“貯筋”(ちょきん)がポイント!「家トレ」で手に入れる元気な身体

2022年09月28日

息切れせずに階段を上りきる、日常的な動作で骨折やぎっくり腰などを起こさない、趣味の旅行も体力を気にせず楽しめる……そんな身体を維持するためには、不調を感じる前から、意識して身体を動かし、年齢とともに減っていく筋肉量を補うことが大切だ。

筋肉量を増やす! と聞くと少々ハードなイメージがあるかもしれないが、決してそんなことはない。トレーニングは「軽い運動から徐々に負荷を増やしていく」のが基本。運動習慣のない人なら、まずは自宅で、誰でもできるような簡単な運動でも十分効果があるという。

「散歩や家事も家トレのウォーミングアップになります」という竹田さんにお話を伺いました

株式会社肉体改造研究所 代表取締役でパーソナルトレーナーの竹田 大介(たけだ だいすけ)さんは、93歳の女性とトレーニングに取り組み3カ月で1.8kgの筋肉量増量に導いた。今回は、筋肉維持のために初心者でも取り組める「家トレ」の必要性や、具体的な方法について、竹田さんに聞いた。

体力の衰えを感じる世代にとって「家トレ」の効果は?

体力の衰えを感じた時に、健康を維持するために必要なことは何か?

年齢とともに、階段がつらくなったり、ちょっとした段差につまずいたりすることが増えていませんか? 人間は既に20代から加齢による筋萎縮が始まり、少しずつ筋肉量が減ります。30代、40代と年齢を重ねるごとに筋肉が衰えやすくなり、さらに60代で急激に筋肉の量が減ります。

その結果として見られるのが、転倒による骨折です。足が思うように上がらず、つまずいてしまう。さらには、折れた骨の治りが遅く、思うように動けず、要介護状態に……というケースが非常に多いのです。こうした事態を防ぐには、身体を動かすために必要な筋肉量をキープすることが大切です。

「筋肉量をキープする」には、どんな運動をすればよいのか?

筋肉量をキープするためには、自分のレベルに合った負荷をかけた筋力トレーニングが効果的です。負荷といっても、大きなバーベルを持ち上げる必要はありません。今まで運動習慣のなかった方であれば、ご自宅でできる簡単な運動、つまり「家トレ」から始めていただいても十分に効果があります。

いつまでも元気に動き続けるためには、下半身の筋肉量をキープすることが大切です。まずは、以下3つの部位の強化を意識しましょう。

<いつまでも元気に動き続けるために!鍛えたい3つの下半身の筋肉>

  • 座る、立つという基本機能を維持向上させる「お尻と太ももの筋肉」
  • つまずき防止のために、股の付け根にある「腸腰筋」
  • 足を動かし、足の血液を心臓へ戻す第2の心臓こと「ふくらはぎの筋肉」

記事の最後に、竹田トレーナー直伝、上記部位を強化できる「家トレ」を紹介しています!

「家トレ」は、いつ、どれくらいの頻度で続けるべきか?

トレーニングを行うタイミングは、自分のやりやすいタイミングで構いません。ただ、寝る前や食後すぐは体調に影響しやすく、空腹時は筋肉がトレーニングの「燃料」として使われてしまいますので避けた方が良いでしょう。食事で摂ったエネルギーをトレーニングに活かすためには、食後2~3時間くらいがベストタイミングです。

また、トレーニング時間については、長さよりも「何回反復するか」が大切です。本記事で紹介する「家トレ」を、「これ以上続けられないな」という回数を1セットとしてやってみましょう。20回・30回反復するよりも、8~12回で限界を迎えられる強度に調整すると、効果的です。時間にすると5分もかかりませんが、最初はその程度で十分です。慣れてくると同じ回数ではつらくなくなり、筋肉が増えなくなるので、キツイと感じる回数まで頑張ったり、1回1回の強度を上げるように調整しましょう。

また、トレーニングは「毎日やるもの」と考えがちですが、同じ部位のトレーニングは週2~3回やれば十分です。筋肉は高い負荷をかけると傷つきますが、休ませることによって傷んだ部分が修復され、筋肉量が増えていきます。休ませずに負荷をかけ続けると、修復しきれずに痛めることもあります。家トレ自体を2日おきにしたり、曜日ごとに違う部分の筋肉を鍛えるのもおすすめです。

「家トレ」の前後や、普段の生活で意識しておくとよいことは何か?

