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【マーケットバリュー特集:後編】あなたの市場価値を高める4つのマーケティング理論

【マーケットバリュー特集:後編】あなたの市場価値を高める4つのマーケティング理論のイメージ

前編では、「あなたという商品」の市場価値を高めるためのマーケティング戦略として、「バリュープロポジション」を作ることの重要性や、自分の「強み」を育てる方法を紹介した。

後編では、その「価値」や「強み」をさらに伸ばし、高めるにはどうすればいいのか、マーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚(ながい たかひさ)さんに、より詳しく伺った。

会社員だからこそ選択できる“リスク”

前編で解説した通り、「強み」をもとに「バリュープロポジション」をつくり、ライバルのいない完全独占のマーケットを狙えば、自分の商品価値は高まっていく。しかし、ライバルがいない市場を狙うということは、前例のないポジションを狙うということでもある。それはある意味、不確実でリスクの高い、「ハイリスク・ハイリターン」ともいえる戦略だ。

そこで利用できるのが会社員という立場だ。会社員であれば、上司から承認を得れば少々リスクが高い挑戦も可能。給料という一定の保証を得て、会社に守られながら、リスクの高いポジションを狙うことができるのだ。会社員をしていると当たり前に思えるかもしれない。しかし起業したり、自営業の立場でリスクが高い挑戦をして失敗したりすると、路頭に迷うこともある。実は会社員は、おいしい立場なのだ。

「私の場合、マーケティングを始めたとき『期限は3年にする』と決めました。50歳までにはなにかをモノにしておきたかった。当時30代半ばだった自分は、何度も挑戦することはできない。そこで新たな挑戦の結果を3年で見極めようと考えたわけです。それでダメなら諦めて、また別のことをやろうと。仮に3年間マーケティングを必死に勉強して失敗したとしても、路頭に迷うことはない。会社員だからこそできたのだと思います」

ちなみに、この「3年やってダメだったら諦めよう」という挑戦は、「リアルオプション理論」というビジネス理論に基づいた考え方だという。そのほかにも、「あなたという商品」の市場価値を上げるにあたって、役に立つビジネス理論や概念は多数存在する。

後編では、この「リアルオプション理論」をはじめとし、その中でも特に覚えておきたい4つの理論を紹介しよう。

リスクを下げて挑戦する:リアルオプション理論

この理論は株取引の手法を由来としている。株の価格は上下するため、当然ながら株取引にはリスクがともなう。そこで、このリスクを下げることを目的として生まれた取引の手法が「オプション取引」だ。

オプション取引とは、将来の決められた日にち(満期日)に、あらかじめ決められた価格で買う(または売る)「権利」を売買する取引のこと。

この考え方をビジネスに応用した理論が「リアルオプション理論」。あらかじめ、もっとも損をする状況を確定したうえでリスクに挑戦するという理論だ。

この理論に乗っ取って行動すれば、成功すれば万々歳、仮に失敗しても、あらかじめ想定した損をするだけで済む。永井さんの例でいうと、仮にマーケティングの勉強が実を結ばなくとも、3年という期限を自分で設けていれば、その3年以上の損害は被らないというわけだ。

仮説を持って失敗しよう:リーンスタートアップ理論

リアルオプション理論に則って行動すれば、リスクをある程度抑えることができるため、何度も挑戦することができる。そこで仮説を思いついたらすぐに実行し、結果を検証する。これは、シリコンバレーで活発に用いられている「リーンスタートアップ」と呼ばれる手法だ。
リーンスタートアップで重要なのは、初めから完全な戦略や計画をつくろうとしないこと。顧客の視点で大まかで簡単な仮説立て、すぐに試し、その結果で仮説を見直す。どんなに優れた人も、失敗しないなんてありえない。むしろ失敗を前提に「失敗からの学び」を活かしていくというわけだ。「リーンスタートアップ」の考え方は、IT企業だけでなく個人にも適用できる。

「ありきたりな言葉ですが、失敗は成功のもとです。特に若いうちは、ちょっと無理かなと思うことに対しても、見栄を気にせずに挑戦したほうがいい。というのも、40代後半や50代になって大きな失敗するとけっこう痛いんです(笑)。だから失敗できるうちに、どんどん失敗することがおすすめです。

そのときに、ただ闇雲に挑戦して失敗するだけでなく、常に『こうなるはずだ』という仮説をもつこと。そして、失敗から得た学びをもとに仮説を書き換えることが重要です。そうすれば、長い目で見て成功の確率は飛躍的に上がっていきます」

凡人が天才に対抗する方法:フロー理論

では、どのような挑戦をすべきか。人は、他人から言われたり報酬を与えられたりしたことよりも、自分がおもしろいと思ったことに夢中になる。そうした、自分がおもしろいと思えたことを夢中になって続けることが、強みを育てるコツだ。

人材育成などでよく活用されるモチベーション理論(動機づけ理論)では、これを「内発的動機づけ」と呼ぶ。そして、内発的動機づけにより行為に没頭し、「いつまでもそれを続けたい」と感じ、あっという間に時間が過ぎる体験を「フロー体験」と呼ぶ。フロー体験を通して脳が持つ能力を目一杯使うことで、人は成長し、強みが強化されていく。このフロー体験は「ちょっと背伸びした挑戦」を続けることで意識的につくり出すことができる。

