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基礎から学べる行動ファイナンス 第8回 「フレーミング効果とリフレーム」

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野村證券金融工学研究センターの大庭昭彦が投資や資産運用の際に人が陥りがちな「バイアス」に関して解説する「基礎から学べる行動ファイナンス」シリーズ。第8回は同じことでも見方(フレーム)によって評価や判断が変わる「フレーミング効果」を前提とした行動コントロールの技術「リフレーム」ついて取り上げます。

「フレーミング効果」と「リフレーム」

心理学用語の「フレーミング効果」とは、「同じことでも見方(フレーム)によって評価や判断が変わること」をいいます。

例えばコップに水が半分入っているのを見た時に、水が「半分も入っている」という肯定的なフレームと、「半分しか入っていない」という否定的なフレームがあります。同じ物を見ているのに、水の量に対する評価が逆になるのです。

今回紹介する「リフレーム」は、このフレーミング効果を前提とした行動コントロールの技術です。

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同じことを聞いているのに、結果が違う…

フレーミング効果とお金の判断について、米国で行われた実験の例を挙げてみます(※)。そこでは、3000人弱の回答者を性別・年齢の分布が同じになるように2グループに分けて別々の質問をしました。

一つ目のグループに、「収入の20%を貯金できますか?」と尋ねると、YESと答えた人が50%、NOが50%でした。

一方、「収入の80%で生活できますか?」と尋ねると、YESが80%、NOが20%だったのです。

2つの尋ね方は、それぞれ「将来のために消費を20%も減らす」という短期的・否定的なフレームと「将来のことを考えてもまだ80%も消費できる」という長期的・肯定的なフレームに対応しており、肯定的な(つまり、プラス思考の)フレームの方がYESを答えやすいということです。

合理的に保有株を選べる?

この考え方を応用して、問題のある方向にいったん固定されたフレームを、別のより良いフレームに変更することを「リフレーム」と呼びます。

例えば本連載第4回「高値覚えと塩漬け株」の中で、評価益の出ている株Aに対して評価損の出ている株Bは売りにくいという事例を紹介しました。

これは、「両方持っている状態からどちらを売るか」ではなく「両方持っていないとしたらどちらを買うか」という問題にリフレームするというアイデアがあります。新しいフレームでは、合理的に保有したい株の方を選ぶことができるでしょう。

「リフレーム」単独でうまくいかないこともあります。例えば、「双曲割引バイアス」では、自然に任せると人は「長期」より「短期」を重視しやすく、20年間は使わないつもりの余裕資金の投資であっても、毎日の損益に一喜一憂してしまうのです。これを防ぐには、短期から長期への「期間のリフレーム」ができるとよさそうです。

長期目的なら、翌日などよりも20年後の投資成果を考えることができれば、問題は減らせるはずです。しかし、「双曲割引バイアス」の力は強く、この解説を聞いてすぐに短期から長期に切り替えられる人はめったにいません。

このリフレームの実践のためには他にも工夫が必要で、最も良く併用される技術が次回説明する予定の「コミットメント」です。

  • 2016年「ゴールベース資産管理入門:顧客志向の新たなアプローチ」(チャック・ウィジャー他、日本経済新聞出版)273頁記載の例参照

(KINZAI Financial Plan 2023年8月号掲載の記事を再編集したものです)

本稿は、野村證券株式会社社員の研究結果をまとめたものであり、投資勧誘を目的として作成したものではございません。2023年5月現在の情報に基づいております。

大庭 昭彦

野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。

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