2024.11.25 NEW
上値が重い日経平均株価 再び株価上昇に向かうきっかけを解説 野村證券・池田雄之輔
米大統領選後、上昇トレンドに乗る米国株に対し、日経平均株価は上値が重い展開が続いています。2024年11月7日、トランプ氏の勝利が確定した後の株価終値は39,381円でしたが、その後は小動きが続き、11月22日終値は38,283円でした。背景にある3つの要素について、野村證券市場戦略リサーチ部の池田雄之輔が解説します。
米大統領選直後に米国株は急騰しました。ホワイトハウスと上下院をすべて共和党が制する「トリプル・レッド」を織り込む中で将来の法人減税や規制緩和への期待が高まったと思います。しかし、11月13日に下院の共和党過半数獲得が確定すると、14日から15日にかけては株価が大きく調整しました。背景には「セル・ザ・ファクト」の利益確定売りがあったと思います。しかし米国株はその後、上昇トレンドを取り戻しています。
一方、日本株は特に日経平均株価で見ると、上値が重い印象です。ただし、TOPIX(東証株価指数)は堅調という点が重要です。
日経平均株価は日本経済新聞社が東証プライム上場銘柄から選定した225銘柄から構成され、大型株の変動に左右される部分があります。それに対し、TOPIXは東証上場銘柄全体があらわれる指数という違いがあります。
大統領選開票前の11月5日から21日までの騰落率を見ると日経平均:-1.2%、TOPIX:+0.7%となっています。この差は、大統領選後の3つの市場のテーマと一致していると整理できます。
米大統領選後のテーマ① トランプ関税への不安の高まり
第一に、早くも「トランプ関税」への警戒が表れています。大統領就任は2025年1月20日なので、それまでは高関税の発表はあり得ないのですが、市場は中国、メキシコ、欧州への打撃を意識しているような動きになっています。
前述と同じ手法で大統領選後の各国株価指数の騰落率をみると、中国(CSI300):-1.4%、メキシコ(BOLSA):-1.3%、欧州(ストックス600):-1.4%、と軒並みマイナスで、米国株(S&P500)が+2.8%と上昇しているのとは明暗が分かれています。
日本株では小型・内需の東証グロース市場250指数が+2.8%と堅調なことも、「トランプ関税の影響が少ない」という評価が支えになっています。
米大統領選後のテーマ② 中国財政出動への期待が肩透かし
第二に、中国景気への期待の変化です。実は米大統領選の直後には、「トランプ氏が当選すると、中国政府は景気不安を打ち消すために財政出動に打って出る」という観測がありました。これも、一時的にグローバルな株高材料になっていた可能性があります。
しかし現実には、11月8日の全人代常務委員会で決まった政策対応は、地方財政の赤字を国に付け替える仕組みなどにとどまり、需要創出につながる財政出動策は盛り込まれませんでした。この点も中国株および日欧輸出株の重しになっています。
米大統領選後のテーマ③ 日米金融政策のタカ派化への警戒
第三に、日米金融政策については「米国は利下げ期待が後退、日本は利上げ期待が上昇」といずれもタカ派化への警戒が強まっています。これは、「再び円安となったにもかかわらず日経平均株価は上がりにくい」という現象をもたらしています。
まず、12月18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)をめぐっては、もともと11月会合に続いての25ベーシスポイント利下げが有力視されていましたが、大統領選後には、米国景気の強さを背景に「利下げは1回スキップする」という見方が広がっています。これが1ドル=155円へのドル高・円安を後押しした訳ですが、他方で「日銀は早期追加利上げに踏み切りやすくなった」という見方にも波及してきました。
このため、日本の銀行株には強い追い風となっている一方、金利上昇を嫌気しやすい不動産株やグロース株にはアゲインスト(逆風)になっています。
これらの3つのテーマをふまえると、日経平均株価は輸出株のウエイトが比較的高いため、トランプ関税や中国に関する懸念が重しとなっている一方で、TOPIXでみればそこまでの影響はみられないことが整理できます。また、日米金融政策のタカ派化への期待から銀行株が大きく上昇していることが、銀行株の影響を受けやすいTOPIXのパフォーマンスに寄与してます。
今後、不安材料は長期化するか
では、以上の不安材料は長期化するのでしょうか。まず「トランプ関税」については、大統領の権限で上げられるがゆえに、非常に不透明と言わざるをえません。2025年1月20日のトランプ政権の始動後、すぐさま対中関税大幅引き上げを打ち出すリスクも否定できません。ただし、カギを握る財務長官には、高関税など保護主義政策には慎重とみられる投資家のスコット・ベッセント氏の就任が発表されました。今後、「トランプ政権は過激一辺倒ではない」という見方が広がることもあり得ます。
次に中国景気については、当面、政策対応が焦点という状況が続きそうです。中国政府はトランプ次期政権の陣容を見極めながら、12月上・中旬での開催が予想される中央経済工作会議で内需喚起策を検討するというシナリオが想定されます。
このように米中の政策動向については予想が難しい面がある一方、日米金融政策については不安要素が少ないと考えています。主要中央銀行のタカ派的なアクションが株式市場にショックを与えるか否かは「景気次第」と考えるのが基本だと思います。夏場を振り返ってみると、7月31日には日銀サプライズ利上げがあり、同日にFOMCは利下げを見送りました。しかし、8月上旬の世界的な株価急落をもたらした最大の理由は8月2日に発表された米雇用統計(7月)の極端な弱さでした。市場は「米国リセッション突入」を強く意識すると同時に「日銀、FRB(米連邦準備理事会)は判断を誤った」と動揺した訳です。
現状、そのような「景気悪化を無視した両中銀のタカ派化(金融引き締めに積極的)」のリスクは低いと見ています。米国は個人消費の基調が強く、年末商戦も好調が予想されています。さらに、大統領選挙に向けて一部で様子見姿勢が強まっていた企業の設備投資も再加速する可能性が強まっています。一方、日本では7-9月期のGDP(国内総生産)ベース個人消費が前期比+0.9%と、市場予想を大幅に上回りました。日銀が利上げ継続の条件として掲げている「賃金・物価の好循環」は「オントラック」、すなわち軌道に乗っていると判断しています。野村では12月19日の政策決定会合で、日銀が0.25%の追加利上げを打ち出すと見ていますが、「景気堅調あってこその利上げ」という解釈です。
再び株高に向かうきっかけとなりうる3つのイベント
株高再開のきっかけとしても、上述の内容に関連する3つのイベントに注目しています。第一に、トランプ政権の財務長官人事が決定したことは、先ほど述べたように市場の安心感につながる可能性があります。第二に、米国の年末商戦です。11月28日の感謝祭前後の消費動向が重要となりますが、全米自動車協会は「旅行者数は過去最多の8,000万人弱」との見通しを出しています。「政策は不透明だが米国の実体経済は強い」との認識が徐々に強まると予想されます。第三に、日銀の追加利上げです。市場では従来「次の利上げは24年12月か25年1月」と予想されており、早めに実現してしまった方が「悪材料出尽くし」になりやすいと見ています。
野村證券は、日経平均株価の予想レンジは、2025年3月末にかけて37,000円~43,750円と、強気の見方に変更はありません。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔
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