法改正で税負担増の空き家が増える!? 空き家対策待ったなし!

2023月6月28日

日本国内に存在する空き家の戸数をご存じだろうか。2018年の調査(平成30年住宅・土地統計調査/総務省統計局)によると、その数はなんと848万9千戸と過去最多となり、全国の住宅の13.6%を空き家が占めていることになる。この調査は5年ごとに行われるため、2023年は調査年に当たるが、空き家の戸数、空き家率ともに60年以上にわたって増加傾向にあり、今回の調査でも、さらにその数が増えることは、まず間違いないであろう。

この増加し続ける空き家が、今、社会問題になっている。荒れた空き家は景観に影響を及ぼすだけでなく、事件や事故につながることも少なくない。近隣住民にとっても、空き家の持ち主にとっても大きなリスクになっている。2015年5月に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家等対策特別措置法)」では、放置すれば倒壊するおそれがあるといった空き家を、各自治体が「特定空家等」に指定あるいは認定し、固定資産税および都市計画税の住宅用地の特例措置を解除するなど、空き家への対策が進められてきたが、2023年6月には、この改正案が成立し、住宅用地の特例措置が解除される空き家の範囲が拡大されることが決定している。この改正案が施行されれば、住宅用地の特例措置が解除され、例えば敷地面積が200m2以下の小規模住宅用地の場合、固定資産税については最大で約4.2倍(注:自治体により税率が異なる)に達する可能性のある空き家がさらに増えることになるのだ。空き家問題を抱えつつ様子見していた人にとっても速やかな対策が必要になってきたといえるだろう。
では、具体的にどうすればよいのだろうか。

今回は、空き家問題に詳しく、2023年2月に刊行した著書『負動産地獄 その相続は重荷です』(文春新書)が話題となっている不動産事業プロデューサー、経済・社会問題評論家の牧野知弘(まきの ともひろ)氏に、いま空き家がどんな問題をもたらしているのか、そして空き家問題を抱えているときにどう対応すればよいのか、解決の糸口を聞いた。

空き家が増加している理由

1955年度(昭和30年度)から1972年度(昭和47年度)にかけての高度経済成長期には、国が推進した持ち家政策の後押しもあり、地方から都会に出てきた人々が首都圏近郊にマイホームを持つようになりました。そうした中で、田舎の両親が亡くなり、実家を相続したものの、そのまま放置してしまうことが増え、地方の空き家が増加しました。

さらに今、東京や大阪の郊外の家で生まれ育った世代が都心部のマンションなど暮らしに便利な家を求めた結果、大都市圏の郊外にも空き家が増えています。少子化が進んでいるため、両親の遺産が子ども1人に集中することは珍しいことではありません。中には、祖父母世代の地方の家に加え、郊外の両親の家も相続し、複数の空き家を持つケースも出てきています。

「相続放棄すればいいのでは?」と考える方もいると思いますが、相続放棄というのは、現金や株式などプラスの財産も含めた全ての財産を放棄することです。自分がいらないものだけを放棄できる制度ではありません。だからこそ、親からの遺産として空き家が手元に残ってしまうという問題が拡大しているのです。「空き家」という語感から、主に戸建てをイメージされる方が多いと思いますが、これはマンションなどの集合住宅も同様です。集合住宅の場合、管理組合に相続人の届け出がないまま空き家になってしまうと、管理費が集められないなど他の居住者への影響も大きく、社会問題としてはより深刻です。別荘やリゾートマンションといった物件に関しても、人気が衰えた地域のものは買い手がつかず、どうにもならない場合が少なくありません。不動産が持ち主や社会を苦しめる「負動産」になってしまう前に、どうしたらよいのかを具体的に考えておきましょう。

空き家を放置することのリスク

空き家を放置したままにしておくと、
(1)資金面のリスク
(2)維持管理のリスク
(3)自然現象からのリスク
(4)犯罪に巻き込まれるリスク
という主に4つのリスクがあります。

(1)資金面のリスク
空き家であっても、毎年、固定資産税と都市計画税(地域によってはかからない)の支払義務が生じます。住宅が建っていることにより「住宅用地の特例措置」による固定資産税の負担は軽減されるものの、土地と家屋については以下のように一定の税金を納めなくてはなりません。

  •  固定資産税……課税標準額※1 × 1.4%(税率)※2
  • 都市計画税……課税標準額※1 × 0.3%(税率)※2
  • 課税標準額は、固定資産評価基準に基づく「評価額」に軽減措置や負担調整を加味して計算されます。土地に関しては、「住宅用地の特例措置」が適用されると評価額が軽減され、固定資産税では1/6、都市計画税では1/3となります。(小規模住宅用地の場合)
  • 税率は市町村によって異なる場合があります。

しかし、今回の法改正により、空き家の状態によっては、特例措置が受けられなくなる可能性も高まってきたので、資金面のリスクは一層高くなったといえます。

(2)維持管理のリスク
家というものは、管理を怠るとすぐに傷みます。日本は非常に湿度が高いので、木造の戸建て住宅は腐食しやすいです。2年くらい誰も住まずに使わないでいると、あっという間にダメになります。離れたところに暮らしていても、定期的に風を通すなど、時間とお金をかけて管理する必要があります。

