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#書評

60代からのバフェット入門―賢く豊かに生きるための投資哲学

2020年4月8日

世界一の投資家として誉れ高く、その英知に富む言葉や行動から「賢人」とも称されるウォーレン・バフェット。しかし、「名前は知っているけれど、その具体的な言動はあまり知らない……」という方も多いかもしれません。であるならば、それはあまりにももったいないといえるでしょう。

同氏の投資に対する姿勢や哲学は、「賢く豊かに生きる」ための学びの宝庫。これからの人生をさらに楽しんでいく上で、ぜひとも知っておきたいところです。今回の記事では、そんなバフェットの教えがまとめられた一冊、『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(桑原晃弥 著、朝日新聞出版)を作家・書評家の印南敦史(いんなみあつし)さんが読み解いていきます。

「世界一の投資家」の意外な姿とは

ウォーレン・バフェットは、四半世紀以上にわたり世界長者番付トップ10に君臨し続ける資産家である。同時に優秀な投資家でもあり、自らが経営する投資会社バークシャー・ハザウェイの株価を45年で82万%も上昇させた実績も持っている。

驚かされるのは、わずか11歳で投資を始めたという事実だ。しかも、その結果としてたった一代で巨万の富を築き上げたのだから、稀代の資産家、投資家として長きにわたり語り継がれているのも当然なのだ。

しかも、それだけの実績を持ちながら、彼に傲慢さは微塵もない。その証拠に慈善事業にも熱心で、2010年にビル・ゲイツとともに寄付活動「ギヴィング・プレッジ(The Giving Pledge)」を開始したことでも知られている。本当の成功者は驕らないものだが、まさにその典型と言えよう。

そんな生きざまは、私生活にも明らかだ。なにしろ1958年に3万1500ドルで購入したネブラスカ州オマハ郊外の質素な家にいまも住み続けているのである。

服装にも無頓着で、食事についても「腹を満たせればいい」という考え方。ジャンクフードも大好きで、子どもがそのまま大きくなったような感じなのだ。

だが、それでいて教育には熱心。甘やかすことは子どものためにならないという信念のもと、3人の子どもを厳しく育て、成功へと導いてもいる。

つまりは愚直かつ堅実に生きてきたといえるが、それは独自の投資スタイルや投資哲学にも通じる。端的にいえば、高度で難解なテクニックを駆使するのではなく、きわめてシンプルな“当たり前”のことをきちんとやっているにすぎないのだ。

バフェットの基本を学べる一冊

総じて人として非常に魅力的であり、その人柄は今回ご紹介する『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』からも実感できるだろう。

これまでに刊行された多数のバフェット関連書籍から、本人が投資について語ったことばを厳選し、「7つの法則」としてまとめた一冊。投資術、仕事術、お金に関する哲学が法則化されているため、“バフェットの基本”を体系的に学ぶことができる。

もちろん、そのことばや哲学は、投資についてのみ説得力を持つわけではない。なにしろ前述したとおり、実直で魅力的な人なのだ。ゆえに、投資の枠にとらわれず、「賢く豊かに生きる手段」を提示してくれる一冊として読み進めるのも面白い。

シンプルで簡潔なその法則のなかから、いくつかをご紹介することにしよう。

法則1:世間を眺めて判断しない──「逆」が富を生み出す

投資を行う際には、世間的な評判、あるいは権威の意見や薦めなどに左右されることなく、「自分の頭でしっかりと考える」ことが大切であるとバフェットは説いている。

「なぜこの会社を買収するのか」という題で1本の小論文を書けないなら、100株を買うこともやめたほうがいい。──『バフェットの株主総会』(p.15)

学生時代、父親と株を共同購入した企業の株主総会に出席した帰りに、バフェットは大金持ちの投資家ルイス・グリーンと昼食をともにした。そのとき、「なぜその会社の株を買ったのか」と問われたバフェットは、尊敬するベンジャミン・グレアム(著名な投資家・経済学者)が同社の株を買ったからだと答える。

グレアムが教鞭をとっていたからニューヨークの名門コロンビア大学に進んだというほど、バフェットは彼の影響を受けていた。つまり彼に従うことは当然だと考えていたわけだが、それを聞いたグリーンの口からは思いもよらぬことばが出た。

「人がすすめるから買うのかい? 坊や。いいか。投資は自分の頭で考えて行うものだ。今回はまだアウトまでは取らないが、ストライクは取るぞ」(p.17)

このときバフェットは、投資について重要なことを学んだ。いうまでもなく、誰かを模倣するのではなく、自分の頭で考えて行うことの重要性だ。結果、バフェットは以後このグリーンの言葉を教訓として投資を行うことになったのである。

独力で考えなかったら、投資では成功しない。──『スノーボール』(p.18)

そして1951年、まだ21歳だったバフェットは、なんと資産の65%を売り払い、通信販売専門の保険会社の株を購入するという大胆な集中投資を行う。

もともとその会社に注目したのは、尊敬するグレアムが取締役会長を務める会社だったからだ。だが、その時点での彼は「自分で考え、判断する」ことを学んでいた。なんと彼はその会社を直接訪問し、のちにCEOとなる人物と4時間にわたって話し込んだうえで、購入を決意したのである。

