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2019.02.25 NEW

独りになることを恐れず、人と違うことをやる―荻原充彦の“プロ経営者”にいたる道筋

独りになることを恐れず、人と違うことをやる―荻原充彦の“プロ経営者”にいたる道筋のイメージ

板前からエンジニアに転身。その後、シンクタンク、ベンチャー企業を経て、経営者へ——。“異色”のキャリアを歩み、メタップスグループで無料送金アプリ「プリン(pring)」を手掛ける「プロ経営者」の荻原充彦。そんな彼の仕事観やマインドセットについて、話を聞いた。

「独りになること」を恐れず、「人と違うこと」をやる

板前からエンジニアへの転身というのはかなり異色ですね?
20代の頃は、いろんな経験をしましたね。板前だった時期もありました。ただ、仕事にもの凄い情熱を持っている人と自分を比べたときに、「(板前の世界では)絶対にかなわないな」と感じたんですよ。もちろん、全力で板前をやっていたつもりだし、ちゃんと努力したからこそ心の声が聞こえてきたんだと思います。「お前はよくやった。けど、もう辞めよう」って(笑)。
「せっかく努力したのに」「ここまでがんばったのに」と思うと、目の前のことにこだわりたくなるものですが、潔く切り替えることも大事というわけですね。
全力で3年やって「向いてない」と思ったので、ダラダラしてないでスパッと切り替えました。こうした「切り替え力」は、絶対に持った方がいいと思います。転職を考えたら「嫁ブロック」とか「親ブロック」にあったとか、いろいろな事情はあるとは思いますが、自分自身の人生なのでしっかりと考えないとだめです(笑)。
切り替える際には、どんなことを考えられますか?

自分の向き、不向き以外では、「風向きを見る」ということを大事にしています。例えば、エンジニアに転身した時は、多くの企業がIT化への対応を迫られていた時代で、エンジニアが圧倒的に不足していました。

だからこそ、「このポジションに入れば、IT業界の成長と共に自分自身のキャリアも伸ばしていける」と思えたんです。経験もないうちから、自分のやりたいことはなにかと悩むより、どうしたら「5年後に市場で必要とされる人間」になれるかを考えたほうがいいと思います。

そうしたキャリアを作る際に、一番大切にされているマインドセットは?
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「人と違うことを恐れない」ということですね。ビジネスの世界では、流行っている領域があると、10社も20社も参入してくるじゃないですか? そういうのを見ると「何でみんな同じことやってるんだよ」って思いますね。

「人と違うことをする」ためには、どんなことを心がけておけばよいのでしょうか?
普段から、周囲の人たちがしていることに疑問を持つことが大事だと思います。たとえば、イベントに行ってトイレに行列ができていたら、普通にみんな並ぶじゃないですか。でも、近くのビルのトイレを探しに行くと、意外に空いていたりもする。行列がある時に、何も考えずに追従して並ぶのではなく、「本当に、ここに並ぶしか方法がないんだろうか?」と考えてみたりするのがいいんじゃないでしょうか。
そうした意識は、これまでのご経験から培われてきた?

実は若い頃、合コンとかで「休日は何してるの?」とか聞かれると「ずっと家にいる」と答えて、すごく引かれていました(笑)。

僕は、この家にいる時間に読んだ本から多くを学びました。最初に「年間200冊読もう」と決めて、37歳位までずっと続けていました。当然、週末に誰かと遊んだりはあまりできません。でも、大衆と群れずに、自分と対話した時間や、本によって「成功者の知恵を借りた」時間が、今に活きています。

実際、古今東西の経営者たちの本を読むと、「成功した人って人と全然違うことを考えていたんだ」とか「他人よりこんなに努力していたんだ」ということを身近に感じることができます。

なにより、いろんな経営者の「経営哲学」を感じられたことはとても良い時間でした。

「プロ経営者」として「人と違うことをする」

経営者のお話が出ましたが、現在はメタップスグループで「プロ経営者」として事業を担われています。どういった経緯でプロ経営者になられたのでしょう?

かつて勤めていたシンクタンクも、ベンチャー企業も、やりたい企画を通すまでの承認ステップがとにかく多くて、コストもかかった。だから「自分で事業をやりたい」と常に思っていました。

そうやって、どんな事業がいいかを考えあぐねていた時に、「メタップスがカード決済サービスの責任者を探している」という話をもらったんです。しかも、「全権を任せていい」という話だったので、自分で創業するよりもリスクが低いと思い、「だったら、やりましょう」と引き受けました。

加えて、会社に「使える素材」があるというのも魅力でした。事務所もあるし机もあるし、人材も揃っている。環境が整っている中、固定の給料をもらいながら自分の裁量で事業ができる、というのはありがたいと思いましたね。

さきほど、本から「経営哲学」を学んだとおっしゃられていましたが、プリンではどのようなビジョンを掲げていますか?
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現在、展開しているアプリ「プリン」は「QRコード決済」というくくりに入れられることが多いのですが、自分たちでは別のフィールドで勝負していると思っているんです。

簡単に言うと「お金コミュニケーション」というコンセプトの無料の送金サービスを構築して、「お金の通り道の摩擦をなくす」というのが、「プリン」の目指すもの。

2年後にそうした新しいマーケットを確立するべく、たった一人のプレーヤーとしてその活動を担っているという意識でやっています。

そうした哲学がアプリのデザインにも活きている?

