需要と共に変化する二世帯住宅――セカンドライフの「住まい」のお悩みを解決

2021年12月08日

セカンドライフを考えたとき、独居や夫婦二人暮らしに漠然と不安を抱えつつも、子どもに迷惑はかけたくないと思っている人も多いはずだ。それらの解決手段のひとつに、「二世帯住宅」を検討したことがある人もいるだろう。だが、親世帯、子世帯が互いに迷惑をかけずに暮らせるのか、費用負担はどうするのか、気になることも多い。

二世帯住宅は時代と共に需要も変化してきた。そのため、各家庭の需要に合わせた「住まいづくり」をすることで、親・子・孫の三世代にメリットが生まれるという。

そこで今回は、長年二世帯住宅の建築に携わってきた、旭化成ホームズ株式会社 くらしノベーション研究所顧問・二世帯住宅研究所 所長の松本吉彦(まつもと よしひこ)さんに、二世帯住宅の需要の変化や同居のメリット、また実際に建築する際の費用などについて話を伺った。

「マイペースに空間をシェアする」二世帯住宅の需要

近年、二世帯住宅の需要に変化があると聞きます。

はい。共働きの増加や家族構成の変化といった背景から、当社が初めて発売した1975年以降、1980年代の二世帯住宅と現代の二世帯住宅とで需要に変化があるのが特徴です。

かつての二世帯住宅は長男が親世帯と同居し、家族が一体となって家計を支えるスタイルでした。しかし近年では、共働きにより子世帯の娘夫婦が同居を希望するケースも増えています。同居の家族構成も、これまでは「親世帯(両親)・子世帯(夫妻)・孫」が多かったのですが、近年は、親世帯がひとりのケースや、子世帯がひとり親、または孫がいない家族構成の割合も増え、年々多様化しています(図1)。

図1:へーベルハウスご契約者の親子同居家族構成の推移

図1:へーベルハウスご契約者の親子同居家族構成の推移

出典:旭化成ホームズ株式会社「家族の多様化で進む二世帯シェア」調査報告書より編集部作成

多くのケースに共通して見られる傾向は、以下の3つです。

・親と子がそれぞれ経済的に自立している
・すでに近くに住んでいて何らかの協力関係ができあがっている
・子世帯のほうが同居に積極的

親ではなく、子世帯から同居の話を持ちかけるほうが多いのでしょうか。

そうです。今の親世帯は核家族スタイルを根付かせた世代であるため、子どもに同居を無理強いしたくないと思っています。しかし現代の子世帯は、シェア志向が強く、親とのつながりも大事にしています。親など家族とのつながりは、大きな災害を複数経験したことで大切さを再認識しているようです。そのため、親よりも子世代のほうが同居に対する抵抗は少ないですね。

今は親世帯も子世帯も女性の就業率が高く、経済的に自立しています。基本的に家計は別で、いざというときには協力しあう。家事や育児をしやすくする合理的な選択として空間をシェアし、マイペースに二世帯住宅を考える方が増えているように感じます。

コロナ禍でリモート勤務が根付いたことで、二世帯住宅を検討する家庭は今後ますます増えていきそうですね。

リモート勤務は二世帯住宅の追い風になると思っています。

週に1日だけの出勤なら、無理に駅近に住居を構える必要はありません。場所を少しずらせば住宅購入の予算を抑えられるため、主要駅から何駅か離れた環境で住居を持つことも選択肢となるでしょう。

以前は通勤距離を最優先に住居を検討してきた子世帯も、リモート勤務の浸透によって通勤距離より住環境を重視する方向になっていくのではないでしょうか。

二世帯同居は親、子ども、孫それぞれにメリットがある

二世帯住宅での同居には、親世帯と子世帯それぞれどのようなメリットを期待できますか。

親世帯と子世帯に共通するメリットとして、育児・介護や家事の協力といった生活の負担軽減があります。また常に誰かが家にいることで、防災や防犯上安心できるというメリットも大きいでしょう(図2)。

