入居待ちも! 高級老人ホ―ムの選び方と費用事情

2023月9月14日

終の棲家(ついのすみか)として「高級老人ホーム」の人気が高まっている。充実した設備やサービスが提供されるホームでは、入居待ちのケースもある。中には、ホームの入居募集と同時に契約し、自分たちが必要になるまで、居住せずにそのまま契約を保持し続ける人がいるほどの人気物件もある。安心して悠々自適な毎日を過ごしたいと考える人が増えていることの表れだろう。高級老人ホームといわれる、こうしたハイグレードな物件はどのような施設なのだろうか?

有料老人ホームなどの運営や立ち上げなどに関わった豊富な経験を生かし、現在は優良な老人ホームや介護施設を紹介するサイトの編集長を務める荒牧誠也(あらまき せいや)さんに、高級老人ホームの注目ポイントや選び方のコツをうかがった。

高級老人ホームとは、どのようなランクのものを指すのでしょうか?

明確な定義があるわけではありませんが、一般の有料老人ホームより設備が豪華で手厚いサービスを受けられる施設です。その分、費用も高いのが特徴です。入居時に払う入居一時金(前払い家賃)が、東京圏だと4,000万円以上、関西圏では3,000万円以上といった施設が該当します。人生のラストステージを優雅でゆとりある環境で過ごしたい、ご自身が要介護状態になった際にも家族に迷惑をかけず安心して過ごしたい、といった理由で高級老人ホームを選ばれる人が多いようです。

高級老人ホームを選ぶ人は、いつごろから検討を始めるものでしょうか?

私の経験や、老人ホームの施設長などの話でも、入居先を高級老人ホームに決めた人は、検討に2~3年かけて契約される人が多いです。ご家族が要介護状態になって急いで入居可能な介護付き老人ホームを探すケースとは異なり、自分の将来の入居先として、事前に情報集めと検討に時間をかけて満足できるホームを探されます。検討を始める年齢は70代後半ごろで、健康ではあるものの、将来の足腰の衰えを感じる時期を意識しつつ、その上で余生を安心して楽しめる住まいが欲しいという人が多いですね。
ただし、気に入った高級老人ホームを見つけても実際に入居するタイミングは、「パートナーが要介護状態になった」「自分が大病を患い、体力が落ちた」あるいは「お子さんが転勤などで遠方に転居した」といったことが発生したときという人が多いです。つまり、気に入った高級老人ホームを見つけておいて、いざというときに入居するわけです。定員を超えているホームの場合には、入居予約をしておき、空きが出るのを待って入居できるというケースもあります。ただ、施設によって、入居時の年齢や要介護状態などの条件を設定している場合もあるので、入居できるタイミングについては注意が必要です。

高級老人ホームを選ぶ際には、どういった点に注目すれば良いでしょうか?

共用設備の例(写真提供:ベイシス)
居室の例(写真提供:ベイシス)

高級老人ホームにはプライベートな居住空間と、共用設備があります。
共用設備としては、ほとんどの高級老人ホームに完備されているのが大浴場と趣味の部屋、例えばマージャンルームやカラオケルームなど、そしてホールです。ホールは、入居者の皆さんが毎朝体操をしたり、趣味のダンスをしたりして利用します。敷地にゆとりがあるホームは温水プールを設置しているところもあります。見学してみると、こういった設備が実際に使われているか、使い勝手が良さそうかが分かると思います。
次に、プライベートな居住空間として、ユニットバス、トイレ、キッチンを完備した1DK以上の生活スペースが設けられています。通常、生活リズムセンサーを設置し、入居者の孤独死などを防ぐ設備が導入されていますが、意欲的な施設では、眠りの質をセンサーで計測するなど情報通信技術を活用した設備を導入して入居者の健康を把握し、より良好な健康状態を保つことを目指しています。健康に不安をかかえる前からこのような環境で過ごすことができれば、要介護状態になることを予防し、長く自立した生活を続けることが望めます。なお、高級老人ホームは、夫婦一緒に入居できる部屋が一般的です(特に2人部屋とはうたっていませんが、部屋が広いので夫婦で暮らすことも想定されています)。

設備に加えて重要なのが、職員の配置などのサービス面です。特にポイントとなるのは、介護や医療サービスの充実度です。介護や医療サービスの充実度を見る指標として「直接処遇職員比率」というものがあります。有料老人ホームは法律上「特定施設入居者生活介護」施設に該当し、職員の配置については「要介護者3人対して看護・介護職員1人以上」と定められています。この比率が高級老人ホームとなると1.5対1などに上がり、より手厚いサービスを心がけている施設では1対1という比率にしているところもあります。こうした直接看護や介護に関わる職員だけでなく、栄養士やコンシェルジュなども含め、専門性の高いスタッフが多くそろっているのも、高級老人ホームならではの特徴といえます。

入居するために必要な費用は、具体的にはどれくらいでしょうか?

