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2021.05.20 NEW

【日本も例外じゃない】21世紀の地球規模の課題「水問題」のいま

【日本も例外じゃない】21世紀の地球規模の課題「水問題」のいまのイメージ

「水の惑星」といわれる地球で、水不足に苦しむ将来が迫ってきている。現在の日本では水に困ることが少ないため縁遠い話題に聞こえるかもしれないが、いま世界では「水問題」が解決すべき喫緊の課題だ。

ここ数年の世界経済フォーラム(ダボス会議)では、「水危機」は影響力の大きいグローバルリスクとして上位に位置している。また、世界規模の目標であるSDGs(持続可能な開発目標)では、「誰もが安全に水を使うことができる未来」の必要性が明言されている。

この課題を解決するための取り組みは、地球環境保護の観点からも意義を持つだけでなく、ビジネスとしての大きな可能性も秘めている。世界における水ビジネス市場は、2025年に110兆円の規模に達するとの予測もある

本記事では、国連ニューヨーク本部に勤務、発展途上国の水インフラを指導した経験を持ち、日本を代表する水環境問題の専門家である吉村和就(よしむら かずなり)さんに取材。世界規模で見る水ビジネスの可能性や課題に焦点を当て、「ビジネス」と「SDGs」の2つの観点から水問題について伺った。

“21世紀における地球規模の課題”である「水問題」

吉村さんは、「水資源不足は、21世紀における地球規模の課題」だと説く。なぜ、特に「21世紀」の課題だと強調するのか? その主な原因として、「経済の発展」と「人口増加」、「気候変動」を挙げている。

「経済が発展した過去100年間における水の需要動向を見ると、水消費の増加率は、人口増加率に対して約2倍になることがわかっています。2020年に約78億人だった世界人口は、2050年には約1.3倍の約100億人近くになると予想されています(注)。そうなると、水資源は最低でも現在の2.6倍の量が必要になると予測されます」

(注)出典:総務省統計局「世界の統計 2021」

人口増加に伴い水の需要が増大しても、地球上には限られた水資源しかない。地球上に存在する水のうち、約98%が海水で、淡水は約2%である。さらに、淡水の大部分は南極や北極の氷山などであり、人間などの陸上生物がいますぐに利用できる水は全体の0.01%にも満たない(図1)。

図1:地球上の水の量
図1:地球上の水の量

出典:国土交通省「令和2年版 日本の水資源の現況」より編集部作成
※ World Water Resources at the Beginning of 21st Century; I. A. Shiklomanov and John C. Rodda, 2003をもとに国土交通省水資源部作成。
※ 南極大陸の地下水は含まれていない。

次に、気候変動についてだ。日本は水資源に恵まれているため、遠い話題に感じている人もいることだろう。しかし、吉村さんは、「日本も今後、危険水域に突入する」と警鐘をならす。

「日本は島国で海に囲まれ、自然の水循環が非常にうまくいっているため、水資源が豊富にあるように見えます。しかしながら、たとえば地球温暖化によって積雪量が少なくなるなどの気候変動があれば、顕著に影響が出ます。

日本の水資源の多くは、雪解け水や雨水が約15年から20年かけて地面にしみこみ、たまった『地下水』で賄われているため、気候変動が起こってもすぐに影響が出ることはありません。水不足を実感したときには、かなり苦しい状況になっているでしょう」

気候変動による水不足の影響は、台湾で如実に表れている。台湾は2020年に、毎年来るはずの台風が1つも上陸しないという異常気象による降雨不足の影響で、現在約56年ぶりの深刻な水不足に陥っている。

2025年、水ビジネス市場は110兆円の規模予想

水問題の深刻化と、水の決定的な需要の高まりに伴って、世界で注目を集め始めているのが、水のインフラ整備に携わる「水ビジネス」だ。2025年までに110兆円の規模に達すると見込まれている水ビジネスには、どのような事業があり、直近ではどういった成長を見せているのか。

水ビジネスのメイン事業として、ダムや堰など水を貯めておくことのできる施設をつくる「水源開発」や、安定的に工業用水を供給するシステムを提供する「工業用水供給」、「上水道供給」や「下水処理」、海水から淡水を作り出す「海水の淡水化」などが挙げられる。

そして、これらの事業展開において、水処理のプラントメーカーや水道のメンテナンスサービス会社、水道コンサルティング会社、地方自治体、さらには事業に投資する総合商社や金融機関など、多様なプレーヤーが横断的に存在している。吉村さんによると、主な事業展開とプレーヤーの関係は下図の通りだ(図2)。

図2:水ビジネスの主な事業とプレーヤー
図2:水ビジネスの主な事業とプレーヤー

※ 吉村氏へのインタビューをもとに編集部作成

「2020年における水ビジネス分野の成長率は、世界全体で前年比プラス6%。途上国だけを見ると前年比プラス12%であったとのことです。また今後は、地球温暖化の影響により干ばつや洪水など自然がもたらす脅威が激しくなるにつれ、排水路や堤防などを新設する『洪水対策』や、災害時や緊急時に工業用水や地下水を飲料水レベルへ浄化する『仮設飲料水製造装置』などを提供する、『水災害防止市場』への伸びも期待されています」

このように、市場の成長が期待される一方で、水ビジネスには「水」特有の解決すべき課題がある。それは、水資源が他の資源と比較して特異な存在であるためだ。

「水は重量があるのに単価が安く、長距離運搬すると割が合わない。しかも、アジアで大雨が降ってもアフリカでは日照りが続くというように地域差があり、水は地域に属する固有資源です。雨は適量であれば恵みでも、降らなければ干ばつ、降りすぎると洪水など水害が起こります。さらに、長期間保管すれば品質が劣化するため、場所や時間、量、品質がニーズと適合しなければまったく役に立ちません。