今、バフェットは世界最大の投資持ち株会社バークシャー・ハザウェイのCEO兼会長として世界の注目を集める。バークシャーの手元資金は2011年6月末で478億ドル、日本円で3兆8240億円(1ドル80円換算。以下同じ)という巨額だ。

その株主総会を訪れる若い投資家たちに、バフェットは「なぜその銘柄を、なぜその価格で買うのか」とみずからに問いかけてほしいとアドバイスする。(p.19)

目先の浮いた話に影響されているだけで、確固たる信念がないのだとしたら、購入すべきではないという考え方である。

なぜなら、大切なのは自主性だからだ。周囲がどう判断するかの問題ではない。自分で感じ、自分で考え抜き、自分で決める。それなしに、巨富を得ることなど不可能だということだ。

法則5:一攫千金を禁じる──「当たり前」が富を生み出す

そしてこうした「自分で考え、判断する」ことを重視するバフェットの姿勢が意味しているのは、「投資は決して博打ではない」ということだ。

投資は力仕事ではない。人一倍、読み、考えなくてはならない。──『バフェットの株主総会』(p.129)

バフェットの学生時代の恩師であるグレアムは、「投資のリターンは、どれほどのリスクをとったかによって決まる」という考え方に疑問を呈した人物であった。多くの人がリスクの多寡に重きを置くなか、「問題はリスクの多寡ではなく、投資を行うにあたってどれだけの“知的努力”を注ぐことができるか」であると断言していたのである。

そして、バフェットもまた同じ考え方の持ち主であった。実際に彼は10歳のころから図書館にある金融関係書籍を片っ端から読みあさっていたが、大学入学後も、会社勤めを始めてからも、そうした努力を続けていた。

バフェットは自分で考えること、知的努力を怠らなかった。そこに成功の鍵があるのである。

分野からチャンスは生まれません。頭脳からチャンスは生まれます。──『バフェットの株主総会』(p.131)

たとえば父の会社であるバフェット・フォークに勤めていた時期にも、バフェットは“習慣”を維持した。1万ページにもおよぶ「ムーディーズ・マニュアル(諸企業の統計・財務情報をまとめた書籍)」を、1ページ残らず、しかも2度も繰り返し読んだのだ。言うまでもなく、知識を蓄え、買うべき株を探し続けるためにである。

そうした地道な努力を続けてきたからこそ、バフェットは「投資をすればほぼ確実に利益が約束されている会社」を見つけ出し、成功を手にしているのだ。

そのためには膨大なエネルギーと時間が必要となるが、かけた知力に見合うだけの収益を上げられるのであれば、努力はたやすいことだと考えていたようだ。

バフェットは金融工学のような複雑な投資戦略を用いたわけではない。多額の借入金をして、「ハイリスク・ハイリターン」の博打を打ったこともない。有能なコンサルタントを雇って助言を求めたわけでもない。

若い頃から膨大な資料に目を通し、時に直接話を聞くといった並外れた知的努力を傾け続けることが手段だった。(p.132)

そうやって「買うべき株」を見つける目を養ったからこそ、世界一の投資家になれたということ。それは、「当たり前」のことを徹底して遂行することの重要性を物語ってもいる。

彼は投資家として成功するにはなにが必要かと問われたとき、「本を読むことです」と答えたという。ただし、そこにもうひとつの答えをつけ加えることを忘れなかった。

少額でいいですから、投資をしてください。本を読むだけではダメです。──『バフェットの株主総会』(p.135)

「少額でもいいから投資をする」ということ。本を読むことは必要だが、だからといって本を読むだけで成功できるわけではない。自分の頭で考え、本を読み、行動する。

バフェットはこうした“当たり前”ともいえる基本を守ることによって、大投資家としての成功を手に入れた。そして、バフェットが説いたこうした基本が、投資に限った話でないことは明らかだろう。

これからの人生の可能性を広げるために

本書のなかから学べるのは、生きることや、決断への向かい合い方。すなわち投資という枠組を超えた、「人としてのあり方」そのものである。

投資のノウハウが身につくだけではなく、真摯に生きることが豊かな人生につながるという、当たり前だからこそ忘れてしまいがちなことを再認識させてくれるのだ。

私たちはこれから、セカンドライフを歩んでいくことになる。その時間をより豊かなものにするために、バフェットの哲学に触れてみてはいかがだろうか? そして、そこから得たことを実践してみれば、人生の可能性は大きく広がっていくことになるかもしれない。

【作品インフォメーション】

桑原晃弥『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』

2011年、朝日新聞出版より発行。


評者プロフィール

印南 敦史(いんなみ あつし)

1962年、東京生まれ。作家、書評家、音楽評論家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。最新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。他にも、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)など著作多数。書評家として数々のサイトに寄稿。