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基礎から学べる行動ファイナンス 第11回 「複雑さを避ける(2)」

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野村證券金融工学研究センターの大庭昭彦が投資や資産運用の際に人が陥りがちな「バイアス」に関して解説する「基礎から学べる行動ファイナンス」シリーズ。第11回では、単純化による間違いの避け方を取り上げます。

なんでも「単純化」してはいけない

前回は行動コントロール技術の3つ目として「単純化」を紹介しました。

前回説明したように、適切にコントロールされた単純化は非合理な選択を避ける助けとなります。ならば、「なんでも単純にすれば良いのか」というと、全くそうはいえません。

例えば「この金融商品は、リスクを取れば、一定の確率で高い収益が得られる」という話を、途中を省いて「この金融商品は高い収益が得られる」と「簡単」にしてしまうのは大きな問題があります。

一方、そもそも人は日常的に多くの「判断」をしており、それぞれの場面で単純化を行っています。単純化しないと、朝起きてから寝るまでの間にしなければいけない多くの選択は、いつまでたっても終わらないからです。

本連載第2回で紹介した「2重過程モデル」では、この作業の多くは、間題を単純化した上で直感的に迅速に決定する「直感システム」によって行われますが、残念ながら多くの間違いを犯してしまうことも分かっています。

間違いを減らすには…

間違いを減らすには、ゆっくり検討して判断する「熟慮システム」の働きも必須です。「直感システム」と「熟慮システム」のどちらか一方だけでは人はうまく生活していくことが難しいのです。

「直感システム」が間違いを犯すことがあるのは仕方がないとして、間違いを犯しすぎないよう「熟慮システム」うまく組み合わせる必要があります。この技術こそ、行動コントロール技術としての「単純化」です。

ここで、自然に任せると間違った単純化の起こりやすい取引や商品を2種類だけとりあげて、正しく単純化するための注意点を示しておきましょう。

1つ目は信用取引などレバレッジの大きな商品です。信用取引する場合には、見かけの投資金額より、「実際にリスクにさらされている金額がいくらか」に注意を払うべきです。

人は自らが主観的に捉えた確率や、認知的不協和などのバイアスの効果によって、大きな利益の発生や損失が起こる確率を適切に評価できないことがあります。損失が起こる時の金額や確率を過小評価しがちなので、それは避けなければなりません。

また、2つ目は生命保険契約です。生命保険は自分の命に関する契約という性質上、もともとさまざまな心理バイアスが入りやすい(過剰に契約したり、保険料が割高でも気にしなかったりする)ことで知られています。

さらに、死亡保険・生存保険・医療保険など、保険の種類は多様で、複雑さによる非合理な行動を生じさせやすいといえます。

「不安だから」必要以上にかけてしまう「保険」

生存保険と医療保険は別に検討するとして、死亡保険のみを取り上げて簡単化すれば、適正な必要保障額の目安は、自分が事前に立てている(はずの)フィナンシャルプランのロジックから直接得ることができるといえます。

合理的とは言えない不安のみで過剰に生命保険をかけることは不要ですし、保険料が割高かどうかにも十分注意した方が良いかもしれません。

(KINZAI Financial Plan 2023年11月号掲載の記事を再編集したものです)

【大庭 昭彦】

野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。

本稿は、野村證券株式会社社員の研究結果をまとめたものであり、投資勧誘を目的として作成したものではございません。2023年10月現在の情報に基づいております。

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