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【生前整理のコツ】宝石や骨董、腕時計など。大切なコレクションの上手な受け継ぎ方

2022年05月18日

思い入れのある宝石や高価な時計、こだわって集めた美術品など、大切なコレクションは子どもや孫、その価値や想いを理解してくれる人に、いつまでも大事にしてもらいたいと思うもの。しかし、こうした高価なモノがきっかけで、遺産整理の際に親族がもめてしまうケースもよくあるのをご存じだろうか。

終活や生前整理、相続と聞くと、金融資産や不動産などを思い浮かべるかもしれないが、大切にしてきたモノをどうするのかも、生前に考えておきたい重要なテーマのひとつだ。今回はモノの生前整理の大切さと上手な受け継ぎ方、節税対策について考えよう。

終活中、2人に1人が取り組んでいる「自宅や持ち物の整理」

まわりの人に負担をかけないように、身の回りのモノを整理する「終活」に取り組む人は多い。しかし、いざ始めようとすると、何から手をつければいいのかわからないという人も多いのではないだろうか。

終活に関する調査では、「口座や金融資産の管理」(69%)をしている人が最も多く、次に「自宅、持ち物や遺品(デジタルを含む)の整理」(48%)が続いた(図1)。終活では、お金や持ち物の整理が中心になっているようだ。

図1:現在、どのような終活をしていますか(上位8つ抜粋)

図1:現在、どのような終活をしていますか(上位8つ抜粋)

出典:NTTファイナンス株式会社「終活に関する実態調査2021」をもとに編集部作成

50歳~80歳の男女1,089名を対象にしたWEBアンケート調査。2021年11月25日~11月28日に実施。

n=218は現在終活を行っている人。

また、生前整理に関する調査結果(注1)では、身の回りの物や財産の整理をする「生前整理」をしたことがある人は約6割を占め、生前整理をしたことがない人でも、約8割が生前整理をする意向だった。生前整理をした人にその内容を聞くと「断捨離」(52%)が最も多く、「デジタル遺品の整理」(16%)と「エンディングノートの作成」(11.5%)が続いた。生前整理では、「まずは断捨離」といった流れになっているようだ。

(注1)出典:株式会社林商会 終活瓦版「【40代以上の300名に聞いた!】生前整理で最も苦労したのは断捨離?!」

モノも相続税の課税対象。市場価値が「つく・つかない」の基準は時価5万円

モノの生前整理では、断捨離して“捨てる”という選択肢があるが、宝石や時計といったコレクションにはさまざまな思い出も詰まっており、簡単に処分できるものではない。だからといってそのまま持ち続け、誰がもらうのかあいまいなまま遺品になってしまうと、トラブルに発展することがある。

相続や遺品整理に関する親族間のトラブル経験者を対象にした調査(注2)では、18%の人が「遺品整理」が原因だったという。具体的なケースでは、「高額なアクセサリーを持っていたので誰がどれをもらうか、売ってお金にしてみんなで分けるか揉めました。」などの声も寄せられている。愛着があるモノだからこそ、それが原因で親族がもめてしまうことがないよう、配慮することが大切だろう。

(注2)出典:株式会社林商会 終活瓦版「【終活/遺品整理経験者101名に聞いた!】揉めた原因No.1は…?本当に困った体験談とは」

では、どのような手順で生前整理を進めていくといいのか。まずは自身の持ち物をリスト化して、市場価値がつく(価値が高い)モノか、市場価値がつかない(価値が低い)モノかを整理することから始めるといいだろう。一般的に、市場価値がつくモノには、自動車や宝石などの貴金属、時計、美術品、骨董品といった大切なコレクションなどがある。一方、市場価値がつかないモノには、普段から使っている家財道具や衣服、写真、書籍などが該当する。ただ、アンティーク家具や有名ブランドの衣服やバッグなど、希少性が高い品は市場価値がつくこともある。

モノに市場価値があるかどうかを仕分けするには、時価で5万円を超えるのか、超えないのかを基準にするといいだろう。国税庁が出している財産評価基本通達では、家庭用動産などで1個・1組のモノの時価が5万円以下のモノは、一括して評価することができるためだ。それ以上の価値があるものは、原則、1個・1組ごとに評価する。

また、時価を確認する方法は、類似の取引事例を参考にしたり、真贋を含めて鑑定士に鑑定を依頼したりして、1つずつ客観的に評価する。国税庁はホームページで、書画や骨董などは、有名品であっても箱書や鑑定書がある場合とない場合、鑑定者の有名・無名などによって、その価格に相当の差があると注意を促している。評価が難しいモノがある場合には、引き継いだ人が税務署から申告漏れを指摘されることがないように、あらかじめ専門家に相談しておくといいかもしれない。

争いにならないよう、遺言書や贈与で渡す相手を選んでおくのも手

市場価値がつくモノかどうかの分類が終わったら生前整理に取りかかろう。

ここで大切なのが、「愛着や思い出があるモノやコレクションをどうするか」だ。大切なモノは長く手元に置いておきたいと思うかもしれないが、配慮をしないまま相続となってしまうと、先述の通り誰がもらうのかでもめてしまう可能性がある。もめごとにならなかった場合でも、譲り受けた人がその想いや価値をわかってくれないと、大切にしてもらえないばかりか、簡単に処分されてしまうこともあるだろう。

