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#書評

30分で読める大富豪の人生哲学―より豊かなセカンドライフを送るために

2020年6月24日

“投資の神様”ことウォーレン・バフェット、イングランド銀行を負かした男ジョージ・ソロスと並んで、世界三大投資家と称されるジム・ロジャーズ。幼いころからビジネスに興味を持ち、ウォール街で動物的な投資センスを磨き、「他人が目もくれない場所にチャンスは転がっている」という信念で、投資家としての揺るぎない地位を確立した人物です。

そんな彼が、投資活動において欠かさなかったのは、いろいろな情報を集め、対象を徹底的に調べること。そして、常識を疑い、何が正しいのかを自分の頭で考え、判断すること──。華やかな成功は、泥臭い作業とたゆまぬ努力があってこそ、というわけです。

さて、今回紹介する『世界的な大富豪が人生で大切にしてきたこと60』(ジム・ロジャーズ著、プレジデント社)は、そんな彼の人生哲学や教訓をまとめた金言集。人生100年時代の暮らしをより充実させたい人、あるいは「これから本腰を入れて投資に取り組もう」と思っている人にとっては、“共感できる言葉”や“参考にしたくなる言葉”が、たくさん詰まっているはず。作家・書評家の印南敦史(いんなみあつし)さんが、ポイントを要約し、読み解いていきます。

10年で4200%という驚異的なリターンを実現した30代

ジム・ロジャーズは、1942年に米アラバマ州の田舎町で生まれ育った。家はあまり裕福ではなかったが、結果的にはそんな環境が彼を成功に導くことになったのだから、人生とは不思議なものだ。

ロジャーズは、「お金を儲けることで自由になりたい」という思いのもと、5歳のときから、空き缶拾いやピーナッツ売りなどの仕事を“商売”として始めた。そして、そうした活動を通じてお金の重要性を実感したことが、後の投資家としての原動力になったという。

ちなみに投資に関心を抱くようになったのは、エール大学在学中のとき。きっかけは、夏休みにウォール街でアルバイトをしたことだった。ウォール街での初めての仕事を、投資銀行のドミニク&ドミニクで得たのである。

とはいえ、その時点で投資の知識は皆無に等しく、株式と債券との違いすら知らなかったそうだ。

だが、飛び込んでみると、ウォール街での仕事はロジャーズに適していた。その証拠に、後に英オックスフォード大学に留学するころには、奨学金で株式投資を行うまでになっていたほどだ。

オックスフォード大学を卒業したのは1966年。帰国後は、約2年におよぶアメリカ陸軍での兵役を経て、アナリスト見習いとしてふたたびウォール街で働き始める。そこが、実質的なスタートラインというわけだ。

1970年には投資銀行アーノルド・S・ブレイシュローダーに就職するが、そこで出会ったジョージ・ソロスとともに1973年にクォンタム・ファンドを設立。同社ではわずか10年で4200%という驚異的なリターンを実現している。

だが、こののちジョージ・ソロスとの間に、クォンタム・ファンド運営についての考え方の相違が生じる。そのため1980年に同ファンドを離れ、37歳にして仕事を引退したのだった。

ロジャーズの投資手法は、緻密かつアグレッシブ。各国の国際情勢や金融政策、社会のトレンドなどを徹底的に調査・分析し、需要と供給の変化を見極め、高い確率で利益の出そうなポジションをとるのが特徴だ。

それは、のちのグローバル・マクロ(為替や商品、株式、債券など世界各国の多彩な金融商品を売り買いする手法)の先駆けと言うべきもので、従来の保守的な投資手法、バイ・アンド・ホールド(証券を購入後、長期に渡り保有し続ける手法)とは一線を画すアクティブなやり方でもあった。

人生を満ち足りたものにするために何を意識するべきか?

さて今回紹介するのは、そんなロジャーズの投資哲学を集めた書籍だ。といっても、難解な内容では決してない。それどころか、大富豪になるための習慣や成功するためのヒント、世界やお金の流れの読み解き方、人生を満ち足りたものにするために意識すべきことなどが、驚くほどコンパクトにまとめられているのである。

1テーマ1見開きのシンプルな構成になっているので、興味を引かれたページから読むことができるのも本書の利点。各本文も数行にまとめられているため、空いた時間を利用してその知見に触れることができる。

では、そのなかから現代においても輝きを失うことのないいくつかの金言を紹介してみたい。

お金を使うときは、賢明な頭で価値を考えてから。

日常生活においては、勢いで浪費をしてしまうことも少なくない。しかし、行き当たりばったりでお金を使うことは、財政破綻につながるだけでなく、「人生でなにが大切か」という本質すらも忘れさせてしまう危険があるとロジャーズは警鐘を鳴らす。

今、投資しようと思っているものが
本当に価値のあるものなのか。
あるいは、その効果が一過性のものなのか。
──Chapter 1 大富豪になれる人のシンプルな習慣(p.37)

お金を使う際には、まずそういったことを“賢明な頭で”考えることこそが重要だという考え方である。

大局を見る力がつけば自分がどこにいるかわかる。

なにをするにあたっても、重要な意味を持つのが「先読み力」だ。そして先読み力は、鍛えることのできるものでもある。

では、どうすればよいのか? この問いに対して、ロジャーズはこう答えている。

先読み力を鍛えるには、歴史書や哲学書を多く読み、
どのように世界が動いてきたか、
世の中がどのような仕組みで
動いているかを理解する必要があります。
──Chapter 2 投資で大成功するための小さなヒント(p.75)

