2024.12.06 update

2024.11.07 NEW

米大統領選・トランプ氏勝利 日経平均は最高値を目指すか 野村證券・池田雄之輔

米大統領選・トランプ氏勝利 日経平均は最高値を目指すか 野村證券・池田雄之輔のイメージ

2024年11月5日、米国大統領選の開票が始まりました。共和党のトランプ氏と民主党のハリス氏の接戦が予想されていましたが、日本時間の11月6日16時30分頃、トランプ氏が勝利宣言を行いました。

トランプ氏の勝利が今後、金融市場にどのような影響を及ぼすのでしょうか。野村證券市場戦略リサーチ部池田雄之輔が解説します。

トリプル・レッド確定の前後では「セル・ザ・ファクト」にも要注意

米大統領選は、共和党のトランプ氏が勝利しました。共和党が議会でも過半数を獲得できるかについては、上院は事前予想通りに確定、下院もほぼ確実という情勢になっています(11月7日午前8時時点)。

ホワイトハウスと上下院を制する「トリプル・レッド」を市場が織り込んで推移することとなり、為替市場ではドル全面高、株式市場では日米ともに大幅高となりました(NYダウの11月6日終値は前日比3.5%上昇、日経平均株価の11月6日終値は同2.6%上昇)。

目先の相場については、トリプル・レッドの確定(数日かかるという見方が多い)に向けて、市場が追加的に織り込みながらドル高、株高に動く余地は狭まってきています。むしろ、トリプル・レッドが確実になった段階で、いわゆる「セル・ザ・ファクト」という、結果が出たことによる利益確定の売りが出て、株価が下落するリスクもあります。短期的な相場変動には注意が必要です。一方、ホワイトハウスは共和党(トランプ氏)だが、下院過半数は民主党が獲得するという「ねじれ」となるリスクは低下しました。

トランプ氏勝利=株高は楽観的すぎるとも言えない

トランプ氏勝利の場合、事前に日米株価が上昇することが予想されていました。その背景として、同氏が大幅な法人税減税や規制緩和を掲げていることがあります。実現すれば米国企業のみならず米国事業を持つ日本企業にも恩恵が及ぶと想定され、トランプ氏が掲げる政策のポジティブな点を市場が先取りしているとみられます。

こうした市場の反応が楽観的過ぎるという意見もあるでしょう。トランプ氏の政策のなかには、もちろん市場心理にネガティブな関税の大幅な引き上げや移民の強制送還もあります。ですが、私は「年内」に限定すれば市場の楽観を後押しする材料もあると考えています。

第一に、大統領選の結果、混乱が起きずにトランプ氏勝利が決定したこと自体が安心材料となったともいえます。というのも、大統領選が僅差となって結果の確定に時間を要する、あるいはトランプ氏が敗北しても認めないといった、目先の政治混乱シナリオは回避されたからです。

第二に、トランプ氏が大統領に就任するのは2025年1月下旬です。それまではネガティブな政策は発動されようがないという安心感はあります。

第三に、大統領選の陰に隠れてしまいがちでしたが、実は米国の個人消費の加速感が強まっている点は見逃せません。選挙当日の11月5日に発表された10月のISMサービス業景況感指数は56.0と、9月の54.9から低下するという市場予想に反して大幅に上昇したのです。指数水準としては2022年7月以来の高さとなっており、夏場からV字回復しています。指数の内訳を見ても雇用指数の回復がはっきりしており、足下だけでなく先行きにかけての消費の基調の強さも示唆しました。

ISMサービス業景況感指数の推移

ISMサービス業景況感指数の推移のグラフ (注)データは月次で、直近値は2024年10月。
(出所)ブルームバーグ、米供給管理協会資料より野村證券投資情報部作成

特に評価されやすい日本株セクターは

この時期に個人消費の基調が強いということは、米国での年末商戦の強さが注目される可能性があります。米国景気に敏感な日経平均株価は、年末までに前回高値水準である42,000円を目指すと見ています。これは野村證券の2024年末の日経平均株価予想レンジ内であり、予想の変更はありません。

米国個人消費の堅調さと円安傾向は、日本の脱デフレを一層確実にする面があるでしょう。その結果、12月には日本銀行が追加利上げに動きやすい環境が整いそうだとも言えます。銀行株には追い風が吹くと予想されます。

今後の日本株の評価について詳細に見てみましょう。銀行業界については、前回のトランプ政権下で実施された金融規制緩和が次期政権でも推し進められるとの期待が高まっています。銀行株のメリットは金利上昇・規制緩和の両面から想定しやすいでしょう。

一方、自動車業界も法人税減税や円安・ドル高の進展による恩恵が期待されますが、現在の株価はやや軟調です。市場では、自動車に対する特別関税率の適用や、米国がメキシコやカナダと結んでいるUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)が将来破棄されるリスクが懸念されている可能性があります。

2024年年初以来、トランプ氏の支持率や勝利確率が上昇すると株価が堅調になる傾向があったセクターとしては、金融に加え、情報・通信や金属製品が挙げられます。金属製品については、一部企業の米国事業のウェイトが大きいことが影響していると考えられます。非鉄、不動産、石油精製などが相対的に軟調ともいえますが、試算では逆相関(トランプ勝利の織り込みで株安反応)になっているセクターが一つもない点も興味深い特徴です。

トランプ氏支持率・勝利確率と主要セクター株価指数の連動性

トランプ氏支持率・勝利確率と主要セクター株価指数の連動性のグラフ (注)2024年年初以降のトランプ氏支持率・勝利確率(RCP、PredictIt、Polymarketなど5つの支持率、勝率の平均値)と各株価指数の変化率(1週間)の相関係数。
(出所)JPX総研、ブルームバーグ、RCP、PredictIt、Polymarketより野村證券市場戦略リサーチ部作成

今後のトランプ氏の注目点

もちろん、中長期的にはトランプ氏がもたらす国際政治上の不透明性には十分注意を要します。とくに関税政策については懸念点が多くあります。トランプ氏は、選挙前は対中国の輸入品に一律60%という大幅な関税を課すと発言してきました。もしそうなると、1回目の当選の際の関税引き上げとは規模が異なり、米国内の物価高を加速させる可能性があります。

実際に引き上げられるのか否か、上がる場合はどこが対象国なのか、品目、関税率の上限がどうなるのかといった点が不明だと、企業が設備投資に二の足を踏む要因になりかねません。また、ウクライナ・ロシア情勢、イスラエル・パレスチナ情勢、中台関係など、世界的な地政学リスクの複雑さは前回トランプ氏が勝利した2016年とは比較にならない状況にあります。

通算2期目となる大統領の座を手中に収め、トランプ氏は何を目指すのでしょうか。私は、選挙戦略として打ち出してきた面もある自国優先主義がトーンダウンする可能性もゼロではないと思います。日米間では、石破首相がトランプ氏と安倍元首相のように個人的な信頼関係を構築できるかも焦点となります。まずは、12月半ばにかけて順次発表されると予想されるトランプ次期政権の閣僚人事と、今後設定されると見られる石破・トランプ会談に注目したいところです。

野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔
1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に定期的に出演中。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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