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2018.01.11 NEW

【サイキングアップ:前編】メントレ界隈の注目ワード。これでゾーンを使いこなせ!

【サイキングアップ:前編】メントレ界隈の注目ワード。これでゾーンを使いこなせ!のイメージ

サイキングアップとは別名「エネルギーコントロール」。スポーツ心理学の第一人者、高妻教授にそのコントロール手法について聞いてみた。

大事な場面で、気持ちをコントロールできていますか?

重役を前にした社内プレゼンテーションやライバル企業が参加する負けられない競合プレゼンテーション…。ミドルリーダー層も多いEL BORDEの読者なら、すでに何度も「失敗が許されないビジネスシーン」に出くわしていることだろう。

「失敗が許されない」となれば、当然緊張がつきまとう。人によっては、極度の緊張から胃痛に悩まされることもあるかもしれないし、「自分はあまり緊張しないタイプ」と思っている人だって、大事な場面で常に冷静でいられるとは限らない。
「ここぞ」の場面で100%のパフォーマンスを発揮し、望ましい結果を得るために必要なのは、やはり自分の気持ちをしっかりとコントロールすること。

今回は、30年以上にわたってスポーツ心理学の研究に携わり、メンタルトレーニングの面で数多くのトップアスリートを支えてきた、東海大学の高妻容一教授のもとを訪問。
トップアスリートも実践している「自分本来の力をしっかりと引き出すためのメンタルコントロール」について聞いた内容を、前後編でお伝えする。

鎮めた気持ちを高める、「サイキングアップ」のすすめ

昨今はマインドフルネスをはじめ、緊張を解きほぐすリラクセーションの話をよく耳にするが、緊張を解きほぐせれば、万事うまくいくのだろうか? その答えは「NO」だ。

もちろん、リラックスすること自体は悪いことではないが、リラックスする“だけ”で、本番で100%の力が発揮できるわけではない。気持ちをリラックス(=安定)させたら、次に徐々に気持ちを上げていき、本番で「最適に動ける状態」まで高めておく――。
高妻教授いわく「その過程を踏んでこそ、自分本来の力が引き出せる」のだという。そして、そうした気持ちのコントロールを実践するために用いられているのが、「サイキングアップ」だ。

サイキングアップとは、別名「エネルギーコントロール」とも言われるメンタルトレーニングの工程。高妻教授によると、リラクセーションとサイキングアップは表裏一体、二つで1セットと考えるべき工程で、両方を行うことが重要なのだという。

「スポーツ心理学では、本番前にリラクセーションとサイキングアップの両方を使って、心と体が動きやすい状態へと引き上げることをよしと考えています。わかりやすく言えば、“ゾーン”だったり“火事場の馬鹿力”などと呼ばれる状態ですね。もちろん、本番で最も力が引き出せる状態(当人にとっての理想的な心理状態)になるためには、日頃から地道なメンタルトレーニングを行う必要があります」

図1:リラクセーションとサイキングアップ、ゾーンに関する説明図

図1:リラクセーションとサイキングアップ、ゾーンに関する説明図

メンタルトレーニングは、専門用語で「心理的スキルトレーニング」とも呼ばれている。要は心のトレーニングのことだが、昨今ではこの「心理的スキルトレーニング」が、競技力の向上だけにとどまらず、日常生活やビジネスシーンにも応用できることが証明されている。

「スポーツの現場だと、よく“心技体”について問われることが多いですよね。ですが実際のところ、技や体のトレーニングは集中的に行われているものの、心のトレーニングはほとんど行われていないのが実情。ましてや日常で心を鍛える機会はなかなかない。でも、心だって継続的なトレーニングで“鍛えてあげれば、本番で力を発揮しやすい状況を作り出せるようになるんです」

毎日やり続けることが、「心理的スキル」を身につけるコツ

あらためて注意したいのは、リラクセーションだけでは効果が半減するのと同じように、サイキングアップだけを取り入れても効果が見込みづらいこと。そして、一連の流れを踏まえた「心理的スキル」は、本番前の一日、二日程度やってみたところで、即座に効果が表れないことだ。

「心理的スキルを身につけるには、毎日続けていくことが大事なステップ。トップアスリートが日々過酷な鍛錬を続けても、なかなか思うような結果が出ないように、心のトレーニングも継続性によって、自分自身が緊張しない状態、モチベーションが上がる状態、そしてゾーンとなる状態が理解できるようになり、意識的に呼び起こしやすくなります」

例えば、「呼吸」もそのひとつ。心理的スキルを身につけていくと、呼吸が大きく変わるといわれているが、リラックス状態での落ち着いた呼吸、サイキングアップを通じて徐々に動的な状態へと上げていく呼吸と、状況に応じた最適な呼吸や心拍の状態が確保できるようになると、ゾーンに突入しやすくなるのだ。

そして近年は、スポーツチームやトップアスリートが、こうしたメンタルトレーニングを取り入れるケースが増えているという。

「NHKのテレビ番組『アスリートの魂』で公表されていましたが、元大関の琴奨菊関はメンタルトレーニングを導入して、結果を引き出せた一人です。2016年1月の初場所では、10年ぶりの日本人力士の優勝として、当時の角界の話題をさらいました。土俵上では仕切りの際に、体全体を使いながら上半身を反らしたような、大きな伸びをする”琴バウアー”を行いますが、あの原型は“あくび”です。立ち会いの前、気持ちを切り替えるためのルーティンとしてあれをやるようになって、見事に実を結びました。決まった所作が余計な雑念を消して、集中力を高める助けになったのです」
ちなみにあくびは、スポーツ心理学において「気持ちの切り替え」に非常に有効な手段とされている。

