教えて津田先生!DC加入者が知っておきたいアレコレ 第8回「改めて考える 確定拠出年金(DC)のメリット・デメリット」

確定拠出年金(DC)は、老後の資産形成に役立つ制度の一つです。
掛金を拠出するとき、運用している間、年金や一時金として受け取るときのそれぞれで、税制上の優遇を受けられる仕組みがあります。
本コラムでは、企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金(愛称:iDeCo)をまとめて、「DC」と呼びます。
DC制度のメリット
1.掛金を拠出するときの税制優遇
企業型DCのマッチング拠出における加入者掛金や、iDeCoの本人掛金は、原則として全額が「所得控除」の対象になります。所得控除とは、税金を計算する際のもとになる所得から、一定の金額を差し引ける仕組みです。掛金の分だけ税金を計算するもとになる所得が少なくなるため、所得税や住民税の負担が軽くなる可能性があります。

たとえば、毎月1万円、年間12万円を拠出した場合、税金の負担がどの程度軽くなるかを見てみましょう。軽減額は次のとおりです。
| 所得税・住民税の概算税率 | 年間の税負担軽減額 |
|---|---|
| 15% (所得税率5%+住民税率10%) | 約1万8,000円 |
| 20% (所得税率10%+住民税率10%) | 約2万4,000円 |
| 30% (所得税率20%+住民税率10%) | 約3万6,000円 |
上記は、年間掛金12万円に、所得税・住民税の概算税率を掛けた概算です。復興特別所得税は含んでいません。実際の税金の軽減効果は、課税所得や扶養家族の有無、各種所得控除・税額控除などにより異なります。また、所得税率は課税所得に応じて変わります。
一方、同じように毎月1万円をNISA(少額投資非課税制度)で積み立てても、投資した時点で所得税や住民税が軽くなるわけではありません。
掛金を拠出した時点で税制優遇を受けられる点は、DCの大きなメリットの一つです。
2. 運用している間、利益に税金がかからない
通常、預貯金の利息や、株式や投資信託などから得られる配当金や分配金、売却益には、約20%の税金がかかります。一方、DCでは、運用中に得られた利益に原則として税金がかかりません。
たとえば、運用によって10万円の利益が出た場合、通常の課税口座では約2万円が税金として差し引かれ、税引き後の利益は約8万円となりますが、DCでは、運用中の利益に税金がかからないため、税金として差し引かれることなく、利益を含めた金額をそのまま運用に回すことができます。
利益を元手に加えて運用を続けることで、さらに利益が生まれる――これが「複利の効果」です。
たとえば、雪玉を転がすと、雪が少しずつ付いて雪玉は大きくなっていきます。運用期間が長いほど、利益が次の利益を生む効果も大きくなることが期待できます。
3. 受け取るときにも税制優遇がある
DCで積み立てた資産を受け取るときには、原則として税金がかかります。ただし、受け取り方に応じて控除が適用されるため、税負担が軽くなる場合があります。
DCで積み立てた資産は、原則として60歳以降に次のいずれかの方法で受け取ります。
- 一時金として一括で受け取る
- 年金として分割で受け取る
- 一時金と年金を組み合わせて受け取る(併給)
一時金として受け取る場合は、原則として「退職所得控除」が適用されます。退職所得控除とは、退職金などを受け取るときに、一定額を所得から差し引ける仕組みです。
また年金として受け取る場合は、原則として「公的年金等控除」の対象になります。公的年金等控除とは、公的年金やDCの年金などを受け取るときに、一定額を所得から差し引ける仕組みです。
一方、DCは原則として60歳未満では資産を引き出すことができません。そのため、不便に感じることもあると思います。しかし、引き出せないからこそ、日々の生活費や急な出費に「使ってしまう」可能性を抑え、老後のための資産を計画的に準備しやすい面もあります。
老後の資産を、いわば「老後まで開かない貯金箱」に入れるように、半ば強制的に積み立てたい方にとって、DCは有力な選択肢の一つといえます。
DC制度のデメリット
原則として60歳未満では引き出せない
DCの資産は、障害給付や死亡時の給付など一部の例外はありますが、原則として60歳未満では引き出せません。
住宅購入や子どもの教育費、転職に伴う収入の減少、病気など、まとまったお金が必要になった場合でも、DCの資産を使うことはできません。
そのため、企業型DCのマッチング拠出における加入者掛金や、iDeCoの本人掛金は、近い将来に必要となるお金を確保したうえで、無理のない金額に設定することが大切です。たとえば、次のようなお金は、まず預貯金など、必要なときに引き出せる方法で準備しておきましょう。
- 生活費の数か月分に相当するお金
- 子どもの教育費
- 住宅購入資金
