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基礎から学べる行動ファイナンス 第12回 「イメージの力」

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野村證券金融工学研究センターの大庭昭彦が投資や資産運用の際に人が陥りがちな「バイアス」に関して解説する「基礎から学べる行動ファイナンス」シリーズ。今回は、貯蓄や投資におけるコントロールのポイントについて取り上げます。

金額より「顔」をイメージする

当たり前のこととは言え、「投資をするのは、増やしたお金でやりたいことや買いたいものがあるからだ」と意識しておくことは大切です。

やりたいことや買いたいものをイメージし続けることで、投資を継続しやすくなり、さまざまなバイアスの悪影響を防ぐことができると分かってきたからです。

例えば、毎月の貯蓄を封筒に入れて保管している家庭で、「封筒に子どもの写真をつけたところ貯蓄率が上昇した」「特に貧しい家庭での貯蓄率は倍になった」という米国の謂査結果があります。

子どもの将来の教育資金が目標だという場合、金額よりも子どもの顔をイメージした方が貯蓄しやすい、ということでしょう。

住宅の購入や、旅行などの「ゴール」を意識して資産運用する「ゴールベース運用」の口座管理サービスでは、利用者1人が複数の目標を指定ができます。

「キャンプ用4WD」など投資目標を示す具体的な名前を付け、目標ごとに投資期間と予算を決めておけば、金融機関が継続的に資産状況をモニタリングし、目標の達成度や達成のお祝いなどをメールなどで伝えてくれます。これは、イメージの力の応用したサービスと言えます。

良いイメージに含まれるポイントとは?

もちろん、どんなイメージでも行動コントロールに役立つわけというわけではありません。心理学者のダニエル・クロスビーによると、良いイメージ(※1)には次の4つのポイントのいずれか、または複数が含まれるといいます(※2)

一つ目のポイントは、一般的でなく個人的であることです。一般に人が喜ぶといわれていることより、些細なことでも自分がうれしいと思うことの方が特別なイメージとして心に残りやすいということです。これは投資目標がもともと具体的であればたいてい満たされるでしょう。

2つ目のポイントは肯定的であることです。否定的な感情も行動を促しますが、肯定的な感情の方が長期的な行動を促すうえで好ましいといえます。特にそのイメージが「自分のため」よりも「人のため」の時に肯定的になりやすいということも大事なポイントでしょう。

3つ目のポイントは身近であることです。「欲しい車を運転する自分をイメージする」といったような行為が分かりやすい例です。ですが、使う時までの期間が長くなるほど身近に感じにくくなってくるので、次の四つ目のポイントなどを意識する必要があります。

4つ目のポイントは持続的であることです。将来にわたって続くイメージ、サステナビリティ(持続可能性)は、特に長期投資に有用といえます。家族に遺そうと考えている遺産、孫に援助しようと考えている教育費、応援している団体への寄付などのゴール策定はその典型になるでしょう。

良いイメージが「個人的」で「肯定的」かつ、「身近」で「持続的」という四つのポイントを踏まえると、「自分の子どもの写真を貼った封筒によって貯蓄が増えた」という先述の成功例は、決して偶然ではなかったと言えそうです。

※1 クロスビーが「サリエンス」と呼ぶ性質。

※2 2016年「ゴールベース資産管理入門」(野村證券ゴールベース研究会訳、日本経済新聞出版)

(KINZAI Financial Plan 2023年12月号掲載の記事を再編集したものです)

【大庭 昭彦】

野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。

本稿は、野村證券株式会社社員の研究結果をまとめたものであり、投資勧誘を目的として作成したものではございません。2023年12月現在の情報に基づいております。

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