(3)自然現象からのリスク
庭を放置しておくと草が生え、あっという間に荒れ放題になります。手入れや剪定を怠り、倒木が隣家を壊したり、道路で事故を起こしたりすれば、賠償責任が発生する可能性もあります。郊外では空き家にハクビシンやタヌキなどの野生動物が棲みついて、近所に被害を及ぼしてしまうこともあります。

(4)犯罪に巻き込まれるリスク
誰も住んでいないのをいいことに、犯罪者が空き家を隠れ家として使用してしまうことがあります。中には、放火されてしまった空き家もありました。管理不行き届きであるとして空き家の所有者が損害賠償の訴訟を起こされたケースもあります。

建物を取り壊し、「空き地」にすれば、ある程度のリスクは軽減できますが、更地にすると住宅用地の特例措置が受けられなくなるため、固定資産税は、それまでの最大4.2倍、都市計画税は最大2.1倍の金額に上がります。しかし、更地化せずとも状態の悪い空き家は「空家等対策特別措置法」により特例措置の対象から外れてしまうことも考えられます。税額軽減のために空き家を放置するという発想はすぐに過去のものになるでしょう。

相続土地国庫帰属制度の可能性と問題点

空き家問題を解決すべく、国も動き始めています。2023年4月27日から、「相続土地国庫帰属制度」がスタートしました。これは、相続した土地で、必要のないものを国に引き取ってもらえる制度です。ただし、この制度を活用するには、いくつかの条件をクリアしなくてはなりません。まず、利用するために費用がかかります。申請時に審査手数料として、土地一筆当たり1.4万円。さらに、土地管理費10年分に相当する負担金も納めなくてはなりません。例えば、市街化区域内にある200m2(約60坪)の宅地の負担金は、法務省ホームページに掲載されている「自動計算シート」によると80万円ほどかかる計算になります。ただ、この「相続土地国庫帰属制度」は、その名称の通り、対象はあくまで「土地」のみです。そのため、母屋が立っている場合には取り壊して更地にする必要があります。また、隣地との境界線が明確になっていない土地や、汚染された土地、担保権や使用収益権が設定されている土地は申請ができません。マンションなどの集合住宅は個別の事情で建物全体を解体するのは不可能なため、実質、この制度を利用することはできません。そのため、この制度によってすべての空き家問題が解決されるとはいえないのが現状です。

空き家問題解決への3ステップ

(1)家族間で問題を洗い出す
現状、空き家問題の解決のためには、まずは自分たちで道を探ることが重要です。家族間で問題を洗い出しましょう。時期としては、早ければ早いほどいいですね。実家が空き家になってしまってから、空き家が崩れそうになってからではなく、できれば実家に親が住んでいる時期から、住んでいる人の意見も聞きながら家族会議を行うと結論を出しやすいでしょう。

(2)売るのか、残すのか? 大きな方針を決定する
問題を洗い出したら、次は具体的な対策を考えます。空き家や空き家になりそうな家をどうするか。まず大きな考え方としては、「売る」か「残す」かの二択です。その先に、どんな選択肢や課題があるのか、ディシジョンツリー(樹形図)にしてみると、選択肢のメリット、デメリットを比較・検討しやすくなります(図1)。

図1:ディシジョンツリーの例

図1:ディシジョンツリーの例

出典:牧野知弘氏へのインタビューをもとに編集部作成

売る場合にも、「すぐに売る」「親が亡くなってから売る」や、「そのままの状態で売る」のか、「更地にしてから売る」のか、「修繕・改築してから売る」のかなど、より詳細な選択肢があります。残す場合も同様です。こうしたあらゆる可能性を探る中で、家族や親族が一番納得できる形を探っていくわけです。

(3)専門家に相談する
すでに空き家になってしまっていて、どうすればよいのか分からない、と目の前の問題で困っている方もいると思います。そんなときは、自身とは違う角度、違う目からのアドバイスを受けることが重要です。不動産を扱う金融機関や、税理士、不動産鑑定士、不動産アドバイザーなど、その道のプロならば、上手な活用法を紹介してくれることがあります。

例えば、何年もの間、どこにも売れなかった、どこにも貸せなかった物件が、ふとしたきっかけで外国人の投資家に買ってもらえた、ということがありました。その外国人の目には、日本の古民家が興味深い物件に見えたようです。都市圏ではなかったので、価格もリーズナブルだったのでしょう。その方に紹介されて何軒も続けて売れたこともあります。

もちろんこれらは、たまたまうまくいったケースで、どんな家でも…というわけにはいきません。ただ、ディシジョンツリーなどを使って、自ら選択肢を考えた上で、専門家にアドバイスを求めることで、納得いく活用方法を見つけることができると思います。

空き家は社会問題としてまだまだ課題が多く、個人だけでは対応しきれない面もあります。とはいえ、残す親は自分たちが元気なうちに家の片付け、断捨離をすませる。家を相続した子どもたちはできる限り早めに家族で相談する。そういったことが解決の糸口につながります。まずは自分たちで道筋を考え、必要に応じて専門家を活用するなど、ぜひ前向きに取り組んでください。

(牧野知弘氏・談)

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プロフィール

牧野 知弘(まきの ともひろ)

東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループや三井不動産などで、不動産の買収・開発・証券化、ホテルリノベーション、J-REIT商品の上場を手がける。2009年、株式会社オフィス・牧野、2015年、オラガ総研株式会社を設立。『空き家問題』(祥伝社新書)、『負動産地獄 その相続は重荷です』(文春新書)など著書多数。