2025.10.21 NEW
「高市銘柄」のテーマ解説 上下水道・国土強靭化 野村證券・大坂隼矢
撮影/タナカヨシトモ(人物)
上下水道管など老朽化した公共インフラが大きな社会課題となっています。政府は2026年度から5年間で約20兆円強の事業規模で、公共インフラの更新などを進めていく計画です。10月21日に首相に選出された高市早苗氏は、総裁選公約の中で「国土強靭化対策」を掲げており、引き続き重要な政策テーマになりそうです。野村證券シニア・ストラテジストの大坂隼矢がポイントをわかりやすく解説します。
国土強靭化計画 5年で20兆円強の事業規模
- 老朽化した水道インフラが社会問題化している背景について教えてください。
-
2025年1月に埼玉県八潮市で起きた大規模道路陥没事故をはじめ、老朽化した上下水道管を原因とした被害が全国で相次いでいます。水道管の法定耐用年数は40年とされています。多くの水道管が高度経済成長期(1950年から1980年)に敷設されたことから、法定耐用年数を超える水道管が増加しています。
下のグラフの通り、法定耐用年数を過ぎた水道管の割合を示す「管路経年化率」は年々高まっています。2021年は2割を超える水準にあり、今後もメンテナンスが必要な水道管は増加していく見通しです。一方、水道管のメンテナンス状況は水道管を新しく更新した割合を示す「管路更新率」は年々減少しています。老朽化のペースにメンテナンスが間に合っていない状況にあります。
(注)データは年次で、直近の値は2021年。「管路経年化率」は法定耐用年数を経過した管路延長を総管路延長で除して求められる。「管路更新率」は当該年度に更新した管路延長を総管路延長で除して求められる。
(出所)国土交通省資料より野村證券投資情報部作成
- 政府はどのような計画で老朽化した上下水道管の対策を進めていくのでしょうか。
-
政府は2025年6月、第一次国土強靭化実施中期計画を閣議決定しました。事業規模を2026年度から5年間で約20兆円強とし、老朽化した公共インフラの更新などを進めるとしています。上下水道管については、下水道の健全性の確保を優先し、2030年までに下水道管の健全性の確保率100%、2041年までに上水道管の更新率100%が目標として掲げられました。
対象/年ごとの完了率 | 【2024年】 | 【2027年】 | 【2030年】 | 【2041年】 |
---|---|---|---|---|
大口径下水道管路(注1) の健全性確保 |
0% | - | 100% | - |
大口径水道管路の更新(注2) | 8% | - | 32% | 100% |
水道事業者のうちメンテナンスに関するDX技術の導入割合 | 34% | 100% | - | - |
下水道事業を実施している地方公共団体のうちメンテナンスに関するDX技術の導入割合 | 21% | 100% | - | - |
(注1)口径2mかつ30年以上経過した下水道管路(約5,000km)。(注2)口径800mm以上の管路(約600km)。(注3)国土強靭化実施中期計画の一部を抜粋したものであり、全てを網羅している訳ではない。
(出所)内閣官房資料より野村證券投資情報部作成
「上下水道DX」関連銘柄に経済効果が波及する可能性
- 水道インフラの更新が滞っている理由は何でしょうか。
-
管路の更新が滞っている理由の一つは、水道サービスが費用の大部分を使用料によって賄う独立採算制であることです。人口の減少に伴い使用量が減少する中、エネルギー価格や人件費などのコストは増加傾向にあり、インフラを維持する財源の確保が難しい状況です。また、他のインフラサービスと比較し、国からの予算が少額なことも、更新が滞ってしまった要因とみられます。
保守や点検を担う人材も不足する中、デジタル技術を活用し、メンテナンスの効率を向上させていくことも必要になります。例えば、人工衛星データを用いた漏水検知やAIを活用した水道管路劣化診断などが挙げられます。
第一次国土強靭化実施中期計画では、水道事業者や地方公共団体のメンテナンスに関するDX技術の導入率も2027年までに100%を目指す計画です。建設業種や水処理メーカーだけでなく、AIを活用した上下水道管調査や保守メンテナンスなどを手掛ける企業にも、経済効果が波及するとみられます。
コード | 銘柄名 | 概要 |
---|---|---|
1812 | 鹿島建設 | 管路内の光ファイバーを活用して、高精度なひずみ分布計測システムで得られた調査結果をもとに、管路の変状の有無、変状位置、その程度を検知できる技術を提供している。 |
4204 | 積水化学工業 | 管路更新システムに強みを持ち「SPR工法」では老朽化した下水道管の中に新たな管を形成し、掘り返すことなく管路を更新できる。 |
5076 | インフロニア・HD | AIを用いた上下水道管の耐用年数を年単位で予測するサービスに着手している。 |
5411 | JFE HD | 水道施設の設計・施工を行うが、特に水処理設備に強く、配管の調査・更生工事にも対応している。 |
6326 | クボタ | 耐震性や強度、施工性に優れ、水道管としてのニーズが高い「ダクタイル鉄管」で現在国内シェア6割を有する。またAIを用いた水道管老朽化診断やポンプのサポートシステムに強みを持つ。 |
6361 | 荏原製作所 | 水の循環に必須となるポンプ事業で水道インフラシステムを支える。新規建設からアフターサービス・点検整備までの一貫したサポートに強みを持つ。 |
6508 | 明電舎 | 総合水処理メーカーとして、水処理プラントの設計・製造・施工だけでなく、運営・維持管理までサポートしている。 |
9347 | 日本管財 HD | 上下水道の処理施設の運営管理に強みを持ち、官民連携で効率的な運営とコスト削減を目指す。 |
9551 | メタウォーター | 設備や工事などの諸元情報、点検結果や修繕履歴の保全情報、関連図面等を、設備を起点とした様々な関連情報を一元管理できるシステムを提供している。 |
(注1)全てを網羅している訳ではない。(注2)HDはホールディングスの略。(注3)JFE HDは主に完全子会社化されたJFEエンジニアリングが水道管の事業を行っている。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

- 野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
大坂 隼矢 - 2010年入社。3店舗での支店業務を経て、2015年3月より投資情報部。現在は月刊誌「Nomura21 Global」等、個人投資家向け株式資料の作成をはじめ投資情報の提供を行う。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。
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