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#書評

健康と食事の新常識『ずっと元気でいたければ 60歳から食事を変えなさい』

2023月7月12日

健康のために、食事に気をつける。多くの人が日頃から実践していることだろう。しかし、そのすべての食習慣が、必ずしも自分に当てはまるものでもないらしい。年齢に応じて見直す必要があるものもありそうだ。今回紹介する書籍『ずっと元気でいたければ 60歳から食事を変えなさい』(青春出版社)では、正しい健康と若さを保つ食事法を提言している。

クリニックで働き、管理栄養士として4000人以上の食事記録を栄養分析、栄養指導をしてきた森由香子(もり ゆかこ)氏による本書には、最新の研究から導き出された、健康と元気を保つ食事法が紹介されている。その最新の知見の一部を見ていこう。

最新の研究で発見された、若さを保つ『サーチュイン遺伝子』とは?

本書の冒頭で取り上げられているのが、サーチュイン遺伝子だ。2000年に発見された遺伝子で、若さを保つ効果があるといわれている。サーチュイン遺伝子の活性化により合成される酵素サーチュインには、老化を促進する活性酸素を除去し、脂肪を燃焼させ、かつ動脈硬化や糖尿病、認知症も防ぐ力があるという、夢の遺伝子なのだ。ならば、このサーチュイン遺伝子を、身体に多く取り入れたいと思った読者もいるだろう。実は、この遺伝子、誰もが身体の中に持っているもので、特別に摂取する必要はない。では、どうしたらこのサーチュイン遺伝子をフル活用できるのだろうか?

  1. この酵素サーチュインを活性化させる物質として、近年注目を集めているのが、私たちが生きていく上で欠かせない体内物質のひとつ、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)です。

(森由香子『ずっと元気でいたければ 60歳から食事を変えなさい』<青春出版社>p.15より引用)

NADを増やすことが酵素サーチュインの活性化につながり、ひいては若さを保つことになるという。本書では、NADを増やす方法として、第一に、生体リズム(体内時計)を整えること、第二に、朝食をしっかりとることを推奨している。NADは人が活動する上で欠かせない物質であり、起きている昼間の時間に増加し、寝ている夜間の時間に減少する傾向がある。そのため体内時計を規則化して体調を整えることこそが、NADを活発に生成することにつながり、酵素サーチュインを活性化させるのに効果的だということだ。そしてもうひとつのポイントは、エネルギーとなる良質のタンパク質、適量の脂質と糖質が含まれる朝食をしっかりとり、午前中にNADを増やすこと。一般的な食習慣でいうと、朝食はトーストとコーヒーだけ、ごはんとインスタント味噌汁と漬物だけなど、手軽に済ませてしまう方も多いのではないだろうか。本書では、主食、主菜、副菜を組み合わせた朝食をおすすめしている。食習慣を変えることはなかなか難しいかもしれないが、朝食に前夜作り置きをしておいたおかずを追加したり、缶詰などを活用して一品増やしたりする程度ならば、さっそく始めることもできそうだ。食習慣を少し変えることで、バランスよく十分な栄養とエネルギーを摂取できる。その結果NADを増やし、酵素サーチュインの活性化につなげることができるというわけだ。

最新の栄養学で検証する健康的な食生活

このように本書では、最新の栄養学に基づいた食事による健康法がさまざま解説されている。身体全体の健康を維持するためだけでなく、具体的な症状に対処するための解説も充実している。例えば、睡眠障害、筋力低下、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、認知症など、気になる症状ごとに食生活のポイントがしっかり紹介されている。具体的に見てみよう。

(1)就寝前の牛乳やヨーグルトは睡眠障害を招く!?

一定の年齢になると、「寝つきが悪くなった」「眠りが浅くて夜中に何度も目が覚める」「朝早く目が覚めてしまう」といった睡眠障害の症状に悩まされる人が増えてくる。その原因は、“睡眠のホルモン”と呼ばれる「メラトニン」の分泌量の減少と考えられている。

  1. 睡眠に悩みをお持ちの方のお話をうかがっているうちに、私はあることに気づきました。就寝前に、牛乳や飲むヨーグルトを飲んだり、ヨーグルトを食べたりしている人が意外と多いのです。

(森由香子『ずっと元気でいたければ 60歳から食事を変えなさい』<青春出版社>p.17より引用)

昔から「眠れないときはホットミルク」という習慣や、翌日の便通にいいだろうと思って、寝る前に牛乳やヨーグルトをとっている人もいるだろう。しかし、年を重ねてくると、こうした「通説」による弊害が出てくるケースもあるという。中高年になると、若い頃に比べ胃腸の働きが弱りはじめているため、寝る前の飲食は胃腸に負担がかかり、それがストレスとなって眠りに影響を及ぼしたり、牛乳もヨーグルトも水分なので夜中にトイレに行きたくなる可能性も高まってしまう。そのため、たとえ乳製品であっても就寝前の飲食はすすめられないというのだ。本書によれば、少なくとも寝る3時間前からは何も食べないことが、熟睡するための食生活のポイントとなる。

(2)筋力低下を防ぐには、たんぱく質ファーストの食生活を

中高年になると「メタボなので、まずは痩せないと」という意識を持つ人が多い。確かに肥満は良くない。だからといって、食べる量を減らして体重を落とそうと考えるのは大きな間違いだという。なぜなら食べる量が減るとおのずと栄養摂取量も減ってしまい、結果的に体脂肪だけでなく本来身体に必要な筋肉を作るための栄養素まで減ってしまう。筋肉が減ると運動能力が落ち、日常的なカロリー消費も減るほか、筋力がなくなると動くことが億劫(おっくう)になり、逆に肥満にもつながりかねないのだ。また、年齢が上がるにつれて栄養を吸収する能力も低下するため、食べる量を減らすこと、イコール栄養不足につながったり、疲れやすくなったり、病気になりやすくなることも考えられる。ではどうすればいいのか?

