スマホのパスワード、忘れたらどうなる? もしもに備える「デジタル資産の防災対策」

2022年01月26日

スマホやネットサービスのパスワードを忘れてしまい、ロック解除やログインができずに困った経験はないだろうか? スマホの中にある写真やデータ、インターネット上の各種サービスアカウントや銀行・証券口座などを「デジタル資産」という。

デジタル資産は、パスワードを忘れると自分でもアクセスが難しくなる。さらに本人に万が一のことがあれば、遺された家族に迷惑がかかる可能性も出てくる。デジタル資産が「デジタル遺品」になったとき、家族に迷惑をかけないためには日ごろからどのように管理・対策しておけばいいのだろうか。

今回は、デジタル遺品に精通したジャーナリストの古田雄介(ふるた ゆうすけ)さんに、デジタル資産・遺品の防災対策について話を伺った。

デジタル資産の管理が必要な理由とは

デジタル資産にはどのようなものがあるのでしょうか。

色々ありますが、普段から特に気をつけなくてはいけないのはお金関係のものです。例えば「○○Pay」などのキャッシュレス決済や、定額制の有料ネットサービスなどです。これらの管理を怠ると本人が困るだけではなく、本人にもしものことがあったとき、残高が残ったまま放置されてしまったり、支払いが滞って家族に迷惑がかかったりしてしまうおそれがあります。

本人や家族に及ぶ影響やトラブルには、どのようなものがあるのでしょうか。

一番多いトラブルは、スマホのパスワードがわからなくなることです。本人がパスワードを忘れるケースと、遺族がパスワードがわからず困るケースの両方が考えられます。どちらのケースも、スマホの中に保存していたデータやサービスにアクセスできなくなることで、トラブルが生じることがあります。

また、遺族がスマホの中身や利用しているサービスを把握しないまま口座やクレジットカードを止めてしまうと、後日サービスの提供元から滞納分を含めた請求が届くこともあります。

スマホのパスワード解除は、メーカーや携帯電話会社で対応できないのでしょうか。

スマホに関してはどうにもならないのが現状です。

メーカーは修理に応じてくれますし、携帯電話会社は電話番号の契約に関することは対応してくれます。しかし、ロックを含めたスマホの中身に関してはノータッチが基本です。たとえ本人であっても、パスワードを忘れたためにスマホを工場出荷時の状態に戻さざるを得なくなることがあります。

これがパソコンならパスワード解除に応じてくれる修理サービス会社がたくさんみつかりますが、スマホのロックは非常に強固で、国内でも対応してくれる会社は滅多にありません。スマホのパスワードは忘れてしまった、あるいは見つけられなかったらお手上げになってしまう。パソコンとスマホでは、それくらいの違いがあります。

デジタル資産管理の基本、まずは身近なパスワードから。

デジタル資産を守る対策としては、パスワード管理が一番の基本になるのでしょうか。

その通りです。逆に言えば、パスワードさえ適切に管理しておけば、デジタル資産の整理は難しいことではありません。

特に重要なのが、先ほどからお伝えしているスマホのパスワードです。お金の流れや交流履歴、健康情報、思い出などなど、近年はスマホに重要なデータが集まるようになっています。本人にもしものことがあった場合でも、家族はスマホさえ開ければデジタルの重要情報にアクセスできる可能性が高いのです。まずはスマホのパスワードを管理することから始めるといいでしょう。

普段から、最重要であるスマホのパスワードも含めて、パスワード管理はどのようにすればいいのでしょうか。

ご自身が利用しているデジタルサービスや、持っているデジタルデータを書き出してみてください。スマホのパスワードから各種金融口座のアカウント情報、有料サービスの契約情報まで、パスワードが必要なものやお金が関係するものは、できる限りすべて書き出しましょう。

そして書き出したものに優先順位を付け、不要なものは解約するなどして、整理してください。重要なものやすぐに必要になりそうなものをリストアップしておけば、ご自身がパスワードなどを忘れてしまった場合でも、すぐに確認することができます。また、いざというときに家族への共有もしやすくなるでしょう。

一覧に書き出して整理し、定期的に管理する方法は、紙でもパソコンでもいいのでしょうか。

パソコンの表計算ソフトでも紙の手帳でもかまいません。パスワードを記録して管理するのはご自身ですから、無理なく続けられる方法を選ぶのが一番です。安全性と利便性を天秤にかけてうまくバランスを取りながら、自分に合った方法で管理するのが良いでしょう。ただし、ご自身に何かあったときの備えとして、家族がすぐ確認できるように、重要なパスワードは紙で管理することをおすすめします。

スマホのパスワードや証券口座・銀行口座などのアカウント情報だけでなく、利用しているサービスなどもひとまとめにして紙で管理しておけば、ご家族も把握しやすく、安心できるのではないでしょうか。

