2025.09.24 NEW
欧州株式、堅調さが続く背景とは? 金融政策と財政政策が株価を押し上げる 野村證券・引網喬子
撮影/タナカヨシトモ(人物)
欧州株式の堅調な値動きが続いています。経済の中心であるドイツの株価指数は前年末比で約19%上昇しており、米国株式(S&P500種指数、約13%)、日本株式(約13%)と比べて上昇が目立ちます(2025年9月19日時点)。欧州株式の堅調さが続く背景には、何があるのでしょうか。欧州株式市場に詳しい野村證券投資情報部ストラテジストの引網喬子が解説します。
ECBの利下げ以降、欧州景気回復の期待が高まる
- 欧州株式の上昇が続いています。理由は何でしょうか。
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金融政策と財政政策の2つの面が株価を押し上げていると考えています。まず金融政策については、ECB(欧州中央銀行)がFRB(米連邦準備制度理事会)よりも早く、利下げにかじを切ったことが大きいでしょう。
ECBは2024年9月から2025年半ばまで、連続で利下げをしてきました。この結果、欧州景気の回復期待が高まり、PER(株価収益率)が切り上がる形で株価は上昇しました。ドイツがインフラ投資と防衛力強化に向けて最大1兆ユーロにのぼる巨額の財政支出を決めるなど、欧州全体で防衛費の増加に向けて財政拡張期待が高まったことも、株価の先高観を強めました。
(注)2024年末を100として指数化、2025年9月19日時点。株価指数は月次ベース。日本は日経平均株価、米国はS&P500種指数、ドイツはDAX指数、フランスはCAC40指数、イタリアはFTSE MIB指数、スペインはIBEX35指数
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成
- 株価はPERとEPS(1株当たり利益)の掛け算です。実際の企業収益はどうでしょうか。
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欧州景気はまだまだ低空飛行で、景気後退の瀬戸際を右往左往してようやく浮上してきたところと言えます。さえない域内景気に加え、「ドル離れ」などを理由にしたユーロ高の進行も、輸出企業の業績を圧迫しています。ロシアのウクライナ侵攻に端を発したエネルギー価格の上昇もコスト高などを通じて重荷となっています。
ただ、明るい兆しもあります。23日発表された9月のHCOBユーロ圏総合PMI(購買担当者景気指数)速報値は51.2と好不況の分かれ目となる50を上回り、1年4ヶ月ぶりの水準に上昇しました。製造業PMIは49.5と、約3年ぶりに50を上回った前月(8月、50.7)と比べ悪化したものの、長い目で見れば緩やかな改善が続いていると言えます。
また、ドイツでの最大1兆ユーロにのぼる防衛費・インフラ投資への支出のほか、EU(欧州連合)が主導する「欧州再軍備計画」では8,000億ユーロ規模の防衛投資策の実施が決まり、各国で財政支出に関する議論が進んでいます。各国の2026年度予算に盛り込まれることが確実になれば、実際に企業業績にもプラスに寄与するようになるでしょう。
- 欧州企業の業績が本格回復に向かうのは、いつ頃でしょうか。
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欧州の代表的な企業で構成するストックス欧州600指数の予想EPS(1株当たり利益)を見ると、企業業績は2025年10~12月期にいったん落ち込み、その後は回復基調が続くと想定されています。2026年7~9月期は増益率が前年同期比で18.5%になる見通しです(9月9日時点)。また、ユーロ圏の実質GDP(国内総生産)が潜在成長率である1.5%に達するのも、2026年後半以降とみられます。
業績回復のけん引役は、防衛関連やインフラ・建材関連などになるでしょう。これらの一部はすでに株価が上昇しています。また、今後はトランプ関税を巡る不確実性が後退するほか、米国ではFRBによる利下げも見込まれています。欧州はグローバル展開している企業が多く、米国を中心としたグローバル景気の持ち直しも業績の下支えにつながりそうです。
トランプ政策、FRBの金融政策が欧州に与える影響
- トランプ関税は欧州景気の回復に水を差しませんか。
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相互関税率は2025年5月に50%にまで引き上げられる可能性がありましたが、最終的には15%で決着しました。最悪なケースは回避できたと考えていますが、関税引き上げの影響が経済データなどに反映されるのはこれからです。製造業の生産や輸出の動向については、しっかりと確認する必要があります。
とはいえ、トランプ関税については悪いことばかりではありません。合意の内容には、米国の軍需品の輸入などに加え、非関税障壁の撤廃に取り組むことも盛り込まれました。欧州市場は規制が厳しいことで知られています。さまざまな規制が緩和の方向に向かうことで、欧州企業自身にとっても、業績にプラスの効果が出る可能性もあります。
- FRBの利下げはユーロ高の要因となります。欧州株式には逆風になりませんか。
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これまで、米ドル資産の代替投資先としてユーロが選好され、ドルに対するユーロの上昇が続いてきました。FRBがさらなる追加利下げに踏み切れば、ユーロが一段と上昇したり、高止まりしたりする要因になるでしょう。欧州の輸出企業にとっては、確かにユーロ高は企業業績の下押し要因となります。
ただ、欧州は域内の経済活動が活発で、欧州自身が米国と肩を並べるほどの大きな市場として成立しています。クロアチアが2023年に通貨ユーロを採用し、ユーロ圏は20ヵ国になりました。2026年1月にはブルガリアも自国通貨をユーロに移行する見通しです。また、より大きな欧州連合体であるEUの加盟国は27カ国にのぼります。ユーロの高止まりだけを見て業況悪化の大きな理由になるとは考えにくいです。
欧州ではECBが様子見姿勢を強めており、金融面での一段のサポートが期待しにくいかもしれません。今後は金融緩和が株価を押し上げる「金融相場」から、企業業績が株価を押し上げる「業績相場」にスムーズに移行できるかどうかについて、注意深く見ていないといけません。
- 欧州株式に関心を持つ個人投資家へのアドバイスをお願いします。
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欧州市場は構成する国の多さから見てわかるように、非常にバラエティに富んでいます。ストックス欧州600指数の構成銘柄で時価総額の上位15社を見ると、実は欧州経済の中心であるドイツの企業は3社しかありません(2025年8月15日時点)。業種も幅広いです。
また、特定の企業が突出して大きいわけでなく、上位15銘柄の時価総額が指数全体に占める割合は21%に過ぎません。例えば日本株式市場ではTOPIX500の時価総額上位15銘柄が指数全体に占める割合は29%です。米国のS&P500は上位6社で30%に達しており、6社はすべてハイテク銘柄となっています(いずれも2025年9月19日時点)。
(注)ブルームバーグのデータを基に順位付け。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成
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もちろん、フランスの政治混迷のように、多様性があるからこそのリスクも付きまといます。とはいえ、通貨高が見込まれ、地域や業種の分散も図れる市場であることから、欧州株式の投資信託などに米ドル資産中心のポートフォリオの一部を振り向けることは有力な選択肢となるかもしれません。

- 野村證券投資情報部 ストラテジスト
引網 喬子 - 2023年10月より投資情報部に在籍。米国株の調査業務を経験後、各国経済・為替に関する投資情報の発信を担当。個人投資家を対象に、わかりやすい情報提供を心掛ける。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。
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