2025.10.08 NEW
米政府閉鎖による影響は? 高まる金融市場の不確実性 米国野村證券・雨宮愛知
撮影/タナカヨシトモ(人物)
米政府機関の一部閉鎖が10月1日に始まり、米雇用統計など重要な経済指標の発表が延期されています。米与野党の協議はいまなお続き、再開のめどは立っていません。ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル(以下、米国野村證券)のシニア・エコノミストである雨宮愛知は、米政府閉鎖の長期化は米景気の下押し要因となるだけではなく、米金融政策や金融市場の不確実性を高める要因になりかねないとして、懸念を示しています。その理由を詳しく解説します。
政府閉鎖が起きた理由
- なぜ政府閉鎖が起きたのでしょうか。
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米国は毎年、10月から新しい会計年度が始まります。新会計年度の開始にあたっては、毎年12本の歳出予算法案が成立していなければなりません。成立していない場合には数週間から数ヶ月の暫定予算、いわゆる「つなぎ予算案」を成立させ、通年の予算法案が成立するまでしのぐことになります。
今年度については、米下院は今財政年度が始まる前に11月21日までのつなぎ予算案を可決しました。しかし上院では、共和党はわずかに過半数を上回る議席しか持たず、可決に必要な(フィリバスター=議事妨害を阻止できる)60議席に届いていないため、野党である民主党の反対により成立させられませんでした。予算が不成立ということは、連邦政府に歳出権限がないということです。そのため、国民生活にとって重要だとみなされる部署を除き、連邦政府は機能を停止しました(=政府閉鎖)。
- 政府機能の閉鎖は民主党にとっても避けたい事態のはずです。
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民主党はつなぎ予算への賛成の条件として、12月末で期限切れとなる医療保険制度改革法(オバマケア)を通じて医療保険を購入する人に対する保険料補助の延長、および今夏に成立したOBBB法(One Big Beautiful Bill Act)に盛り込まれた低所得者向け公的医療保険(メディケイド)の削減措置の撤回などを求めています。しかし共和党は、まずは政府閉鎖を解消することが優先であり、政府機能再開後、医療保険制度について議論を始めるという姿勢を崩していません。
政府閉鎖で生じる経済指標への疑義
- 政府閉鎖による影響は実際に出ていますか。
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野村證券では、1週間の政府閉鎖により実質GDP(国内総生産)は四半期ベースで0.1~0.2%ポイント下押しされると試算しており、影響は決して大きくはありません。それよりも、政府閉鎖によって月次の経済指標の公表が遅れることのほうが影響は大きいと考えています。
米政府が経済指標を公表しなければ、私たちは米国経済の現状を把握できません。FRB(米連邦準備制度理事会)が重視する「雇用」と「インフレ」に関連する民間の経済指標はいくつもありますが、サンプル数や信頼感という点から、政府公表の経済指標に勝るクオリティを持つものはありません。経済指標の公表に向けた新たなポジションの構築やリスク回避(ヘッジ)を目的とした取引ができなくなるなど、「やりにくい」と考えている金融市場の参加者は多いです。
経済指標を巡る不透明感は、政府機能が戻った後にも残ります。政府が閉鎖している間は、経済指標の基になるデータの収集ができません。閉鎖が終われば、政府職員は11月公表の経済指標(10月雇用統計やCPIなど)の策定に向けて作業を再開しますが、政府閉鎖が長期化した場合、データ収集期間が短縮されることもあり、少ないサンプルに基づく推計になる可能性があります。そうすると、11月以降に発表される経済指標についてデータとしての信頼性に疑義が投げかけられる可能性もあります。
金融政策への影響は?
- 米金融政策にも影響しそうですね。
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米政府公表の経済指標が入手できない中、私たちは各州が公表する新規失業保険申請件数、地区連銀公表の経済統計、雇用や景況感に関する民間の経済指標などをもとに足元の景気動向を探っています。野村證券ではFRBが10月、12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.25%ポイントずつの利下げを決めると見込んでおり、その予想が覆りそうな兆しはありません。
もともと、パウエル議長は、景気後退(リセッション)が起きているから利下げに踏み切るのではなく、そうしたリスクを未然に防ぐための「予防的利下げ」を強調していました。入手できるデータが限られる中、リセッションが近いというサインが見られない限り、利下げのペースをギアチェンジするハードルは相当高いと考えています。
政府閉鎖は長期化する可能性
- 政府閉鎖はどのくらい長引きそうでしょうか。
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複数の海外メディアによると、トランプ米大統領は6日、医療保険について「民主党と話をしている」などと語りましたが、その後発言を修正し、政府閉鎖を終了させてから、民主党と医療保険について協議を行うという議会共和党と同じスタンスを強調しています。共和党も民主党も互いの主張を譲らず、議論は平行線をたどっています。特にオバマケアは何百万人の医療保険料負担に影響するだけに民主党が譲歩することは難しく、長期化する可能性もあります。
第1次トランプ政権では2018年末から2019年初にかけ、35日間の政府閉鎖がありました。仮に1ヶ月に及ぶ政府閉鎖となれば、パスポートの発給停止、国立公園・博物館の閉鎖、許認可の遅れなど、さまざまな分野で国民生活に広く悪影響を及ぼし、国民の不満や不安につながります。また、政府閉鎖の間に一時帰休となっている政府職員には給与が支払われないため、長期の政府閉鎖についてはそうした政府職員の不満も高まることになります。
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政府閉鎖が長引けば、米国の国民はもちろん、金融市場にも大きな影響を及ぼす可能性があります。米国政治の動向を注視し、与野党がどういった形で折り合いをつけるのかを見守り、株式や債券、外国為替といった各市場が政府再開を催促するような局面が訪れるかどうかも注視が必要です。さらに、政府閉鎖が終了しても、データ収集期間の短縮化により、翌月以降の経済指標の信頼度にも影響するという点も重要だと思います。
政府閉鎖 | |||
---|---|---|---|
年度 | 開始 (年/月/日) |
終了 (年/月/日) |
期間 (日) |
1977 | 1976/09/30 | 1976/10/11 | 10 |
1978 | 1977/09/30 | 1977/10/13 | 12 |
1977/10/31 | 1977/11/09 | 8 | |
1977/11/30 | 1977/12/09 | 8 | |
1979 | 1978/09/30 | 1978/10/18 | 17 |
1980 | 1979/09/30 | 1979/10/12 | 11 |
1982 | 1981/11/20 | 1981/11/23 | 2 |
1983 | 1982/09/30 | 1982/10/02 | 1 |
1982/12/17 | 1982/12/21 | 3 | |
1984 | 1983/11/10 | 1983/11/14 | 3 |
1985 | 1984/09/30 | 1984/10/03 | 2 |
1984/10/03 | 1984/10/05 | 1 | |
1987 | 1986/10/16 | 1986/10/18 | 1 |
1988 | 1987/12/18 | 1987/12/20 | 1 |
1991 | 1990/10/05 | 1990/10/09 | 3 |
1996 | 1995/11/13 | 1995/11/19 | 5 |
1995/12/15 | 1996/01/06 | 21 | |
2014 | 2013/10/01 | 2013/10/17 | 16 |
2019 | 2018/12/22 | 2019/01/25 | 35 |
(出所)議会調査局、ブルームバーグより米国野村證券作成

- 米国野村證券 シニア・エコノミスト
雨宮 愛知 - 2001年野村総合研究所入社。2004年より野村證券金融経済研究所経済調査部。2009年より米国野村證券(ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル)に勤務。
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