2025.10.14 NEW
日経平均株価1,200円超の急落 国内政局に注意、上昇トレンドに戻るシナリオは? 野村證券・池田雄之輔
撮影/タナカヨシトモ(人物)
公明党は10月10日、自民党との連立政権からの離脱を発表しました。国内の連休中には、米国のトランプ大統領が対中関税を100%上乗せする考えを自身のSNS上で明らかにしました。自公連立の解消と米中貿易摩擦の再燃という二つのサプライズを受けて、株式市場の不透明感が高まりました。今後の展望を、野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が解説します。
「日米ダブルショック」に見舞われた日本株
日本株は「日米ダブルショック」に見舞われました。まず10月10日の東京株式市場の引け直後に、「公明、連立離脱」が報じられ「高市トレード巻き戻し」の円買い、日経平均先物売りが加速しました。次に、日本時間23:55頃に「トランプ氏、対中関税の大幅引き上げを示唆」、11日朝5:55頃に「トランプ氏、対中100%追加関税」と伝わりました。日経平均先物はこれら報道前に比べ約3,000円安の45,200円近辺まで急落しました。ただし、日本が祝日だった13日のアジア市場では、「100%関税はあくまで脅し」との見方が広がり、14日の東京株式市場で日経平均株価は600円安程で取引を開始しましたが、徐々に下げ幅を拡大し、終値は前日比1,241.48円安の46,847.32円となりました。
結論を先取りすれば、米中対立は悲観しなくて良い一方、日本の国内政治は要注意だといえます。
米中対立は両者が矛を収める可能性が高い
まず、今回の米中対立の概要から見ていきましょう。
トランプ大統領は10日、中国による新たなレアアース輸出制限の動きを批判、対抗措置として11月1日から中国に対して100%の追加関税を課すことに加え、全ての重要ソフトウェアに対中輸出規制を導入すると表明しました。これに対し、中国商務省は12日、声明を発表しました。「最近の措置は必要かつ防衛的な行動だった」とした上で、「米国が行動を続けるなら、中国も権益を守るために相応の措置を講じる」と警告しました。
月末のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議(開催地:韓国)の場で習主席との米中首脳会談を見込まれていましたが、トランプ大統領はいったんキャンセルの可能性を示唆しました。その後、発言を修正し、会談実施の可能性を含ませています。
さて、問題はトランプ大統領の「本気度」です。野村證券の中国エコノミストは、米中が矛を収める可能性が高いと見ています。というのも、米中は互いの経済依存を下げ切れておらず、貿易断絶はいまだ非現実的です。10月28~31日のAPECの場での交渉を念頭に、お互いに高いボールを投げ合っているのが実態と見ています。相手の出方を見極めたうえで、習近平国家主席とトランプ大統領の会談は10月末のAPEC首脳会議の場で実現する可能性がなお高いでしょう。
米中双方が歩み寄る3つの根拠
楽観的に見る根拠としては、(1)今回のトランプ関税は11月1日に設定されており、交渉への時間的猶予をもたせています。(2)中国の重希土類の精製シェアは、世界の99%を占めています。重希土類は、防衛産業や電動化に使われる高性能磁石の素材であり、レアアースの中でも特に不可欠です。米国には妥協が必要になります。(3)一方、米国が仮に100%の追加関税を中国製品に課せば、中国経済への影響は深刻なものになるため、中国にも妥協が必要です。これらの根拠から米中双方は歩み寄りに向かう、というメインシナリオを描くことができます。
案の定、トランプ大統領は12日、自身のSNSに「中国については心配いらない。すべてうまくいく」と投稿しました。早くも、100%追加関税や、米中首脳会談のキャンセルという脅し文句を事実上撤回したようにも見えます。
難航する連立の枠組み、「過半数に達しない連立」を生む勢力図
次に、日本の政治情勢です。公明党の連立離脱、自民党の他党との連立交渉難航には、実は共通する政治力学が作用しています。「過半数に達しない連立は脆弱」というセオリーです。
衆議院の勢力図を見ると、自民党(196議席)が連立によって過半数の233議席に届くためには、37議席必要ですが、公明党(24議席)、国民民主党(27議席)、日本維新の会(35議席)いずれも足りません。
この点を踏まえつつ、10月11日の日本経済新聞は、以下の3つのシナリオを分析しています。
(1)自民が単独与党で「高市早苗首相」
(2)自民+αで「高市首相」
(3)立維国の野党連合で「玉木雄一郎首相」
(2)については、国民の玉木氏が「公明党が抜けて我々が政権に加わってもあまり意味がない」と述べています。維新の吉村洋文氏も、高市氏について「まず国民民主とやったらいいのではないか」と距離を置きました。国民民主も、維新も、単独で自民と連立しても多数派を形成できないことは、連立交渉の最大の障害となりそうです。
同じ理屈は、自公の破局にもつながりました。すなわち、石破茂首相が2つの国政選挙に敗れ、自公が衆参両院で過半数割れとなりました。「少数与党では野党の協力が必要で、公明党よりも他党の政策実現を自民党が聞き入れるケースが目立つ。公明党は自民党と組んでいるメリットを支持者にアピールしにくい」と日本経済新聞の別の記事は解説しています(10/11日本経済新聞)。高市氏は自公国の3党連立を構想したとみられますが、二兎を追って一兎をも得ずになりかねない情勢です。
どのシナリオでも「政策の一致する多数派与党」成立は難しい状況に
前述の3つのシナリオは、(1)は少数与党、(3)は政策の不一致という、潜在的な不安定要素を抱えることになります。(2)も少数与党化か政策不一致のいずれかを避けられない。つまり、「政策の一致する多数派与党」を作り上げることは極めて難しい状況にあります。結果的に、いずれのシナリオも不安定で、短命政権に終わる可能性があります。
解散総選挙の時期としては、(i)2026年度の予算、税制改正を成し遂げず、12月までに解散総選挙が行われるケース、(ii)2026年度の予算成立後、2026年4月以降に実施、(iii)2026年の通常国会閉会後の7月辺りで実施、などが想定されます。しかし、選挙協力が解消される自・公の議席数が減少し、国民や参政党などが議席増となれば、過半数確保には多数政党による連立が必要となる事態があり得るでしょう。政治の長期不安定化リスクがあります。
もちろん、日本株の物色という点では、シナリオによっては妙味がある面もあるでしょう。例えば、自民・国民を軸とする連立政権が樹立できれば、財政拡張、防衛費拡大、原発再稼働などの「サナエノミクス」が実施しやすくなり、株式市場目線で評価されやすいと見ています。高市自民党総裁のもとで支持率が高いうちに解散総選挙に訴えて議席数を拡大するようなシナリオとなれば、政権基盤強化が株式市場でも評価され得るでしょう。
日本株は当面、不透明な国内政治に振り回される展開を予想
日本株は当面、不安定な国内政治情勢に振り回される展開が予想されます。
野村證券では、自民党総裁選の結果を踏まえ、日経平均株価のターゲットを2025年12月末:49,000円、2026年12月末:52,000円に引き上げましたが(従来は44,500円、46,000円)、その道のりは平坦ではないかもしれません。
もちろん、中長期の観点では、日本のデフレ完全脱却を支援するような政治体制さえ確保されれば、力強い増益基調を織り込みながら株価は上昇トレンドに戻ると予想されます。野村證券では2035年には日経平均株価が83,000円に達するという長期見通しを立てています。

- 野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔 - 1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演中。
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