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2020.09.10 NEW

「投資は物語への参加料」家入一真の教養の深め方/世界を知るために投資しよう#1

「投資は物語への参加料」家入一真の教養の深め方/世界を知るために投資しよう#1のイメージ

CAMPFIRE代表取締役 家入一真

「儲けたい」「老後の資金を確保したい」「日々を充実させたい」――。投資を始めるきっかけは人それぞれで、正解なんてない。でも、どうせなら投資を通して自分を成長させてほしい。

この連載「〈儲けるため〉ではなく〈世界を知るため〉に投資しよう」では、投資ってこんなもの、という枠を壊し、「教養を深め、視野を広げるための投資」を提案する。

第1回目は、いじめからの引きこもりという経験を経て、「JASDAQ市場に最年少上場」を果たし、現在は、クラウドファンディングを生業とするCAMPFIREの代表取締役である家入一真に話を聞いた。

「投資って面白い物語への参加料なんですよ」と語る家入の哲学とは?

投資するときに重視するのは才能や向上心じゃない

個人ブログがブームを迎えていた2001年、当時22歳の家入は地元・福岡で、周囲に同世代の起業家や先駆者がいないなか、レンタルサーバサービスpaperboy&co.(現GMOペパボ)を起業。経営のノウハウもなく全てが手探りだったという家入は、「先輩の知見やアドバイスが何より欲しかった」と振り返る。この原体験は、今でも投資の一番の動機となっている。

「起業家には器用に何でもこなすタイプもいれば、なかなか周囲の共感を得られず、最初の一歩を踏み出せないタイプもいます。私は後者の気持ちが痛いほど分かるので、投資やアドバイスを通して応援するんです」

また家入は「投資する際、真っ先にリターンは求めていない」と語る。リターンありきで投資するのではなく、投資先が上場やM&Aを経て成長した暁に発生したリターンで得た資金を使い、さらに多くの投資をして企業の新陳代謝を促すエコシステムをつくっているのだ。シリコンバレーでは既にこのエコシステムが定着しているが、家入は日本におけるITベンチャーの歴史と照らし合わせると、「日本はまだ二巡目くらい」と話す。

こうしたエコシステムを担う投資相手を選ぶ基準を尋ねると「私が見るのは、人です」と答える。意外にも、投資をする際に彼が注目するのは向上心や才能ではない、ネガティブな感情も含めた強さだ。

「立派な事業計画をプレゼンしてもらっても、計画通りうまくいくことはまずありません。私が見るのは困難にぶつかっても、打席に立ち続けられる人かどうか」

いまや年齢を問わずカジュアルに起業できてしまう時代。チャンスに恵まれ「最初の打席でいきなりホームランが打てる人」もいるだろう。だからこそ、投資家として家入が注目するのは、たとえ何回三振しても打席に立ち続けられる「精神力」なのだ。

「モチベーションは何だっていい。時に人の根底にある怒りや劣等感は無尽蔵のエネルギー源になる。少なくとも打席に立たない限り、結果は得られません。何が起きても続けられそうな人は、応援したいと思いますね」

家入 一真のイメージ 対面での取材は4カ月ぶりだと話す家入

自分のお金で、自分の世界を広げていく

アートにも関心がある家入は、よく若手作家の作品を購入しているという。クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」を運営するCAMPFIREのオフィスにはあちこちに作品が展示されており、家入は「値上がりを期待して買っているわけじゃないんですけど」と苦笑しながら、自分が注目している作家がいかに魅力的か嬉々として聞かせてくれた。これも立派な投資のかたちである。

家入は「スタートアップの面白さは、関われる余地があること」と持論を展開する。まだ世に出ていない人や作品、プロジェクトを信じて応援する。相手が悩んでいる時にアドバイスしてコミュニケーションをとり、自分が関わることで活動が継続されていく。こうした他では得難い体験を、家入は「物語への参加」と表現した。

「私にとって投資は、誰かの物語に参加する感覚なんですよね。この人が描く未来はどうなっていくんだろうって。投資を通じて、物語への参加料を払っている感じです。もちろん、『自分ごととしての投資』を通して自身の教養にも幅と深さが出てきます。つまり、新しいつながりが生まれて、そこから世界が広がっていくんですよね。

