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2020.02.10 NEW

地球温暖化で「得する」国がある!? 地理から読み解く時事ニュース

地球温暖化で「得する」国がある!? 地理から読み解く時事ニュースのイメージ

産業、民族、人口、地形など、さまざまな知識を駆使して世界のあり方を読み解く学問、「地理」。前編では、なぜ「地理」がビジネスパーソンの武器となりうるのかについて紹介した。

続く後編では、「地理」の視点を用いた時事ニュースの読み解き方を、『経済は地理から学べ!』(ダイヤモンド社)の著者として知られる代々木ゼミナール地理講師、宮路秀作さんに聞いた。

「EU離脱」は連鎖するか

地理を応用すれば、これまでなんとなく接していた時事ニュースもまた違ったものに見えてくる。たとえばここ数年、世界の耳目を集めつづけているニュースのひとつにイギリスのEU離脱がある。

イギリスの離脱を受けて次に気がかりになるのは、すでに指摘されているように、イギリスの離脱を受けて連鎖が起きるのではないか──EUから離脱する国がほかにも出てくるのではないかということ。地理の観点から、宮路さんは次のように予想する。

「EUから離脱するには、国内の市場規模が大きく、自国だけでやっていける国でなくてはなりません。そうすると、まず考えられるのはEUで“一人勝ち”とされるドイツです。しかし、ドイツがEUから離脱することはないでしょう。なぜかというと、EUにユーロが導入されて以降、ユーロ圏内向けには為替変動リスクがゼロになる、ユーロ圏外向けには、南欧の経済状況がそれほど良くない国のおかげでユーロ高にならない、という2つの要因がドイツの輸出と貿易黒字を押し上げたことは周知の事実だからです」

そうしたドイツの輸出事情には、地理的な要因が大きく影響していると宮路さんは続ける。

「ドイツはEUの中心に位置しています。EU域内への輸出が他地域を圧倒して多いことを考えると、ドイツはこうした地理的なメリットを享受しているはず。そしてなにより、工業大国のドイツには、隣国であるオランダとの関係が不可欠です。

オランダのロッテルダムにはヨーロッパ最大の港であるユーロポートがあります。いわばヨーロッパの玄関口で、ロシアなどから運ばれてきた原油はここで石油化学工業の原燃料となり、ライン川を使ってドイツへ輸出されます(図1)。だからドイツにはオランダを従えておく必要がある。

図1:ライン川とオランダ

図1:ライン川とオランダ

逆にいえば、オランダは世界中から集まった資源や物を無関税で最大の市場であるドイツへ輸出できるわけで、その意味ではオランダのEU離脱もないでしょう。ほかに自立できそうな国としてはフランスやイタリアがありますが、ともに観光大国なので、人的移動が自由だというEUのメリットを手放すとは思えない。そう考えると、地理の観点からはイギリスのほかにEUを離脱しそうな国は見当たりませんね」

地理的に考えれば、EU離脱の連鎖はいまのところ起きないだろうと予測する宮路さん。

あくまで予想ではあるものの、地理的な背景を理解することができていれば、このようにニュースの深読み、そしてその先読みをすることが可能になるのだ。

地球温暖化で「得する」国はどこか

「地理」によるニュースの深読みは、EU離脱のような政治的な報道に限った話ではない。

たとえば宮路さんは、近年注目が高まる「地球温暖化による北極の温度上昇」というニュースに触れるたび、ノルウェーを連想するという。

「北極の温度上昇による海氷の減少は深刻な環境問題です。でも、温暖化によって思いがけず利する国もあるかもしれないと思っていて、それはノルウェーではないかと。というのも、ノルウェーってじつは資源大国なんです。輸出品目の1位は原油、2位は天然ガス、3位は魚介類です。

1969年にエコフィスク油田の採掘に成功し、現在の原油生産量は8802万トンと世界第15位、天然ガスの生産量は1171億5200万立方メートルと世界第7位。アイスランドと同じく地形の高低差を生かした水力発電が盛んで、水力発電による電気は国内エネルギーの96%を占めます。しかも人口が約500万人と少ないものだから、余った原油や天然ガスをたっぷり輸出できる」

ではなぜ、北極の温度上昇がノルウェーの輸出産業にとってメリットになりうるのか。

「現状、資源を船でノルウェーから東アジアへ運ぶには、大西洋から地中海を経て、紅海、インド洋に至る『スエズ運河航路』が一般的です。しかしメルカトル図法の地図で見ると、じつは東アジアへはロシアの北極海沿岸を通る『北極海航路』のほうが圧倒的に近い(図2)。ということは、今後、北極圏の氷が溶けて安全なルートが確立されるのを望んでいる人がいてもおかしくない──不謹慎だと知りつつ、日々地理にどっぷり浸かっていると、ついそんな考えが頭をよぎってしまいます(笑)」

図2:スエズ運河航路と北極海航路

図2:スエズ運河航路と北極海航路

地球温暖化は歓迎できることではないが、宮路さんの考えは決して荒唐無稽なものではないだろう。

地理の素養があれば、「北極の温度上昇」と聞いただけで北欧から東アジアへの航路を思い浮かべることができる。このようなユニークな視点は、つねに革新的なアイデアが求められているビジネスパーソンにとっての大きな武器になるはずだ。

地理とは、地球の理(ことわり)を知る学問

以上、「地理」的な視点がニュースの深読みに役立つということを、事例をもとに紹介した。

結局のところ、地理とはなんなのか。宮路さんは次のようにまとめてくれた。

「この国の産業はなにかとか、人口はどれだけかとか、地理的な特徴はなにかといったことは、目に見える事実でしかありません。しかし単純に、そうした事実を知ることはとても重要です。さまざまな事実の集まり──地理の積み重ねが歴史だと考えれば、いま目の前にある地理は、歴史の最新のページです。われわれはそれをベースに未来を読むこともできる。地理とは、地球の理(ことわり)を知る学問である。僕はそう思っています」

宮路さんによると、人口規模や鉱産資源の埋蔵の有無、そして地の利などを捉えることが重要。いま人口5000万を超える国は世界に24カ国あるとのことなので、まずはそれらの国々を調べることから「地理」の世界へ足を踏み入れてはいかがだろうか。世界の新たな見え方が得られれば、それがあなたのビジネスになにかしらのヒントをもたらしてくれるはずだ。

【お話をお伺いした方】
宮路 秀作(みやじ しゅうさく)
代々木ゼミナール講師。「東大地理」「センター地理」などの講座を担当する。「地理」を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義が人気を博し、「代ゼミの地理の顔」に。2017年に刊行した書籍『経済は地理から学べ!』(ダイヤモンド社)が10万部に迫るヒットを記録したほか、地理学の普及・啓発に貢献したと認められ、2017年度日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。その他の著作に『中学校の地理が1冊でしっかりわかる本』(かんき出版)、『目からウロコの なるほど地理講義 系統地理編』(学研プラス)などがある。

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