セカンドライフの住まいの不安を解消するポイント――いまから住み替えを考えたい理由

2022年03月23日

多忙な時期を乗り越えて迎えたゆとりある時間。セカンドライフで一日の多くを過ごす住まいは、楽しく快適に過ごせるよう、できる限りこだわりたいものだ。

子どもが巣立つなど家族構成の変化で、少しコンパクトな家や管理が楽な家に住みたいと考える人も少なくないだろう。また、夫婦の憧れの土地に一度暮らしてみたかったという思いや、老朽化した自宅をどうするかといった悩みなど、老後の住まいへの夢や希望はさまざまある。

そうした中、家事代行などに魅力を感じる人や、自宅のバリアフリー工事が大変だという人、老後の引っ越しは最小限にしたいと思っている人は、一般の戸建てやマンションではなく、シニア向け住宅を住み替えの選択肢として考えてみるのもよいかもしれない。

今回は、セカンドライフの住まいの選択肢をファイナンシャル・プランナーの視点で提案する岡本典子(おかもと のりこ)さんに、シニア向け住宅への住み替えについて話を伺った。住み替え先の候補や、介護付有料老人ホームを選ぶ上で重要なポイントとなる「3K」についてなど、将来の住まいの選択肢を広げておくために今からできる準備を考えてみたい。

元気なうちに「住み替え先」を考えたい理由

現在元気な人でも、老後の住み替えを早めに考えた方が良いのでしょうか。

どこへ住み替えるにも、かなりのお金が必要です。特に、シニア期の住まい選びにおいては失敗できません。将来的に悔いの残らないような納得のいく選択をするには、十分な検討が必要です。今すぐ住み替えるわけではなくても、かねてから思い描いていた生活を実現するためには予備知識の習得が必須です。大切なのは「老後はどのような生活をしたいのか」「何を優先して暮らしたいのか」というイメージを明確に描くことです。それにより、自ずと住まいの選択肢が見え、ライフプランの立て方も定まります。

要介護状態や認知症になってからでは、ご自身で快適な住まいを探して契約することが難しくなり、さらに住まいの選択肢自体が少なくなります。「まだそんなこと考えるのは早すぎる」と思えるくらいの早めの時期から取り掛かることをおすすめします。

選択肢の多いうちに、理想の住まいを考えていきたいですね。元気な方が「シニア向け住宅」への住み替えを考えるメリットがあれば教えてください。

自力で日常生活を送れる状態の「自立時」に入居できるシニア向け住宅では、定期健診や安否確認などのサービスやバリアフリー設備はもちろん、中にはホテルのような空間や個人の健康状態に配慮された食事が3食提供される施設もあります。元気な方でも、毎日3食、バランスの取れた食事を作るのは大変で、特に風邪などで体調を崩した時などは心細いでしょう。加齢とともに食事作りが億劫になる方も増えてきます。自炊に限界がきたときは、栄養バランスの良い温かい食事を1日3食提供してもらえ、お仲間の皆さんと歓談しながらいただけるのは、シニア向け住宅ならではの良さといえます。

また、将来、万が一、介護が必要になった際には、「自宅での介護の方が施設に入るよりも安くあがる」「もしもの時は自宅をリフォームして介護を受けよう」と考えている方もいらっしゃると思います。ただ、突然の病気や怪我で要介護状態になったり、認知症が進行したりすると、家族の介護力だけでは対応しきれず、場合によっては介護施設に住み替えた方が安く収まるケースもあります。

たとえば「医療ケアも必要な要介護状態の独居、もしくは家族による介護が難しい状況で、自宅での生活を続けたい」という場合、看護師資格を有する介護ヘルパーさんに1日24時間、交代制で付いてもらうという方法もありますが、かなりの高額になるでしょう。部分的にでも介護を担ってもらえる家族がいれば、その分の介護費用は安くなりますが、家族の介護の負担はできるかぎり軽くしてあげたいと考えている方も多いのではないでしょうか。そのような場合には、介護はできるだけ施設やプロにお任せし、家族は少し肩の荷を下ろしながら自分の生活を続けて、その分家族にしかできない精神的なサポートをする。この方式を採ることで、無理を重ねず、バランスを取りながらうまく乗り切っていかれている方々が多くなっています。

このあとお伝えする介護付有料老人ホームなどでは、介護費用・食事代・管理費・賃料・水道光熱費など、そこでの生活費すべてを含めて、事業所により異なりますが、月額20万~100万円程度の施設まで、ご自身のニーズに合わせて選択することが可能です。こちらは1:1の付きっきりの介護ではなく、共同生活となるため、少なくとも介護費用という面からは割安に抑えられることになります。

ただ、注意点として自立時に入居できるシニア向け施設では、介護が必要になれば自身で外部サービスを契約する必要があったり、要介護状態が進行したりすると住み続けられなくなる施設もあるので、あらかじめそれぞれの施設の特徴を理解するのが重要です。