  1. 60歳を過ぎた皆さんは「野菜ファースト」をやめて、肉や魚、卵、大豆・大豆製品から食べる、「たんぱく質ファースト」に切り替えましょう。それから野菜、最後にごはんという順序で、バランス良く召し上がることをおすすめします。

(森由香子『ずっと元気でいたければ 60歳から食事を変えなさい』<青春出版社>p.52より引用)

まずは、意外と思うかもしれないが「野菜ファースト」の食べ方を見直してみよう。野菜は最初に食べることで、早めに満腹感を得られ、糖質の吸収を遅らせる効果がある。しかし年を重ね、食が細くなると、最初に食べた野菜だけでお腹いっぱいになってしまい、本来、たんぱく質摂取のために必要となる肉や魚が食べられなくなることもある。たんぱく質がとれず筋力をキープすることができない場合、運動不足から要介護への道に近づいてしまう可能性も高まる。

さらに本書では、肉や魚を食べるのは億劫という人や、食の細い人向けに、手軽にたんぱく質がとれるピーナッツバターの活用法も紹介されている。主原料であるピーナッツは約50%が脂質で、約20%がたんぱく質。加えて食物繊維、エネルギーを作り出すビタミンB1、血液の循環を良くするビタミンEも多く含まれている。脂質が多いため取り過ぎは禁物だが、コレステロールがなく消化も良い食品なのだ。パンに塗って食べるのが一般的だが、小松菜やほうれん草などの和え物に使ったり、温かい牛乳に溶かして飲むのもおすすめということだ。また、粉チーズ、スキムミルク、練りごまなども同様の効果が得られる。これなら食の細い人でもたんぱく質をうまく取り込んでバランスの良い食事にすることができそうだ。本書には、明日からの食事にさっそく取り入れられるさまざまなテクニックも掲載されている。

(3)同じ魚でも食べ方で差が出る骨粗鬆症対策

年を重ねることで筋力の低下を感じる人は多いが、意外と骨の衰えを意識する人は少ない。骨の量は20歳をピークにだんだん減少していくが、骨の主原料になるカルシウムは吸収されにくい成分だ。毎晩のように晩酌をしているお酒好きの人も、アルコールの利尿作用が高まることで、水に溶けやすいカルシウムが排出され骨粗鬆症のリスクが高まるという。骨粗鬆症のリスクを防ぎ、ちょっとした転倒で骨折しないよう骨を強くする食材として紹介されているのが、やはり魚だ。ただ、その食べ方によってカルシウムの摂取量に差が出るという。

  1. 骨粗鬆症予防の観点からは、魚料理は刺身よりも骨つきの焼き魚か煮魚でいただくことを私はおすすめしています。骨つきのまま調理することで、骨からカルシウムが溶け出して身の部分に含まれることで、カルシウム摂取量の増加が見込めるからです。

(森由香子『ずっと元気でいたければ 60歳から食事を変えなさい』<青春出版社>p.84より引用)

魚の身はコラーゲンも豊富で、骨を支える筋肉や血管を作ることで重要な役割を果たす。そして、魚の皮に含まれる亜鉛や鉄分などのミネラルがコラーゲン生成の原料になるという。さらに本書では、煮魚や焼き魚の調理において酢、ポン酢、レモン果汁などを加えることで、さらに効率よくミネラルが吸収できるテクニックも紹介されている。

(4)認知症リスクを抑える食生活とは?

認知症の中で最も多いのがアルツハイマー型認知症。その原因が全て解明されたわけではないが、高血糖が影響していることが判明しているという。

  1. 糖尿病の人は糖尿病でない人に比べて、認知症になるリスクが1.5〜2.5倍ほど高いという研究報告もあります。

(森由香子『ずっと元気でいたければ 60歳から食事を変えなさい』<青春出版社>p.94より引用)

高血糖を防ぐには炭水化物の量を減らすことが肝心だ。つまり、糖尿病を防ぐ食生活が認知症も防ぐ食生活になるというわけだ。加えて、調理の際に意図的に食材を大きく切り、よく噛んで食べることも血糖値の上昇を防ぐ効果があるという。また、肉、こんにゃく、いか、たこ、ゴボウ、れんこん、大根、玄米など、同様の効果が期待できる食材についても紹介されているので参考にしたい。

そのほか本書では、血漿(けっしょう)たんぱく質の一つであるアルブミンと、アミノ酸の一種であるホモシステインに注目。アルブミン値の低い人はそうでない人に比べ、短命になる傾向があり、認知機能の低下を引き起こすリスクが2倍になるという調査結果が出ているそうだ。その対策として肉食の重要性が記されている。また、認知症の高齢者に、値が高いことが分かってきているのがホモシステインだ。その対策としては葉酸、ビタミンB12、ビタミンB6を積極的にとることが良いとされている。その栄養素を多く含むのは、昔ながらの和食。ごはんに焼きのり、焼き魚に、卵など。日本の朝ごはんでお馴染みのメニューだ。このように最新の知見から、昔ながらの食習慣があらためて見直されることもある。詳しく知りたい方は本書を手にとってみてはいかがだろうか。

人それぞれ大切にしてきた食にちなんだ健康法があるだろう。しかし、これまでの常識にとらわれず、最新栄養学に基づいた年齢にふさわしい食事をとることで、より健康な身体を手に入れることができるのかもしれない。人生100年時代。生活の基本となる食習慣を見直して、健康寿命を延ばしてはいかがだろうか?

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【作品インフォメーション】

森 由香子(著)
『ずっと元気でいたければ 60歳から食事を変えなさい』

2022年、株式会社青春出版社より発行。