災害被害者の大半は60代以上! 命と資産を守る防災対策とは?

2023年03月08日

近年、震度5以上の地震や豪雨による土砂災害など、大規模な自然災害が増えている。そのため防災対策をどう行うべきか、悩んでいる人も多いのではないだろうか。

過去の大規模災害では、犠牲者の多くを60歳以上が占めている。また、実際に被災した人々からは、「災害直後より、その後の生活の再建のほうが大変だった」という声も多く聞かれる。

そんな厳しい状況のなか、リタイアメント世代が被災時に命と資産を守り、その後の生活を立て直すにはどんな準備が必要か。
被災地にも足を運び、シニアの被災状況や防災対策に精通する三平洵さんに、60代以上が特に気を付けておきたい防災対策のポイントを伺った。

災害における死亡・行方不明者の大半は60代以上

災害の犠牲者に60代以上が多いのは、なぜでしょうか。

日本は少子高齢化社会で、人口の約3割弱が65歳以上です。一方で、過去の大規模災害における60歳以上の死者・行方不明者数は、東日本大震災では約66%、阪神・淡路大震災では約6割、西日本豪雨では約7割と人口比率以上に高齢者の占める割合が高くなっています。

図1:東日本大震災における年齢階級別死亡者数

図1:東日本大震災における年齢階級別死亡者数

出典:内閣府『平成25年版 高齢社会白書』をもとに編集部作成

資料:警察庁「東北地方太平洋沖地震による死者の死因等について【平成23年3月11日~25年3月11日】」より、検視等を終えて年齢が判明している者(15,681人)を集計。

その要因の一つとして、「逃げ遅れ」が考えられます。津波などの水害の場合、65歳以上は「警戒レベル3 高齢者等避難」が発令されたら避難すべきですが、長年その土地に住んでいる人ほど、「今まで危険な目にあったことがないから大丈夫」と、避難しないケースが多いようです。

また、地震の場合、建物の倒壊が死亡の大きな原因となりますが、年齢が上がるほど、築年数の経過した耐震性の低い建物に長年住み続けているというケースが増え、高齢者の死亡率が相対的に高まる傾向にあるようです。

被災後の生活で、亡くなる人も多いと聞きます。

はい。津波や建物の倒壊など、災害による直接的な原因で亡くなる「災害直接死」だけでなく、被災生活での体調悪化や過労など、間接的な原因で亡くなる「災害関連死」も多く見られます。

例えば、熊本地震では全犠牲者のうち「災害直接死」は50人。これに対し、「災害関連死」は217人と4倍以上でした。さらに、「災害関連死」の8割が70歳以上。高齢になるほど、災害発生後の生活環境に適応できずに亡くなる人や、医療機関が被災したことで持病の治療ができず、体調が悪化して命を落とす人も増えるようです。また、災害時の転倒などによるケガで介護状態になる人もいらっしゃいます。

被災に備え、日ごろから心がけたいことはありますか。

心身ともに健康でないと、被災後の生活を生き抜くことはできません。仕事を辞めて通勤がなくなった……というリタイアメント世代の方こそ、趣味やボランティア活動を楽しんだり、ウォーキングを習慣にしたりして、日常生活の中で健康づくりを心がけることが災害への備えになります。

災害によって防災対策は異なる

防災対策として、まず何から手をつけたらよいでしょうか。

災害時は、まず自分の命を守ることが最優先となりますが、地震、水害、風害、火事など、災害によって命を守る方法は異なります。例えば、「風水害」といっても「風害」と「水害」は別もの。2019年に上陸した台風15号では千葉県で大規模な停電が起こり、ライフラインが止まりました。この場合、地震と同じく停電対策や備蓄が必要となります。しかし、西日本豪雨のような水害では、避難する場所をあらかじめ確認しておくことが重要となります。

災害時、若い世代より注意が必要な60代以上の人こそ、むやみに災害を恐れて、やみくもに準備するのではなく、正しい情報を知った上で適切に備えることが大切です。

その一歩目として、まずは行政機関が発行するハザードマップや防災マップで、自分の住む地域にどんな災害が起こり、どんな危険性があるのか、そして災害時はどこに避難するのかを確認しましょう。わからない場合は、自治体の防災課に問い合わせると教えてもらえます。

避難する際の心構えや準備について教えてください。

「避難=別の場所に逃げる」というイメージがありますが、自宅に留まり続けることも避難方法の一つです。例えば、水害で浸水の恐れがある地域に住む人は避難する必要がありますが、同じ地域でもマンションの10階に住んでいる人は自宅に留まることも避難の選択肢の一つになります。

また、地震の場合は自宅が倒壊していない限り被災後も自宅に留まって生活し続ける「在宅避難」となりますが、地震に加えて津波や火災の恐れがある地域なら自宅外への避難が必要です。まずは、それぞれの災害ごとに、我が家ではどのような避難が適切なのかを考え、そのうえで準備を行ってください。