図2:同居のメリット

図2:同居のメリット

出典:旭化成ホームズ株式会社「家族の多様化で進む二世帯シェア」調査報告書より編集部作成

さらに、親世帯にとっては、孫と過ごすことが日々の活力になります。

認知症の専門家によると、小さな子ども(孫)と触れ合う暮らしは認知症予防の効果が期待できるそうです。物理的な触れ合いだけでなく、会話や運動量が増え、注意深く孫の動きを観察し、遊びに負けてあげるといったことも脳の活性化につながるのです。実際、私の知っているお客様のうちでは、お孫さんと一緒に暮らしていて認知症になられた方は非常に少ない印象です。

また、二世帯での同居は孫にとってもメリットがあります。二世帯住宅で親世帯が子世帯と共に孫の面倒を見ることを、我々は「共に育てる」と書いて「孫共育」と呼んでいますが、孫共育によって両親以外の大人と関わりを持った子どもは社会性が育まれ、将来に対して良い影響があると感じています。

たとえば私が知っている学生は、幼少期、祖父母に博物館に連れて行ってもらったことが大学の専攻を選ぶきっかけになったそうです。また、二世帯住宅で育った子どもたちは、総じて相手に合わせた言葉の使い分けが上手だと感じます。小さい頃から複数の大人が周囲にいる環境で育っているため、敬語の使い分けが自然と身についているのではないでしょうか。

二世帯住宅づくりのコツはプライベート空間を大切にすること

二世帯住宅での同居を成功させるポイントについて教えてください。

親世帯と子世帯のプライベート空間をしっかり残すことです。

共用する空間とプライベート空間のポイントは各家庭で異なりますが、親と子で生活リズムが違う場合はキッチンとお風呂を2つずつにする傾向があります。逆に、キッチンやお風呂を1つにして共用している場合は、家族での会話や育児などのコミュニケーションを重視されているようです。また、同じ家族構成でも同居スタイルによってどういった設計にするかは変わってきます(図3)。

図3:同居スタイルで変わる家づくり

図3:同居スタイルで変わる家づくり

出典:旭化成ホームズ株式会社提供資料より編集部作成

いずれにしても、二世帯住宅は共用する空間とプライベート空間を希望通りのバランスに設計できるのがメリットです。どのように建てるかをひとつの家の中で選べるのが二世帯住宅の特徴でもあります。働き方も家族構成も多様化しているため、正解の間取りというものはありません。しっかり家族で話し合い、設計段階で我慢せずに希望を伝えていくのがいいでしょう。

プライベート空間をうまく守れる間取りには、どのようなものがあるのでしょうか。

たとえば、親世帯・子世帯で孫共育しつつも、家事は各世帯で分離したいといったニーズでは、「孫共育ゾーニング」を作ります(図4)。

図4:孫共育ゾーニングの設計例

図4:孫共育ゾーニングの設計例

出典:旭化成ホームズ株式会社提供資料より編集部作成

この間取りでは、階段付近に子ども部屋を設置することで、親世帯は子世帯のリビング・キッチンに立ち入らずに孫の面倒が見られるようになっています。子世帯の部屋が散らかり、朝食後の食器がそのままになっていたとしても、その様子は親世帯から見えません。

部屋が散らかっていると、ついつい口出しをしてしまうのが人間です。しかし物理的に見えなければ、親世帯も余計な口出しをして子世帯と気まずくなることはありません。「子どもの世話は協力してほしいけれど、家事のやり方について口出しされたくない」と思う子世帯でも、安心して子どもを親に預けられます。

一方で、娘夫婦の同居に多いですが「積極的に家事を手伝ってほしい」と思う家庭もあります。その場合はキッチンを共用し、その分個室や書斎を設けてパーソナルな空間を作るという提案もしています。