とにかく「日本に住んでいる人全員が使えるものにしたい」という思いがあったので、直感的に使えて、シンプルかつかっこいいものにしたかったんです。もちろん、見た目だけでなく、「ユーザーの手間を減らす」という使い勝手の部分も徹底的に考えました。

もう少し大きな視点から言うと、「現金を使うこと」から生じている日本の社会コストを少しでも減らしていけたらと思っています。

最近の若い人は、やりたいことを探そうと焦りすぎ

荻原さんのキャリアの過去と現在をお話しいただきましたが、これまでを振り返って、何が重要だったと思われますか?

今の人たちって、よく「やりたいことを探す」とか「やりたいことをやる」と言いますが、その感覚には否定的です。極論を言ってしまえば、「やりたくないこと」「好きじゃないこと」こそやってみたほうがいい。とにかくやってみないことには、自分に合うか、合わないかなんてわからないじゃないですか。

そういう意味では、35歳位までってある意味「修行」の時期だと思っているんですよ。「言われたこと」や「与えられたこと」、そして「自分の好きじゃないこと」でも、率先してやってみる、やり続けてみる。その結果、「本当に合わないこと」と「やってみたら合っていたこと」が見えてきたりするんですよね。

若い頃はとにかく経験の幅を広げることが大事なんですね。
そうですね。たとえば、板前時代の経験は今と全く関連性が無いように見えますが、割烹料理は盛り付けの際に、色彩や配置などディテールまでこだわって提供をしています。そういった細部へのこだわりは、今となってアプリのデザイン設計に活きてきたりするんです。
繋がりがなくても、何かしらの形で活きてくるんですね。
あとは、会社の中で事業部やプロジェクトの責任者になることはとてもいい経験です。おすすめです。責任者とそれ以外の立場では、得られる経験に大きな差がありますから。
一方で、責任者として先頭に立つのは、とても大変なことだとも思います。
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もちろん、めちゃくちゃしんどいですよ。先が見えない中、死ぬ気でやるしかない。でも、そういう「経験を買う」のが大事なんです。ぬくぬくした世界しか知らないと「批評家」で終わってしまいますから。

年齢はあくまで比喩として言いますが、20代や30代のうちは批評家でもいいと思うんです。「あいつは使えない」とか言いながら上司を批判していればいい。でも40代になったら自身の経験や知識に基づく「俺だったらこうする」という代案を出せるようにならないといけない。でないと、自分が「劣化したオッサン」になってしまいます。

そして、「俺だったら」が言えるようになるためにも、先頭に立って勝負するような経験を積んでおいたほうがいいんです。引き出しが増えて頭も回るようになるので、いろいろな意見やアイデアがすんなり出せるようになると思います。

「責任者になる」というと、みんな失敗することを怖がりますが、失敗してもいいんですよ。
そこで得られるものがありますから。僕がいま「プリン」みたいな洗練されたサービスを——と自分で言ってしまいますが(笑)——をつくることができたのは、これまでたくさん失敗してきたからだと思うんです。

荻原さん自身、失敗から学びを得て成長するために、どの様なことを意識されていましたか?
20代から30代半ばまでは、振り返りのために日記をつけていました。人間ってすぐに失敗の痛みを忘れるので、「痛みを残しておく」ということは大切です。そもそも人の本質や習慣ってすぐには変わらないですから、長い目で過去を振り返り、自分自身と会話し続けることが必要。それが成長につながるんです。
では、最後にEL BORDE読者へのメッセージをお願いします。

「答えがない問い」に直面することも多いと思いますが、それに対処する時にこそ、思考が深いか浅いかで差が出てくると思います。だからこそ、「自分と対話をし続けて、いかに思考を深めていくか」ということが大切になります。

僕は、若い頃に、引きこもりながら(笑)「週末に15時間を費やして本を読む」ということをやってきたから、今の自分があると思っています。「独りになること」を恐れず、「人と違うこと」をやってみて、どんどん思考を深めていってください。

荻原 充彦(おぎはら みつひこ)
1975年生まれ、東京都出身。大学卒業後、「なぜそうしたかはあまり覚えていないんですけど(笑)」と振り返る空白の1年間を経て、板前として社会人のキャリアを開始し、2年後にシステムエンジニアに転身。国内シンクタンクに転職後、エンジニアからビジネスサイドにキャリアチェンジを行う。その後、ベンチャー企業を経て2014年にメタップスに参画。決済サービス「SPIKE」の代表を務めた後、2017年に株式会社pringの代表取締役に就任。
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