“憂う”のではなく“備え”よう『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』
2021年10月27日
セカンドライフで生活費が不足しないか不安を募らせている人も多いのではないだろうか。その漠然とした不安に、具体的な指針を示してくれるのが今回紹介する『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社)だ。
ファイナンシャルプランナーである著者によると、年金や退職金を上手に活用すれば、老後は破綻しないようにできているという。重要なのは、「貯蓄を増やすことよりも、毎月の収支を黒字にすること」。そして、50歳を過ぎたらするべきこと、してはいけないことを、しっかり知っておけば、お金に対する不安は払拭できるという。
ニュースなどで耳にする不安を煽るキーワードに踊らされるのではなく、セカンドライフに向けて着実に備える考え方を紹介する。
ポイントは退職金を使わずに、毎月の収支を黒字にすること
50代以降は人生に大きな波風が立つケースが減っていくことから、30代・40代に比べてライフプランが立てやすいとされている。そのためキャッシュフロー表を作成しても誤差が生じにくくなる。
さらに、キャッシュフロー表をつくるときに大事なのがゴール設定だ。設定する際はいまを起点にするのではなく、まずゴール設定ありきの発想が重要だという。
目標とする金額は、75歳になるまでに100歳までの25年間のお金をつくることです。(p.22)
では、この目標金額をどうやって設定するのか、具体的な例を見ていこう。
概算ではあるが、共働き夫婦が厚生年金で確保できるお金は月30万円程度(1人につき15万円)。75歳以降の終の棲家を有料老人ホームにしたとして、入居一時金1,000万円、月額利用料が1人につき15万円以下と想定した場合、月額利用料は年金で賄えるため、必要となるのは2人分の入居一時金2,000万円だ。
上記はあくまでも一例で、実際には年金や退職金の金額、共働き夫婦かなど個人によって異なるが、ポイントは退職金を使わずに確保しておくこと、そして75歳までに目標金額を貯めるべく、毎月確実に積み立てていくことだ。
10年間で1000万円の金融資産を築くためには、毎月約9万円の積立額を維持する必要があります。(~中略)
50歳からの10年間、多少のリスクはあっても資産を増やしたいと考えるなら、投資信託を活用するのがいいでしょう。(p.31~32)
また、一般的に会社員は50代から月々の収入が減っていく傾向にある。企業にもよるが、55歳前後になると、課長も部長も役職定年が待っており、これにより給与が減額する。さらに60歳から雇用延長期間に入り、雇用延長に応じると給料が大幅カットになる。だからこそ、50代になった時点で、60歳以降の生活をイメージした生活規模にしていくことが大切なのだ。
上記の話をまとめると下記のようになる。
第1に、50代のうちに、働けなくなったときの資金をつくる。
(~中略)
第2に、働けるうちは働いて、月々の収支を黒字にする。(p.45)
これを確実に行っていけば、無理な切り詰めは必要ないというのが著者の見解だ。
退職金と年金で収入を確保する
収支を黒字にすると同時に、「やってはいけないこと」を避けなければならない。そのうちの一つが、退職金を今まで働いてきたご褒美だと思うことだという。
退職金は、一時金で受け取ると、たくさんの「0」がついた金額が通帳に記載されるため、一気に舞い上がってしまう人もいるだろう。だが、ここはいったん冷静になることが大切だ。
実際に、高級旅館に泊まる、自動車を買い替える、家の増改築を行う、子供の結婚費用を払うといったように、財布の紐が緩んでしまう人は存在する。
著者によると、舞い上がった気持ちをクールダウンさせるには、退職金はよほどのことがない限り使わないと決めて、個人向け国債など中途解約しにくい金融商品にしたり、受け取った退職金の総額をいまの自分の生活費で割ってみたりするのが有効な方法だという。たとえば、受け取った退職金が1,800万円で、月々の生活費が30万円の場合、1,800万円÷30万円=60カ月で5年間しかもたないことがわかる。
また著者は、年金を60歳から受給する繰上げ受給はしてはいけないとしている。
繰上げ受給を選ぶと、60歳から年金を受け取ることはできますが、反面、受け取れる額は少なくなります。どのくらい減るのかということですが、60歳になった時点から受け取った場合で、30%も減額されます。(p.79)
さらに、重い障害を負っても障害年金の受給ができないため、年金の繰上げ受給は「絶対に」やってはいけないことだ、と著者は断言する。
逆に繰下げ受給をすれば受給額も上がるので、自分は何歳から増額率何パーセントで受給するか、シミュレーションしてみるのもいいだろう。
投資で「やるべきこと」
投資についてはどうだろうか。著者によると、50歳から始めても遅くないという。
「いまさら資産運用しても無駄でしょう。(~中略)難しいことを考えるのが面倒」という方はけっこういらっしゃいます。
でも、こと資産運用に関していえば、50歳から始めたとしても、全く遅くありません。というよりも、50歳から60歳までの間にある程度の金融資産を築こうとするならば、金利の低い預貯金だけではどうしても心許ないので、資産運用で「増やす」ことを考える必要があります。(p.90~91)
そうは言っても、どのような資産運用をすればよいのか迷ってしまうだろう。著者によれば「老後資金の資産運用は投資信託だけで十分」だという。
50歳を過ぎて、5年以上投資期間が持てる老後資金のための資産運用は投資信託だけで十分です。(~中略)
月々1万円でも2万円でもゆとりがあるならば、続けて積立投資しておきましょう。そうすれば、実際に年金を受け取るとき、それまで積み立てた分も合わせて、老後の生活資金を豊かなものにできるはずです。(p.92~p.94)
「もう遅い」と諦めるのではなく、今からでもコツコツと始めることが大切なのかもしれない。
多方面から「やるべきこと」「やってはいけないこと」の把握を
本記事では、本書に記載されている内容のうち、「収入」と「投資」についての「やるべきこと」、「やってはいけないこと」の一部を紹介した。本書では、このほかに「保険」「預金」「介護と相続」「家計」「老後生活」の観点から、「やってはいけないこと」を教えてくれている。これらのキーワードにご興味を持たれた方は、本書を手にとって、具体的にセカンドライフの計画を練ってみてほしい。
野村證券ではお客様のライフプランに合わせてシミュレーションを作成することもできる。ぜひこの機会に相談してみてはいかがだろうか。
【作品インフォメーション】
山中 伸枝(著)
『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』
2019年、東洋経済新報社より発行。