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#書評

人生に必要な「お金の知識」を一冊に凝縮した「教科書」―子や孫に教えてあげたい知識

2021年05月12日

「人生100年時代」といわれる中、自分たちはもちろん、子どもや孫たちが幸福に生きるために、早いうちから「お金」の知識を身に付けておくことは重要だ。

書店には、お金に関するあらゆる種類の本が並んでいる。家計、投資・資産運用、保険、税金、など……。お金に関するジャンルは数え切れないほどに幅広く、それぞれの一つのテーマを掘り下げた本が多い。

しかし、当然といえば当然なのだが、私たちが社会で生活する上では、それぞれお金のテーマが切り離されていたりはしない。勤務先の企業の業績が良くなれば給料が上がり、そこから税金や社会保険料を支払い、残ったお金で家計を管理して、資産運用をしたりもする。お金に関連するテーマは、一生のうちで起こるさまざまな出来事とつながっているのだ。

今回紹介する『アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書』(SBクリエイティブ)は、一生涯で出会うであろう“お金に関するあらゆるテーマ”がまとめられているという点において、注目に値する。言葉を換えるなら、「人生を考えるためのお金の本」といったところである。

本書を勧める第一の理由は、「世代を問わずに読める」という点。つまり、子どもや孫と一緒に本書を読み、資産について話し合ったり、お金の知識について教えてあげたりという楽しみ方ができる一冊でもあるのだ。前書きで作家の橘玲氏が述べているように、お金と社会の仕組みを理解するには時間がかかるもの。折りに触れて本書を読み返し、さまざまなお金のことについて話し合うことが、子や孫を成長させるいい機会になることだろう。

お金の知識を身につける“教科書”としてうってつけの一冊

著者はアメリカ人で、ファイナンシャルアドバイザーや弁護士、投資ファンドの最高財務責任者など複数の職業を経験した、アンドリュー・O・スミス。著者が親せきの男性から、「娘にお金のことを教えてもらえないか」と頼まれ、自身の経験を踏まえながら、若い人が知っておくべきお金の基本知識についてまとめたことが、本書が生まれたきっかけだという。

原題は『Financial Literacy for Millennials(ミレニアル世代のための金融リテラシー)』。アメリカをはじめとする欧米諸国では、お金との付き合い方――稼ぎ方、貯め方、増やし方など――を学ぶことは“基礎教養”のひとつとされ、早くから子どもへの金融教育が行われることが多いという。そのため、日本よりも金融リテラシーが高いとされているそうだが、果たして本当だろうか。

日本銀行の金融広報中央委員会による「『金融リテラシー調査2019年』の結果」報告書によると、複利や住宅ローンなどの「お金の知識」に関わる共通問題では、日本の正解率が47%だったのに対し、米国は53%。欧州の主要国と比較しても、英国、ドイツ、フランスの共通問題の正解率は日本を上回ったという。なお、「金融知識に自信がある人」の割合は、日本は12%だったのに対し、米国は76%と大きく差がついた。

欧米と日本とで金融知識そのものの差もあるが、このデータをみる限り、「金融知識への自信」に差があるのは紛れもない事実。子どもの頃からお金について体系的に学ぶことがいかに重要かわかる。つまり本書は、お金の知識を身につけ、不安なくこれからの生活設計をするための“教科書”としてうってつけの一冊なのである。

では、具体的な内容について紹介していくとしよう。

お金に関するテーマを「網羅」し、難しい用語もわかりやすく「解説」する

本書の特徴は大きく2つ。お金に関するあらゆるテーマを「網羅」している点と、専門用語をわかりやすく「解説」している点にある。

「網羅」とはどういうことか。本書は14の章にわかれており、ざっくり分類すると次の内容が紹介されている。

1~3章 お金の基礎知識からキャリア設計、ビジネスまわりのお金の話
4~7章 貯金や借金(住宅ローンや大学の奨学金など)といった収支管理の話
8~10章 投資や金融詐欺、保険の話
11~14章 税金や社会福祉、契約、老後資産の話

