NEW

#書評

不屈の名著『バビロンの大富豪』が教える、富を蓄え、幸福を掴むための原則

2021年01月27日

長年愛され、読まれ続けている「ロングセラー書籍」は少なくない。特に小説などの分野であれば、「古典小説」として親しまれているタイトルをあげれば暇がない。

しかし「お金の増やし方」にまつわる古典となると、その数はかなり限られるのではないだろうか? 今回の記事では、そうしたお金にまつわるロングセラーのひとつ、『バビロンの大富豪 「繁栄と富と幸福」はいかにして築かれるのか』(ジョージ・S・クレイソン 著/大島豊 訳/グスコー出版)を、作家・書評家の印南敦史(いんなみ あつし)さんがポイントをおさえて紹介します。

日本だけでも200万部を超える売り上げ

出版不況が叫ばれて久しく、たしかに本の売れ行きが芳しいとはお世辞にも言えないようだ。とはいえ時代がどう変わっていこうとも、“売れるべき本”は売れるのである。

今回ご紹介する『バビロンの大富豪 「繁栄と富と幸福」はいかにして築かれるのか』は、まさにそうした「いつの時代でも売れるべき本」である。

なにしろ本書は現在に至るまで、90年以上にわたり売れ続けているのだ。

1926年とされる発表当初は、まずパンフレットの形で発行されたという。著者のジョージ・S・クレイソンは出版社の社長だが、古代都市バビロンに関する寓話(ぐうわ)を定期的に発表し、知人や関係者に配布していたのだ。

つまり最初の目的は、バビロンに関する自身の好奇心や探究心を満たすことだったとも推測できそうだ。しかし結果的には、その完成度の高さから大きな評価を得ることとなった。銀行・保険会社など金融業界の人々、あるいは一般企業の経営者や幹部に認められ、以後もさらに広い層へと認知度が高まっていったのである。

そして、そのような流れを受けて刊行が実現した書籍は、ベストセラーを記録。いまなお人気が衰えることはなく、全世界的に愛読されている。

日本語版の底本となったペーパーバックが、1991年の刊行以来すでに200万部以上の売り上げを記録しているという事実からも、その認知度の高さを窺い知ることができるだろう。

そればかりかハードカバーの初版や初期のパンフレットまで遡れば、その数字がさらに数倍に膨れ上がることは容易に想像できる。

変わることのない普遍的な法則

では、なぜそこまでの力が本書にはあるのだろうか? 答えは簡単だ。蓄財哲学、自己啓発に関する名著と断言できるだけの説得力が、本書には備わっているからである。

もちろん執筆された1920年代と現代とでは、社会背景も経済情勢も大きく異なる。しかし、本質的な部分が普遍的であるため、時代の波に翻弄されることがないのである。

それどころか、経済状況がなかなか好転しない現代だからこそ、本書に提示された「法則」が大きな意味を持つともいえるだろう。

本書は、我々が個人として成功するにはどうしたらいいのかという、普遍的な命題に答えるものとなっている。根底にあるのは、「成功は、準備が適切にされたかどうかによって左右される」という考え方だ。そしてその「成功」は、「お金儲け」と直結してもいる。

特徴的なのは、古代都市バビロンを舞台として、アルカドという名の大富豪を中心とした複数の登場人物のやりとりによって話が進められていく点だ。情景描写などもシンプルでわかりやすいので、純粋に読み物として楽しむこともできる。

しかも会話の中に成功への秘訣がふんだんに盛り込まれているため、必要以上に頭を悩ませることなく、登場人物同士のやりとりを楽しみながら、要点を的確につかむことができるのである。

おさえておきたい「七つの知恵」

最も重要なのは、ストーリーの屋台骨といっても過言ではない「富をもたらす黄金の『七つの知恵』」である。それは果たしてどのようなものなのか、簡潔にご紹介することにしよう。

第一の知恵 財布を太らせることから始めよう

財布に十枚のコインを入れたなら、使うのは九枚まででやめておくのです。すぐに財布はふくらみ始めるでしょう。財布がだんだん重くなっていく感触は、手に持つと気持ちが良いものですし、みなさんの胸にもずしりとした満足感が湧いてきます。(p.60)

空っぽの財布を太らす知恵として、アルカドが最初に発見したのがこの考え方。単純なことであるようにも思えるが、非常に重要なことでもあり、本書の根幹をなす基本的な部分であるといえる。

第二の知恵 自分の欲求と必要経費とを混同するべからず

私たちがそれぞれ必要経費と呼んでいるものは、自分で気をつけていない限り、必ず収入と等しくなるまで大きくなってしまうものなのです。
必要な経費と自分自身の欲求とを混同してはいけないのです。(p.63)

生活習慣を見なおしてみれば、これまで容認してきた支出が、実は削減できる、あるいは失くせるものであることがわかるはず。コイン一枚であったとしても、お金を使うときには、それが100パーセント使う価値があるものでなければならないということを肝に銘じるべきだということだ。