具体的に「早めに考える時期」とは、いつ頃がいいのでしょうか。

人それぞれ状況が違うため、一概に何歳がいいとは言えません。早い方だと40代から考え始める方もいますが、今のシニアの方は非常にお元気ですから、たとえば介護付有料老人ホームの場合は入居できる年齢は65歳からですが、65歳から施設に入られる方は少なく、実際には80歳ごろで入居されるケースが多くなっているようです。

入居するタイミングもケースバイケースですが、家庭環境や身体状況の変化、自宅の老朽化がきっかけで入居されるケースも多いようです。たとえば、70代前半の男性で、料理を含む家事全般を担っていた奥さまを急なご病気で亡くされた方がいました。その方は奥さまの死後、毎日の食事に困り、猛スピードで食事付きの住まい探しを行い、介護付有料老人ホーム入居時自立型に住み替えられました。

このように、住み替えの必要性は不意に訪れることもあります。そのときに焦らず、納得のいく環境で快適な生活を維持するためにも、シニア向け住宅の種類や費用などの予備知識を把握し、いざとなった時のめぼしい住み替え先候補をいくつか頭に入れておくだけでも、老後の住まいの不安を低減することができます。

自立期のシニア向け住宅の候補

では、元気な自立期に住めるシニア向け住宅にはどういった類型がありますか?

自立期のシニア向け住宅は、以下のとおりです(図1)。

図1:自立期のシニア向け住宅の候補比較

図1:自立期のシニア向け住宅の候補比較

出典:岡本さん提供資料をもとに編集部作成

入居時から一定の支援や介護が必要な人には、介護付有料老人ホーム「介護型」「混合型」、サービス付き高齢者向け住宅の一部に「介護型」などがある。

このうち、介護が必要になった際に住み替える必要がないのは「介護付有料老人ホーム(入居時自立型)」だけです。慣れ親しんだ施設で、顔馴染みとなった介護職員さんの介護を受けて最期までずっと暮らせる、「終のすみか」となる住まいです。現在、看取りまでを行う施設が増えているため、安心感を重視したい人に向いています。

一方、「サービス付き高齢者向け住宅(一般型)」は、安否確認と生活相談サービスが付いているバリアフリーの賃貸住宅です。そのため、自由に暮らせて、住み替えしやすい気軽さがメリットです。例えば「定年後は、憧れの京都に5年間だけ住んでみたい」といったかねてからの夢の実現を図るには最適な住まいでしょう。自分らしく自由に暮らし、状況が変われば、再度好きなところへ住み替えたいという人に向いています。

3つめの「シニア向け分譲マンション」は所有権があるため、自宅を買い替えるイメージです。バリアフリー仕様で、レストラン(食堂)・大浴場・娯楽設備が整い、オプションで食事提供・安否確認などのサービスを受けつつも、将来は子どもに相続させたり売却したりすることができる資産になる点に魅力を感じる人、住まいの上質感や高級感を重視する人に向いています。

介護付有料老人ホームを選ぶポイントは「3K」

住み替え先を選ぶときのポイントをお聞かせください。

上述のように、最期まで安心してサポートを受けられる施設は介護付有料老人ホームです。介護付有料老人ホームは、65歳以上の方なら自立型・混合型・介護型のいずれかに入居することができる、間口の広い、高齢期の住まいの代表です。

私が多くのお客様に提唱している、介護付有料老人ホームの施設選択のポイントは、「3K」です。

介護付有料老人ホームを選ぶポイント「3K」
1.「経済性」……たとえば100歳まで生きても、資金がショートしないか
2.「(施設の)健全性」……入居先の施設が倒産してしまうようなことはないか
3.「感性・価値観」……施設の内容(立地・食事など)と自身のこだわり、価値観が合うかどうか

このうち、基盤となるのは1の「経済性」です。長生きした場合にも資金が枯渇しないように資金計画を立て、その資金に見合った住まい(=身の丈に合った住まい)を選ぶことです。

資金面からある程度住み替え先の候補を絞ったら、次は2の「(施設の)健全性」をチェックします。万が一、施設が倒産した場合は、前払金として支払った家賃の前払い分のうち、最大500万円までが返還されます。これは前払金の保全が行われていて、倒産により、全入居者が退去を余儀なくされた場合に返還される制度です。しかし、これだけでは行き場を失う場合もあります。「親会社の運営が健全か?」までしっかりとチェックし、できれば入居率90%以上の施設を選ぶのが賢明でしょう。

そして3の「感性・価値観」は、充実したシニアライフを送るために欠かせないポイントです。介護付有料老人ホーム(入居時自立型)の場合、大浴場や娯楽施設、数種類から選択できる食事、ホテルと遜色ない空間を提供されているところもあります。もちろんそれだけではなく、介護が必要になれば、体調に配慮した治療食や柔食・刻み食にするなどの介護食の提供、中には持病がある方に医療機関が連携して体調をサポートする体制などのサービスも受けられます。

