国内最大の
STOの取扱いを実現
STという新しい金融商品に関連するビジネスに立ち上げ時から従事しています。STはデジタル証券とも呼ばれ、ブロックチェーンなどの技術を使い、不動産や債券などを 裏付けにしてデジタル化された有価証券です。STによる資金調達を、STO(セキュリティ・トークン・オファリング)と言います。投資家から見ればこれまでにない新しい投資の選択肢で、 市場は年々拡大しています。野村證券は今年8月までに10件の国内公募STOの発行に関与し、この業界のフロントランナーとして地位を確立しています。 直近では2023年8月、ケネディクス(国内最大級の不動産アセット・マネジメント会社)による、月島(東京都中央区佃)にある超高層タワーマンションを裏付けとするSTを取扱いました。 このタワーマンションの鑑定評価額は300億円です。このうち、STOでの調達額は国内最大となる134億円で、個人投資家を中心に販売しました。投資家は1口100万円から購入でき、 不動産の賃貸収入から分配金を得ることができます。10年間の運用後にこの物件は外部に売却され、物件価格が上がっていれば、持分に応じた利益が得られます。 年率換算の分配金利回りは3.47%を見込んでおり、新しい不動産投資の選択肢として顧客の反応は上々です。 このようなSTやデジタル通貨、暗号資産などのデジタル化された資産(デジタル・アセット)が、健全性・公正性を保ちながらグローバルに流通する市場を、私たちは「Web3金融市場」と 呼んでいます。「伝統的金融と分散型金融の双方の利点を兼ね備えた次世代の金融市場」であり、「健全性・公正性を担保しつつ、インターネット上で世界中の人々が様々な商品に手軽に 投資できる金融市場」であると定義しています。
個人による不動産投資には現物不動産投資や上場リート投資があります。現物投資は手続きが煩雑で、多額の資金や物件の管理が必要というデメリットがあります。上場リートは小口で 投資できますが、値動きが激しく、必ずしも投資対象となる不動産の価値が適切に価格に反映されるわけではありません。 一方で、不動産STは投資対象が明確で、プロが運用管理をしてくれ、不動産の価値に準じた価格が形成されます。税制面では金融商品として特定口座での取扱いが可能で、損益通算もできるなど メリットが多く、これまでになかったタイプの不動産投資商品です。 野村證券が初めてSTOを取扱ったのは2021年8月で、まだ2年ほどしかたっていません。私は新卒で野村證券に入社後、営業や投資銀行業務に従事しましたが、 次世代の金融のあり方を当社で実現したく、当時まだ役員4人しかいなかった未来共創カンパニー(現在のデジタル・カンパニー)に異動希望を出しました。
野村證券として新領域に挑戦を
関係部署をひたすら行脚
以前の部署では上場不動産会社や上場リートを担当していました。仕事で参加した不動産関連のカンファレンスで、ウェブ上で多数の人から直接資金を集める
「不動産クラウドファンディング」の存在を知りました。当時、私が関わっていた大企業の資金調達は、事前準備から発行に至るまで、膨大な作業と時間をかけて行うものでした。
それに比べ、「こんなにライトな資金調達の方法があるのか」と新鮮さを感じました。
現在の直接金融市場の参加者は上場企業や富裕層がメインで、参加者は限定的と言えます。一方で、不動産クラウドファンディングでは、色んな不動産やプロジェクトを元手に、
インターネット上で多くの投資家から資金を集めていました。
このように、資金を調達したい人と事業を応援したい人が直接つながる枠組みが定着すれば、金融市場はますます発展するのではないか。それらを取り込んでビジネスにできれば、
世の中にもっと好影響を与えられるのではないか。野村證券として新領域に挑戦できないだろうか。
そんな思いで、デジタル分野への積極的なチャレンジを掲げる未来共創カンパニーの社内公募に手を挙げました。2019年に異動すると、海外ですでに事例が出ていたSTOを社内でも
検討しようという動きがありました。STOの基盤技術となるブロックチェーンには、仲介者不在で参加者同士のやりとりが可能といった特長があります。私が実現したいと思っていた