また、ひとくちに「避難」といっても、地震は事後、水害は事前と災害によって避難のタイミングや場所が異なりますし、「避難場所」と「避難所」は違います。防災マップなどで、それぞれの場所を確認しておきましょう。

・避難場所
災害から身を守るために一時的に逃げ込む場所。地震であれば、大きなグラウンドや高台などが指定される。

・避難所
災害によって自宅で過ごすことが困難な場合に、一定期間、避難生活をする場所。学校や公民館などが指定される。

災害時に避難のタイミングを知る方法を教えてください。

テレビのdボタンやインターネットで、警報や注意報、避難情報が得られます。長年その土地に住んでいらっしゃる方ほど「自分は大丈夫」と過信しがちです。決して過信せず、警戒レベルに応じて速やかに避難することが大切です。

図2

図2

出典:内閣府「避難情報に関するガイドラインの改定(令和3年5月)」より編集部作成

  • 市町村が災害の状況を確実に把握できるものではない等の理由から、警戒レベル5は必ず発令されるものではない。
  • 警戒レベル3は、高齢者等以外の人も必要に応じ、普段の行動を見合わせ始めたり危険を感じたら自主的に避難するタイミングである。

(注) 避難指示は、令和3年の災対法改正以前の避難勧告のタイミングで発令する。

避難する際の持ち物として、何を準備したらよいですか。

全員一律に「これを持ち出すべき」という物はありません。常備薬やメガネ、入れ歯の洗浄剤など、自分にとって生活になくては困る最低限の物を、リュックなどで背負える量だけまとめましょう。玄関にベンチ型の収納ボックスを置き、その中に防災用のリュックを入れて置いておくと、普段は靴を履くベンチとして使え、非常時にすぐ持ち出せるので便利です。

現金を準備する必要はありますか。

電子マネーが増えていますが、ライフラインの復旧前など、災害直後は使用できない恐れがあります。キャッシュカードを持っていてもATMを使用できないことがありますし、被災地外に急いで避難するための交通費が必要なケースもあります。夫婦2人で10万円ほどを目安に、現金を用意しておくといいでしょう。

通帳や有価証券、印鑑などは無理に持ち出さなくても大丈夫です。
金融庁・財務局と日本銀行は災害発生時、本人確認が取れれば規定額を引き出せるようにするなど、金融機関などに対して特別措置を要請します。

実際、過去に起きた災害時には、預金証書や通帳を紛失した場合でも、被災者の状況を踏まえた確認方法で預金者であることを確認し、払い戻しに応じる、届け出の印鑑がない場合は拇印で応じるなどの措置が取られています。

なお、本人確認の際の身分証明書は、運転免許証を返納された方でも顔写真入りの証明書として使えるマイナンバーカードが便利です。

過去の災害時などにおける被災者等支援(金融上の措置要請)については金融庁ホームページなどで内容をご確認いただけます。

地震対策は、まず家具の固定・移動から

ここ数年、大きな地震が増えていますが、どんな対策が必要ですか。

・家具の転倒・ガラスの飛散防止
直下型の阪神・淡路大震災では、ケガを負った人のうち3人中2人が家具の転倒やガラスの飛散によるものでした。リタイアメント世代の人にとって、家具の転倒による骨折で寝たきりになるなど、ケガは命取りになります。まずは、家具が倒れないよう固定や移動を行いましょう。また、食器棚の扉にストッパーを付けたり、窓に飛散防止フィルムを貼ったりしてガラスの飛散を防ぎます。
すべての部屋を行うのは大変なので、まずは寝室からスタートし、余裕があればリビングやキッチンも行いましょう。睡眠時間が8時間だとすると、寝室は1日の3分の1を過ごす場所ですし、過去の災害は早朝や深夜に起こることも多く、寝ているときに家具が倒れてくると防ぎようがありません。
「あれもこれも準備しないと……」と考えずに、防災対策は「千里の道も一歩から」。できることを一つずつ、無理せず行ってください。

・履物の用意
地震でガラスなどが飛散した場合、素足で歩くとケガをします。靴でなくてもよいので、スリッパなど何か履けるものを準備しておいてください。

・部屋の片づけ
長年住んでいるお宅ほど、物が増えがちです。転倒防止や避難経路確保のためにも、衣替えの延長で不要なものを捨てるなど、少しずつ片付けを進めておきましょう。これは断捨離や終活にもつながります。
理想は、寝室など被災後に片付けが少なくて済む部屋を一つ作っておくこと。被災後、自宅に生活する場がないと、避難所と家を往復しながら片付けを行うことになるため負担が大きくなります。

・停電対策
逃げる際、停電すると転倒のリスクが高まります。転倒により骨折してしまうと逃げようにも逃げられなくなるなど、まさに命取りになることもあります。また、年齢を重ねると、夜トイレに行く回数が増えるという声を聞きますが、被災後の生活においても暗闇の中でトイレに行く際に転倒する恐れがあります。コンセントに差しておくだけで常時充電でき、停電時も人の動きを察知して点灯するライトなど、被災時に使用できる照明を用意しておきましょう。