このように水ビジネスでは、(1)供給コストと販売価格の問題、(2)ニーズと供給品質の問題をクリアしなければ、経済性の追求が難しいのです」

しかし、水資源がひっ迫すればするほど、その経済的な価値は向上し、大きな水ビジネスへと成長する可能性を秘めている。生きていく上で欠かせない飲料水だけではなく、人口増加に伴う食糧を支える農業用水、エネルギー資源をはじめ工業に活かされる水など、多種多様な領域で水が求められているからだ。

「水なくして国家なし」――水ビジネスの気運が国際情勢に影響する

ここで世界における水ビジネスの事例に目を向けてみよう。

たとえば、先ほど例に挙げた台湾は、2020年度の半導体輸出額が過去最高の約36兆円を記録し、国・地域で見た半導体の生産能力が世界トップである。半導体産業には清浄な超純水が豊富に必要である。しかし、気候変動の影響で水資源が不足したことにより、世界の半導体需要を満たせない状態に陥っている。

台湾経済部は、行政府を挙げて半導体産業を維持するため、海水淡水化や節水率の引き上げなど、その関連対策費として約51億円を計上したことを明らかにしている。これは水資源の問題が、台湾域内の経済に直結するのみならず、世界経済に影響を及ぼす典型的な例である。

このように、世界の水ビジネスの動向は、国民の生活のみならず国際情勢に影響する可能性があるため、世界的にも大きく注目を集めているという。

「世界巨大水企業(ウォーターバロン)といえば主に水の処理事業を行う、フランスのヴェオリア社、同じくフランスのスエズ社、イギリスのテムズウォーター社などが挙げられます。2020年、ヴェオリア社が同国スエズ社に敵対的買収を仕掛けたというニュースが流れ、水業界を大きく驚かせました。フランス大統領はこれを歓迎しましたが、同国の経済大臣は、水道事業が1社で独占されると、料金の値上げやサービスの低下を招くとして反対の立場を表明しています。

2021年3月まで、独占禁止法などに違反するとしてパリの裁判所で係争中でしたが、2021年4月初めに両者の合併が報じられ、世界最大の水企業が誕生します。その他、各国のインフラ投資銀行や投資ファンドも豊富な資金源を武器に、世界の水市場を狙っています」

第二次世界大戦後から1960年代にかけては、国際石油資本と総称され石油の生産をほぼ独占状態に置いた7社が、世界経済に大きな影響を与えた。1995年、当時の世界銀行の副総裁は「20世紀の戦争が石油をめぐって戦われたとすれば、21世紀は水をめぐる争いの世紀になるだろう」と警告したという。水ビジネスの気運が、世界経済に一石を投じる可能性は想像できる。

「水ビジネス」は人が生きている限り継続する

ビジネスの観点だけでなく、水問題はSDGsのあらゆる課題を解決するキーワードである。

「持続可能な開発のために国連が定めた17の国際目標であるSDGsでは、6つめの目標として『安全な水とトイレを世界中に』と謳われています。しかし、水問題をこの観点だけで捉えるのは狭義の解釈です。

身の回りに安全で十分な水資源があれば、農業ができるため貧困や飢餓の問題解決にもアプローチできますし、不衛生な水を媒介にする病気にかかるリスクを削減することができ、健康と福祉を支えることにも繋がります。

また、世界的にCO2排出ゼロの達成に向けた取り組みが検討される中で、燃焼時に二酸化炭素を排出せず、水の電気分解で得られる『水素エネルギー』が注目されるなど、水は17の目標それぞれの解決に向けて、極めて重要な手段を提供することができます。つまり、水がなければSDGsは達成されないとも言えるのです」

では、一人一人が、今後どのような姿勢で水問題や水ビジネスに関心を向けるべきか。国連勤務終了後、自身のライフワークとして、水に興味を持つ若者の育成をめざす「志水塾」を開設する吉村さんは、若手ビジネスパーソンへのアドバイスとして、また、エールをこめて、こう話す。

「うれしいことに、若い世代ほどSDGsやESG(環境、社会、ガバナンス)投資への意識が高いことを実感しています。そこで、具体的にどんな形でSDGsやESG投資に貢献できるかを考えると、例えばそういった取り組みに積極的な企業へ投資をするという手段もあります。投資先を選ぶ際のチェックポイントは4つあります。

(1)長期的な価値を生み出すためにSDGsやESGに取り組んでいること
(2)財務としてサステナブル投資やインパクト投資に取り組んでいること
(3)社会活動に積極的に取り組んでいること
(4)それらの成果を自社の環境レポートなどに反映させ、毎年チェックボックスとして評価していること

ぜひ、自分の興味にある分野にのめりこんで研究してみてください」

水は生きる上で必要な資源であり、人が存在する限りこの需要はなくなることはない。そして、水ビジネスの発展は、水問題の解決に道をひらくことになる。

水ビジネスを単に環境保護に寄与する事業だと狭義に捉えるのではなく、課題がありながらも、今後大きな飛躍を遂げる可能性を秘めているビジネスだと理解することで、世界経済の見方や明日からの行動の選択が違ってくるのではないだろうか。

【お話をお伺いした方】
吉村 和就(よしむら かずなり)

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