野村ウェルス・マネジメントのチーム
「全部任せた」と
言ってもらえてからが挑戦
複雑な課題を解決に導く知的好奇心
福住 直彦 プライベート・バンキング部
- 2006年、新卒で野村證券に入社。横浜支店、福岡支店でのパートナー経験を経て、2013年からプライベート・バンキング部配属
プライベート・バンキング部は、金融機関の中でも独特の存在かもしれない。パートナーとともに、法人オーナーなどの特別なエグゼクティブに接し、複雑な課題を先回りして解決するためにあらゆる手段を講じる。富裕層の課題解決に特化したエキスパートたちだ。専門性を発揮するのは資産運用だけではない。時には本業支援、時には家族の問題。さらにはお客様が人生をかけて取り組みたいテーマをともに追求して、野村の全リソースを集約する。まさに、野村のウェルス・マネジメントのハブとなる組織だ。その組織を束ねる福住直彦は「この仕事から離れたくない、面白くて仕方がない」と言う。福住がプライベート・バンキングの意義を語る。
「NOと言わない」R&D組織
「まさか、そこまでやるとは」。プライベート・バンキング部に配属されて11年。お客様にそう言ってもらえた経験が何度もあります。例えばある法人オーナーのお客様が、情熱的に応援しているアーティストがいると打ち明けてくださいました。野村とはもちろん関係性はなく、私には土地勘もない。お客様の利益につながるという保証もない。それでも私は迷わず正面玄関から、そのアーティストを訪ね、「一緒に何かできませんか」と伝えに行きました。それがお客様の求めることだと思ったからです。
驚かれつつも、何度か交流しているうちに、「実はアート活動に欠かせない特別な品を製造してくれる会社を探している」という話が出てきて、お客様の会社がそのアーティストを支援できることになりました。お客様は非常に喜んでくださり、「自分にとって大切なことは全て野村に相談し、任せる」とおっしゃったのです。こういった、唯一無二の関係性が作れると、もはや他社と競合するという概念はなくなります。
未知の「トライ」は、経験のないことですからうまくいかない可能性も大きい。それでも、私たちは組織として、お客様のご要望に対して、決してNOと言わないという文化を持っています。
私自身、お客様がどれほど荒唐無稽なことをおっしゃったとしても、まず「そうですね」と受け入れるところから始めます。そして、会社に持ち帰って、不動産や相続、M&Aなど、お客様が持つ課題に対する社内外のプロフェッショナルと議論し、ソリューションを組み立てます。この作業ができるプライベート・バンキング部を、私はR&D部隊だと思っています。つまり、新たなソリューションを研究・開発する組織なのです。
プライベート・バンキング部には「失敗よりも、ノートライ・ノーエラーを避ける」という文化があります。やってみることでお客様に喜んでいただける道が開け、それがめぐりめぐって会社の利益につながることを、組織として経験的に知っているのです。
トライの蓄積が膨大にある会社なので、持ち帰って検討すれば突破口が見つかることが多いですね。「野村さんはガリバーだからもっと堅いと思っていた、まさかここまで」と言われるほど、柔軟性が高いんです。これは野村ならではだと思っています。
「全部任せる」と言ってもらえる理由
私たちが接しているのは、富裕層といわれる方たちのなかでも、特に資産規模が大きいお客様で、抱えている課題が複雑になることがほとんどです。代々受け継いだ事業や不動産が複数あり、親族間で共有している、簡単に売却はできず解決しなければならない問題がある……。お客様の課題が複雑であればあるほど、私はなんとしても解決したいという思いにかられます。目の前に尊敬する偉大な人がいて、大きな課題を持っている。それを解きほぐし、突破口を見出したいという知的好奇心が騒ぐのです。
ほとんどのお客様は、お会いしてすぐに課題を開示してくれるわけはありません。ある法人オーナーのお客様のもとに2年間通って、いろいろなお話をしました。その時点では私にはお客様の課題が見えていないので、想像しながら何かヒントになればと、話すしかありません。