第三の知恵 貯めた資金は寝かさず増やすべし

私が投資したもので初めて利益を生んでくれたのは、楯作りのアッガーという男に貸した金でした。(中略)アッガーに金を貸すたびに、私は彼が払ってくれた利息も一緒に貸しました。ですから元手が増えるだけでなく、元手が稼いだ金もまた増えました。この金が自分の財布に戻ってくるときほど、大きな満足を覚えたことはありません。
よろしいですかな、みなさん。人間にとって財産とは、財布の中に持っている現金ではありませんぞ。しっかりした定期的収入こそが財産なのです。財布の中に絶えず流れ込み、いつも中身をふくらませてくれる金の流れこそが財産なのです。(p.67~68)

つまり、貯めたお金は最後の一銭にいたるまで働かせるべきだということ。そうすれば必然的に、財布には途切れることなく富が流れ込んでくるのである。

第四の知恵 損失という災難から貴重な財産を死守すべし

落とし穴の可能性があるところに投資する際には、自分の判断にあまり自惚れないようにすることです。望ましいのは、金を操り利益を生むことに経験を積み、知恵のある人に相談することです。そうした人々の勧告は、頼めばいくらでもただでしてもらえるものですし、時として、投資しようと考えている金額に匹敵するだけの価値を備えていることもあるのです。その勧告のおかげで損失を免れたとすれば、勧告の価値はまさに当初投資しようとした金額と同じなのです。(p.72)

これは財布がいったん十分にふくれてから、再び空になってしまうのを防ぐ知恵。経験を積んだ人々の知恵を活用し、危険な投資から自分の財産を守る必要があるということだ。

第五の知恵 自分の住まいを持つことは、有益な投資と心得よ

自分の住まいを手に入れた人間は良いことずくめなのです。生活コストは大きく下がり、仕事で稼ぐ金のうち、娯楽や自分の欲求を満足させることに使える額が増えることでしょう。(p.75)

借金をして家を建てたとしても、家ができてしまえば、それまで家賃を払っていたのと同じく、定期的に同じ金額を金貸しに返していくことができる。そして支払うごとに借金は減っていき、数年もすれば払うべき金はなくなる。その後は、価値ある財産を自分のものにすることができるのだ。もちろんそれは、現代の日本にも当てはまることであるだろう。

第六の知恵 将来の保障を確実にすべく、今から資金準備に取りかかるべし

自分がもはや若くないときには、将来に備えて相応の所得を用意しておくこと、たとえあなたが死んでも家族が快適な生活を続けられるように準備をしておくこと。この二つのことを私は提案します。(p.75)

どんな人も、子どもから老年へと進んでいくもの。それが人生の成り行きであり、そこから外れる人はいない。そこでアルカドは、上記のように主張する。

ここさえきちんと押さえておけば、なにがあったとしても将来の安全が確保されるわけだ。

第七の知恵 明確な目的に向かって、自己の能力と技量を高め、よく学び、自尊心を持って行動すべし

望みなければ、達成なし。強く、明確な望みを持つべし。たいていの望みというのは、単にぼんやりと『何かが欲しい』という程度のものです。ある人間が『金持ちになりたい』と望んだとしても、それは目的がはっきりしているとは言えません。『金貨五枚が欲しい』と望むのであれば、その望みははっきりした形を取り、実現に向けて努力できます。『金貨五枚が欲しい』という望みを、しっかりした目的意識を持って実現したとすれば、次には同様のやり方で金貨十枚を手に入れられるでしょうし、次には二十枚、やがては千枚となってゆくでしょう。そこまでくればもう立派な金持ちです。(p.80)

大切なのは、明確で具体的な望みを実現する方法を身につけること。それが、より大きな望みを実現するための訓練となっていくということだ。それこそお金が貯まっていく過程であり、経験が増えていくにつれて、金額もだんだん大きくなっていくということである。

私たちが富と幸福を掴むために

このように、バビロンにまつわるストーリーを通じて著者が訴えている考え方は、非常にシンプルかつ普遍的。どれも現代人の生活に当てはまるものばかりである。

なかでも特に読者の立場と連動するのは、「第六の知恵 将来の保障を確実にすべく、今から資金準備に取りかかるべし」ではないだろうか。

人の命には期限がある。だからこそ、自分が世を去ったあと、子や孫の生活をどうやって守っていくべきかと思案している読者も少なくないはずだ。

そして、そのためには「第三の知恵」「第五の知恵」などで語られている“投資的発想”を欠かすことができない。たとえば現代人の場合であれば、退職金を投資に回すなどがその好例だ。

現代人の感覚にも無理なくフィットし、応用できる本書。人生100年時代を生きるにあたり、ぜひとも参考にしたい一冊である。

【作品インフォメーション】

ジョージ・S・クレイソン (著) 大島 豊 (翻訳)
『バビロンの大富豪 「繁栄と富と幸福」はいかにして築かれるのか』

2008年、グスコー出版より発行。


評者プロフィール

印南 敦史(いんなみ あつし)

1962年、東京生まれ。作家、書評家、音楽評論家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。最新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。他にも、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)など著作多数。書評家として数々のサイトに寄稿。