二世帯住宅の建設費は単世帯とそう変わらない

さまざまなメリットがある二世帯住宅ですが、費用の相場や費用負担が気になる人も多いと思います。

実は、建設費の坪単価は単世帯住宅とあまり変わりません。延床面積が広くなっても、外壁の長さなどは比例的には増えないため坪単価が下がりますが、水回りの数を増やすことでコストが高くなるため、結果的に単世帯とあまり変わらないのだと思います。また、二世帯で支払うことで各世帯の費用負担は軽減されます。

費用の負担割合は家庭により異なりますが、典型的なパターンは親世帯の土地に子世帯が家を建て替え、子世帯が建設費を多めに支払うケースです。たとえば、4,000万円の家であれば子世帯が3,000万円のローンを組み、親世帯が1,000万円の自己資金を出すイメージでしょうか。

子世帯は土地を購入する必要がなく、費用も低金利の住宅ローンを利用してアパートの賃料並みの返済で住宅を購入できます。親世帯にとっては少ない自己資金で新しい住宅を建てられるため、双方ともに金銭的なメリットがあるのです。親世帯の資金を残すのには、土地建物の相続を子世帯がすることになるため、兄弟がいる場合に分与する財産として現金を残す、という意味もあります。

二世帯住宅で同居すると、子世帯の相続税も有利になると聞きます。

そのとおりです。

2015年1月から相続税の改正により基礎控除額が3,000万円+(600万円×法定相続人の数)となり、今まで相続税がかからなかった人でも相続税を支払うケースが出てきました。しかし二世帯住宅で親子が同居し、その子どもが親名義の自宅と土地を相続すれば、相続税を減額できる可能性があります。

これが「小規模宅地の特例」制度です。小規模宅地の特例を使えば、土地の相続税評価額が80%も減額されます。以下図のように、別居であれば発生するはずの相続税が、同居によってゼロになる可能性があるのです(図5)。

図5:同居で相続税が有利になるしくみ

図5:同居で相続税が有利になるしくみ

出典:旭化成ホームズ株式会社提供資料より編集部作成

税制は2021年10月時点のもの。

ただし、相続税などの金銭的なメリット先行で同居しようとすると、うまくいかないことがあるので要注意です。

先ほどは家族のつながりによって得られる生活の利便性向上、子どもの成長といったメリットをお話されていました。金銭的なメリットよりも、そうしたメリットを重視するほうがうまくいくのでしょうか。

何にメリットを感じるかは各家庭で違いますが、いくらメリットがあっても同居でストレスを感じやすい人はうまくいかないケースが多いです。大前提として同居に抵抗がないこと、その上で「せっかく住むなら相続税対策もしておこう」というスタンスのほうがうまくいく気がします。

最後に、これから二世帯住宅を考えている親世帯の読者へのメッセージをお願いします。

二世帯住宅は、同居するメリットをいかに活かしてデメリットを減らす家をどう作るかが肝になります。そのためには遠慮せず意見は積極的に言い合い、我慢しすぎないことが大切です。

また、二世帯住宅での同居がうまくいっている家庭は「元々は他人同士が集まって住んでいる」意識を持っています。他人ですから、価値観は違って当たり前です。困ったときに助け合うくらいの感覚で、適度な距離を保ちながら生活していくのが良いのではないでしょうか。

住まいについて考える際、お金の計画も一緒に考えないといけないところ。野村證券では、お客様の将来の夢や想いからライフプランを一緒に考えることができるので、ぜひ相談してみてはいかがだろうか。


プロフィール

松本 吉彦(まつもと よしひこ)

旭化成ホームズ株式会社 くらしノベーション研究所顧問・二世帯住宅研究所所長。
一級建築士、インテリアプランナー、インテリアコーディネーター。
日本女子大学非常勤講師、日本インテリア学会理事。
1983年に旭化成工業(当時)に入社し、二世帯住宅の工事監理・設計を約50棟担当。著書に『二世帯住宅という選択―実例に見る同居の家族』(平凡社)、共著に『日本の建築文化事典』『インテリアの百科事典』(ともに丸善出版)などがある。