凶悪犯罪から命とお金を守る3つの防犯対策

2023年05月24日

日本各地で強盗事件が発生している。他人事ではないと気を揉んでいる方もいるのではないだろうか。今回は、なぜこのような事件が増えているのか。被害に遭わないためには、どのような対策を講じればいいのかを考えていこう。

日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了し、立正大学文学部社会学科で犯罪社会学や犯罪機会論を教えている小宮 信夫教授にお話を伺った。

リタイアメント層を狙う犯罪の手口が進化している

2023年1月に起きた東京都狛江市の強盗殺人事件のように、高齢者をターゲットとした凶悪犯罪が増えています。全人口に対する高齢者の割合が増えてきたなどの理由もありますが、私は、こうした犯罪の背景に「妬み」があるのではないかと考えています。

犯罪者の中には、リタイアメント層に対して「いい時代を過ごしてきた裕福な人たち」「格差が広がる現代社会を作った人たち」といった偏ったイメージを抱く人がいます。そこからさらにエスカレートして、「勝ち逃げしようとしているリタイアメント層からなら、少しくらいお金を奪ってもいいだろう」とか「俺たちがバランスをとってやる」と考える。極めて勝手な論理ですが、自分に都合よく、犯罪を正当化しているのかもしれません。

一方で、近年、犯罪も進化しています。その一つが「ピンポイント強盗」です。ピンポイント強盗とは、あらかじめ多額の資産がありそうな家にピンポイントで押し入り金品を強奪するタイプの強盗のこと。強盗は初犯でも非常に重い刑が科されるため、犯罪者にとって高リスクではありますが、一方で高いリターンを望めます。ただ、実行に移すためには、誰が自宅に現金を持っているかなどの情報が必要となりますが、その情報収集にコストがかかるという課題がありました。ピンポイント強盗の全容はまだつかめていませんが、私は振り込め詐欺の電話が一役買っているのではないかと見ています。振り込め詐欺では、ターゲットにされた人が犯罪者と電話で話し込んでしまう場合があります。会話をしているうちに、犯罪者は気付くのです。「この家は結構お金持ちらしいぞ」と。資産家だと察知されてしまった場合、それならば直接強盗をしたほうが手っ取り早いのではないか、となる。そしてターゲットとした家に、宅配便などの業者や市区町村の職員などを名乗って訪問し、居住者がドアを開けたところで押し入るのです。

かつての強盗は「お金を持っている家を探すためのコスト(労力)」が足かせになっていましたが、今は振り込め詐欺と組み合わせることで「やりやすい犯罪」になった可能性があります。つまり、電話などを通じて情報を入手して、強盗先探しの精度向上に成功するなど、いわば犯罪の「イノベーション」が始まっているのではないかと考えています。

こうしたイノベーションを続ける犯罪から命とお金を守るためには、どうすればいいのでしょうか。私は大きく3つの対策を提案しています。
まず、「上流の対策」。これは犯罪者の標的にならないための防衛策です。不用意に情報を漏らさず、簡単に相手を信用しないことが大切です。
次に、犯罪者を自宅に近づけないための「下流の対策」。鍵を二重にするなど、より実践的な防御策です。
そして3つめが、自宅という「点」を地域全体という「面」で守る「地域ぐるみの対策」です。

図1:命とお金を守る3つの防犯対策

図1:命とお金を守る3つの防犯対策

出典:小宮信夫教授のお話をもとに編集部が作成

防犯対策その1 自宅を標的にさせない「上流の対策」

日ごろから特に気を付けたいのが「上流の対策」です。自分の家に現金がある、貴金属があるといったお金や資産に関する情報を外に流さないこと。一度流れた情報は犯罪者組織で共有され、それをもとに標的にされる恐れがあります。

「私は大丈夫」。そう思っているかもしれません。

しかし、情報は意外なところから漏れるもの。詐欺電話を撃退するつもりで、つい「うちはお金に困っていません!」とか、子どもを名乗る電話に「この間、貸したばかりでしょ? まだ足りないの?」などと、相手のペースにうまく乗せられて返答してはいないでしょうか。こういった言葉が、じつは犯罪者にとっては十分な情報になります。

また、世代的な特徴として、リタイアメント層は性善説でものを考えがちです。日常生活の中では、大変素晴らしい考え方ですが、相手が犯罪者だった場合、脇の甘さにつながります。