高級老人ホームへの入居を考えている人から費用のことを相談されたとき、私はいつも「100歳まで生きるつもりで計算してください」と答えています。それぞれのライフプランで変動もありますが、高級老人ホームで20年暮らすとすると、1人だと、およそ1億〜1億5,000万円。ご夫婦2人なら、その1.5〜2倍程度あれば安心して過ごせますと答えることが多いですね。これは関西での場合ですが、東京だともう少しかかります。地域やサービス内容によって金額に大きな違いがあるのも、高級老人ホームの特徴です。
高級老人ホームの費用は、基本的な考え方として、家賃にあたる「入居費用」と、毎月の生活費や介護費にあたる「月額利用料」があります(図1)。

図1:高級老人ホームの費用

図1:高級老人ホームの費用

(荒牧氏への取材をもとに、編集部にて作成)

入居費用は、入居時に一時金としてまとめて払う形ですが、月払いや、一時金の金額を低くして、その分を毎月の支払いに回す方法など、柔軟に対応しているホームもあるので、初期費用の負担が大きい場合は相談してみるとよいでしょう。また、規定の期間に満たずに退去する場合には、残った期間分の入居一時金は返還されます。ただし、これらの費用の考え方は、施設によって異なる場合があるので、注意が必要です。

図2:高級老人ホームAの費用(前払方式の場合)

図2:高級老人ホームAの費用(前払方式の場合)

(都内施設のデータを参考に編集部にて作成)

費用に関して一番不幸なケースは、手持ちの資金が足りなくなってホームを退去しなければならないというもの。入居を決める前に生涯にわたって必要な金額を確認して、支払い計画をしっかり立てておくことが重要です。よくある勘違いは、毎月必要になる金額が、パンフレットに掲載されているものだけだと考えてしまうことです。要介護状態になり、そのホームが提供していない介護サービスが必要になれば自己負担が増えますし、そのほか生活必需品などの費用も発生します。実際にどういった追加費用が発生するかは事前に確認が必要です。
一般の有料老人ホームに比べると、高級老人ホームの費用は、やはり高額です。ただ、その高額さに見合うだけのサービスが用意されています。特に、介護や看護の面でどういった考え方をしている施設なのかを調べ、ご自身の考え方と合っている施設を選べればそれだけのお金を用意する価値は十分あるでしょう。

実際にどのような手順で、自分に合った高級老人ホームを探したら良いのでしょうか?

「老人ホーム選び」をテーマにした本は多数出版されていますし、インターネット上には、老人ホームの情報が検索できるポータルサイトもたくさんありますので、現地に行く前にまずは情報収集をしてみましょう。民間企業が運営する老人ホームを紹介するサービスを利用するのも良いでしょう。利用は基本的に無料で、情報量も豊富です。時間をかけて自分の終の棲家を選ぶわけですから、ご自身やご家族の価値観を知った上で、特定のホームに肩入れすることなくフラットな立ち位置で助言してくれる気の合うプロの相談者を見つけることがホーム選びの第一歩かもしれません。一度話をしてみて、親切と感じた相談員と一緒に探してみることや、相性が合うと思えるサービスを選ぶのがコツですね。

ホームを見学する際には、どのような点に注目すれば良いでしょうか?

共用設備の例(写真提供:ベイシス)

実のところ、見学した人が「すごい」と思うほど、どのホームも設備的には充実しています。ですから、見学のときに確認したいのは、設備について施設関係者に質問したときに、的確にその設備があるべき意義を答えられるかという点です。例えば、庭園がある場合、単にきれいで見て楽しむための庭園なのか。それともきちんと整備されていて、散歩や運動をしたり、リハビリのスペースとして活用したりできるものなのかといったことです。また、都会のホームは容積率ぎりぎりで建てているので、屋上に庭園が設けられている場合があります。その場合、庭園に屋根が設置されているかどうか。真夏の日中に日陰もないところで散歩や運動をしたら熱中症になりかねません。そこまで考えられて、設備が設計されているかなど、自分が利用することを想定してチェックしましょう。
そのほかにも確認しておいたほうがよいポイントをまとめましたので参考にしてください(図3)。

図3:高級老人ホームのチェックポイント

図3:高級老人ホームのチェックポイント

(荒牧氏への取材をもとに、編集部にて作成)

ここで挙げたのはどれも重要なポイントですが、人によって注目する部分も異なると思います。私が一番大切だと考えているのは、リハビリテーションの体制です。できるだけ、いつまでも自立して過ごせるようにしよう、という思いを施設側も持ち、支援してくれる体制があることは重要です。

焦らず、時間をかけて、自分に合った終の棲家を手に入れる

最後の注意事項ですが、高級老人ホームにも入居者同士のトラブルやいじめのようなものがあります。入居後、途中で退去してしまう理由は「人間関係」が一番多いのです。さまざまな人が暮らしているので人間関係のトラブルはつきもの。なくすことは難しいでしょう。大事なのはトラブルにホームがどう対応したかということ。入居者同士のトラブルについて質問したとき、どんなトラブルがあり、どのように対応したか、真摯(しんし)に答えてくれるホームなら安心だと思います。
高級老人ホームは、どこも設備が豪華ですが、アットホームであるかどうかは、また別の話です。豪華な設備と介護体制で施設によっては、完成前から満室などということもあります。しかし、運営するのは人間。実際に入居候補の高級老人ホームに自ら足を運び、そこで働く人や生活している人の雰囲気に触れてみることが大切です。そうした経験を重ねることで、自分との相性が良いのか、悪いのかが分かるものです。じっくり時間をかけて、自分の終の棲家にふさわしい場所を見つけ、豊かなセカンドライフを過ごしてください。

(荒牧 誠也氏・談)

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プロフィール

荒牧 誠也(あらまき せいや) 株式会社ベイシス 取締役事業本部長。

独自の調査をもとに、利用者に適した介護施設や有料老人ホームを紹介する「有料老人ホーム三ツ星ガイド」などを掲載するホームページ「介護の三ツ星コンシェルジュ」編集長。施設の運営や立ち上げなど有料老人ホームや介護施設について豊富な実績がある。