。
- そうした価値観を持つようになったのは、いつからですか?
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キャディを創業してからですね。キャディは「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というミッションを掲げています。こうした、今まで誰も成功したことがないような極めて難しいミッションを掲げて、それに対する成果を出そうとした場合、桁外れな目標を立てない限り絶対にたどりつけないので。
- キャディ創業以前、「偏差値38から東大合格」「マッキンゼーで最年少マネージャー就任」など、端から見ればすごいミッションに成功しています。これも同じような発想で達成されたのでしょうか?
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偏差値38からの東大合格は、桁外れと言われれば桁外れなんですけど、単純に私がアホで、受験勉強の準備を全然していなかったから桁外れになっただけなので、あまり誇れることではないです(笑)。
マッキンゼーのマネージャーだって、必ず誰かしらなれるものですよね。そういうものよりも僕にとって価値があるのは、誰もやったことがないことに挑戦すること。そこが大前提なんです。
- もともとチャレンジ精神が旺盛だった?
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そうですね。子どもの頃から、人がやったことがあることをやる意味はないとか、他の人ができることならやる必要ないなって思うタチでした。音楽活動に没頭していた中高時代は、「高校在学中にメジャーデビューし、日本一CDを売る」という目標を掲げ、当時日本で一番CDを売っていたB'zを超えるためにはどうすればいいだろうと考えていましたね(笑)。
起業家の『怖くない』は全部嘘?
- そういったご自身の価値観をキャディの社員に浸透させるために、現在取り組んでいることはありますか?
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ミッションが極めて遠い場所にあるので、目標設定にはかなりこだわっています。グループはもちろん、個人にも目標を提出してもらい、その目標がそれぞれをストレッチするレベルのものかを詳細に検討し、「普通にやったらできるよね」という目標だった場合は突き返すことも。目標設定から課題解決のプロセスは評価制度にも組み込んでいます。
ちなみに、目標管理にはMBO(Management by Objectives)やKPI(Key Performance Indicator)でなく、OKR(Objectives and Key Results)を導入しています。具体的な数値目標を淡々と積み上げていくのではなく、達成可能かわからない、達成確率が7割くらいの目標を掲げて、それを数値やそれ以外の方法で計測し、評価するという仕組みです。
- とはいえ、経理や総務のように、大胆な目標が立てにくい部署もあるのでは?
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そんなことはないと思いますよ。経理を例に挙げると、会社がどういう戦略を取っていくべきかを経理的な観点で考えることも仕事の一つじゃないですか。そして、効率のいい債権回収プロセスを考えたり、キャッシュのサイクルをコントロールしたりと、大胆にやれることはいくらでもあります。
いわゆる大企業的な考え方だと、これらの部署は「決まったことをきちんとやるべき部署」という印象があるかもしれませんが、キャディの場合は全然違います。むしろ、新しい仕組みをたくさん作らなければいけないので、至るところでOKRを運用して目標が立てられています。
- 大きな目標を目指すことは、自分自身にプレッシャーをかけることでもあります。そうしたプレッシャーを怖いと思うことはありませんか?
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「起業家の『怖くない』は全部嘘だ」とおっしゃる方もいますよね(笑)。そこは同意できるし、ストレスも確実にあると思います。ただ、僕にとっての“怖い”は、ほかの方と少し意味合いが違っているかもしれません。僕が怖いのは目の前のストレスなんかじゃなくて、「やればできる」とわかっていることを中長期的にやり続けること。これはもう、苦痛の極致です。
未知への挑戦は、苦しいこともたくさんありますし、いろんなケガもします。でも、目の前のケガは僕にとって大した問題じゃなくて、見たこともないことにトライする楽しさのほうが勝っている。だから、目の前に怖い瞬間があったとしても、長い目で見れば「一番楽しい道を進んでいる」という実感があるんです。
- 世の中には、大きなチャレンジに足踏みをしてしまう人も多いと思います。そういう方に、ヒントをいただけませんか?
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それ、一番苦手な質問です(笑)。何か行動したいと思うなら行動すればいいんじゃない? と思っちゃうんですよね。ただし、自分が最終的に何を成し遂げたいのか、何を大切にしたいのかをきちんと考えていることが大前提です。そうすれば、おのずと取るべき行動が見えてくるんじゃないでしょうか。
アクションするだけで、上位3パーセントになれる
- 「未知への挑戦」ということでいえば、現在、新型コロナウイルスの拡大によって、私たちの価値観や生活様式も大きく変わろうとしています。コロナ禍を経験して、何か感じていることはありますか?