- 病気やけがに備えるためのお金など
DCは、いわば「老後まで開かない貯金箱」です。老後のためには役立ちますが、目の前の支出には使えません。老後資金と、近い将来に使うお金を分けて準備することが重要です。
元本割れの可能性がある
DCでは、定期預金などの「元本確保型」以外の商品を選ぶと、市場の動きによっては、運用資産の評価額が、それまでに拠出した掛金の合計額を下回ることがあります。これを「元本割れ」といいます。
特に短期間では、価格が大きく上下することがあります。そのため、商品の値動きの大きさや、損失が出たときにどの程度まで許容できるかを考え、自分に合った資産配分を検討しましょう。
元本確保型の商品だけを選べば、元本割れの可能性は抑えられます。一方で、物価が上昇すると、お金の額面が変わらなくても、購入できるものが少なくなることがあります。
たとえば、100万円で購入できた商品が、物価上昇後には110万円必要になると、預金額が100万円のままでも実質的なお金の価値は下がっています。これがインフレによる資産価値の目減りです。
元本割れを避けることだけを重視すると、物価上昇によって資産の実質的な価値が下がる可能性もあります。長期・積立・分散投資を取り入れ、価格の変動と上手に付き合っていくことも大切です。
税制上のメリットを十分に受けられない人もいる
DCの大きなメリットの一つは、掛金が所得控除の対象になることです。ただし、そもそも所得税や住民税をあまり納めていない場合、所得控除による税負担の軽減効果は小さくなります。
たとえば、次のような方は、DCだけではなく、NISAの活用を優先して検討したほうがよい場合があります。
- 所得が少なく、所得税や住民税の負担がほとんどない方(専業主婦・主夫なども含みます)
- 育児休業や休職などにより、収入が大きく減る予定の方
- 住宅ローン控除などにより、所得税の負担がほとんどない方
ご自身の所得税や住民税の負担額と、将来の資金計画を確認したうえで、拠出額や制度の使い方を決めましょう。
離職・転職時には移換手続きが必要
企業型DCに加入している方が離職や転職をする場合、原則として、転職先の企業型DCやiDeCoなど、次の制度に資産を移す手続きが必要です。この手続きを「移換」といいます。
資産を移換する際には、移換元の運用商品をいったん売却し、現金化したうえで転職先の企業型DCやiDeCoなど、次の制度に移換することが一般的です。その場合、売却時の市場価格によっては、評価額が下がっていることもあります。また、移換手続きの期間中は運用を行えないため、長期・積立・分散投資を継続できない期間が生じる可能性もあります。
転職が多いことが想定される方は、企業型DCよりもiDeCoの活用に軸足を置いたほうがよいかもしれません。
NISAとDCを比較してみよう
DCは、NISAと比較して説明されることが多い制度です。
どちらも資産形成に活用できますが、税制や資産を引き出せる時期などに違いがあります。
| DC | NISA | |
|---|---|---|
| 掛金・投資額を拠出するときの税制優遇 | あり(掛金が所得控除の対象) | なし |
| 運用益への課税 | 非課税 | 非課税 |
| 資産の引き出し | 原則として60歳以降 | 必要なときに売却・換金できる |
| 投資対象 | 制度内の対象商品から選ぶ | 株式や投資信託など、幅広い対象商品から選ぶ |
| 資金使途 | 老後資金 | 老後資金、教育費、住宅資金など幅広い目的 |
次のような人は、DCへの拠出を増やす前に、それぞれの状況に応じて、借入の返済や生活費・近い将来使うお金の確保、NISAの活用などを優先して検討したほうがよい場合があります。
- 奨学金やカードローンなど、金利の高い借入がある方
- 生活費の数か月分に相当する預貯金をまだ確保できていない方
- 近い将来、教育費や住宅購入費など、まとまったお金を使う予定がある方
- 所得税や住民税をほとんど納めていない方
DCは、拠出時の所得控除や運用中の非課税といった税制上のメリットを受けながら、老後の資産を準備できる制度です。受け取り時には課税対象となりますが、受け取り方に応じて控除が適用されます。
一方で、原則として60歳まで資産を引き出せないため、近い将来に使う予定のお金を入れるのには向いていません。
大切なのは、「どちらの制度が得か」だけで判断することではありません。まず、何のためのお金か、いつ使うお金かを考え、その目的に合う制度を使い分けましょう。
編集協力:野村證券株式会社 ワークプレイス・オペレーション部 津田 弘美
編集/文責:野村ホールディングス株式会社 ファイナンシャル・ウェルビーイング部

野村證券株式会社 ワークプレイス・オペレーション部
社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。
記事公開日:2026年9月4日