たとえば、お店で友人と話しているとき。「○○さんは宝くじが当たったみたいだよ」「○○さんの土地がずいぶん高く売れたみたい」といった会話をしていないでしょうか。もしかしたら隣の席に悪意を持った人がいて、耳を澄ませているかもしれません。「まあ、大丈夫だろう」「そんなひどいことをする人がいるとは思えない」といった善意の思い込みを捨てることが大切です。

次に、だまされにくい体質を作りましょう。子どもを名乗る人からこんな電話がかかってきたとします。「取引先に行って今日中に契約金を払わないといけない。でも、お金を入れたバッグを落としてしまった。これから部下が取りに行くから100万円を立て替えてくれないか」。

これに対して、どう答えるべきでしょうか。ここで大事なのは、相手の言いなりにならず、主導権をこちらに引き寄せること。たとえば、やり取りの仕方を具体的に提案するのです。

「よし分かった。でも、家の前で現金を渡すのではなく、駅前の交番の前で渡そう。そのほうが安全だから」といった具合です。本当の話であれば、お子さんの部下が交番前に現れるでしょう。しかし、犯罪者であれば絶対に来ません。

かかってきた電話に対して自分の都合で対応するのは、相手に失礼だという遠慮もあるかもしれません。しかし犯罪者、あるいはそれと疑わしき人物と対峙するには自己中心的になるほうが良いのです。

防犯対策その2 自宅に侵入させない「下流の対策」

「上流の対策」をしっかり講じることで、犯罪に遭う可能性を減らすことができますが、完璧ではありません。それでも犯罪者が自宅にやってくる可能性はあります。

そんなときに必要なのが「下流の対策」です。これは難しいことではありません。戸締まりをしっかりする。ドアの鍵は二重にする。見知らぬ訪問者に対して不用意にドアを開けない……。基本的には空き巣対策と同じで、自宅に犯罪者を近づけないことを考えます。

たとえば戸建ての場合、つい見落としがちなのが勝手口です。玄関のドアは万全でも、勝手口がおろそかになっているケースはままあります。通常、勝手口は周囲から見えにくい場所にあるため、犯罪者にとっては、むしろ侵入しやすい場所となります。勝手口も二重ロックにするなどの対策を講じたほうがいいでしょう。敷地内に防犯ジャリを敷き詰めるといった対策も考えられます。ジャリの音で空き巣など侵入者の気配が分かるのは、意外と効果的です。

集合住宅の場合は、窓側のセキュリティに注意が必要です。隣の部屋のベランダから侵入できたり、別の建物から飛び移れる構造になっているかもしれません。そういう構造の住宅には、たとえば飛び移ってきそうなところに植木鉢を置く。植木鉢があるだけで侵入の邪魔になりますし、もし倒れて音がすれば警報機代わりにもなります。また、植木鉢は犯罪者に対して、水をやっている人がいる、つまり人が頻繁に出入りする場所だぞ、というメッセージにもなります。

「下流の対策」で大事なのは、犯罪者になったつもりで自宅をチェックすることです。侵入しやすいのはどこか。犯行が見つかりにくい場所はないか。そうした目で見て、対策を講じるのがベストです。その上で、犯罪者に「この家でシゴトをするのは、リスクが高そうだ」と思わせることが重要です。

ただし、「下流の対策」にもデメリットがあります。生活の便利さと防犯対策はトレードオフの関係にあるからです。たとえば二重ロックは、日々の開け閉めが面倒です。防犯ジャリは歩くたびに音が鳴ってうるさいですし、掃除も大変。ベランダの植木鉢は布団を干すときなどに邪魔になるかもしれません。

しかし、こうしたことをおろそかにしないでください。防犯を怠る大きな理由を、私は「3M(スリーエム)」と呼んでいます。「面倒くさい」「難しい」「もったいない」の3つの「M」です。でも、私たちにとって邪魔なものは、犯罪者にとっても邪魔なのです。こう考えれば、3Mを克服できるのではないでしょうか。

防犯対策その3 犯罪者を近づけない「地域ぐるみの対策」

個々人で「上流の対策」と「下流の対策」を講じれば、犯罪に巻き込まれる確率は下がりますが、それに加えて提案したいのが「地域ぐるみの対策」です。近隣の住民や集合住宅の管理組合などを巻き込みながら、犯罪者が近寄れない街づくりを目指します。これはもちろん簡単なことではありませんが、非常に効果的な方法だと考えています。実現できれば、自分だけでなく周囲の友人や親戚、子どもたちなど多くの人を守ることができます。

