2025.10.22 NEW

高市内閣発足、日本株に追い風か 「責任ある積極財政」を見極める 野村證券・岡崎康平

高市内閣発足、日本株に追い風か 「責任ある積極財政」を見極める 野村證券・岡崎康平のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

自民党の高市早苗総裁は10月21日の臨時国会の首相指名選挙で第104代首相に選出され、高市政権が発足しました。4日の自民党総裁選以降、株式市場は上昇基調にあり、21日には日経平均株価が一時5万円に接近する場面もありました。株式市場では高市政権の政策への期待が高まっていますが、少数与党の下で、高市首相はどのように政権運営を行い、政策を推進していくのでしょうか。野村證券チーフ・マーケット・エコノミストの岡崎康平は、新入閣を含む閣僚18人の顔ぶれを見て「経済成長に向けて財政政策をしっかりと打ち出していくという姿勢が読み取れる」と評価し、日本株にとって追い風になるとの見方を示しています。その理由を詳しく解説します。

高市政権らしさが垣間見える閣僚人事

高市新首相の組閣をどう分析していますか。

総裁選を戦ったライバルの起用などバランスを取りつつも、「高市政権らしさ」が垣間見えた組閣だったと考えています。閣僚人事では、自民党内に設置されていた「財政政策検討本部」と「責任ある積極財政を推進する議員連盟」から少なくとも6人のメンバーが選ばれました(高市首相自身を加えると7人)。積極財政に理解のある議員が閣僚になったことで、経済成長に向けて財政政策をしっかりと打ち出していくという姿勢が読み取れます。

組閣後の動きも早く、夜遅く開かれた初の閣議で閣僚に対して経済対策の策定を指示しました。首相補佐官や首相秘書官の人事を見ても、アベノミクスをほうふつとさせる人選で、高市政権の特徴がよく表れた出だしでした。

新任閣僚の印象を教えてください。

財務相への片山さつき氏の起用は手堅い人事だったと思います。片山財務相は、財政政策検討本部のメンバーでもありました。高市政権が標榜する「責任ある積極財政」の実現を期待させる経歴と言えるでしょう。しかし同時に、片山財務相は元財務官僚でもあります。投資家の視点からすると、財政規律にも配慮しながら、まさに「責任ある」施策を講じてくれる人選に映ります。

また、2025年1月20日に行われたトランプ米大統領の大統領就任式に招待されるなど、米政権ともつながりがあります。米ドル円相場について米国と議論を交わす必要が生じたとしても、スムーズなコミュニケーションが期待できるでしょう。

赤沢亮正前経済財政・再生相の経済産業相就任も、頼もしい人事です。前政権では米国との関税交渉を引き受け、実績を挙げました。トランプ大統領はもちろん、ベッセント財務長官やラトニック商務長官、グリアUSTR(米通商代表部)代表などとの繋がりを、今後は経済産業相の立場で生かすと予想されます。5,500億ドル規模の日米戦略投資フレームワークの実行にも関与する可能性があります。

このほか、経済産業省はTPP(環太平洋経済連携協定)にも関与しています。日本が中心的な役割を果たしてきたTPPには、保護主義的な貿易慣行が目立つようになったいま、貴重な自由貿易の枠組みとして大きな意義があります。米国の政策動向もにらみながら、自由貿易体制の堅持・強化が進むかに注目しています。

政党間協調の進展期待も

衆議院でも参議院でも少数与党であり、政策運営は難しいのではないでしょうか。

やや驚いたのは、21日に行われた衆議院での首相指名選挙です。自民・維新では過半数にわずかに届かないため、首相が決まるのは決選投票になる可能性もありました。ところが、実際には、自民・維新以外からの支持を得て高市氏が1回目の投票で過半数を獲得、第104代内閣総理大臣に指名されました。

確かに、与党(自民・維新)の議席数が、衆参両院で過半数に満たない状況です。しかし、高市氏への支持が与党を超えて見られたことは、今後の法案成立がスムーズに進む可能性を感じさせるものと言えます。少数与党下の不安定な国会運営が続くとはいえ、政策本位で政党間の協調が進む展開が期待できそうです。

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金融政策の大きな変化は見込みにくい

高市首相は首相就任前、日本銀行の金融政策について「方向性を決める責任は政府にある」などと述べていました。

就任会見では「金融政策を含むマクロ経済政策への最終的な責任は政府が持つ」としたものの、金融政策の手法は日銀に委ねられるべきものという姿勢を強調しました。政府・日銀が2013年に結んだ共同声明(アコード)についても「今の段階で直ちに見直すことは考えていない」と語りました。現時点で日銀の金融政策を大きく転換する意向はあまりなさそうです。野村證券では2026年1月の利上げをメインシナリオとしていますが、それと整合的な状況です。

高市政権の発足から一夜明けた22日の東京株式市場では、日経平均株価が一時、700円を超える下落となる場面もありました。

22日に株価の下げ幅が一時拡大したのは、高市政権への失望感によるものではなく、首相就任前に高まっていた高揚感の一服や個社要因だと考えています。高市首相の記者会見も、相場を動かすような新要素はあまり見当たりませんでした。

ただ、高市政権が経済成長を強く志向していることは明確です。サナエノミクスの具体像や規模も、これから明らかになり始めます。少数与党という不安定な状況には変わりありませんが、それでも経済政策については方向性を同じにする野党がみられていますし、「決められない政治」に悲観視するような状況とはかけ離れています。総じてみれば、高市政権の発足は日本株にとって追い風になると言って良いでしょう。

「責任ある積極財政」の真価を見極める

今後の注目点は何でしょうか。

まず注目すべきは、経済対策の具体的内容と規模です。昨年の経済対策を規模面で超えることになるか、内容面で明確な違いを打ち出せるかがポイントになります。特に、今回の経済対策は、物価高対策のみならず経済安全保障や先端技術の育成など、日本経済の供給面に関わる内容が予想されます。高市首相が掲げる「責任ある積極財政」の真価を見極めることが大切です。

その後は、日本維新の会と合意した様々な施策、例えば、社会保障改革や副首都構想、衆議院定数の削減などのテーマが注目されます。これら施策を前進させて自民・維新の連立枠組みが強化されれば、政治の安定性が一段と増す可能性があります。毎年6月ごろに策定される成長戦略・骨太の方針などにも、高市政権の独自性が反映されるかもしれません。政策内容と政治の安定性の両面から、高市政権の今後に注目したいと思います。

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チーフ・マーケット・エコノミスト
岡崎康平
2009年に野村證券入社。シカゴ大学ハリス公共政策大学院に留学し、Master of Public Policyの学位を取得(2016年)。日本経済担当エコノミスト、内閣府出向、日本経済調査グループ・グループリーダーなどを経て、2024年8月から、市場戦略リサーチ部マクロ・ストラテジーグループにて、チーフ・マーケット・エコノミスト(現職)を務める。日本株投資への含意を念頭に置きながら、日本経済・世界経済の分析を幅広く担当。共著書に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞社)がある。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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