  • ウォーミングアップをしっかりやる

運動前に少しウォーミングアップして筋肉の温度を高めておくと、筋肉が伸び縮みしやすくなり、ケガ予防に効果的です。
おすすめは少し身体を動かしながら筋肉を伸ばしていく「ラジオ体操」です。散歩や、身体を動かす家事などの後も効果的です。

  • 家トレを続けていくための工夫を

運動が続かないという方は、「目的を達成した自分」をイメージしながらやりましょう。
例えば、階段を楽に上れる自分や、孫と外で遊んでも疲れない自分を思い浮かべることで、やる気がアップするはずです。

  • 食事や睡眠も意識して

健康の3原則は「運動・栄養・休養」。

まずは、筋肉の材料になるたんぱく質や燃料になる糖質をしっかりと摂ることです。1日3回きちんと食事を摂り、いろいろな食品からたんぱく質や糖質を摂取しましょう。筋肉量を増やす場合、体重1kgあたり約2gのたんぱく質(食材の量ではなく成分量)を毎日摂りたいところです。

図1:たんぱく質を多く含む食材

図1:たんぱく質を多く含む食材

出典:「地域特性をいかした栄養成分表示等の活用に向けた消費者教育に関する調査事業報告書」(消費者庁)(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/research/2018/pdf/information_research_2018_190827_0001.pdf)をもとに編集部作成

糖質が多いと言われているパンやごはんは減らしたほうがよいと考えられがちですが、筋肉をつけるトレーニングでは糖質が燃料になります。糖質も適切に摂らないと、トレーニングで筋肉は増えません。

また、睡眠を十分にとって休養をとることも大切です。筋肉を修復し、成長させるホルモンは、トレーニングした直後や睡眠中に出ています。トレーニングをした日の夜は、ぐっすり寝るように心がけるとよいでしょう。

これらのポイントをおさえて、「家トレ」を実践してみてください。

将来のための“貯筋”を今から始めよう

体力の衰えを感じ始めている方へのアドバイスを。

今はまだ日常生活に困っておらず、「確かに体力は落ちてきたけど、筋トレは……」という方もいるかもしれません。ただ、人生100年時代、これから何十年と生きていくなかで、年齢を重ねるとさらに筋肉は減り、体力も衰えてきます。

幸い、どんなに年を取っていても適切なトレーニングをすれば筋肉量は増えるし、筋力は上がります。ただ、より若く、より動けるうちに始めたほうが、効率良く筋力アップができます。

将来のために筋肉を貯える“貯筋”だと思って、簡単な家トレからぜひ始めてみてください。

今日からできる!「家トレ」3種

家トレを安全に、効果的に行うために、まずは以下4ヵ条を意識してはじめましょう。

■「家トレ」4カ条

  • 目的に合った正しいフォームで

フォームを間違えるとケガにつながる。
鏡で自分のフォームを確認しつつトレーニングするとよい。
同じトレーニングでも、どの筋肉を鍛えるかで正しいフォームは違う。

  • 負荷を意識する

楽なだけの動きではなく「適切な負荷をかけること」が筋力アップにつながる。
筋力が上がったら、その筋力に見合った負荷に調整することで、筋肉を成長させ続けることができる。

  • 丁寧にゆっくり動く

急いで動くとフォームが崩れたり、反動をつけると筋肉が急に引き伸ばされたりしてケガの元に。
できるだけゆっくり、そして丁寧に動く。

  • 呼吸は「楽な時に吸い、きつい時に吐く」

息を吐くと、おなかから力が入って筋肉の力を発揮しやすくなる。
動きが楽な時に吸って、踏ん張る時に吐く。
息を止めると、血圧が急上昇するので、特に高血圧の方は止めないよう意識して。

「家トレ」に挑戦してみよう!