私のおすすめは「ホットスポットパトロール」です。強盗や空き巣をもくろむ犯罪者は、人目の少ない空き地や駐車場などに潜み、狙っている家の下見をします。犯罪の温床となりやすいこうした場所を洗い出し、犯罪者が近寄れないように地域住民が見回る。これが「ホットスポットパトロール」です。

この考え方は、「犯罪機会論」という新しい学術理論に基づいています。既存の犯罪学では、犯罪者という「人」に着目して犯罪の原因を探ろうとします。しかし、「犯罪者」や「不審者」を事前に特定するのは、捜査機関にとってもかなり難しいことです。そこで犯罪機会論では、人でなく「場所」に着目します。「犯罪は、犯罪の動機を抱えた人が、犯罪を誘発しやすい場所に接したときに発生する」と捉えるのです。

逆に言えば、犯罪が起きやすい・誘発されやすい場所=ホットスポットをなくせば、犯罪を未然に防ぐことができるわけです。

ポイントは「入りやすく、見えにくい」場所を作らないこと。

「入りやすい」とは、誰もが怪しまれずに侵入できる状態です。犯行後すぐに逃げられそうなところでもあります。「見えにくい」とは、死角になる状態と、死角がなくても視線そのものが届かない状態。物陰や屋上などがその典型です。このような、誰にも邪魔されず、捕まりづらい場所は犯罪を誘発しがちです。

ホットスポットの例を具体的に見てみましょう。公園と駐輪場の例です。

(1)公園の場合

犯罪が起きにくい例

フェンスで囲われている
複数の窓から見えやすい

犯罪が起きやすい例

簡単に出入りできる
柱などで死角ができやすい

(2)駐輪場の場合

犯罪が起きにくい例

生け垣があり入りづらい
たくさんの窓から見える

犯罪が起きやすい例

柵などがなく入りやすい
壁で死角ができやすい

上の写真のような「入りやすい」「見えにくい」場所は、犯罪者からすると「誰にも見つからず犯罪を達成できそうな絶好のスポット」と映ります。こうした場所をいかに少なくしていくかがポイントとなるのです。

他にも、空き地であれば入口にロープを張る、駐車場ならチェーンをつける。こうした工夫だけで、犯罪者は自然と「逃げづらいな。ここはやめておこう」という気持ちになりやすいのです。

とはいえ、こうしたホットスポットの洗い出しや定期的なパトロールは、なかなか個人でできることではありません。1人でなんとかするのではなく、地域を巻き込んで実施する必要があります。誰かが防犯リーダーとして地域に貢献すれば、その街はきっとみんなが住みやすい、素晴らしい街になるはずです。人生経験の中で、リーダーシップを発揮したり数多くの交渉をこなしたりしてきた方が中心になって活動すれば、一緒に街をよくする仲間を作ることができると思います。ぜひ、みなさんが中心になって、自治会やマンションの管理組合に提案し、地域ぐるみの防犯対策を講じてみてください。

昨今の凶悪犯罪に対抗するためには、まずは性善説を捨て、情報管理を徹底する「上流の対策」、続いて「3M」をいとわず、日ごろから犯罪者を近づけないようにする「下流の対策」、そして最後は、近隣の住民と協力して犯罪者が近寄りづらい街づくりを目指す「地域ぐるみの対策」が大切です。常に、この3本柱を意識して備えるようにしましょう。

(小宮 信夫教授・談)

資産はどのように守れば良いのか? 

犯罪から身を守るために、地域で協力しあうことができれば、防犯に役立つだけではなく、防災などの面でも心配ごとを減らすことができますね。
日ごろから万一に備えておくことはとても重要です。野村證券の資産設計コンサルティングサービスでは、お客さまの将来のビジョンや投資に関する考え方、現在の資産の状況を伺って、景気や経済環境の変化から、大切なご資産を守るための具体的な方法をご提案いたします。


プロフィール

小宮 信夫(こみや のぶお)

立正大学文学部社会学科教授。ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。NHK「クローズアップ現代」などに出演のほか、全国各地での講演も多数。代表的著作は『写真でわかる世界の防犯 ―― 遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)。公式ホームページは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。