・自宅の耐震性の確認
自宅の築年数や耐震工事の状況などを確認し、耐震性を確認しておくことも大切です。

備蓄品には、どんなものが必要ですか。

・トイレ
ライフラインが止まって、まず困るのはトイレです。災害後はトイレに行く回数を減らそうと飲食を控える人がいますが、年齢を重ねるにつれて、脱水などの体調不良につながりやすくなります。トイレの心配がない状況をつくることで、身体的にも心理的にも安心できます。自宅のトイレの便座を使うことを前提に、凝固剤の入った携帯トイレや簡易トイレを多めに準備しておきましょう。

・食べ物はローリングストックを
災害時の食事というと、乾パンなどの防災食やインスタント食品を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、日ごろ食べ慣れないものは「食べにくかった」というリタイアメント世代の声をよく聞きます。普段食べているものや、日持ちするものを日常から少し多めに買っておき、生活で食べた分を常に買い足すという「ローリングストック」がおすすめです。また、冷たいものは体を冷やし、食べにくい場合もあるため、温かいものが食べられる準備をしておきましょう。カセットコンロやガスボンベがあると、煮炊きができて便利です。

・薬やメガネなど、ないと困るもの
持病の薬やメガネ、補聴器、入れ歯の洗浄剤など、年齢を重ねるにつれ、生活に不可欠なものが増えていきます。避難時に持ち出す物と同様、自分にとって生活になくては困る物を準備しておきましょう。
慢性疾患の薬は、かかりつけ医に相談して多めに処方してもらうといいでしょう。メガネや補聴器は、予備を作っておくと安心です。入れ歯の洗浄剤などは普段から少し余分に購入しておく「ローリングストック」を活用すると、無駄なく準備できます。

備蓄品の見直しは、いつ行うといいでしょうか。

衣替えや車のタイヤの履き替え時期に行うのがおすすめです。特にリタイアメント世代は脱水対策や温度管理に気を付けていただきたいので、夏には経口補水液、冬にはカイロなど、季節に応じて必要なものを入れ替えてください。

手元の資金の有無が、被災後の生活を左右する

防災対策における、お金の準備について教えてください。

被災後に被災前と同レベルの生活を再建するためには、多くのお金が必要です。特に、持ち家がある人は家を建て直すお金が必要になるなど、資産がある人ほど再建にあたってもお金がかかります。また、年齢が上がって被災した場合、ローンを組むことが困難になるケースも多くみられます。リタイアメント世代ほど、災害に備えて資産の確保が必要です。

災害に備えて資産を確保する、おすすめの方法はありますか。

建物と家財の両方を対象とした地震保険に加入しましょう。公的な被災者生活再建支援金は支給まで時間がかかるケースが多いようですが、民間が運営する地震保険の場合、一般的に数週間で保険金が支払われます。マンションなど耐震性の高い建物や、新耐震の戸建てにお住まいの場合、「うちは壊れないから大丈夫」と地震保険に加入しない方がいらっしゃいます。しかし、家が倒壊しなくても、地盤が歪んで建物が傾くことがありますし、建物は無事でも、家財が全損・半損することもあります。

実際、熊本地震では地震保険に入っていたおかげで、家が全壊したものの、保険金が速やかに支払われ、「お金が入ってきたときの安心感は本当に大きかった」としみじみ話す方もいらっしゃいました。

手元に資金があれば、「家を建て直す」「引っ越しをする」など選択肢も広がります。地震保険の加入に年齢の上限制限はありません。被災後に、豊かなセカンドライフを送り続けるためにも地震保険の加入の有無を確認し、契約内容を見直すことが重要です。

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

長寿命化・少子高齢化社会の防災は、今まで誰も経験したことがありません。リタイアメント世代のみなさんは、いわば世界の防災の最前線に立っており、みなさんの行う防災対策が、次の世代に生きてきます。今後、起こりうる災害を元気に乗り切るためにも、先頭を切って防災対策を進めていただきたいと思います。

災害への備えとあわせて考えたい、資産を守るための備え

資産運用においても数年、数十年に一度、金融・経済危機とよばれる混乱が発生することがあります。そうした事態に備えて、防災対策同様、危機的状況を想定し、準備・対策しておくことが大切です。
投資をする際に、リスクやタイミングを分散しておくことで、経済が持ち直す局面にマーケット回復時のメリットを大きく享受していくことも可能です。
野村證券では、投資対象だけでなく投資タイミングも分散できる積立投資など、金融危機にも備えた資産運用のご提案も行っています。


プロフィール
三平 洵 (みひら じゅん)

(一社)地域防災支援協会代表理事。
2012年、防災に関するアドバイスを行う(株)イオタ代表に。2014年に(一社)地域防災支援協会を設立。東京都総務局総合防災部などの講習会で講師を務めるなど、地域活動や防災対策に精通する。著書に『シニアのための防災手帖』(産業編集センター)、共同監修した『高齢者を身近な危険から守る本』(池田書店)がある。