2025.10.20 NEW

日経平均株価初の49,000円超え 日米ダブルショックは克服、米地銀不安も局所的 野村證券・池田雄之輔

日経平均株価初の49,000円超え 日米ダブルショックは克服、米地銀不安も局所的 野村證券・池田雄之輔のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

10月4日の自民党総裁選における高市早苗氏の勝利はサプライズとなり、財政拡張への期待から、日本株は大幅な株価上昇で反応しました。その後、10日の自公連立の崩壊で、高市氏が首相に就任できない可能性が意識され、株価が反落する場面もありましたが、15日に自民党と日本維新の会が、首相指名選挙での協力や連立政権構築に向けた政策協議を始めることで一致したため、日本株は再び上昇基調に戻りました。20日には日経平均株価が初めて49,000円を突破し、終値は前日比1,603.35円高の49,185.50円となりました。高市氏の総裁選出前の3日の日経平均株価の終値は45,769.50円であり、3,000円を超える上昇となっています。株高の背景と今後の注目点について、野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が解説します。

日経平均株価初の49,000円超え 日米ダブルショックは克服、米地銀不安も局所的 野村證券・池田雄之輔のイメージ

国内政治、米中対立は落ち着きを見せる

10月10日の日米ダブルショックは、紆余曲折を経て、終息しつつあります。すなわち、国内政治は、公明党の連立離脱というサプライズの後、メディアの中心シナリオは「自民党の少数単独政権」→「自民・維新の連立」→「自民・維新の閣外協力」へと変化しながらも、着地しそうです。

また、米中貿易戦争をめぐっては、トランプ大統領が「中国に100%追加関税を課す」という驚きの発表をしたものの、その後は、想定以上に早く柔軟姿勢に転じました。17日には習主席との会談について「(APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が開催される)韓国で会談する」と明言しました。一方、米国の地銀信用不安という新たな問題も出てきました。以下では、国内政治、トランプ関税、米国金融システムの3点を順に点検していきます。

維新が政策課題の中心に据えた「議員定数削減」の影響は

まず、国内政治は自民党に日本維新の会が閣外協力するかたちでの「自・維政権」が成立する方向です。21日に召集される臨時国会では、自民党総裁の高市早苗氏が首相指名される運びです。「閣外協力」は、内閣に入る「フル連立」よりも弱い連携とは言われます。とはいえ、今回の超短期決戦の交渉では、フルの連立は難しかった面もあったと思います。閣僚候補者にはあらかじめ、過去にトラブルがなかったかなどの徹底した調査をする必要がありますが、維新は閣僚経験者が少なく、その準備時間が確保できなかったかもしれません。

日本維新の会はもともと、国民民主党や参政党が台頭する中で、支持率が伸び悩み、自公連立に加わる流れに傾いていたとされます。関係の強かった小泉進次郎氏の総裁選敗退、公明党の連立離脱、という想定外が重なったものの、「議員定数削減」を政策課題の中心に据えることで自民と折り合いがついたとみられます。

定数減をただちに実施するとすれば、区割りの変更が不要な比例代表でやることになります。日本経済新聞の分析(10月18日付)によれば、比例で50議席定数を減らす場合のダメージ(議席減少率)は、少数政党に大きく、立民、自民、維新には小さいという見立てです。自・維の利害が一致しやすかった面がありそうです。

また、自・維に加えて、あと2議席が無所属などから与党会派に転じれば、衆院過半数に達する点も重要です。高市政権の閣僚の顔ぶれ、それを受けた内閣支持率を見守る必要はありますが、ある程度の安定性が見込まれる政権樹立にこぎ着けたと言えそうです。

トランプ関税の方向性

次に、国外では、トランプ関税の方向性をどうみるか。IMF(国際通貨基金)が14日に公表した世界経済見通しでは、世界の2025年実質GDP(国内総生産)成長率が7月時点の3.0%から、今回3.2%に引き上げられました。要旨としては「米国の極端な高関税は修正されたが、世界経済は引き続き不透明」という慎重姿勢です。一方で、米ウォールストリートジャーナルは「米、国内で非生産の一部製品の関税撤廃を検討」と報じました。トランプ政権は国別に課している「相互関税」を静かに弱体化させている、という内容です。