【1】お尻と太ももの筋肉をキープする「スクワット」

<スクワット>

※筋力に自信のない方は椅子を使った運動(以下に紹介)から始めましょう。

1:肩幅を目安に、動きやすい立ち方で足を開く。
2:骨盤を「立てる」ように意識して立つ。(肩甲骨を寄せ、胸を張った姿勢に)
3:椅子に座るイメージでお尻を後ろに引きながら、股関節、膝関節の順に曲げて腰を落とし、元に戻す。

≪ポイント≫

  • 3で「腰に添えた手が股関節に挟まれる」のが正しいポーズの目安。
  • 腰はどこまで落とせるか自分で探り、落とせるところまででストップし、元に戻る。太ももと床が平行になるまで落とすのを最終目標に。
  • 猫背にならないように。上半身が倒れてしまう場合には、頭の後ろで手を組むとよい。
  • 膝が前に出ないように。後ろに倒れそうな場合は、両手を前に伸ばすと全身のバランスが取りやすい。

※<椅子を使ったスクワット>

基本のスクワットがきつい場合は椅子を使う。

腰が落ちる位置に椅子を置き、落とす際に、ごく浅く腰かけることで元に戻りやすくなる。

【2】太ももを上げる筋肉をキープする「ライイング・レッグレイズ」

1:仰向けになり、手はお尻の横あたりに置くか、お尻の下に敷く。
2:両足を伸ばしたまま90度上げ、ゆっくり下ろす。

≪ポイント≫

足を伸ばしたまま上げるのがきつい場合は、膝を曲げながら上げ、真上で伸ばしてから下ろす。

足を床まで下ろすのがきつい場合には、どの角度まで下ろせるか探りながら、下ろせるところまでで繰り返す。

【3】ふくらはぎの筋肉をキープする「スタンディング・カーフレイズ」

1:腰の幅を目安に足を開いて立つ。
2:両足ともにつま先立ちをし、ゆっくりかかとを下ろす。

≪ポイント≫

  • ふくらはぎの筋肉「腓腹筋」を鍛える運動。
  • ふらつく場合は、壁や机に手をついてサポートしてもよい。
  • 慣れてきたら「片足ずつつま先立ち」するなどして負荷を高めても。

<椅子を使ったカーフ・レイズ>

椅子に座って膝を軽く押さえながらつま先を立てる運動を繰り返す。立って行う場合とは違うふくらはぎの筋肉「ヒラメ筋」を鍛えられる。スタンディング・カーフレイズと両方やるとよりよい。

撮影場所:ゴールドジム東陽町スーパーセンター

【編集後記】

階段の上り下りがきつい。足がもつれる。こうした背景には、加齢による筋力ダウンがあったのですね。
これからの人生で一番若いのは「今日の自分」。健康寿命だけでなく、資産寿命も共に延ばし、いつまでも充実したセカンドライフを送りたいものです。

さて、「文化の秋」の足音も、そろそろ聞こえてきそうなこの季節。健康な身体を手に入れると、気持ちの面でも余裕が生まれてきます。そんなときには自分の興味のある分野について楽しく知識を深めてみるのはいかがでしょうか?

プロフィール

竹田 大介(たけだ だいすけ)

株式会社肉体改造研究所 代表取締役、肉体改造請負人 パーソナルトレーナー。

大学院でのスポーツ科学・トレーニング科学の研究で得られた科学的知見を活かし、身体機能を向上させ生活の質を上げる筋力トレーニング(一般の方)、減量・増量・筋力アップ・競技パフォーマンスアップ(運動競技選手)を専門に、一般の方から歌手・俳優、プロ格闘技選手、空手全日本大会出場選手のパーソナルトレーニング指導、極真空手の名門道場で全日本大会・世界大会出場選手のストレングストレーニング指導を行っている。著書に『筋肥大のための「筋トレ」と「栄養」の基本』(ソシム株式会社、2022年12月刊行予定)がある。