「私がマーケティングに夢中になれた理由の一つに、ICPという社内認定試験へのチャレンジがあります。マーケティング専門職向けのICPは当時のIBMでは最難関の試験で、受験しては落第し、フィードバックをもらって再挑戦するということを繰り返しました。そうしているうちにマーケティングの本質を理解し、4回目の試験でやっと合格。

天才なら1回で受かる試験なのかもしれませんが、逆に考えると、私は4回で天才に追いつくことができたともいえる。凡人が天才に対抗できる唯一の手段は続けること──そして没頭してちょっと背伸びした挑戦を続けることなのです」

コンフォートゾーンから抜け出す:ダイナミックケイパビリティ理論

ここまで「強み」を伸ばすための理論を紹介したが、あらゆるものに賞味期限があるのと同じように、個人の「強み」にも賞味期限が存在する。世の中や周囲の環境は常に変化しているため、それに合わせて自分も変化しなければならないからだ。

企業の場合、変化に合わせて新たな「強み」を自らつくり出す能力のことを「ダイナミックケイパビリティ」という。これができないといずれ企業の価値は目減りし、ライバルに追い抜かれて衰退していく。

これは個人でもまったく同じ。そこで意識したいのが、いまの快適な環境(コンフォートゾーン)からの脱出だ。これまでとはちょっと違う分野で、自分の能力をちょっと上回る挑戦をすることで、ふたたびフロー状態に突入する。そのときに忘れてはいけないのは、新しいステージでも、自分がすでにもっている「強み」を活かすことだ。

「50歳のとき、所属していた事業部の事業本部長に『事業部1,000人の人材育成をしてほしい』と頼まれました。私にとって人材育成は未経験の分野でしたが、あえて引き受けることにしました。私の場合、自分の強みは『戦略性』なので、新たな仕事でもそれを活かせるのではないかと考えたのです。

それまでの仕事で事業部の戦略はよくわかっていました。そこで事業戦略を実現するために必要な人材像を考えて人材育成戦略を立て、その戦略を実行し、結果を検証しながら成果を出していきました。このように新しい分野でも自分の強みのかけ算ができるようになれば、あなたの商品価値はさらに高まります。これはコンフォートゾーンから脱出して実感できたことです。私が独立後、多くの企業様に研修を提供できているのも、この経験のおかげです」

「自分のため」が社会貢献になる

以上、「あなたという商品」のマーケットバリューを高める、自分の「強み」を伸ばすための理論を紹介した。最後に永井さんは、「自分の市場価値を上げることは、社会貢献にもつながる」という話をしてくれた。どういうことか。

社会貢献と言われてもピンとこない、自分のことだけで精一杯だという人もいるかもしれない。しかし、最初は「自分のため」「利己的」な動機でかまわないと永井さんはいう。

「自分のため」からスタートして、自分の商品価値を少しずつ高めていけば、それにともない、幸せになる人の数が増えていく。「価値がある」ということは、前編でも述べた通り、他者のニーズを満たしているということでもあるからだ。

そうして自分の価値を高めていくうちに「自分のため」に始めたことが「仲間のため」になり「会社のため」になり、さらには「業界のため」「社会のため」になる。最終的には、仕事を通じて周囲の人にも幸せを広げていくという社会貢献につながる。

「話が飛躍するかもしれませんが、あの松下幸之助さんも最初の頃は、数人で創業した時の元部下が『働く熱意は人並み外れているけど、才能は平凡』と言うほどで、リーダーには程遠い病弱な人だったそうです。しかし徐々に会社が大きくなり、従業員のため、そして社会のためと考えるようになり、ついには『経営の神様』と呼ばれるようになりました。すべては自分の価値を高めることから始まるのです。

ただし、ひとつだけ、いまのビジネスパーソンのみなさんに注意していただきたいことがあります。『自分の価値を高める』という意味を勘違いして、インスタなどのSNSで自分を盛る人って多いですよね。確かにSNSは楽しいし、プライベートで自分を盛るのもいいんですけど、なかには実態が乏しいのに『すごい仕事をしているんだ』と盛る人もいます。あれってわかる人にはすぐわかるし、けっこうイタい。

本当のマーケティングとは、外見を取り繕ってよく見せることではありません。お客さんへの価値を高めて、その価値を伝えることです。時間をかけて内面から湧き出てきたものが自分の強み。『魔法の絨毯はない』ということは、覚えておいてほしいですね」

【お話をお伺いした方】
永井 孝尚(ながい たかひさ)
マーケティング戦略コンサルタント。慶應義塾大学工学部(現・理工学部)を卒業後、日本IBMに入社。製品の開発・販売に従事したのち、マーケティングや人材育成を担当。退社後は、マーケティングの本質を伝える講演や研修を行うと同時に、執筆活動を開始。仕事で役立つ経営戦略を学ぶための「永井塾」も定期的に主宰している。おもな著書に『100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)、『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)などがある。新刊の『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)を4月24日に刊行。

永井孝尚オフィシャルサイト

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