まずは、沈んだ心の状態を高めていくサイキングアップから

メンタルトレーニングへの理解が徐々に浸透してきたことで、最近は「スポーツの現場にとどまらず、多数の企業からの問い合わせも多い」とか。人事課による社内啓発やセミナー、講義などを通じて、社員の心のあり方を安定させつつ生産性の向上につなげたい狙いからだ。

ここからは、高妻教授がビジネスの現場向けに紹介しているという、「適度に体を動かしながら、沈んだ心の状態を高めていく」ためのサイキングアップのやり方を解説していこう。

【一人でもできること】

軽快な音楽に合わせて、身体を動かしていく

【一人でもできること】軽快な音楽に合わせて、身体を動かしていく

リズムに合わせて前後、左右にジャンプしたり腰を振りながら、呼吸や心拍数を上げていく。

【二人一組での実施が可能な場合】

肩タッチゲーム(互いの肩をタッチし合う) 肩タッチゲーム(互いの肩をタッチし合う)
プッシュゲーム(直立の姿勢から、両手のひら同士で押し合う) プッシュゲーム(直立の姿勢から、両手のひら同士で押し合う)

じゃんけんとあっち向いてホイ(勝ったら本気で喜び、負けたら本気で悔しがる)

じゃんけんとあっち向いてホイ(勝ったら本気で喜び、負けたら本気で悔しがる)

それぞれを10秒程度を目安に次々と行う。気持ちを盛り上げながら心拍数を上げつつ、集中力を高めていく。一人の場合は、シャドーボクシングのような動作で代用する。

最後は、パートナーや周りの人たちとハイタッチ(みんなで「ほい、ほい、ほい」など、陽気に声を掛け合い、チームワークを高める)

最後は、パートナーや周りの人たちとハイタッチ(みんなで「ほい、ほい、ほい」など、陽気に声を掛け合い、チームワークを高める)

一人の場合でも、自らに投げかける言葉を出しながら伸び、ストレッチなどをして、「気持ちの切り替え」を行う。

ビジネスパーソンの日常に、サイキングアップを取り入れるには?

ただし、一般的な会社で上記の体操を行うのは、少々ハードルが高い(仕事中にやると、周りの迷惑になりかねない)。次に、日常生活で手軽に導入しやすい、以下のアクションを紹介しよう。

  1. 起床後にリラックスできる音楽、朝出かける前に「気持ちが上がる」音楽を聞く
  2. 駅までの道のりを、寄り道しながら意識的に歩く(よく動くようにする)
  3. 職場での業務の合間に、人に見られない場所であくびをする
  4. 印象的な業務の場面について、その前後を含めて起こった出来事や自分の心境について、書き留めておく(ビジネス日誌)

1は、自分の好きな音楽なら何でもいい。リズムに乗ることが大事なので、歌詞に引きずられるような音楽は避けたほうがいいかもしれない。

2の理想は朝食前の散歩で、体を動かして空腹状態を作っておいしく朝食を摂ること。
普段の通勤前に難しい人は、通勤中の動作をトレーニングに変える工夫を行うとよさそうだ(早めに家を出て、遠回りしながら歩き、駅で朝食を摂る、etc…)。

3は、本当にあくびをしないまでも、席を外して人のいない場所で声を出しながら伸びをすると、リフレッシュしやすい。
意識的な「気持ちの切り替え」は、それ以降の集中力を高め、行動の質を上げることにもつながるだろう。

4は、本格的に日誌をつけることが難しくても、起きたことや感じたことをメモで残しておくといい。
スポーツの世界には、日々の練習日誌を書き留めている選手も多いが、スポーツ心理学の立場からも、それはとても意味のあることだという。

「スポーツにおける練習日誌は、主にイメージトレーニングや指導者とのコミュニケーションの一環で行いますが、日々の練習内容やその時の気持ちの変化を記録しておけば、ゾーンの発見にも役立つ。自分が“どういう心境”で、“どのような動き”をしているとうまくいきやすいか、といった傾向が見えてくるからです」(高妻教授)

こうした気づきは意識していない限り、見過ごしがち。練習日誌のビジネスバージョンを実行し、せめてメモを残すようにするだけでも、後から振り返る際に当時気づかなかった、“心の落ち着きにつながるツボ”が見つけやすくなるだろう。

明るく元気よく、ポジティブに。こうしたプラスの心理状態でいられるメリットは、何となくわかっていても、いきなりやったところでうまくいかない。
あらかじめ意識的に取り入れ、状況に応じた心のあり方を、日頃のトレーニングでつかんでおくこと。それが、厳しい現場に直面しても動揺せず、高いモチベーションを保った最適なメンタルの状態で臨めるようになるポイントなのだ。

後編では、「プレゼンテーション」や「商談」といったビジネスシーンに、どのように活かしていけばいいのかについて解説する。

監修:高妻 容一(こうづま よういち)

東海大学体育学部教授。スポーツメンタルトレーニング上級指導士。国際応用スポーツ心理学会、日本スポーツ心理学会など多数の学会に所属し、Sport Psychology Council(世界各国のスポーツ心理学の代表者組織)委員、東海大学メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会の代表としても活動する傍ら、現場での指導者として数多くのプロスポーツチームや企業でメンタル面強化のアドバイザーとして参画する。

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