それぞれで一冊の本がつくれるような大きなテーマが、各章でまとめられている。

加えて、各章においてもそれぞれのポイントがしっかりと解説されている。たとえば「ビジネス」に関する章では、会社組織のあり方から決算書の読み方、企業の資金調達の仕方、貿易の基礎知識までを紹介。「貯金」を扱う章では、銀行の存在意義やその他の金融機関との違い、サービス手数料、昨今トレンドになっているモバイル決済などを解説しているといった具合だ。おかげで、読み進めるだけでお金の全体像を俯瞰することができる。

また、要所で具体的なノウハウが紹介されているのも本書の魅力。第1章の「お金の計画の基本」では、自分の資産状況を把握するための方法として「個人のバランスシート」作りを勧めているが、そのやり方はこうだ。

  1. 紙を1枚用意して真ん中に線を引く
  2. 左側に自身が所有するものすべてとその価格、合計額を書く
  3. 右側に借りているものすべてとその価格、合計額を書く
  4. いちばん下に、「2」から「3」を引いた額を書く

つまり、左側の合計額が「資産」で、右側の合計額が「負債」、差し引きしたものが個人の「純資産」である。

そして、これを定期的に計算し、資産状況を把握することが、お金に困らない生き方につながるのだと著者はいう。社会経験を長く積んだ大人からすればなんてことない知識だろうが、若い頃からこうしたことを理解していれば、その後の人生がまったく違ったものになるだろう。

次に、もう一方の特徴である「解説」についても説明しておこう。「多くの人が深く考えず当たり前に使用している用語」や、「複雑でわかりにくい金融の専門用語」が登場する度にわかりやすく言い換えているのが本書の特徴で、この辺りは金融知識をこれから学ぶミレニアル世代向けに書かれた書籍ならではの工夫といえるだろう。

「そもそもお金って何?」ということの説明もそのひとつで、著者は、お金とは「欲しいものや必要なものを手に入れる手段」だとした上で、そうした「交換の手段」だけでなく、「価値の保存」「価値の尺度」という役割も持っていると解説する。そして、そうした基本を踏まえながら、物々交換が主流だった昔の話からお金の歴史を振り返り、「金本位制」や「マネーサプライ」といった用語の解説に発展させていくのだ。

もちろん、難しい金融の専門用語も、初出のたびに「解説」していく。たとえば、先物取引、オプション取引、スワップ取引などの総称である「デリバティブ」。これを著者なりに説明すると「資産運用のリスクを低下させたり、またはリスク覚悟で高い収益を狙ったりするために開発された金融商品」となり、「高度に洗練された投資方法」のため投資上級者向けだと指南されている。

書籍の巻末には索引もあるため、さっとお金の用語をおさらいしたい時にも役立つだろう。

凝り固まった思考をほぐしながら、家族と「お金」について話し合おう

先にも触れたが、本書で紹介されるお金の話は、長く社会人生活を送っていれば身につく知識もあるかもしれない。ただし、だからといって本書を若者だけのものにしておくのはもったいない。ある程度歳を重ねると、お金に関する判断を“自らの経験”に頼りがちであるからだ。

たとえば、家計においては、慣れている収支管理の方法を見直す機会はなかなかないだろうし、資産運用をする際も、過去の経験から投資商品を選択しがちだという人もいるのではないだろうか? しかし、これまでの自身にとって正しかったやり方が、今後も通用するとは限らない。だからこそ、本書でお金の知識を定期的におさらいしておくことには意味があるだろう。

本書には、第9章に「金融詐欺の基本」が紹介されているが、新しい詐欺が話題になって世間が気をつけるようになると、すぐにまた新しい詐欺があらわれるのが世の常。時代の変化についていくだけでなく、新手の詐欺につけ込まれないためにも、凝り固まった思考や知識を定期的にリセットしておきたいものだ。

人生に必要なお金の知識が凝縮されたこの一冊。タイトルに使われた「高校生」という言葉に惑わされず、自分なりの味わい方、家族との楽しみ方を見つけてみてはいかがだろうか。

【作品インフォメーション】

アンドリュー・O・スミス (著) 桜田 直美 (翻訳)
『アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書』

2019年、SBクリエイティブ株式会社より発行。