スマホのパスワードを日頃から共有することに抵抗がある人もいると思います。

もちろんです。誰でもパスワードが見られる状況は危険なので避けてください。安全性を確保するためのひとつの方策として、私が考案した「スマホのスペアキー®」を利用してみてください。

スマホのスペアキー®

出典:古田さんホームページより

「スマホのスペアキー®」は名刺サイズの紙で、スマホのパスワードや重要なサービスのアカウント情報などを書けるようになっています。パスワード部分に修正テープを2~3回重ねて、透けないようにマスキングしておけば、硬貨などで削らない限り家族に見られることはありません。即席のスクラッチカードのようなイメージです。

パスワード部分を隠したスペアキーは、預金通帳や年金手帳といった重要な書類と一緒に保管しておきます。こうしておけば、普段はパスワードを隠しながら、いざというときに家族が見つけやすくなります。

自分にもしものことがあった場合、家族であっても触れてほしくないプライバシーの部分は、どう守って共有すればいいでしょうか。

大前提として、自分が亡くなった後はある程度プライバシーに踏み込まれることは覚悟しておきましょう。これだけデジタルが世の中に浸透してきている中で、すべてを隠すことは難しいです。

その上で、家族に迷惑をかけずにプライバシーを守るためには、別々に保管する方法が現実的です。スマホは調べられることを想定し、家族に託すデジタル資産はスマホのトップページなど、わかりやすい場所にまとめておきます。家族に触れられたくない、見られたくないデータはパスワード付きの外付けハードディスクなど、別の場所へ保存しておくのです。家族は必要な情報さえそろえば一安心なので、わざわざハードディスクのパスワードを解明してまで中身を確認しようとはならないかもしれません。そうなる確率を少しでも上げるイメージです。それぞれ別々の場所で管理しておけば、プライベートゾーンを守りつつ家族へ必要な情報を共有できるのではないでしょうか。

もしものときに備えて、お金周りの管理は家族と相談を。

保険や証券、銀行などの金融資産の管理はトラブルに発展しやすいと聞きます。管理において気をつけるポイントを教えてください。

預貯金や有価証券、生命保険など資産に関する情報はできる限りまとめ、分散させずに管理する方法が一番だと思います。また、普段からどんな資産運用をしているのか、カジュアルに話し合う機会も必要です。

過去に「FXをやってみようかな」と話したきりお亡くなりになり、実際は取引していなかった方がいます。しかし、遺されたパートナーはFX取引についてよく知らず、どこでどんな取引をしているのか調べる中で大変苦しまれました。

FXのような取引や暗号資産(仮想通貨)、海外の口座は解析が難しく、トラブルにつながりやすいので要注意です。どのような金融取引をしていて、どこに口座を持っているのかは、家族に伝えておくようにしましょう。

自分に万が一のことがあったとき、お金まわりのことについて家族に話しておくことは大切だと思います。どのように話を切り出せばよいでしょうか。

家族とはいえ、懐事情をあけすけに話すのに抵抗がある方もいるでしょう。きっかけとしては、どれだけ気軽に話を切り出せるかがポイントだと思います。例えば先ほどの「スマホのスペアキー®」を話題に出し、「こんなパスワード管理の方法があるらしいよ。うちはどうしようか」とさりげなく話を振ってみてはいかがでしょうか。

または、日常会話の延長線上で「テレビで終活の話をしていて、相続でこんなことがあるらしいよ。うちはどうする?」と言えば、心理的な抵抗も抑えられるのではないでしょうか。地震や災害といった天災に備えることと同じで、“資産の防災” というイメージをもつといいと思います。まずは家族の中で一番話しやすい人、信頼できる人に「こんなのがあるらしい」と気軽に切り出してみてください。


プロフィール

古田 雄介(ふるた ゆうすけ)

ジャーナリスト・フリーランス記者。
葬儀社や編集プロダクションでの勤務経験を活かし、デジタル遺品にまつわる調査を元にした執筆・講演活動を行う。
著書に『スマホの中身も「遺品」です デジタル相続入門』(中公新書ラクレ)、共著に『デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(日本加除出版)などがある。

野村證券では、もしものときに備えて資産などの情報を書き留めておけるエンディングノート、「マイライフノート」を作成した。『マイライフノート』は、自分の人生を振り返りながら“これからの未来をより幸せなものにするための道筋”を綴る、書き込み式のノートのこと。2010年の刊行以来、改訂を重ねながら現在は第5版、10年に渡って支持されるロングセラーとなっている。資産管理の一環として活用してみてほしい。資産管理によって生じたお金まわりの疑問は、野村證券へ相談してみてはいかがだろうか。