日本では、皆が良いといっているものが良いという価値観になりがちですが、少し勇気を出して自分が信じたものにお金を投じて世界が広がることがあります。絵を買うこと、クラウドファンディングで購入することもそうだし、最近ではロボットアドバイザーを使って少額からの投資もできます。すると毎日ニュースをチェックして勉強するようになり、興味がさらに広がっていきます。

人によってやり方が違うと思うけど、僕の場合は、興味があることに投資した方が良いと思います。自分が信じて応援したことの価値が上がることに関われる余地があるのは素晴らしいことではないでしょうか」

次の時代は“目に見えないもの”がキーワードに

自身が投資した世代が成功を収めたいま、さらにその下の世代がいかに時代を変えていくか――。家入は人への興味が尽きない。そんな彼がいま注目している領域について尋ねてみた。「Withコロナ、アフターコロナという安易な言葉はあまり使いたくないのですが……」と言葉を選びながらも、昨今のコロナ禍と心境の変化は切り離せないようだった。

偶然にも緊急事態宣言が発令される直前に福岡に帰省していた家入。コロナにより生活は一変、家族が不安に苛(さいな)まれる様子を目の当たりにし大きなショックを受けた。一方で事態を冷静に観察し、興味を引いたのは「目に見えないものの存在」だった。

「最近の若者は『物欲が無い世代』と言われていますが、お金や地位など、何を持って成功とするかは世代によって違います。そして震災や9・11同時多発テロも経験してきた私たちは、確固たる価値はなく『モノは壊れる』ということに気づきました。これからは目に見えないものと付き合っていく、“目に見えない、物質によらない力”が増す時代だと考えています。
メンタルヘルスやマインドフルネス、カウンセリングや心理学といった『心の領域』が次の時代のキーワードではないでしょうか。個人的に、もともと哲学や仏教に興味を持っていましたが、今後は『心』と『経済』をかけあわせた分野への投資、興味・関心がますます強くなっていくでしょうね」

自分の感性を信じて、主体的に世界と関わる

家入が考える新たな投資にも、やはり人の心の動きがあった。最後に「投資を始めたいと考える人は何から始めれば?」と尋ねると、かなり悩んだ後に「自分の中から見つけるしかない」とこぼした。投資に「金融商品でいかに儲けるか」というイメージを持つ人は多いかもしれない。しかし実際には投資の領域は幅広く、0か100かの損得で割り切れないグラデーションになっている。またESG投資のような社会を壊さない投資をはじめ、自分の投資に自分で責任を持つ、ふるさと納税やマイクロファイナンスなども例にあげつつ「ちょっとだけ儲けたい、も全然あり」と家入は軽やかに話す。

「投資を始めてみたいという人は、スマホでの少額投資をはじめたり、例えば小さなギャラリーや作家展に行って買ってみたりと、興味をもって、500円とか1000円……小さくてもいいからお金を出してみるのが一番です。重要なのは、自分の感性を信じること。『みんなが評価しているから』ではなく、自分が心から惹かれたものに勇気を出してお金を出してみることから始めてみてはいかがでしょう」

また、家入は「本屋さんが好きなんです。なぜならネットの買い物と違い、ふと目にしたタイトルや表紙から感じたインスピレーションに身を委ねて、一冊を選びとれるから」と話す。ネットの普及に伴い、自分を取り巻く環境が最適化され便利で快適になる一方で、範疇外にある新しいものに出会えなくなっていく。「主体的に取りにいかないとダメな時代になっていく」から地方都市にも頻繁に足を運び、今もなお、様々な世界を知ろうとしている。

「やってみた結果、やっぱり興味なかったってことはありますよ。でも何度も挑戦して、新しい世界に関わり続けることが、私の考える投資です」

家入 一真(いえいり かずま)
2003年株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)創業、2008年JASDAQ市場最年少で上場。2011年クラウドファンディングサービス運営の株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役に就任。2012年Eコマースプラットフォーム運営のBASE株式会社を設立、共同創業取締役に就任、2019年東証マザーズ上場。その他ベンチャーキャピタル「NOW」代表、オンラインカウンセリングサービス運営の株式会社cotree顧問などを務める。
文=伊藤七ゑ 写真=吉澤健太
「Forbes JAPAN web」2020.9.10 配信記事より転載

※本記事(もしくは本コラム)は家入氏個人の見解にもとづくものであり、当社の見解ではございません。

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