「資金調達者と投資家が直接つながる枠組み」にコンセプトが似ていました。不動産証券化商品である上場リートに関する知識も生かせそうだったので、ぜひSTOをやりたいと
チームに入りました。当初は役員1人と先輩2人と私、というたった4人のチームでした。
ブロックチェーンやSTOという新しい概念、ビジネスを理解してもらうために、たくさんの役員、部長、関係部署に説明して回りました。最終的には総勢200人くらいの役職員が案件に
関与しましたが、当初はなかなか理解が得られず、実務上の課題も膨大で、「もう無理かもしれない」と何度もくじけそうになりました。
でも、私たちが諦めればこのビジネスは実現しそうにありませんでした。「結果はどうあれ、今の野村ができること、できないことを明らかにすることが野村のためになるんだ」と
上長から励まされ、次につながる結果を残したいという気持ちで走り抜けました。
1年以上かけて実った
国内初の公募型不動産STO
多数の方の協力もあり、2021年8月、東京都渋谷区のマンションを裏付けとする国内初の公募型STOが実現しました。その後も、群馬県の草津にある温泉旅館を扱った不動産STO、
日本取引所グループや丸井グループによる債券STO(デジタル社債)など、次々と案件を取扱うことができました。
ボストン・コンサルティングの推計によると、2030年にはSTOのグローバル市場規模は16兆ドル(約2,300兆円)にまで拡大します。不動産、債券だけでなく、多種多様なアセットが
STOの対象になりえるので、どんどん成長する分野だと確信しています。野村證券としては、STに限らず質の高い金融サービス、商品を社会と顧客に提供し、豊かな社会の創造に貢献することを
目指しています。個人的には当初の目標通り、健全性・公正性を保ちつつ、「資金調達者と投資家が直接つながる枠組み」を提供することで、直接金融市場がますます発展すればいいなと
思います。STの仕組みを活用すれば、これまでになかった商品が誕生し、資金調達の多様化が進み、投資家にとっては新たな投資の選択肢が提供されるでしょう。
現在のSTOはブロックチェーンを使っているとはいえ、多くの部分では従来の金融の仕組みを使っています。今後は周辺のDXが進み、株式や投資信託などのいわゆる伝統的金融と、
暗号資産などの中央管理者がいない分散型金融が少しずつ、あるいは一気に近接・接合していくのではと考えています。
将来的には、多くの人がスマホ上でデジタル・ウォレットを持ち、世界中のSTに自由に投資ができるようになるかもしれません。ブラジルの人が、東京都内のタワーマンションに
簡単に投資ができる。日本人が、アフリカの鉄道建設プロジェクトに簡単に投資ができる。そんな自由でグローバルな“Web3金融市場”を実現させたい。そうやってお金が循環し、
経済が成長する未来を夢見ています。秩序ある分散型金融が発展するとき、野村證券が果たす役割は大きいはずです。
STやデジタル・アセットは次世代の金融商品で、可能性は無限大です。野村證券には高いスキルやナレッジを持った人材が多く、困難な課題に対して正々堂々と向き合い、解決する力が高いと
実感しています。また、企業理念に「挑戦:変化を尊重し、成長への情熱と勇気を持って挑戦を続ける」と掲げている通り、チャレンジすることを後押しする文化もあります。テクノロジーを
使い、社会、経済、金融市場を変えたい、発展させていきたいという情熱を持つ方と一緒に働きたいと思います。
※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。
My Project
Career
Shota Sakamoto
- 2012年
- 野村證券入社、営業部門でリテール営業に従事
- 2015年
- ホールセール部門(投資銀行)にて、上場不動産会社、
上場リートのファイナンス、コーポレートアクションなどの案件創出や案件執行に従事 - 2019年
- 未来共創カンパニー(現在のデジタル・カンパニー)に異動
セキュリティ・トークン(ST)ビジネスを推進