2018.07.09 NEW
【読書術特集:前編】書評サイトHONZ代表の成毛眞氏が語る「オンリーワンになる読書術」
巷間の「読書のメリット」とはまったく別の視点で“読書の醍醐味”を語る、元マイクロソフト日本法人社長で書評サイト「HONZ」代表の成毛眞氏の考えとは?
雑談力や国語力……。過去の「変革のメソッド」の連載で、仕事ができる人に必要な要素として紹介してきたスキルだ。
「雑談力特集」では、上司に評価されチャンスを掴むためにいかに雑談が重要かを紹介し、「国語力特集」では、スキルド・ワーカー(仕事に熟練した人)ほど読解力や国語力が高いという相関関係があることを紹介した。
それらに加えて、仕事ができる人に求められるスキルとして取り上げられるのが、「情報インプット力」。必要な情報を収集し、蓄える力である。今は4大メディアだけでなく、インターネットからもあらゆる情報にアクセスできる時代。そうした情報の海の中から効率よく目的の情報を収集できるスキルは、ビジネスマンにとって不可欠なものといえるだろう。
そうした時代だからこそ、大量の情報に溺れないために“情報の羅針盤”となる「本」を読むべき、との声もよく聞く。多くの場合、本は一つのテーマに沿って、体系立てて解説されているため、断片的な情報でない場合が多いためだ。
稀代の読書家、成毛さんが語る、オンリーワンになる読書術とは?
このような情報の羅針盤としての意義に加え、別の視点から本の醍醐味を語るのが、元マイクロソフト日本法人社長で書評サイト「HONZ」代表の成毛眞さんだ。
35歳という若さでマイクロソフトの社長に就任し、44歳まで勤め上げたキャリアを持つ成毛さんは、稀代の読書家として知られている。一時は月50冊以上も読書していたといい、読書に関する著書も多い。
そんな成毛さんだから、読書に対するこだわりは強いかと思いきや、その意義について問うと、「本なんて読みたくなければ読まなくていい」とそっけない。
「本を読むのが好きなら、それを深めればいいだけの話。好きでもないのに、無理に読書しても、読解力はつかないし、年収も上がらない」
成毛さんが強調するのは、「大事なことは、自分が好きなことを極めること」。「たとえばマラソンが大好きだった公務員ランナーの川内優輝さんは、好きなマラソンをずっと続けてきた。その結果、公務員の中で圧倒的な存在感を誇っている。仕事で突き抜けたければ、何か一つでも、自分が好きなことを得意分野にすること。それは必ずしも本でなくてもいい」のだという。
「好きなこと」を見つけるために、読書を活用する
では、どんなことを自分の得意分野にすればいいのか。「好きなことを極める」といっても、すでに20代、30代になっているビジネスパーソンが、今からマラソンや野球をゼロから始め、大好きになったとしても、その世界で突き抜けることは現実的には難しいだろう。
それを考えれば、「手軽にできるのが読書」というのが、成毛さんからビジネスパーソンへのアドバイスだ。
「本はいくつになってから読み始めても、遅すぎることはない。たとえば私の妻は5年ほど前から江戸時代の歴史小説にハマっており、あと5年ほどでそのジャンルの本を読み終えそう。いくつから始めても、ニッチな世界では相当詳しい人になれる、というのが読書のいいところ」
成毛さん自身も、たまたま本が好きだったため、大量の書物を読みあさった。結果、「ノンフィクションを多読してきた経験が、ビジネスパーソンとしての自分の付加価値となったのは間違いない」と振り返る。
ビジネスパーソンに読書が「手軽」な三つの理由
では、なぜ読書はビジネスパーソンが始めるのに「手軽」と言えるのか。成毛さんは「理由は三つ。価格、入手の容易さ、時間」だという。
一つ目の価格。たとえばスキーにはまる場合、グッズをそろえ、頻繁にスキー場に通い、そこでリフト券も買ってと、次から次へとお金がかかる。その点で本の価格はしれているし、図書館に通えば、無料で読むこともできる。
次に入手の容易さ。書店の数は減っているとはいえ、都心の大型書店に行けば、売れ筋の本はほとんどそろっている。ニッチな本も、ネット書店にアクセスすれば、ほとんどの本は入手可能。電子書籍の点数も増えている。「手に入れたい」と思った本を、気軽に入手できる環境はかなり整備されているといえよう。
最後に挙げた“時間”は、「まとまった時間が不要」ということ。スポーツならば、まずは体力をつけて、基礎練習から始め、練習を重ね、試合をしたり、合宿をしたり…。いずれも、それなりのまとまった時間が必要だ。しかし読書であれば、基礎練習もトレーニングも不要。移動中などのスキマ時間に取り出して開けば、すぐ「読書タイム」に入ることができる。
「そうはいっても、仕事が忙しくて読書の余裕がない」と言いたい人もいるかもしれないが、冷静に1日のスケジュールを振り返ってみてほしい。どんなに忙しくても1日10分×3回、30分間程度のスキマ時間は捻出できるのではないだろうか。
仮に1日30分間を1カ月間続けた場合、合計で15時間になる。これだけあれば、ビジネス書1冊を読むことはできるはず。ある特定の分野で、「1日30分」の読書習慣を数年間、続けたとしよう。数十冊、数百冊の知識や知恵が頭に詰まり、その分野では“プチ専門家”になれるはずである。
「手軽+α」の読書のメリット
もちろん、「手軽であること」だけが読書のメリットではない。50~60代の中高年世代は長らく「教養イコール読書」の時代を生きてきた。今でも「本を読む人イコール賢い人」という印象を抱く中高年世代は少なくない。そうした世代の職場の上司などから、読書習慣のある人は評価されやすいという側面もある。
中高年世代、中でも企業経営者が好むのが、歴史のジャンル。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉もあるように、会社をどう経営すべきか、時代の方向性をいかに読むべきかなどについて、優れた経営者ほど、歴史上の先人に学ぼうとする傾向が強い。では具体的に、どのような本から学べばいいのか。後編では「本の読み方」について紹介しよう。
- 監修:成毛 眞(なるけ まこと)
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書評サイト「HONZ」代表。1955年北海道生まれ。中央大学商学部卒業。アスキーなどを経て1986年にマイクロソフト株式会社入社。1991年よりマイクロソフト代表取締役社長。2000年に退社後、同年5月に投資コンサルティング会社インスパイアを設立。元早稲田大学ビジネススクール客員教授。『黄金のアウトプット術: インプットした情報を「お金」に変える』(ポプラ社)がある。