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まずは「不況って本当に来るんだな」と思ったのが一つ。僕が社会人になったのはリーマンショック後なので、好況と不況のギャップを肌で感じる機会がなかったんです。
もう一つは、「不況になっても人は思ったより動かない」ということですね。みんな口をそろえて「やばい」と言っているけれど、それを打開するために新しいことに取り組んでいる人って、ほとんどいないような気がします。
※日本全国計301社の機械メーカーと金属加工会社などの町工場を対象にしたアンケート調査。2020年5月13日~5月28日に実施。
キャディのクライアントである町工場は、そのほとんどが一つの業界の仕事に依存していて、下手したら一業界どころか特定一社で売り上げの9割をまかなっているところもあります。
そして、彼らのほとんどが、リーマンショックで一業界への依存の怖さを嫌というほど経験している。それにも関わらず、抜本的な対策をとることなく、今回のコロナ禍で同じように苦しんでいるんです。その状況は、結構衝撃的でした。
- たしかに、「新しいことを始める」のではなく、「元に戻る」のを待とうとする感覚は、多くの人にあるかもしれません。
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製造業に限った話ではないですよね。今になって普及しはじめたオンライン商談やペーパーレス決済なども、それで仕事が成立することは10年くらい前からわかっていたはずです。だけど、コロナ禍がなかったら誰もやろうとしなかった。
それくらい何か新しいことをやろうとしている人が少ないんですよね。もしかすると、今、何かしらの思い切ったアクションを起こすだけで、日本のビジネスパーソンの上位3パーセントに入れるかもしれない、とすら思っています(笑)。
- ビジネスパーソンにとって、今回のコロナ禍は成長のチャンスにもなり得るということでしょうか。
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めちゃくちゃチャンスだと思います。今は市場が収縮して、みんなの“楽しみレベル”が小さくなっていますが、これまでの歴史を見る限り景気は数年で回復します。だから、「景気は必ず回復する」と半ば無理矢理にでも信じ込んで、収縮した市場でシェアを取っていくよう努めれば、その人の今後は大きく変わるんじゃないでしょうか。
もちろん、目の前にはつらい状況が待っているかもしれません。しかし世の中ほとんどの会社が厳しいご時世。みなさんが感じている「つらさ」は、「相対的に見ればたいしたことがない」ともいえます。そして、こうした状況下では、チャレンジに失敗したとしてもマイナスにはならず、逆に市場価値を上げるチャンスは大きい。これは疑いようのない事実です。
- いまこそ高い目標設定が必要ということですね。
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目標を高く持ち、厳しい環境下に置かれることで、マインドはより筋肉質になっていく。1年のピンチはあっても10年のピンチはないと思って、現状のチャンスを生かしてほしいです。
- 興味深いお話をありがとうございました。最後に、キャディとは別にご自身に課しているミッションあるいはビジョンがあれば教えてください。
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キャディのミッションは「製造業のポテンシャルを解放する」ですが、僕個人では「他者のポテンシャルを解放する」というミッションに取り組んでいきたいと考えています。
きちんと説明すると長くなってしまうのですが、人がもともと備えているポテンシャルと実際に発揮できている強みにはかなり差分がある。中には環境要因によって、ポテンシャルに気づいていない人もたくさんいると思うんです。
たとえば、ある町工場で働いていて、最初に請け負ったのが自動車の部品だったとします。そこからずっと自動車部品を作ってると、自然と「自分の強みは自動車」と思い込んでしまいがちじゃないですか。でも、本当は自分自身も気付いていないような、すごい強みがあるかもしれない。そういう高いポテンシャルを持っている人がきちんと評価されて、きちんと成長できるような環境を作っていきたいんです。
僕にとっては、学歴とか経済状況じゃなくて、ポテンシャルで評価される世界が理想。そこに向けて、引き続き「桁外れな目標」を追っていきたいと思っています。
- 加藤 勇志郎(かとう ゆうしろう)
- 1991年生まれ。東京大学経済学部在学中から起業家として活躍し、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社後は、史上最年少でマネージャーに就任。製造メーカーを支援するプロジェクトに携わった経験から、2017年にキャディを創業。2019年には「30 UNDER 30 JAPAN 2019(主催:Forbes JAPAN)」エンタープライズ・ビジネス アントレプレナー部門を受賞。