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基礎から学べる行動ファイナンス 第14回「デフォルトの活用」

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野村證券金融工学研究センターの大庭昭彦が投資や資産運用の際に人が陥りがちな「バイアス」に関して解説する「基礎から学べる行動ファイナンス」シリーズ。今回は「デフォルト」の選択肢と、人が持つ「デフォルトを選びやすい」といったバイアスについて考察します。

「デフォルト」とは何か?

いくつかの選択肢がある時、何も選ばない時に自動的に選択される特別な選択肢を「デフォルト」の選択肢と言います。人にはデフォルトの選択肢を選びやすいといったバイアスがあるので、主に民間企業のネット販売やネット配信サービスのインターフェースで使われているのをよく目にするところです。

また、このバイアスを公的機関が善用して、結果的に人々を合理的な選択に導くといったことも行われています。

例えば確定拠出年金(DC)の運用先で、何も選択しなかった場合、自動的に適用される「デフォルトファンド」があります。

米国のDCでは、あらかじめ平均的な個人に対して適切と判断される商品(多くの場合、退職のタイミングをターゲットデートに定めたファンド)がデフォルトファンドとして使われることが多く、個人の長期分散投資の促進や、金融資産額の拡大に貢献してきました。

「決定麻痺」避ける効果も

また、どの金融商品を選べばよいかわからない時、非合理な形で選択を先延ばしにしてしまう「決定麻痺」のバイアスを避ける効果も期待できます。

日本でも2016年の確定拠出年金法の改正によって導入された「指定運用方法」は、合理的にデフォルトファンドを指定する場合にも利用できると考えられ、今後、その進展が期待されています。

DCへの加入を直接的に促す上で成功している事例が、英国の「自動加入制度」です。「加入するか」「加入しないか」の選択肢があり、デフォルトの状態を「加入する」に設定しておけるという制度です。

この制度があると、まず加入するかしないかを決める際に、加入しないままでいるという、良くない決定麻痺バイアスを避けることができるでしょう。また、退職などのタイミングで加入し続けるかどうかを迫られた時には、あえて「脱退する」という意思決定は難しいものです。英国ではこの制度の効果を背景に、DC加入率が大きく上昇しています。

【大庭 昭彦】

野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。

本稿は、野村證券株式会社社員の研究結果をまとめたものであり、投資勧誘を目的として作成したものではございません。2024年1月現在の情報に基づいております。

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