毎日お魚を食べていますか? 血液をサラサラにする「EPA」が健康の秘訣

2021年11月10日

食事は健康の源。毎日おいしい食事をとりながら、気になる病気の予防ができれば理想的だ。そこで注目したいのが、魚の油「EPA」。人の体で作ることができない油で、魚を食べることで摂取できる栄養素だ。血液をサラサラにする作用があり、心疾患や脳血管疾患などの予防に効果的だといわれている。

EPAはDHAと合わせて1日1グラムを目安に、毎日摂り続けることが目標という。そこで今回はEPAの働きや、効率的に摂取できる魚の種類や調理方法、健康寿命を延ばすための活用法を、日本水産株式会社 食品機能科学研究所の横井香里(よこい かおり)さんに聞いた。

血液に作用する「EPA」パワーに着目

最近、魚に含まれるEPAが注目されているようですね。EPAは、どんな特徴をもった栄養素ですか。

EPAは「エイコサペンタエン酸」(eicosapentaenoic acid)の略称で、健康に欠かせない必須脂肪酸の一種です。海に住む生き物だけがもつ特別な油で、人の体では作ることができません。

昔から日本人は魚をたくさん食べることでEPAを摂取してきましたが、近年、肉中心の食生活になり魚の摂取量が減少しています。そのためEPAをもっと積極的に摂りましょうと、改めて注目が集まっているのです。

EPAの摂取がなぜ大切なのですか。

EPAには私たちの体に作用するすばらしい効果・効能が認められているからです。EPAは血管の内壁や赤血球の膜へ浸み込んで、膜をしなやかにする効果があるので、血液の状態をサラサラに保ち、血栓をできにくくしたり脂質異常症を予防したりします。

その結果、動脈硬化・心疾患(心筋梗塞など)・脳血管疾患(脳梗塞など)になりにくくする働きがあるということが、世界中の医学者の研究によって明らかにされているのです。健康のために脂質を避ける方も多いと思いますが、脂質は炭水化物やたんぱく質と並ぶ3大栄養素の一つ。実は脂質にもいろいろな種類があり、良質な油は摂ることでむしろ体を健康にしてくれます。

こうした健康効果はもちろん、紫外線による肌ダメージの軽減、冷え予防、体に酸素が行きわたりやすくなることで運動効率を高める効果など、さまざまな分野で今とても注目されている栄養素です。

魚に含まれる栄養素としてはDHAもありますが、どんな違いがあるのでしょうか。

EPAとDHAは共に魚の油に含まれる必須脂肪酸ですが、作用する場所に違いがあるといわれています。EPAは血液や血管などの循環器系に働きかけ、DHAは発達段階の脳などの神経系に作用します。そのため、現時点では体の出来上がった成人の健康にはEPA、成長期の乳幼児にはDHAが有効だといわれています(図1)。

図1:EPAとDHAの違い

図1:EPAとDHAの違い

出典:日本水産株式会社の資料をもとに編集部作成

1980年代からマスコミなどでDHAの栄養素が注目され、「魚を食べると頭が良くなる」と話題になりました。しかし、実はそれ以前から医学の分野では、EPAには心臓病になりにくくする効果や、血中の中性脂肪を減らしたりする医学的効果が知られていたのです。

ただ、魚の油にはEPAとDHAが必ず一緒に含まれていますので、魚を食べることで両方の栄養素を摂ることができます。

特に、EPAの摂取をおすすめしたいのはどんな方ですか。

EPAが予防に効果的だといわれる心疾患、脳血管疾患などは、日本人の死因の上位を占めています。特に脳血管疾患は発病後に要介護になったり、認知症になったりするリスクもあるので、年を重ねても健康で生き生きと過ごしたい、健康寿命を延ばしたい人に特におすすめしたいですね。

「EPA」を上手に摂取するコツは

EPAを積極的に摂りたくなりました。どんな魚に多く含まれているのでしょうか。

EPAは青魚に多く含まれていて、さばなどがその代表です。その他にも本マグロや、かたくちいわし、ぶり、さんまにも含まれています(図2)。よく脂ののった旬の時期の魚は、特にEPAが多く含まれているんですよ。

図2:可食部100g(生)に含まれるEPA・DHA量(mg)

図2:可食部100g(生)に含まれるEPA・DHA量(mg)

出典:日本水産株式会社の資料をもとに編集部作成

EPAを上手に摂る調理法はありますか。

お魚を生で食べていただくのがもっとも効率的ですが、焼く・蒸す・煮るといった調理法でも、85~90%程度は栄養素が残るといわれています。揚げ物は魚の油が揚げ油に流れ出てしまうため、50%くらいに減ってしまいます。

魚は食べたいけれど、さばくなどの調理が面倒、生ゴミの処理が大変、骨があって食べにくいという声も聞きますが、そういう方には缶詰がおすすめです。さば缶やいわし缶、さけ缶など、そのままでも、調理材料としても使えます。最近はさまざまなバリエーションの缶詰レシピが紹介されていますので、活用してみるのも良いかもしれませんね。

EPAの理想的な摂取量はどれくらいですか。

厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準」(2010年版)では、栄養素の指標でEPAとDHAをあわせて1日1グラムの摂取が推奨されています。これは、まいわし1匹、さば2/3切、あじ1/2匹、さけ1切に相当します。さば缶なら1/4缶程度ですが、煮汁に魚の油が溶け出していますので、料理をするときには缶の煮汁も一緒に使い切るのがおすすめです。

EPAは体を作る構成要素でもあり、数週間かけて作用していきます。また、DHAは体内でとても安定した量を保っていますが、EPAは即効性がなく摂取しないと確実に減っていくため、継続して食事に取り入れることも重要なポイントです。通常の食事から摂る量であれば、取りすぎによる副作用はないといわれているので、安心して取り入れてみてください。

毎日、魚料理を食べるというのは、なかなか難しいかもしれません。工夫はできますか。

そうですね。缶詰も手軽ですが、最近はEPAを含むドリンクやクッキー、ソーセージなども商品化されています。魚が苦手という人でも魚臭さが気にならず、おやつとしても手軽に食べられるので、上手に組み合わせて毎日の摂取を工夫してみてはいかがでしょう。

また、サプリメントなら調理の手間もかからず、1日分のEPAが手軽に摂れます。ちなみにサプリメントは、消化酵素が働く食後の摂取が、吸収されやすくおすすめですよ。

「EPA」を意識した食生活に改善しましょう

専門家のお立場から、健康寿命を延ばすために大切な食事のポイントをお教えください。

日本人の魚と肉を食べる量は、2006年にはじめて逆転しています。肉中心の食事が多くなり、その差はどんどん広がっているのです。若い人の方が肉を多く食べる傾向にはありますが、どの年代でもEPAが不足していることがわかっています。

食事の栄養バランスは気にしても、なかなか油の種類にまで関心をもたない人も多いのではないでしょうか。特に健康を気遣う年代の人に、EPAはとても魅力的な栄養素です。魚料理はもちろんのこと、サプリやEPAを含む食品などを活用して、毎日の摂取を心がけてください。


プロフィール

横井 香里(よこい かおり)

日本水産株式会社 食品機能科学研究所 機能性素材開発課 所属。
EPA、DHAなど魚に含まれる栄養素が人に与える効果を研究。またセミナーなどを通じて、魚の栄養がもたらす効果・効能なども伝えている。