お口の健康が元気の秘訣!「オーラルフレイル」対策で、口腔機能の低下を予防

2021年09月22日

食べたいものを食べ、楽しく会話し、声を出して笑う。そんな輝く毎日を過ごすためには、心と体――なによりお口の健康が欠かせない。

そこで近年注目されているのが、「オーラルフレイル」(=口腔の衰え)という概念だ。虫歯など明らかなトラブルがないと口元にそこまで注意をしない人も多いだろうが、年齢を重ねると生じやすい、歯・唇・舌などのお口全体の機能低下を予防することが重要視されている。

さまざまなセミナーで講師を務める塚原さん

お口は、体の健康への入り口。オーラルフレイルの実態や、日常生活の中でも実践できる口腔機能の低下を予防する方法を、一般財団法人サンスター財団 健康推進室 東日本 口腔健康チーム所属で歯科衛生士の塚原莉奈(つかはら りな)さんに聞いた。

「暮らしの質」に関わるオーラルフレイル

年齢を重ねても、健やかな毎日を過ごすために、お口の健康が見直されているそうですね。

はい。近年、歯科医師会ではオーラルフレイル対策に力を入れています。オーラルフレイルとは、オーラル(=口腔)と、フレイル(=虚弱)を合わせた造語で、口腔機能の低下を指します。お口の機能が低下すると、実は心身の健康にも徐々に影響が出てくるのです。

最初はほんの小さなお口のトラブルから始まるため、毎日の暮らしの中ではなかなかわからず進行していることが多いです。でも、早く気づいて予防や改善をすれば、暮らしの質を維持することができます。

オーラルフレイルとは、具体的にどんな症状をいうのでしょうか?

例えば、「食事の時に食べこぼしをしやすい」「硬いものが食べにくくなる」「口の乾きが気になる」「お茶や汁物でむせることがよくある」などの症状がある人は、注意が必要です。噛む、飲み込むなどのお口の機能の衰えがこうした症状として現れるからです。

オーラルフレイルが注目されるのは、お口の機能が低下すると、楽しく食事ができなくなったり、食べられるものが限られてしまったりするからです。その結果、栄養のバランスが崩れ、筋力が衰えてしまったり、免疫力が低下するなど、体全体の健康に大きな影響を及ぼすこともあります。

出典:公益社団法人日本歯科医師会リーフレット「オーラルフレイル」より抜粋

お口の衰えが、体の健康と連鎖するのは驚きです。つまり健康寿命を延ばすことを目指すにも、オーラルフレイルは重要なのですね。

お口が持っている働きとしては「食べること」だけでなく、「話すこと」や「感情表現」などもあります。お口が乾きやすいと会話がしづらくなったり、口臭が出たりすることもあるため、コミュニケーションに影響が出て、社会活動の低下につながることもあるといわれています。

健康的で美しい口元であれば自然と自信も出てきますし、心も体も長く健やかに過ごすために、お口はとても重要な役割を果たしているのです。

日常に取り入れやすい、お口の機能を高める習慣

オーラルフレイルを予防するために、日常生活の中でできることはありますか?

お口の運動不足を解消するために、唇や舌など、お口周りの筋肉を意識してよく動かすことを心がけてください。日常生活の中でちょっと工夫するだけでも、お口の運動はできますよ。例えば歯みがきやお出かけした後、皆さんよくうがいをされますよね。そのときに、ブクブクうがいや喉のガラガラうがいを、少し長めに1分間くらい行うのも、お口や喉の筋肉を鍛える運動になります。

他には、食事ではなるべくしっかり噛むことを心がけましょう。食材をちょっと大きめに切って調理するのもおすすめです。また、厚生労働省では一口の食事で30回以上噛む「噛ミング30(カミングサンマル)運動」を提唱しています。よく噛むことでお口の筋肉が鍛えられるだけでなく、肥満防止や胃腸の快調などの効果も期待できます。

積極的にお口の機能を改善するための、トレーニング方法も教えてください。

「パタカラ体操」や「唾液腺マッサージ」などがおすすめです。パタカラ体操は、口を大きく開けて「パ」「タ」「カ」「ラ」とはっきり発音します。唇や口周り、舌、喉の筋肉をしっかりと動かし、食べ物を喉の奥に運ぶまでの一連の動作を鍛えるトレーニングです。

口が乾きやすい方は、顔周りの3カ所にある唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺)をマッサージしてあげると唾液が出やすくなるので、オーラルフレイルに効果的だといわれています。

お口への関心を持つことが健康への第一歩

歯科衛生士のお立場から、年齢を重ねても健やかに、お口の健康を守るために大切なことは何だとお考えですか。

健康への意識が高い方々は、歯のお手入れもきちんとされている印象が強いです。厚生労働省の、80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという「8020運動」が定着し、自分の歯をしっかり維持されている方がとても多くなりました。

ただ年齢を重ねると、歯周病にかかりやすくなる傾向にありますので、「歯があるから安心」というわけではありません。日頃の口腔ケアはもちろんですが、早期発見のためにも、できれば半年か1年に1回は歯科医院で定期検診を受けて、お口の状態を専門家に診てもらうとよいでしょう。

定期検診は必須ですが、あまり頻繁に通うのはおっくうに感じてしまいますね。そのためにも、自宅でできるオーラルフレイル対策は重要でしょうか。

食べこぼししやすい、しっかり噛めないなどの不安がある場合も、歯科医院に相談できますが、日常で実際に対策をするにはご自身の努力が必要です。オーラルフレイルを知って暮らすのと、知らずに暮らすのでは、後々の健康に大きな差が出てくることでしょう。

繰り返しになりますが、お口の衰えを防ぐことは、体の衰えを防ぐことにもつながります。オーラルフレイルはまだ聞き慣れない言葉かもしれませんが、「お口は、体の健康への入り口」といわれるように、心身の健康を維持する上でとても重要です。皆さんもぜひオーラルフレイルへの関心を高め、予防や対策を積極的に取り入れて、今後の生活に活かしてほしいと思います。


プロフィール

塚原 莉奈(つかはら りな)

歯科衛生士。一般財団法人サンスター財団 健康推進室 東日本 口腔健康チーム所属。
サンスター財団附属千里歯科診療所で臨床経験を積み、その後、東日本 口腔健康チームで高齢者分野の歯科保健指導の強化を図る業務を担当。