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基礎から学べる行動ファイナンス 第9回 ―自分の未来にも約束させる―

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野村證券金融工学研究センターの大庭昭彦が投資や資産運用の際に人が陥りがちな「バイアス」に関して解説する「基礎から学べる行動ファイナンス」シリーズ。第9回は自分の将来に制約をかける「コミットメント」について解説します。

将来の行動に制約をかける「コミットメント」

一般に「コミットメント」という言葉には「委託」や「関与」「公約」「責任」「参加」など多くの意味があります。この「コミットメント」、心理的な行動コントロールに関する用語としては「自分の将来の行動に制約をかけること」を指します。

熟慮して決めたはずの目標を、途中で変えたり先延ばししたりすることは、自然に任せると起こりがちな問題行動ですが、「コミットメント」はこれを防ぐために有効な場合が多いといえます。

米国の行動ファイナンスや投資アドバイザーのテキストで、よく「コミットメント」の説明の例として持ち出されるのが、ギリシャ神話の英雄オデュッセウスです。彼は歌声で人を誘う海の怪物・セイレーンから身を守るために、船のマストに自分を縛り付けたといわれています。

投資とは直接関係はありませんが、ダイエットや禁酒・禁煙のために、自分の近くに菓子や酒、たばこなど制限の対象となるものを置かないだけでなく、もし約束を破ったら自分に罰を与えるルールを作り、家族や親しい友人に証人になってもらうよう決めておくのも一種の「コミットメント」と言えます。

「投資方針書」や「自動化」

コミットメントで使われる仕組み、ツールのことを「コミットメントデバイス」といいますが、投資におけるコミットメントでその典型といえるのが「投資方針書」です(※)。

投資方針書とは、投資の目的・目標や基本の資産配分、銘柄選択、モニタリング・リバランスの方法などを、あらかじめ文書にして投資アドバイザーと共有するためのものです。

この投資方針書に、相場が大きく動いた時の合理的な行動に取るべき行動について(例えば「ウエートが基本の資産配分から10%以上乖離するまでは何もしない、超えた時には基本の資産配分まで戻す」など)を事前に取り決めておけば、実際に株式市場が急落した際に、株式の「投げ売り」など、バイアスのかかった極端な行動を防ぐのに役立ちます。

もっとシンプルなコミットの方法に「自動化」があります。例えば、積立投資は「毎月決まった商品を決まった金額だけ買い続ける」ということを事前に決めておく、つまり投資を自動化する仕組みです。

購入のたびに買うかどうかを判断する必要がないため、バイアスが入ることもありません。実質的に積立投資と同じ仕組みで投資信託などを積み立てる確定拠出年金(DC)も自動化された仕組みといえます。

バイアス排除を期待する商品も

「自動化」によるコミットの別の例としては、典型的な積立投資で使われる「同じ金額だけ定期的に買い続ける」というドルコスト平均法は「下がった時にたくさん買える」という特殊な「フレーミング」(第8回参照)と併用され、多くの人に好まれています。

米国でDC向けの商品としてオーソドックスなターゲットデートファンドは、あらかじめ決められたタイミングで目標リスク資産比率を自動的に変更する投資信託ですが、ある意味、自動化によるバイアスの排除も期待している商品ともいえるでしょう。

(※)2022年7月「投資教育と投資推進に関する研究の新展開」(大庭昭彦、証券アナリストジャーナル)

(KINZAI Financial Plan 2023年9月号掲載の記事を再編集したものです)

【大庭 昭彦】

野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。

本稿は、野村證券株式会社社員の研究結果をまとめたものであり、投資勧誘を目的として作成したものではございません。2023年9月現在の情報に基づいております。

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