2019.01.17 NEW
【WBS特集:前編】プロジェクトを成功に導け! 外資系コンサルに学ぶWBS作成術
「このプロジェクト、君に任せてもいい?」
新商品の開発や新サービスの発表会運営、また社内の働き方改革に向けた施策など、企業で働いていれば毎日のルーチンワークとは別に突然、期限とミッションを定められた「プロジェクト」を任せられることがある。
そういったとき、プロジェクトを仕切った経験がなければ、「何から始めていいか分からない」と頭を抱えてしまうもの。決められた期限内でプロジェクトを成功させるためには、どのようなスキルが必要になるのだろうか。
外資系コンサルティングファーム出身で、数多くの企業でプロジェクト支援に携わってきた清水久三子さんに聞いた。
ガントチャートだけでは不十分
清水さんは、新卒で入った会社でSEを経験後、外資系コンサルティングファームに転職。そこで、はじめてプロジェクトの成果を最大限に高める「プロジェクトマネジメント(プロマネ)」の手法を学んだ。
数あるプロマネスキルの中でも、外資系コンサルティングファームでまず最初に教え込まれたのが、「WBS」の作成スキルだったという。
WBSとは「Work Breakdown Structure」の略称で、プロジェクトを必要な作業(Work)に切り分けて(Breakdown)、それを構造化(Structure)した図のことを指す(図1)。

「プロジェクトの遂行に必要な作業を洗い出し、大きな塊に分けて、最初にやるべき作業、次に取り組む作業というように、作業を“階層化”して優先順位をつけていきます」と清水さん。
もちろん日本企業でも、ガントチャートを作成するなど、プロジェクトを個別の作業に分けてから取り組むことは珍しくない。しかし、ガントチャートを作成する前にはWBSの作成が不可欠であるという。
「ガントチャートも日程管理には必要です。しかし効率的なガントチャートを作成するためには、それ以前にプロジェクトの全体を見通した上で、それぞれの作業の前後関係や、日程的な優先順位、重要度などを把握し、整理する必要があります。そのためにはWBSの作成が不可欠なのです」というのだ。
「WBSを作成していれば、重要度が高くない作業に時間をかけすぎてしまうといったような事態を避けることができますし、日程的な優先順位が把握できていれば、ある作業の遅れが全体の遅延に繋がる、いわゆるボトルネック化する可能性がある作業の存在にもあらかじめ気づくことができるのです」
作業を「レベル別」に切り出す
では、簡単な例をもとに見ていこう。以下は、とある新製品の展示会を行うというプロジェクトを任せられた場合におけるWBSの例である(図2)。

図の一番上位にあるのが、今回のプロジェクトの最終的な目的である「展示会」だ。そしてその下に、このプロジェクトを構成する一つ一つの作業を切り分けた上で、階層的に配置されている。
たとえば展示会の開催というプロジェクトの場合には、必要な作業は「展示計画」「プレゼンテーション」「集客計画」「プロジェクトマネジメント」といったように、大まかに4つほどに切り分けられる。
こうして大まかに切り分けた作業を「レベル1」と位置づけ、その下に、レベル1を達成するために必要な作業を切り分けて「レベル2」として配置し、さらにその下に「レベル3」の作業と続けていく。
予算が大きくて納期が長いような、大きなプロジェクトほど複雑さが増すため、この階層が増えていくイメージだ。
“とりあえず”で始めるのだけはやめよう
新規プロジェクトの場合、“とりあえず”で始めてしまうケースが少なくない。しかし、新規プロジェクトは多くの場合、参加するビジネスパーソンの大半がその分野の未経験者であることが少なくないため、“ぐだぐだ”な状態でプロジェクトが進みがちになる。プロジェクト全体が俯瞰できず、それぞれの作業の優先順位、重要度が把握できていないため、メリハリがない状態になるのだ。
たとえば、ひとつの作業に時間をかけ過ぎてしまったり、前後関係を考えなかったばかりに最後の最後で上司やクライアントの修正依頼が生じてしまったり……。
こうした状況がエスカレートすると、作業量がどんどん膨らみ、非効率な仕事を延々と続ける事態に陥りがち。特に日本企業でよく見られるのが、期限直前に多くの人を投入して、みんなで残業して仕上げるパターン。俗に言う“デスマーチ(死の行進)状態”だ。外資系コンサルティングファームがWBSの作成を徹底するのは、こうした事態を避けるためだという。
「外資系コンサルティングファームではプロジェクト毎に予算が厳格に決められていますので、締め切り前に作業が追いつかず他のチームから人を借りるような事態になれば、プロジェクトに人件費というコストが上乗せされることになる。それで採算が合わなくなれば、“プロマネ失格”の烙印を押されてしまうのです」
もちろん、プロジェクトごとの予算が厳格に決められていなくとも、プロジェクトを進行する以上、デスマーチに陥り、上司からの評価を下げるのは避けたいところ。
ましてやプロジェクトへの参加は、その後のキャリアの幅を広げるチャンスでもある。だからこそ事前のWBS作成を心掛け、失敗のリスクを最大限回避したいものだ。
後編では実際の作業例を見ながら、WBSの具体的な活用方法を学んでいこう。
【お話をお伺いした方】
清水 久三子(しみず くみこ)
国内大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、新規事業戦略立案・展開、人材開発戦略・実行支援などのプロジェクトをリード。2005年より、コンサルティングサービス&SI事業の人材開発部門リーダーを務め、延べ7,000人のコンサルタント・SEを対象とした人材ビジョン策定、育成プログラムの企画・開発・展開を担い、成功事例として多くのメディアに取り上げられる。