そんなある日、突然、お客様が「全部任せた」とおっしゃったのです。資産運用の提案にとどまらず、歴史ある自宅のリフォームや売却、大切な家族への資産配分、これから理想の終の棲家を見つけることまで、すべての提案についてです。この方は、事業経営でも本当に信頼している部下には困難なことも含めて権限移譲する経営者でした。私も腹心の部下と同じように信頼していただけたことに、責任を感じました。
信頼を得ることができたのは、2年間の会話で、優れたソリューションを提案したからではないと思います。お客様の課題は非常に重く、すぐに解決できるものではありません。何年かかるかもわからない課題解決に、逃げずに向き合い続けることができるのか。そこの胆力を見られていたと思います。2年間の会話で、お客様の人格に感銘を受け、「この人のためになることをしたい」と心から思っていたのが伝わったのかもしれません。
ソリューションの開発プロセスを楽しむ
例えば3人のご子息がいる法人オーナーのお客様が、相続の配分について悩んでいたとします。金融機関や税理士先生の立場では、税金を少なく抑えることを主眼に検討・提案をしがちで、その策を考えるだけなら難しくありません。
大切なのは、会社の発展を第一に考えながら、お客様の思考回路、ご家族のパーソナリティや感情まですべて頭に入れたうえで、どのようなストーリーを構築するかです。どう配分し、そこにどのように意味づけを行えば経営が盤石なものとなり、創業ファミリー全員の幸福を実現できるのかを考え抜きます。
先日も、あるお客様の資産配分について、不動産や税のプロたちにも意見を聞きながら検討していました。今決めて実行することが、将来にわたってご家族の幸せをつくる最初のステップだと知っているからこそ、妥協はできません。ついに最高のソリューションを考案できたとき、「これだ!」という手ごたえを得ました。
巨大企業オーナーとの30分のミーティング
もうひとつ、ある巨大企業のオーナーであるお客様に鍛えられた経験があります。そのお客様には、30分の月例ミーティングのお時間をいただいていました。超多忙なお客様にとって、野村の人間と話す30分だけがご自身の資産について考える時間です。私たちは30分の間に、経済情勢や世界の巨大企業のビジネス事例、それがお客様の企業におきかえるとどのように考えられるかなどの話をします。
世界的企業の社長に対して、凡庸な話をしていてはすぐに打ち切られてしまいます。知られざる世界企業の動向などを調べつくし、2週間かけて準備して、やっと5分間分の話になるくらいの濃度で臨みます。役に立つと思ってもらえなければ、お客様とのご縁が切れてしまうかもしれない。無我夢中で、限界まで考えて臨んでいました。
プレッシャーの大きい仕事ですが、この刺激こそプライベート・バンキング部の醍醐味なんです。世界企業オーナーの信頼を得る挑戦に終わりはありません。
変わるのはお客様ご自身、私たちは待てる組織
プライベート・バンキング部のメンバーは、特別なお客様に何年もかけて接する経験を積んでいます。
その結果学んだのは、変わるのは世界情勢や事業環境だけではない、お客様ご自身が変化するということです。私たちが提案するソリューションについて、すぐに納得いただかなくてもいいのです。お客様ご自身が年齢を重ねて考えが変わる、ひらめくときがあると、私たちは組織の経験値として知っています。富裕層のお客様が将来どのような課題を持つかを先回りして考えつつも、そのときが来るまで待つことができます。
富裕層のお客様の数だけ新たなソリューションがあり、それを開発するプロセス自体に知的好奇心が満たされる楽しさがあります。自分が開発したソリューションにより、お客様が幸せになる。そして自分もともに幸せになれるというやりがいを、社内外に伝播していく役割も担いたいと思っています。
プライベート・バンキング部をより強くしていき、日本の富裕層が抱える課題を一つでも多く解決したいのです。お客様とともに成長を続けられるこの仕事が天職だと思っています。