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2018.04.16 NEW

「タダ・ネイティブ」新しい価値観の世代を、我々はどのように理解するか

「タダ・ネイティブ」新しい価値観の世代を、我々はどのように理解するかのイメージ

音楽、動画、ゲーム、マンガ…。さまざまなものが無料で手に入る現代の子らを、「タダ・ネイティブ」と呼ぶ。彼らの実態は、果たしてどんなものなのか?

お金を持たない、使わない、現代の子どもたち

タダ・ネイティブ――これは、博報堂生活総合研究所が名付けた、2003年から2008年に生まれた子どもたちの総称だ。同研究所では、1997年から10年ごとに日本の子どもたち(小学4年生から中学2年生)の生活実態を調査しており、2017年に行われた調査結果がもとになって、この言葉が生まれたのだという。

「2017年の調査対象となった子どもたちは、生まれたときからインターネットがあり、物心ついたときにはスマートフォンやタブレットを自由に触っていた。つまり費用も、手間も、労力もかけずに情報やコンテンツが自由に利用できた世代です。“タダが当たり前”という感覚の持ち主であることから、タダ・ネイティブと名付けました」と、同研究所の十河瑠璃さんは説明する。

たとえば、某有名動画サイトの日本版がリリースされたのが2007年。店舗に足を運び、CDやビデオ・DVDを購入(あるいはレンタル)しなければ得られなかった音楽や映像コンテンツは、無料かつ気軽に楽しめるものになった。
スマートフォンが広く普及してからは、マンガやゲームも無料アプリで楽しめるようになった。

「マンガ、ゲーム、CDにお金を使わなくなったこともあって、調査では『お小遣いは貯金する』という子どもが過半数を占めていました。欲しいものはお父さんお母さんが買ってくれるし、そもそもお小遣いをもらっていないという子どもも増えています」(十河氏)

タダ・ネイティブはお金を持たない、使わない。そんな世代なのだ。

買いたいのは「モノ」よりも「コト」

とはいえ、タダ・ネイティブがまったくお金を使わないかというと…。そういうわけではない。調査によると、小遣いの使い道に「ライブ、映画」と回答した子どもの数が1997年から大きく上昇しており、「モノ(商品)」を購入することは減ったものの、「感動」や「喜び」につながることに対しては、しっかりとお金を使っていることがわかる。そう、タダ・ネイティブは、「コト(経験)」や「トキ(そのとき、その場でしか味わえない盛り上がり)」に対する興味・関心が非常に高いのだ。

「好きなゲームの音楽ライブイベントに、2日間連続で行ったという男の子がいました。しかも、同伴してもらうために、親の分のチケットまで自分で買ったとか。また、別の女の子は、マンガ雑誌の人気キャラクター投票で好きなキャラクターを1位にするため、投票ハガキが付いた同じ号を山積みになるくらい購入したそうです。話を聞いて、私がびっくりしていると『みんなやってるし、私なんて大したことがない』と、さも当たり前のように言っていました。彼らにとっては、“誰かを応援するためにお金を使う”ことはごく普通の感覚なんです」(十河さん)

中には、こんな中学生もいたそうだ。
現在、リリースされているマンガアプリの中には、読者が作品や作家を応援するために、有料の「応援ポイント」を購入するものもあるが(応援数が増えると作家の報酬が増えたり、書籍化につながったりする)、そのアプリを使っている男子中学生が、十河さんにこう熱弁したというのだ。「自分の好きな作家さんのランキングが低い。このままでは打ち切りになってしまうから、課金して応援したい」。

また、タダで得られるコンテンツを利用して、自身の興味・関心を自在に追求できるためか、子どもたちの嗜好も実に多様だ。同じ“動画サイト好き”であっても、ある子は一般ユーザーの投稿動画が好きで、ある子は80年代のアニメに夢中。ある子は落語ばかりを見ていたら学校で一席打つほどの腕前になったという。

「かつてはメインストリームというものがあって、『これを知っていないと仲間に入れない』『かっこ悪い』という風潮がありました。でも今は、『私はこれが好きだけど、あの子はあれが好き』とそれぞれの多様性を認めている。それもタダ・ネイティブの特徴かもしれません」(十河さん)

もう一つ、タダ・ネイティブの特徴をあげるとするなら、コンテンツの新旧に関わらず、これまでとはまったく違った価値観や使い方を見つけ出して楽しんでいる、ということ。となれば、彼らが社会人になったとき、古い技術やコンテンツ、プロダクトから、思いもつかない価値を生み出してくれる可能性もある。

大人は敵ではなく、不良はイケていない

バブル崩壊、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件…。暗い事件・事故も多かった80年代生まれの子ども時代には、「学級崩壊」「家庭内暴力」「援助交際」といったネガティブなワードがつきまとっていた。教育も体罰や抑え込み型が主流。大人は敵で、それに抗う同級生はどこか羨望のまなざしで見つめられていた。

しかし、タダ・ネイティブにとっては大人は敵ではないし、それに反抗する者への憧れも抱いていない。

「彼らの人間関係は、まるく、やさしく、つつがなくです。一概には言えませんが、厳しく育てられた親たちが、『自分の子どもには同じ体験をさせたくない』と、かなりソフトに育てている印象がありますね。以前は淋しさを紛らわせるために非行に走る、という文化がありましたが、今はスマホがあればいくらでも暇つぶしができるので、不良系も極端に減っている。中学高校の先生方とワークショップをしたところ、今モテるのは、不良系ではなく、星野源さんみたいな優しくて清潔感がある子なんだそうです」(十河さん)

物欲がなく、一定の趣味嗜好を持たず、心優しいタダ・ネイティブ。そんな彼らも、あと10年もすれば大人になり、その意識と行動こそがいずれ日本のスタンダードになる。となれば、彼らの価値観を学び、理解することこそ、私たち大人が“今するべきこと”かもしれない。上司としてタダ・ネイティブと向かい合ったとき、「近頃の若者は、何を考えてるのかさっぱりわからない」とお決まりのセリフを吐く、つまらないオヤジにならないためにも…。

十河 瑠璃(そごう るり)
2013年に博報堂入社、2016年より生活総合研究所にて勤務。多様性の進む社会において、人々がどのように落としどころを見つけて共生していくかということを一つの研究指針としている。
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