なぜなら、そうして大局を見る力がつけば、自分たちがどの位置にいるのかがわかるからだ。そして結果的には、それが先読み、つまり正しい判断に役立つのである。

株をやるなら会計学を学ぶべき。

株式投資をしたいのであれば、不可欠なことがあるとロジャーズは主張している。世界の大きな流れを把握することはもちろんだが、会計学の知識も必要不可欠だというのだ。

企業のバランスシートを読み解き、そこに不正がないかどうかを見極める──
努力は必要ですが、それほど難しいことではありません。
──Chapter 2 投資で大成功するための小さなヒント(p.77)

そう語るロジャーズも、独学で会計学を学んだのだそうだ。

子供が増えない国は、ただ、衰退するだけ。

ここでは日本が抱える問題がクローズアップされる。言うまでもなく、少子化についてだ。

過去五〇年間、日本人は勤勉に働いて、繁栄を築き、
世界第二位の経済大国の地位に上り詰めた。が、
今後五〇年間、同じような成功を享受できるとは思えません。
特に少子化は大問題です。
──Chapter 3 世界の動き、お金の動きを読み解く(p.97)

有効な手も打たず、移民も受け入れなければ、人口が減って国民の生活水準は下がるだけ。そして負債だけが膨らみ、若者がそれを払い続けなくてはいけないのだと。

恐ろしいほど、現在の日本の状況を言い当てているとは思えないだろうか?

情熱の炎さえ消さなければ、いつか突破口が見つかる。

お金持ちになりたいとしたら、必要なものは? いろいろな考え方があるだろうが、ロジャーズの答えはこうだ。

お金持ちになるために最も大切な資質は情熱です。
それがあれば、いくつであろうと
必ず突破口は見つかります。
──Chapter 4 自由な人生の扉を開ける鍵(p.135)

もちろん、情熱を持って突き進んだとしても、すぐに成果が上がるとは限らない。それどころか、いつまでたっても成果に結びつかないかもしれない。

しかしそれでも、情熱を持ってやり続ければ、いつかはきっと、多くの利益を得ることができるだろうと彼は言うのだ。

不確実なことが多く、不安も尽きない時代だからこそ、このことばには信じる価値があるのかもしれない。

「人生は一度きり」だから地球を一周することにした。

ロジャーズは若いころ、「35歳でリタイアする」と周囲に言っていたそうだ。実際にリタイアしたのは37歳だったので、計画どおりにはいかなかったことになるのかもしれない。

とはいえそれは、やはり驚異的な話だ。しかも2年の“遅れ”があったとはいえ、リタイアすることで得たものは大きかったという。

おかげで世界についてじっくり知ることができました。
リタイアの決心は「人生は一度きり」との思いがあったからです。
オートバイによる世界周遊こそが、
私がやりたかったことで、地球を自分の足でめぐり
世界を理解したいと思ったのです。
──Chapter 4 自由な人生の扉を開ける鍵(p.149)

もちろん、私たちがロジャーズと同じように世界を一周できるとは限らない。しかし、人にはそれぞれ、「一度きりの人生のなかで実現したいこと」があるはず。

それは世界を一周することよりも、ずっと小さなことかもしれない。でも、自分自身にとって、それがかけがえのないものであるなら、それでいいのではないだろうか?

ことの大小ではなく、それがなにより重要なのだから。

第二の人生に向けたアドバイスとして何度も読み返したい

上記にあるように、わずか37歳にして巨額の富を得て引退したのち、ロジャーズは世界の旅を楽しんだ。そしてその一方、コロンビア大学で教鞭を執ることにもなった。

1998年には、商品先物市場の指数である「ロジャーズ国際コモディティ指数」を創設し、作家として数々のベストセラーを生み出してもきた。そして現在は、妻と二人の娘とともにシンガポールで余生を送っている。

がむしゃらに働き続けてきた結果として50~70代を迎えた私たちにとって、ロジャーズのそんな生き方は理想的すぎるほどに理想的だ。あまりにもドラスティックであるだけに自分ごととして捉えるのは難しく、「自分とは別の生き方」と考えたくもなるかもしれない。

だが、これからそれぞれのセカンドライフを送っていくにあたり、本書で紹介されているロジャーズの哲学は必ず、なんらかの形で役立つのではないかと感じる。

それは、第二の人生においてスタートすべき、新たなビジネスについてのアドバイスかもしれない。あるいは、リタイア後の生き方の提案かもしれない。解釈の仕方や心を打つポイントは人それぞれだろうが、どこかに“響く”ものを見つけることができるはずなのだ。

【作品インフォメーション】

ジム・ロジャーズ『世界的な大富豪が人生で大切にしてきたこと60』

2015年、プレジデント社より発行。


評者プロフィール

印南 敦史(いんなみ あつし)

1962年、東京生まれ。作家、書評家、音楽評論家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。最新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。他にも、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)など著作多数。書評家として数々のサイトに寄稿。