施設の立地に関しては、お子さんが住んでいる近くがいいとか、オーシャンビューが楽しめる海沿いや富士山を臨める居室がいいといった「憧れの環境で暮らす」という選択肢もあります。また、持病があってかかりつけの病院がある方は、その病院へのアクセスの良さを最優先して選ぶというケースもあるでしょう。さらに、手厚い介護体制の敷かれた施設、夜間も看護師が常駐している施設、ペットと一緒に暮らせる施設など、ご希望に合った施設も選択できます。

まずは、理想の住まいはこうあってほしいというご自分なりの希望要件を書き出し、優先順位を付けていくと、候補施設のピックアップにつながり、満足できる住まいを見つけやすくなるでしょう。

希望要件に合う候補施設が複数でてきた場合、どこがいいか迷ってしまう方もいるかと思います。最終的に入居する施設を決めるときのアドバイスはありますか?

まずは、その候補施設に、実際に見学に行ってみましょう。施設内の清潔感や雰囲気を確認します。可能であればランチをいただいたり、気に入れば、数日間体験入居してみることもおすすめします。実際にそこで暮らしてみて、食事や介護サービスの状況、医療救急体制、その他のサービス、入居者の方々や職員さんの雰囲気、土地柄、周辺環境、施設内のインテリアなども含め、感性に合致しているか、価値観は合いそうか、ある程度妥協することで楽しく暮らせそうなのか、体感しながら選んでいかれるのがよいでしょう。

ご希望に適った施設が見つかれば、季節を変えて再度体験入居して、本当にここが自分にとっての最適な住まいかを確認し、OKであれば契約に進むという、慎重さが大切です。

家族にできる限り負担をかけず、住み替えの不安を解消する方法

住み替えにあたって重要な資金面での準備や検討は、どのように始めればいいでしょうか。

まずはご自身の資産内容を把握する必要があります。持ち家がある方は、自宅の売却や「リバースモーゲージ」という自宅を担保にした融資制度を活用する選択肢もあります。持ち家を含めて、所有資産の洗い出しをしましょう。

相続について考える際にも資産状況の把握は必要になってきますから、年に一度は資産を洗い出し、その時点でいくらあるのか(株式や投資信託であれば評価額)を記録しておくとよいでしょう。エンディングノートを使い、資産や希望する住み替え先をまとめて書いておくことも必要です。

いざ住み替えるときに備え、今から準備できることはありますか。

万が一の際には、最低限のサポートは得られるように、日ごろから子どもなど家族と風通しのいい信頼関係を築いておくことが大切です。

住み替えの有無にかかわらず、家族や親族に全く世話をかけずにセカンドライフを過ごすのは難しいでしょう。元気なうちにライフプランの一環として住み替え先を考えて、家族にも相談し、資産面についても整理しておくとよいでしょう。

また、シニア向け住宅に入る際は、原則「身元引受人」が必要です。身元引受人は支払いが困難になったときの保証人で、緊急時の連絡先になるキーパーソンです。また、医療同意という大切な役割があり、入退院時の手続きを行い、医師から治療方法の同意を求められます。できれば近くに住んでいる家族・親族に事前に話し合い、いざというときにはお願いしますと相談しておくとよいでしょう。

家族も親族もいない場合は、身元引受を代行する会社やNPO法人もあります。また、「成年後見制度」を利用する方法もありますが、施設ごとに対応が異なりますので、希望する施設に直接相談するのが確実です。身元引受人は大役ですから、お願いできるような関係性を築いておくことがポイントです。それも含め、資産の話もざっくばらんにできるくらいの人間関係ができていれば、お互いにいざというときの心づもりを共有でき、少しは負担軽減につながるのではないでしょうか。

家族や親族にあまり世話をかけたくないと思ってはいても、なにかしらお世話になることを前提に、うまく頼りながら負担軽減を図る最善の方法を探っていきましょう。普段からまめにコミュニケーションをとり、何でも話し合っていける関係性の構築を心がけていくことが大切ですね。

野村證券のサイトのご紹介

野村證券では、シニア向けのライフプランニングもふまえた資産計画について相談できる。この機会に、ぜひ相談してみてはいかがだろうか。

お金の課題の把握や資産シミュレーション、目的に合わせた資産の作り方など、「人生100年時代」を生き抜くヒントをご紹介。


プロフィール

岡本 典子(おかもと のりこ)

ファイナンシャルプランニング・オフィス FPリフレッシュ代表。シニア向けのライフプランニングと老後の住まい探しを得意分野とするファイナンシャル・プランナー。CFP・1級FP技能士。