こうした事態を避けるためには、生前にどういったものであるか想いを伝えた上で、あらかじめ大切にしてくれそうな人や、その価値を理解して大事にしてくれる人を選んでおき、遺言書やエンディングノートに遺しておくという方法がある。親族が集まる場などで「父親から譲り受けたこの大切な時計は〇〇に譲る」など、皆に自分の想いとともに伝えておくことも大切だ。

ただ、相続の場合、自分にもしものことがあった後に想い通りに受け継いでもらえるのか、不安になるかもしれない。そこで検討したいのが生前贈与だ。いつまでも大切にしてくれそうな人に、誕生日や就職・結婚祝いなど、ライフイベントに合わせてプレゼントすれば、特別な日の思い出がより色濃くなり、宝石や時計といった装飾品であれば、身につけている様子を見ることもできるだろう。また、贈与には節税の効果が期待できるケースもあるので、具体的に見てみよう。

「暦年贈与」はモノの贈与にも活用できる

贈与では、受贈者(財産を譲り受ける側)が贈与税を支払う必要があるが、1年間にもらった財産の合計額が、110万円以下であれば贈与税がかからない「暦年贈与」の制度がある。これはモノの贈与にも適用ができ、上手く活用すれば相続税の負担を軽減できるが、相続開始前の3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に暦年贈与をした分については、相続財産に合算しなければならないこと(注3)や、贈与の方法によって、暦年贈与とみなされないこともあるので、実施方法には注意が必要だ。

(注3)相続人に該当しない人への贈与や、直系尊属から一括贈与を受けた教育資金と直系尊属から贈与を受けた住宅取得資金のうち、非課税の適用を受けた贈与分は、相続開始前の3年以内に贈与が行われても相続財産に合算されない。

また、年間110万円の範囲を超えて、贈与税を支払ったとしても、相続時に課税される相続税よりも税負担額を減らすことができるケースもある。

美術品など、値上がりが予想されるモノは「相続時精算課税制度」も選択肢に

税負担を少なくするという点では、相続時精算課税制度も検討したい。原則として、60歳以上の父母または祖父母から、成人の子または孫に対し、贈与をした場合に選択できる制度で、贈与を受けたときではなく、贈与者が亡くなったときに相続税で税金を納めるものだ。相続時精算課税制度の場合、合計2,500万円までは贈与税が発生しないが、贈与分は相続が発生した時点で相続税の課税対象になるため、実質的に課税を先送りしているだけととらえることもできるが、この場合相続税額の計算にあたっては、贈与財産の価額は贈与時の時価で相続財産に加算して計算するため、美術品や骨董、貴金属など、将来値上がりが期待できるモノの場合、贈与後に値上がりした分は相続税の課税価格に影響しない。

たとえば、時価総額2,000万円分の資産を相続時精算課税制度で贈与した後、価値が上がり、相続時の時価総額が3,000万円になった場合でも、贈与時の時価総額の2,000万円分で相続税が精算される(図2)。しかし、贈与したモノが値上がりすればいいが、価値が下がってしまう可能性も考えておかなければならない。

図2:相続時精算課税を使用する場合のイメージ

図2:相続時精算課税を使用する場合のイメージ

この制度を選択する場合には、受贈者が贈与税の申告期間内に、「相続時精算課税選択届出書」を届け出す必要がある。また、相続時精算課税を一度選択すると、それ以降は贈与する人が亡くなるまで何度も制度を使えるが、同じ人からの贈与に対して、それ以降は暦年贈与が使えなくなるため、よく検討したうえで選択したい。

専門家に相談しながら準備を進めよう

相続や生前整理では、不動産や金融資産に注目が集まりがちだが、思い出が詰まった大切なモノをどうするのかも重要なテーマだ。誰に何をあげたら喜んでもらえるのか、考えながら作業をするのも楽しいのではないだろうか。

贈与をする際、複数の種類の資産を持っている人は、何から渡すか悩むかもしれない。一般的に不動産の相続税評価額は時価と比べて低く設定されるケースが多いため、相続発生時まで不動産として持っていたほうが、節税面で有利な場合もある(注4)。さらに預貯金や株式は最後まで手元に残したい場合は、高額なモノから先に贈与することを検討してみても良いかもしれない。

(注4)夫婦間で居住用の不動産を贈与する場合に利用できる配偶者控除などもある。不動産の贈与や相続にも、総合的な判断が必要になるため、専門家に相談しながら準備を進めておくといいだろう。

税金の制度は見直されることがあるため、自分が知っていた情報が古くなっていたり、今使える制度も将来使えなくなることがある。「令和4年度税制改正大綱」では、相続税と贈与税の一体化について「本格的な検討を進める」とあるため、今後も最新の情報はチェックしておきたい。

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