この記事に先立って、野村證券の米国エコノミストも、米国の実効関税率の落ち着きどころを、従来見ていた19.5%から14.0%に引き下げました(8月実績は11.6%)。根拠としては、

⑴ メキシコ・カナダへの例外措置が継続していること

⑵ 通商法232条による品目別関税措置が限定的であること

⑶ 関税交渉が妥結した国からの輸入条件が改善していること

⑷ トランプ政権が関税によるインフレ押し上げを警戒していること

といった多面的な要素を考慮しています。とくに⑷については、2026年秋に中間選挙もあるなかで、「インフレを封じ込める!」という国民への約束を意識すれば、ここから関税政策を強化するという賭けには出にくいという見立てです。ただし、消費者に影響しにくい分野では、トラック関税発動といった、通商法232条を活用する品目別関税の動きも出ています。

地銀信用不安が大きなショックにつながる可能性は低い

最後に、米国金融システムの状況です。先週は、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEO(最高経営責任者)の発言が、市場の不安心理を誘いました。詐欺の疑いで捜査されている自動車ローン会社トライカラー・ホールディングスの経営破綻に関連して同銀行が損失を計上し、それについて「ゴキブリを1匹見つけたら、おそらくもっといるだろう」と述べたのです。トライカラー・ホールディングスは、「自動車版サブプライムローン」ともいわれる、低所得者向けの融資を得意にしていました。顧客の多くが移民だったため、トランプ政権の移民強制送還などがローン焦げ付きにつながったとみられます。

その後、2つの米地銀が、立て続けに借り手の不正について発表し、いずれも株価急落に見舞われました。元をたどれば、9月29日に自動車部品メーカーのファースト・ブランズ・グループが破産申請したことの尾を引いています。同社は、4月にトランプ関税による自動車部品の輸入品に対し最大73%の関税が課されることになったため、仕入れコストが上昇、業績が悪化しました。

しかし、今回の「地銀信用不安」が2023年3月の「SVBショック」(シリコンバレーバンクの破綻)のような大きな問題になる可能性は低いと考えられます。根拠としては、

⑴ 同ショックを契機に、FRB(米連邦準備理事会)は預金流出の不安がある金融機関への特別融資制度を整えている

⑵ 当時は利上げ局面だったのに対し、現在は利下げ局面であり、FRBはシステム不安に緩和強化で対応しやすい

⑶ そもそも関税影響は一部には表れているものの、企業破綻の急増や景気失速という事態を招いていない

といった点が挙げられます。なお、前述のダイモン氏の発言の続きは「クレジット環境は、楽観的な状況がこれだけ長く続いてきたから、景気減速の際には、予想以上に悪化するかもしれない」となっています。あくまで、景気悪化を前提とした議論になっているということです。

以上をまとめれば、

⑴ 国内政治は、政権支持率を注視しつつも安定化方向

⑵ トランプ関税は来年に向けてのリスクが低下

⑶ 米地銀の信用不安は、景気が大きく悪化しなければ局所的にとどまる

という見方になります。総じて、相場の不安要素は取り除かれてきていると思います。

野村證券では、自民党総裁選の結果を踏まえ、日経平均株価のターゲットを25年12月末:49,000円、26年12月末:52,000円に引き上げました。その後の公明党の連立離脱という波乱はあったものの、自・維政権への期待で、相場はふたたび「高市ラリー」の様相を示しています。高市総裁の「責任ある積極財政」という基本姿勢は株高を支える材料と言えますが、財務大臣の人選や、維新の財政スタンス、国債市場の反応(積極的過ぎる財政=金利高にならないかどうか)、さらには政権支持率というチェックポイントが残っています。

もちろん、中長期の観点では、日本のデフレ完全脱却を支援するような政治体制さえ確保されれば、力強い増益基調をおりこみながら株価は上昇トレンドを保つと予想されます。野村證券では、高成長実現のシナリオでは2035年に日経平均株価が83,000円に達するという長期見通しを立てています。

日経平均株価初の49,000円超え 日米ダブルショックは克服、米地銀不安も局所的 野村證券・池田雄之輔のイメージ
野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔
1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演中。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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