2017.12.21 NEW
【国語力特集:後編】30歳前後で読解力が落ちる!? 国語力を磨くための習慣とは?
ある調査結果では、30歳前後で読解力が下がるという。そうならないためにも、国語力をアップさせるための習慣を身につけよう。
読解力は30歳前後をピークに下がり続ける?!
前編でも参照した、経済協力開発機構(OECD)が、24の国と地域で16~65歳を対象に行った国際成人力調査(PIAAC)に、1980年代生まれが中心の「エルボルデ読者」にとって興味深いデータが掲載されている。それは、読解力と年齢の関係を示したものだ。
図1:読解力と年齢の関係(OECD平均と日本の比較:16~65歳)
出典:OECD 国際成人力調査 調査結果の概要(P14より抜粋)
上のグラフの通り、30歳前後をピークに下がり続けている。世代における教育環境の差があるため、第2回の調査で、今回と同様の結果が出るとは限らない。当時の高齢者より数年後の高齢者の方が、読解力の平均が高いかもしれないし、さらに低くなる可能性だってある。
ただ、この結果は日本に限ったものではない。24か国の平均データも同じように、30歳前後をピークに低下傾向にあるため、年齢と読解力の相関関係は高いと言えるだろう。
だとしたら、エルボルデ読者の世代は、まさに読解力が下がり始める時期と言える。前編のデータが示しているように、仕事ができる人でいるためには、読解力の維持が欠かせない。
前編・中編に引き続き、『「ビジネスマンの国語力」が身につく本』(大和出版)の著者であり、社会人へ国語力向上の研修を行っている「ふくしま国語塾」の塾長、福嶋隆史さんに、読解力を含めた国語力を磨くための習慣について聞いた。
国語力アップには「まずアウトプット」を習慣に
国語力を磨くには「インプットよりもアウトプットを習慣化することが大切」だと福嶋さんは言う。「国語力を磨くには、本をたくさん読むことが大事」だと考えている人は多いのではないだろうか。もちろん間違った考えではない。
しかし、書く、あるいは話すという作業は、まず伝える内容を自分自身が理解していないとできない。書きはじめると、どうしても書けない部分がでてくる。すると、自分の無知に気づくことができる。そこで、必要な情報をインプットするのだ。アウトプットしながら、足りない部分をインプットして補足していく。その作業を通して、読む力・聞く力も付いてくるのだそう。
人前で話したり、書いたものを人に見せたりする中で、「伝わらなくて恥ずかしい」という思いを経験すること。そして、伝わらなかったとしたら、中編で紹介した国語力アップの秘策「言いかえる力・くらべる力・たどる力」の中でどれが足りなかったのかを反芻する。この繰り返しが、国語力アップにつながるのだ。
ただし、我流に陥らないように
とはいえ、「読む・聞く」のインプットを軽んじてもいい、というわけではない。アウトプットばかりに軸足を置いてしまうと、我流に陥ってしまう。
できれば、インプットの対象も偏らないほうがいい。「ネットメディアだけではなく本も読むこと」(福嶋さん)。本は時間を置いて検証されている内容が詰まっているだけではなく、分量が多くて読むのに時間がかかるのが良い。他者の思考プロセスをたどるには、ある程度の分量が必要だからだ。
多くの人の思考プロセスをたどることで、形だけではなく内実のともなった論理的思考を行えるようになっていく。
「くらべる力」「言いかえる力」を習慣にすると、語彙力が増える
ここ数年、「大人の語彙力」をテーマにした本が売れている。語彙をたくさん知っているのは素晴らしいことだが、知っているだけで使いこなせていないのであれば意味がない。それよりも、「今ある知識を掘り起こす」のがオススメ(福嶋さん)。その知識の掘り起こしに欠かせないのが「くらべる力」と「言いかえる力」だ。
例えば、「見上げる」という言葉の場合、まず「くらべる」ための反対語は何か考えてみる。「上がる」の反対だから「下がる」。だから「見下げる」になる。次に、「見下げる」を「言いかえる」としたら?と考える。
熟語にすると「軽蔑、蔑視」あたりだろう。慣用句やことわざで同じ意味のものはないか考えるのもいい。こうやって、言葉のレパートリーを掘り起こしてみよう。
7つの観点で文章をチェックする習慣を
最後に、文章を見返す時のチェックポイントを紹介したい。それは、7つの観点で見て、文章の揺れがないか確認することだ。
- 時間(過去・現在・未来、連続的・断続的など)
- 空間(上下、遠近、前後など)
- 自他(主観・客観、自立・依存など)
- 心理(楽しい・苦しい、誇らしい・恥ずかしいなどの心情)
- 五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚など)
- 目的・手段(なんのために・どうやって)
- プラス・マイナス(成功・失敗、正常・異常、など)
悪い文にありがちなのは、観点を統一していないことだ。例えば、下記の文章は2つの観点が入ってしまっている。
「昨日は早くたどり着いたけど、今日は叱られた」
なんとなく言いたいことはわかる文章ではある。でも、ここでは「早い・遅い」という時間の観点と「褒める・叱る」という心理の観点がごちゃまぜになってしまっている。
前半の時間の観点を生かすなら、
「昨日は早くたどり着いたけど、今日は遅く着いた。だから、叱られた」
となり、「くらべる」の後に「たどる」が入る構造になる。
後半の心理の観点を生かすなら、
「昨日は叱られなかったけど、今日は叱られた。なぜなら、遅く着いたから」
となる。ここでも、「くらべる」の後に「たどる」が入っている。
このように、7つの観点で文章を見返す訓練ができると、「くらべる力」も養うこともできる。また、「くらべる」ことで反対語の勉強にもなるため、必然的に語彙力も増えていく。
国語力アップの秘策「言いかえる力・くらべる力・たどる力」や、今回紹介した国語力を磨くための習慣はいかがだったろうか。
3つの力を頭に入れながらアウトプットしていけば、きっと本物の国語力が身についていくだろう。そして、ふと気づいたら、あなたの説得力やプレゼン力が上がっているかも?!
- 監修:福嶋 隆史(ふくしま たかし)
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株式会社横浜国語研究所・代表取締役。1972年、横浜市生まれ。早稲田大学第二文学部を経て、創価大学教育学部(通信教育部)児童教育学科卒業。日本リメディアル教育学会会員。日本言語技術教育学会会員。日本テスト学会会員。公立小学校教師を経て、2006年、ふくしま国語塾を創設。